転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。 作:ひきがやもとまち
当初はこういうのを考えてたのを書いたら、長すぎました。
プラント評議国は、ガンダムシリーズ全体を見渡しても珍しい、受動的な立場として地球への攻撃を開始した宇宙国家である。
C.E.71に地球軍から発射された核ミサイルによる《ユニウス・セブンの悲劇》を受け、報復と再度の核攻撃をさせぬために地球への降下作戦と侵攻計画をスタートさせた歴史をもつ。
Nジャマーによる被害規模などを鑑みれば、決して平和的な人道的と呼べるものではなかったものの、形としては正当防衛としての流れで地球との開戦に至っていた勢力だった。
尤も、ものによってはプラントは『地球側が建設していたコロニーをコーディネイターたちが強奪して国家と自称するようになった』という説もあるそうではあるが、仮にそうだった場合であっても地球軍との戦争そのものは受け身の姿勢で始まっていたことに変わりはあるまい。
これはガンダムという作品全体を通しても珍しい設定だった。
ジオン公国にはじまり、地球へと攻め込む宇宙勢力は常に『自分たちの意思での侵攻』を行っているのがガンダム世界でのコロニー勢力という者たちの特徴で、ヒイロたちWのガンダムパイロットたちでさえ『OZとロームフェラを倒す』という任務遂行のため先制攻撃を仕掛けて戦いが始まる流れになっていた。
そんな中、プラントだけは受動的な開戦の流れで、地球との開戦に至ったコロニー国家という設定にガンダムSEEDではなっている。
独立自治を認めさせるため連合本部制圧を目論んだわけではなく、地球上の陸地の7割を征服して降伏させようとしたわけでも、ましてや地上にある都市すべてをローラーで挽き潰して蹂躙する計画があったから地球を攻撃したという訳では全くなかった。
――それこそが、ガンダムSEEDの宇宙国家プラントが犯した最大の過ちだったのだろう。
彼らは、『自分たちの意思で始めたわけではない戦争』に引きずり込まれる形で、地球との戦端を開いてしまったことになるからだ。
ザフト軍は、地球軍を屈服させるための制圧計画があって降下作戦を実行していたわけではなかった。
ただ『優秀だから』それだけの理由で勝利し続け、結果的に地球各地の奥へ奥へと引きずり込まれ、ろくな戦争目的も決めぬまま戦線を拡大していく愚を犯していく。
言い換えれば、『成り行き』でしかなかったのが、C.E.における地球軍とザフト軍との戦争だったのである。
統一された国家目標すらないまま始められた、成り行きの戦争だ。
意見一致だの、明確な戦略目標などといったものが期待できるはずもない。場当たり的に、その場その場で戦争の終わらせ方や戦略方針を議論していくことしか出来ないのは当然と言うしかない。
それこそクラインの出した『オルバーニの譲歩案』による講和という案も、悪いものではなかったのだ。
ただし。最初から『その譲歩案で戦争を終わらせるための戦略』として戦いを進めていたら、という条件付きでの話ではあるが。
最低でも他の議員たちから『最低限の絶対条件』を確認した上で、それらの条件を連合側が呑まざるを得ない状況へと追い込めるような地域を狙って制圧していけば、パナマ攻撃の前には講和をまとめることが可能になっていたかも知れない。
だが現実には、譲歩を求める要求を決めるところから始めましょうという為体。これで提案を真に受けて検討する政治家などいるわけがない。
そしてそれは、パトリック・ザラでさえ例外ではなかった。
彼にはクラインと違い、『ナチュラルたちの殲滅によるコーディネイター単一社会の創設』という大目標自体は当初から定めていたようではあるが、『そのための道筋と手段』という点では流動的であり、その時々の状況を利したアドリブ的なものが多かったように感じられる。
それが、《真のオペレーション・スピットブレイク》《Nジャマー・キャンセラー》そして《ジェネシス》へと続いていく流れを生む一因になっていたのかもしれない。
彼ら《ザラ派》の目標としては、憎むべきナチュラルたちへの復讐という大前提を外すことはできないが、それに共感するのは家族を地球軍に奪われた遺族たちが主で、『家族が生きている者たち』にとっては、彼らの復讐によって『生きている家族が殺される危険』に巻き込まれることになるのだから堪ったものではない。
この調整と復讐計画を、市民感情としても両立させる必要性がザラにはあった。
公の場で述べている主張と本音との間に差異が大きいことは、大多数の市民たちを動かし戦争をする政治家にとって、行動方針のブレをもたらすものにもなる。
そういったC.E.の悪しき流れの中で、唯一自らの戦略をなぞる形で戦争を主導したのが後のギルバート・デュランダルだけだった。
彼は自らの考えた戦争の終結点を見定めた上で、終始そこに向かって戦局全体が推移していくよう戦略を定め、シナリオ通りの状況へと最終局面を至らせることに成功した、C.E.でただ一人の人物だったのだ。
その結果は諸君らも知っての通り、ディランダルの敗北と失敗によって幕を閉じている。それはいい。
だが、その結果C.E.の戦争に終わらせ方を定めた上で、皆を主導して戦うことができる天才が一人もいなくなってしまった事だけは頂けない。
このままの状態が続けば、地球は極端に戦争へと傾きすぎた社会が経済を破壊するだろう。わざわざ私が手を下すまでもなく、戦争が続くだけで地球から未来を奪うことができる。
プラント側のパトリック・ザラも、スピットブレイクの失敗以降は味方の中の裏切り者捜しと火消しにばかり躍起になっていく運命にある男だ。大臣としてなら優秀でも、所詮は一国を担う器の持ち主ではなかったのだよ。
放っておけば互いに潰し合い、無意味な戦乱で戦力をすり減らし合っていく、憎み合う双生児のようなザフトと地球軍。
その闘争に終わりが訪れる頃、疲弊した地球はどうとでもなる。その時のため人類を導く役目を負った存在が、そろそろ現れてもよい頃合いかもしれん。
だが、それは―――このような状況の中で、新しい潮流を時代の流れに起こす者が現れなければの話でもある。
その存在が現れたことに意味をもち、その流れに逆らっては戦いに勝てなくなるような、そんなものが現れるかどうか・・・・・・
部下からの戦況報告を聞きとどけ、ザフトの潜水母艦の艦長モンローは、苦々しい想いを込めた溜息を吐いて、ようやく重荷から解放された事実を実感させられる。
「やれやれ・・・・・・これだけの戦力でパナマを落とせとだなどと言われたときは、本国も無茶を言うと思わされたものだが・・・・・・どうにか無茶をこなすことが出来たようですな」
正面モニターに映し出されている、生い茂る熱帯雨林の向こうに転がる鉄屑となった残骸と、敵味方の反応を図示していた光点が消滅していく光景。
それは地球上に残された、連合軍最後のマスドライバー施設《パナマ港基地》の成れの果てだった。
先日の地球軍本部奇襲で卑劣な罠によって大損害を被らされたザフト軍は、当初の《オペレーション・スピットブレイク》における攻撃目標だったパナマ港をめぐっての戦いで、数時間の攻防の末に雪辱を果たすことに今、成功したのだった。
予想されたより大分少ない損害で勝利できたことに、モンロー艦長は心から安堵の息を吐かされる。
戦いに勝つこと自体には自信があった。先日の奇襲失敗で激減していた本隊ではあったが、無事だったクルーゼ隊長揮下の部隊が合流したことで戦力的には余裕があり。
クルーゼに寝返ったとかいう地球軍士官を使ったロビィ活動によって、地球軍は足並みが整っていないという話も聞く。
当初より大分減ったとはいえ、既存兵器しか持たない地球軍相手には十分すぎる戦力だったのだ。これで自分たちザフト軍攻撃隊がナチュラル共の基地防衛隊如きに敗れるわけがない。そう確信していたが・・・・・・それ故に勝つまでの損害を問題視せずにいられなかったのも事実である。
地球軍とて、さすがに現状の自分たちとザフト軍とがぶつかり合えば不利は免れないのは承知している。戦いが始まれば、すぐにも援軍が送られてくるのは確実だ。
そうなればザフト軍も、サイクロプスによる大損害を被らされた後の現状で被害は免れない。
戦いに勝てたとしても、被害が大きすぎたのでは人口が乏しく出生率に難を抱えるプラントの戦後に禍根を残すことになりかねない。
すでにコーディネイターの中では年配に属する艦長としては、若者たちの無駄死にする数を気にせずにはいられない年齢だったこともあり、素直な安堵を息を吐かずにはいられなかったのだ。
その可能性を、可能性のまま殺すことで多くの者たちの命を救った功労者が、背後から声をかけてきたのは、その時のことだ。
「それは仕方ありますまい。今はアラスカで調子に乗ったヤツらの足下、すくっておかねば議長もプラントも危うい情勢です。多少の危険と犠牲はやむを得ぬことかと」
笑みを含んだ声で、なだめるようにも挑発しているようにも聞こえる、今次作戦での“臨時”副司令官として旗艦に同乗する立場となっていた仮面の隊長の言葉に、モンロー艦長は黙って肩をすくめて見せる。
それは今回の作戦が軍事的な合理性によって決行されたものではなく、政治的な面が強く反映した故でのものだったという事実を知っているからこその反応だった。
現在プラント国内では、政権交代を果たした直後に実施された《オペレーション・スピットブレイク》の大失敗によって、ザラ新政権は激しい動揺にさらされている。
無論それらの怒りは、サイクロプスなどという大量破壊兵器で家族を虐殺させたナチュラル共と地球軍に向けられたものではある。
だがナチュラル共の卑劣な罠にかかって、多くの兵たちを無駄死にさせた無能な政府と軍部が、大敗という結果に対して責任追及を免れることは不可能だったのだ。
愛する者たちを奪われた怒りと憎しみが、どれほど強力な力となるものか身をもって理解しているパトリックには政権を担うものとして、近来にない大敗北に動揺する市民感情を安定させる必要が生じていたのである。
そのための手段として実行されたのが、今回の《パナマ港攻略作戦》だった。
先の戦いで勢いづいた地球軍が、その勢いのまま総反撃に打って出る前に宇宙へ上がるための手段を奪うことで出鼻をくじき、戦意を空回りさせる――という戦略上の目的を兼ねてのものではあったが、国内向けの政治宣伝というのが主な目的だった事実は否定しきれない。
要するに、ザラ議長が議長職を続けるためプラント市民への『人気取り』として行われたのが、今回のザフト軍によるパナマ攻撃作戦だったというのが実情ではあったのだ。
そんな目的のための作戦成功――それも地球軍の一大拠点を、本来は戦力不足とされていた兵力だけでという快挙を成し遂げたのだから、市民たちの動揺は収まりザラ政権も安定することは確実だった。
この成功の功労者として、背後に立つ仮面の副司令に対する免罪――命令違反による独断撤退に対する――は確定したことになる。
アラスカでの被害は『ナチュラルたちの卑劣な策略による謀殺』によるものとして、『敗北』と『失敗』とは認められずに残留するジャガンナート司令官とともに、今後はザラ議長を支える側近として復権することになるのだろう。
(・・・もっとも、ジャガンナート司令にとっては些か不本意な結果かもしれんが・・・)
比較的に《ザラ派》に寄りながらも、心情としては中立に近いモンロー艦長は声には出さずに、そう考える。
彼は地上軍司令ジャガンナートが、味方を助けるためとはいえナチュラルの士官とも結託したクルーゼを、危険人物として嫌悪していることに察している人間の一人だった。
ジャガンナートは、個人的な嫌悪感やプライドで有能な味方を殺させるほど狭量な人物だと思っているわけではない。
だが骨の髄まで『ザフトの軍人』であるジャガンナートにとって、『プラント以外の勢力でも適応できる立ち回り』を発揮する有能な味方という存在は、メリットよりも裏切る危険を重視しやすい価値観をもちやすいのだ。
「もはや前方の敵は力を失いました、この戦場に私が留まる必要もないでしょう。
私は次なる戦いに備えて、敵地の偵察に向かいます。潜水艦を一隻お借りしてもよろしいですかな?」
「次なる戦いへの偵察に? それは構いませんが・・・・・・何処に駐留する敵部隊を」
「無論、オーブですよ」
簡明に答えられた国名を聞かされ、モンロー艦長は数瞬の思考の後に納得する。
今後の戦局がどう推移するにせよ、あの島国がどう動くかによって、地上のミリタリーバランスは大きく左右されるのは避けようがない。
地上に残された最後のマスドライバーを奪われたとはいえ、地球軍がこのまま大人しく諦める連中ではない以上、いずこかの軍港を奪還するため総力を挙げての大攻勢をかけてくるのは確実だ。
その攻勢を防ぎきるには、サイクロプスの被害で数が減った現状のザフト地上軍は、戦力を一点に集中させる必要がある。
その際に警戒すべきは、何処から派兵されてくる恐れのある敵への援軍だった。
数の差に質で対抗しようとするザフト軍には、敵の数が増えることは脅威でしかない。
そして、その援軍として最も恐れるべき存在は、あの島国をおいて他にない。
今次大戦がはじまってから中立を標榜し続け、戦力を維持している軍事技術大国。
《ストライク》をはじめとするXナンバーを生み出したのも、あの国の国営軍需企業モルゲンレーテだった。
当時はまだナチュラル用のOSを開発する技術までは有していなかったことが、今では判明しているものの『今も有していないか否か?』については未確認のままなのだ。
先頃まで続いていたパナマ軍港の攻防でも、地球軍が開発したものらしきMSが基地防衛の戦力として確認しているが、MS開発では後発の地球軍ができたことだ。先行していたオーブが出来ないままと期待するのは虫がよすぎるだろう。
そして地球に残された最後のマスドライバーを奪われた地球軍は、手段を選ばなくなりつつあった。
既に『アラスカでの真相』を知って国論が揺れている幾つかの国が、地球連合への参加を渋る反応を示していたが、それらに対して地球軍は強攻策に訴え出たのだ。
拒否まではせずに『条件交渉』を求めていた国に属する都市の一つに、徹底的な攻撃をおこなったのである。
明らかに、『見せしめ』を目的とした軍事侵攻だった。
その被害を見せつけられた国々は次々と旗幟を鮮明にして、赤道連合やスカンジナビアも公には中立を貫いたままだが、水面下では連合への参加を打診している気配があると聞く。
・・・・・・オーブが、彼らと同じ道を選ばないと、いったい誰に保証できると言うのだろう?
ザフト地上軍として、新たに生まれ変わりつつある“新”地球連合軍とでも呼ぶべき勢力と接近する恐れのある厄介な島国オーブを監視することは戦略的にも必須な状況となりつつあったのだ。
「それに、あの国とは些か因縁がある。
子供っぽい稚気と笑われても仕方ないでしょうが、私にもプライドというものがありましてね。
あの国が作り出した船にも、それを操っていたパイロットにも・・・・・・もしそれらが滅びるようなら最期の姿ぐらいは見ておきたい。――そういうことです」
それだけを告げて、既に『終わってしまった後の出来事』と見切りを付けた戦場に背を向けて、次なる戦いの部隊と予測される場所の一つへと移動するため、勝敗の決したパナマ攻防戦の戦場跡を後にしていくザフト軍司令ラウ・ル・クルーゼ。
だが戦争には、前線と後方があり、安全な後方にいる人々の認識は往々にして前線との隔たりが生じやすいものだ。
最前線にある戦場でさえ、敵と殺し合いを演じる前線と、旗艦の艦橋から指揮棒を振るだけの後方という、快適なクーラーの利いた安全地帯が存在するのは避けられない。
それは既に勝敗の決したパナマ戦場跡でさえ例外ではなかった。
先程まで敵と銃火を交え合っていた兵士たちにとって、敵軍との戦闘はまだ終わっていない。
終わらせることができなくなっていたからだ。
たとえ武器を失った敵兵が両手を挙げて降伏してきたとしても。
後方にある司令部から、勝利と戦闘停止を告げる信号が発信されてきたとしても。
全戦で戦う兵士たちにとって、『心の中の戦闘』を終わらせることは決して出来ない。
そういう心理に、ザフト軍兵士たちは陥るようになっていたから――
―――ガガガガガガガッ!!
「ナチュラルの捕虜なんかいるかよ!」
一方的にモビルスーツの威力によって、連合の歩兵たちを虐殺していくザフト軍の兵士たち。
戦闘が終わったはずの戦場跡で、勝者であるザフト軍兵士たちによって生き残った地球軍の兵たちに対する虐殺という名の処刑が断行されていたのだ。
「アラスカでやられたハンナの仇だッ!!」
また一機、対EMPシステムを装備した《ジン》のコクピットで、怒りに表情をゆがめたザフト軍の一般兵士が、感情任せに76ミリ重突撃銃を動かなくなった連合軍の戦車に乱射して、操縦者たちごと鋼鉄製の墓場へと一変させていく。
ザフト軍が開発した新兵器、軌道上から降下させてくる《グングニール》の性能によって使用していた兵器がすべて機能を停止させられ、なんの抵抗もできない状態へと陥らされていた連合兵たちには、泣きすがって命乞いをする事以外にできることは何もなく、ザフト兵たちには彼らを許してやるべき理由は何一つとして持ち合わせていない。
なんの容赦も慈悲もなく、次々と虐殺されていく連合軍兵士の残党たち。
当然の報いと評すべき結果ではあったのだろう。少なくとも『地球軍の兵士たち』という立場にある者としての分類ならば。
奇襲とは言え、真っ当な攻撃をおこなっていたザフト軍の兵士たちを、サイクロプスなどという大量破壊兵器で虐殺してきた軍の兵士たちが、自分たちは負けたときに降伏すれば助けてもらえるなどと考える方に無理がある。
アラスカでの虐殺は、ザフト軍の兵士たちから理性とモラルと冷静な判断能力を奪い尽くすのに十分すぎる効果を発揮し、彼らを軍隊ではなく猛り狂う復讐者の群れへと変貌させてしまっていたのだ。
なまじ今までの戦闘でMSをもたぬ敵を相手に、一方的な勝利ばかりを続けていたことも彼らの感情を悪い方に進ませる一因になっていたかもしれない。
《ユニウス・セブンの悲劇》に対する感情も含めて、ザフト軍兵士たちには『断罪者』として『犯罪者の罪を裁く立場』で敵味方双方を考えてしまっている悪弊をもつ部分がある。
警察官の視点で、敵を『許すか?許さざるべきか?』と考える癖をもつようになっているのだ。対等な立場で『敵同士で撃ち合っている殺し合い』という認識は極めて薄い。
犯罪者の罪を問うているだけの立場のつもりでいる彼らにとって、テロリスト共が卑劣な手段で民間人だけでなく、警視庁ビルまで爆破してきた―――そんな感情に彼らの心は支配されるようになっていたのである。
それを、傲慢な発想と考えるには彼らの被害者意識は強くなりすぎていた。
とはいえ、全てのザフト兵たちが嬉々として復讐の快楽に酔っていたという訳でも無論ない。
『やめろ! 無抵抗な敵にまで・・・・・・! 降伏してきた人達まで殺す必要なんてないじゃないですか!?』
「貴様、どこの部隊の者だ!? アラスカの惨劇を見てないのか! コイツラは許されない事を俺たちにやりやがったんだよ!」
『だからって! こんな・・・こんな事は・・・・・・っ』
クルーゼ隊の一員として前線に復帰したニコル・アマルフィは、初めて見せつけられた同胞たちの感情に駆られた虐殺行為を目の当たりにさせられ、驚き戸惑いながら味方の蛮行を制しようと躍起になっていた数少ない一人だ。
今までの戦闘でも確かに地球軍の兵器は脆弱で、自分たちのモビルスーツから見れば一方的な虐殺をしているような感はあったが、それでも彼らは兵器で武装し、自分たちを殺すため本気で撃ってきていたのも事実ではあった。
『敵が撃ってくる以上は、自分たちも撃たざるを得ない。そうでなければ味方を守れない』
そう語ったザラ議長の言葉は、ニコルでさえ賛成している。
だが、撃つこともできなくなった丸腰の相手に、自分たちコーディネイターが怒りに駆られて一方的に撃つなどという、この戦争が始まってから初めて見せつけられる蛮行には流石に無視する事ができない。
『だからって、こんな行為になんの意味があるっていうんです!? それに、これじゃ敵と同じじゃないですか! ボクたちは非道な敵とは違うはずです! 冷静になってください!!』
「うるさい! コイツラがやったことは許されない! 許されない酷い事をやったんだ!!
それを思い知らせてやらなきゃ一体、なんのためにアイツは・・・・・・アイツはぁッ!!」
その中の一人を止めようとして『生の恨みの叫び』を聞かされた彼は、思わず愕然として立ちすくむ事しかできなくなる。
今までニコルは、この戦争をナチュラルたちの国から攻め込まれているコーディネイターたちが身を守るため仕方なく戦わざるを得ない『防衛戦争だ』と認識していた。
だが・・・・・・怒りと恨みの感情を理由に、ひたすら無抵抗な敵兵を虐殺していく同胞たちの姿を間近で目撃させられて、ニコルは自分の中で信じられてきた『綺麗なコーディネイター像』が音を立てて崩れていくのを、確かに実感していた。させられずにはいられなかったから――。
「ボクは・・・ボクたちは・・・・・・一体、どこへ―――」
一方で、ニコルのように降伏してくる敵を殺戮していく味方を止めようとはしないものの、それらの復讐劇に参加してもいないパイロットもいる。
「この前の奴はどこだ!? この戦場には出てきてないのか、クソッ!」
《グゥル》に跨がらせたデュエルを駆って、勝利が確定した後の戦場跡となった基地上空を飛行し続けながら、先日のアラスカ攻撃中に遭遇した《ストライク》と同じパイロットの新型機が、前回と同じように来援してきた場合に備えて索敵行動を油断する事無く続けていたのだ。
彼とて、地球軍への遺恨はある。
ディアッカを殺されたことへの恨みはクルーゼ隊員の中でも際立っていると言っていい程に。
だが、この基地の抵抗する力すらないザコ共をいくら殺したところで彼は、自分がもう壁を乗り越えた事にはなれなくなった己を自覚させられてしまっていた。
「《ストライク》・・・・・・貴様さえいなければ、こんな嫌な終わり方の作戦はやらなくて済んだんだ!
俺はただ、死んでいった者達に代わって、怨念返しをしたいだけなんだからなァッ!!」
一般の兵士たちには秘せられたまま、上層部の都合と判断だけで断行された、味方の兵たち諸共に敵を身連れにした謀略による恨みと負債を、一般兵士たちが背負わされ、ぶつけられる、あまりに救いのない悲喜劇的な流血劇。
そんな血まみれの復讐劇の結果として、生け贄となった兵士たちの犠牲によって双方の上層部は、体制の維持と栄達の美酒に酔いしれるのだ。
これら社会システムが内包せざるを得ない歪みと欠陥は、遺伝子調整人類であるコーディネイターでさえ解決することが出来ていない。
それどころか積極的に継承してしまっている人物が、パトリック・ザラ議長のおこなっている政策ではあったが、彼自身が自覚することはできていない。
そんな者たち同士が殺し合いを激化させているのが、C.E.最初の宇宙戦争なのである。
彼らと対峙している今一つの陣営でも、大した差が期待できるわけもない―――
「なんたるザマだ、これは! 一体!!」
机上に拳と罵声を叩きつけながら、閣僚の一人が放った怒声が緊急会議に集まっていた面々に轟き渡る。
グリーンランド地下に造られた、四方を耐圧ガラスに囲まれた外側に海中をゆく魚の群れを見ることができる、のどかで風光明媚な会議室は、だが今のどかさとは真逆の殺伐とした雰囲気に包まれていた。
会議室の壁面に設置された巨大モニターに映し出されている、陥落させられたパナマ基地の映像を見せつけられた地球連合の首脳たちは、険しい表情で切迫した状況への対応を迫られる窮状に陥っていた。
「パナマからの補給路が断たれれば、月基地は早々に干上がるのだぞ! それでは反攻作戦どころではない!」
「軍部には代わりとして、ビクトリア奪還作戦の立案を急がせておる! ・・・だが、マスドライバーを無傷で取り戻すとなると、やはり容易には・・・」
「だからパナマ防衛のため、もっと多くの《ストライク・ダガー》を優先配備しておくべきだったのだ! そうしてさえいれば今頃――ッ」
「無茶を言うな!? あのパナマが援軍の到着まで保たぬどころか、即日の内に陥落させられるなどと一体誰に予想できるというのだ!?」
ザフト軍による《オペレーション・スピットブレイク》を逆用して、味方の兵もろとも敵地上戦力の過半を消滅させようと計画しながら、半端な成果しか得られずに終わってしまった計画以降。
事態は必ずしも彼らの望んでいた方向に進めることができていない。
彼らとしては、ザフト軍の《スピットブレイク》を逆用して味方の兵もろとも敵本体を壊滅させ、その日概数を改ざんした数字を報道してコーディネイター憎しの感情を煽り、世論を背景として自主的に連合傘下の加盟国を増やした上でプラントとの決戦に及ぶつもりでいた。
だが現実には、アラスカで道連れにできた敵軍の被害は予想に満たぬ数でしかなかった。
味方の兵からも裏切り者が出て、ザフト軍に庇護された彼はロビィ活動に利用され、連合本部を襲った悲劇の真相は暴露されたことで、地球各国の反コーディネイター感情は思うほど盛り上がってくれていない。
そこにきて、パナマ軍港の陥落という最悪の凶報がもたらされたのだ。限界を超えつつあった彼らのストレスにとって致命の一撃と言っていい。
地球側に残されていた最後の、宇宙への窓口を損失したことで、彼らは完全に地球の内側へと封じ込められてしまったことになる。
どれだけ兵力を増強し、加盟国を増やし、新たに開発したナチュラル用のMSを量産配備できたとしても、それらを宇宙へ送るための手段がないのでは、宇宙国家プラントを倒すため役立つはずがない!!
「軍部から提案されたシナリオは、コメディーだったのか?
《JOSH-A》で成功しても、パナマを落とされたのでは何の意味もないではないのだぞ!」
「あれだけコーディネターを倒せ、やっつけろと煽るための準備を進めてきながら、これではな・・・。
アラスカでの悲劇を実証するための証拠も証人も用意できたというのに、これでは折角用意した戦勝パーティーの料理も冷めてしまおうというものだ」
口々に起死回生を狙った謀略の結果に対する不手際を罵る連合首脳陣。
事実として彼らは、今回の謀略を最大限利用できるよう準備に余念がなかった。
傷ついた体を野戦病院のベッドで苦しむ幼子。
攻撃の余波に巻き込まれて重傷を負った兵士たち。
傷だらけになった妹の手を握りしめ怒りと義憤に震える少年たち・・・・・・
それらジョシュアを襲った悲劇の生き証人たちを映した、ドキュメンタリー映像を幾つも撮影させ、厳選したものを事件直後から世界各国に向けて配信し続けている。
無論それらに出演しているのは、宣撫担当子飼いの俳優たちや子役たちなのだが、民衆たちにコーディネイター共の非人間性と残虐さをアピールして挙国一致態勢をとることに賛同者を増やす効果は期待できる。そのはずだった。
その狙いは完全に外れたわけではないが、望んだほどの影響までは及ぼすことが出来ていない。
連合傘下にある国々への、軍事費増大を支えるための増税を喜んで引き受けてくれる国や地域もあったが、一方で未だ連合に加盟していない中立国やプラントに友好的だった旧理事国などからは、加盟を拒否はしないものの『条件交渉』を求めた上での参加を打診してくるものもあった。
「あの悲劇が我が軍自身の自作自演によるもので、“兵たちは何も知らされぬまま司令部の生け贄として殺されていた”――などという話が広まっては、連合への加盟を渋る中立国共に口実を与えるだけです。
すぐさまザフト軍が自らの悪行を正当化するためのデマだと公式発表はしましたが、生き残って逃亡していた者たちが徐々に裏切り者と合流しているらしく、情報統制が難しくなりつつあります。それにも対処が必要かと」
「分かっている! クソッ、素直に死んでおればよかったものを・・・・・・役立たずが生き恥をさらしたせいで、いつまでも祟られるわ!」
また別の閣僚が、自分たちに都合のいい理屈を兼ねた罵り文句を、口汚い口調で吐き出しアラン・タチ中尉を罵倒する。
彼の保身を目的としてだけの行動は、C.E.の地球において想像以上に大きな影響を及ぼすものとなり、地球軍の厄介な問題として手足を縛る鎖となっていた。
――その鎖は、宇宙世紀の暦を用いるようになっていた『地球連邦政府が樹立後の地球』なら、気にする必要の少ない問題だったはずのもの。
既にして地球圏統一国家が誕生し、主権をもった独立国が地球上にも宇宙にも“名ばかりの共和国”を除いて存在しなくなっている社会において、旧主権国家が存在“していた地域”には地方自治体程度の権限と影響力しか法的には与えられなくなっているからだ。
だがC.E.の地球においては、そうもいかない。
あくまで地球連合は、『対プラント防衛戦争のための軍事同盟』という枠組みでしかなく、二つの盟主国ユーラシアと大西洋連邦の強大な軍事力を背景として無視できない影響力を有しているものの、連合への加盟を強制できるほどの強制力をもっている存在ではないからである。
そのため連合は今まで、脅したこともあれば買収もしたが、それでも『相手国からの自主的な参加』という建前だけは守ってきた。
それらを破れば、彼らは自分たちの要求に否を突きつけてくるようになるだろう。
そうなった時、連合が選べる手段は『武力行使だけ』しかない。他の外交カードで相手国を納得させうるものが今の地球に残っているはずがない。
そうなれば地球国家同士でも戦火を交える羽目になるのだ。
ザフト軍と戦いながら、同じ地球の身内まで警戒しなければならなくなるなど悪夢以外の何者でもない。
だからこそ彼らは今日まで、如何に不快であっても相手国の主権を尊重してきてやったのだ。
「オーブは!? オーブはどうなっておる!
あの国の《カグヤ》さえ確保できるなら、相応の地位と立場ぐらい用意してやるものをッ」
「外交筋を通じて再三の徴用要請をし続けてはおるのだが、頑固者のウズミ・ナラ・アスハめ! どうあっても首を縦に振らん!」
「―――おや・・・・・・」
その返答を聞かされた瞬間。
それまで会議に参加しようとはせず、気がなさそうに交わされ合うやり取りから顔ごと逸らして、ガラスの外を遊泳している魚群を見やっているだけだった只一人の男が不意に、くるりと体ごと向き直りながら会議が始まって初めての発言を口にだす。
「“中立だから”―――ですか?」
その単語を心底から馬鹿にしたような、心から価値がないと見切っているような、そんな調子で発音された声での評価。
だが、その単語を小馬鹿にしたように発した言葉が、会議開始から初めて彼が放った発言であることを鑑みれば、あるいは彼にとって心から侮蔑して憎んでさえいるのが“それ”だったかもしれない。
色白で金髪の、若作りをした優男だった。
質はいいが華美ではないオーダーメイドの高級スーツを着こなして、キーボードを打つように机の上で指先を走らせながら叩く姿は、政治家と言うより若い起業家といった方が似合う容姿の持ち主で、実際に彼は企業経営に成功した事業主でもある。
彼の名は、『ムルタ・アズラエル』
三十代後半という若さにして軍事コングロマリットを経営するCEOで、その実績を買われて地球連合軍の軍需産業連合理事を同時に務めてもいる。
実際に軍が使用している兵器の多くは、彼の参加にある企業が供給元を担っており、個人的資産やポケットマネーまで投じて対プラント戦争に協力を惜しまない、地球連合にとっては一番の大手スポンサーとさえ言ってよいほどの人物でもあった。
だが、彼を語る上で最も重要な肩書きは、先の二つではなく三つ目のものだと考える者は少なくあるまい。
「いけませんねェ、それは。みな命をかけて戦っているというのに。“人類の敵”と」
「・・・アズラエル・・・そういう言い方はやめてもらえんかね? 我々はブルーコスモスではない」
「これは失礼いたしました」
その彼が放った発言を聞き咎めた、閣僚の一人が顔を顰めながら告げてくる苦言に、アズラエルは芝居がかった仕草で慇懃無礼に、わざとらしく詫びて“見せてやる”
その態度も、口調も、今や全地球国家の盟主国にまで上り詰めようとしている大西洋連邦の政治面を支配する首脳陣に対する者として、尋常なものとは全く言えない無礼極まる尊大さ極まりないもの。
若者の増長としか思えぬ反応に、政界の海千山千を生きぬいてきた自負のある老練の首脳たちは、そろって顔を顰めさせながら―――それでも尚、彼を『礼儀知らず』と罵る者は一人もいない。
それら首脳陣の反応こそが、今この部屋における力関係と真の主が誰なのかを、言葉よりも雄弁に示しているものでもあった。
それは戦い方の変化と、新たな『主力兵器』の登場によって引き起こされた急激な地殻変動の結果でもある。
たしかに地球連合軍は今までも使用する兵器の多くを、彼の企業に依存してきていた。
だが、戦車や戦闘機といった既存兵器なら質の高低こそあっても、何処の国のメーカーであろうと然程の差という程ではなく、アズラエル自身も質より量で対抗する手法で連合軍内への影響力を少しずつ高める道を歩んできていた。
だが、その力関係はジョシュア陥落の少し前に終わりを告げることになる。
ナチュラル用のOSを搭載した連合製の量産型モビルスーツの開発。それを遂にアズラエル参加の軍需企業は成功した日から全ては変わってしまっていたのだ。
今や地球軍は、盟主国・大西洋連邦の領土内だけでなく、新たに加盟した国々でもMSの生産工場を次々と建設させ、短期間のうちに連合軍MS部隊を編成できる数を生み出し続け、新型機開発を続けてすらいるほどだ。
それら工場の生産ラインで造られるのは部品や装甲、組み立て作業だけであって、MS開発のための中枢部分は秘中の秘として、アズラエル有する企業だけが秘匿技術として抱え込んでしまって明かされることは決してなかった。
それこそがアズラエルにとって、地球連合首脳陣に対する影響力を急激に増大させる力の泉になると知っていたからである。
MSを主力兵器として一度でも手にしてしまった今、もはやMS無しでの戦争など考えられない。
たとえ技術進歩により旧来のMAが復権する未来がきたとしても、MSが用済みとなる日は二度と訪れることはあるまい。
そのMSを連合軍に格安で提供し続けてくれて、私財を用いて開発させた新型機をスタッフ付きで貸与することも辞さない姿勢を示してくれているVIPなのだ。
地球連合の老練な政治家ではあっても、経済力や技術力では足下にも及ばない首脳たちが、若者の“ワガママ”を諫めることなど出来るはずもなかった。
――それに彼には今一つ、逆らうことが“危険”な理由がある・・・・・・。
「しかしまた、なんだって皆サマ、この期に及んでそんな理屈を振り回してるような国を、やさしく認めてやっているんです?」
「オーブとて歴とした主権国家のひとつなのだ。仕方あるまいよ」
「おヤおヤ、もう中立だのなんだの、言ってる場合じゃなかったんでしょ?」
「力ずくで押し通そうにも、名分がない。
オーブにやったことを、オーブ以外の自分たちには適用されないと信じ込める国でもあるなら、話は別だがな」
鼻を鳴らしながらオーブ交渉の担当者が、アズラエルの血気に逸った若さ故の強攻策を一蹴させる。
彼としては、ろくな成果も出さない無能者呼ばわりされるのは不本意だった。
自分とてアズラエルと同じような発想は、とうの昔に思いついていたし、『地球の国家なら自軍に与するべきなのは当然』という傲慢な考えを共有してもいる。』
だが彼が、その案を思いついても実行しなかったのはデメリット面を気にせずにいられなかっただけのこと。
地球の一主権国家であるオーブの『連合への参加拒否』という意思を無視して、力ずくで主権を侵せば、地球連合軍は『あらゆる国の主権を都合次第で無視する大国だ』と、行動によって示すことを意味してしまった形になる。
たまたま今の相手がオーブで、受け入れを拒否した要求が「連合への加盟」だっただけなのだ。
オーブ以外の主権国家に、連合への加盟以外の要求を拒否したことで、主権を無視して攻め込むことは決して有り得ない―――そう信じさせれるだけの根拠がなければ、そういうことになる。
そうなれば今現在、連合傘下に収まっている他の主権国家の首脳たちにも動揺が広がるのは避けようがない。
盟主国の都合次第で、いつ第二のオーブに自国が選ばれて生け贄に供されるか分からないような同盟関係など、離反される恐れはないと信じれる方がおかしかった。
そうなってしまう危険性があると考えたからこそ、オーブとの交渉担当者は今の今までオーブの返答に苦々しい思いを抱かされつつも根気よく交渉を進めてきたのだ。決してやるべき仕事をサボっていたつもりなど毛頭なかった。
・・・・・・なかったのだが、しかしアズラエルから言わせれば、それが『現状を分かっていない』証明であり、変化を理解していない老人たちの頭の固さでもあった。
「なんでしたら、ボクの方でオーブとの交渉、お引き受けしてもヨロシイですよ?」
「・・・・・・なんだと?」
「今はともかくマスドライバーが必要なんでしょ? 早急にどちらか、あるいは両方を。
みなサマにはビクトリアの作戦があるんだし、分担した方が効率イイでしょ?」
まるで商談を進めるような手法で、アズラエルは「役立たずの担当」をオーブ交渉から外させて、自分が後釜に座ることを意味する提案を、連合首脳たちから済し崩し的に受け入れさせることに成功してしまっていた。
かなり強引な理屈によってではあったが、彼の言い分はあながち的外れというわけではない。
如何にビクトリア基地が軍の使用にも耐えうる広大な設備をもつ施設だろうと、地球軍の全戦力を地上基地ひとつに全て集中投入できるほどではないのだ。
如何に遊兵を作らず、集めた戦力を有効配備できるかが戦略家として腕の見せ所となるべき部分。
ましてオーブは中立を標榜しているとはいえ、『プラントの同盟国』でもある国なのだから、援軍派兵してくる危険性は0と見なす理由はなにもない。
少なくとも牽制しておくのは当然の処置であり、地上ザフト軍基地にも繋がる海路を封じてしまえば、オーブとて流石に諦めてマスドライバーを提供する気になるかもしれない。
それらの観点から、アズラエルの提案自体には問題はなかった。
・・・ただ、もし連合の首脳たちが彼の提案に懸念すべき部分を見いだすとすれば。
「・・・・・・オーブとの交渉を、君が担当すると言うのか・・・?」
胡乱げな視線と口調で、首脳の一人が確認するようにアズラエルへ、再度の問いを投げかける。
そう。提案自体には問題はないのだ。問題があるとすれば、提案者自身が実行者でもあることと、実行される相手国―――
オーブ連合首長国は、『コーディネイター』を『ナチュラル』との区別なく国民として受け入れている地球国家としては珍しい国だった。
その国との『交渉』を締結させるために、連合軍需産業理事アズラエルが責任者となって派遣される。
――そこが問題なのである。
何故ならムルタ・アズラエルには、公的な地位身分とは別に、もう一つの肩書きと顔をもつ人物でもあったからだ。
『ブルーコスモス』
各地で反コーディネイター思想を掲げて、ロビィ活動やテロ攻撃をおこない続けている団体の実質的な盟主という立場にある男。
テロ組織のドンが、連合首脳の一人として議会に席を有しているのである。
そのような人物が、このような場に平然といること自体が、先程の首脳の言葉に現れていたと言えるだろう。
もしも連合の首脳陣である自分たちがブルーコスモスだとすれば、彼らはアズラエルの手下ということになり、アズラエルは自分たちにとっての主君という事になってしまうではないか。
大西洋連邦という大国のトップに立つ、老練の政治家である自分たちが、アズラエルが如き礼儀知らずの若造のテロリストよりも格下の存在だなどと認めることは、彼らの地位身分にもとづくプライドが許せるはずがない。
そういう感情が、細やかな失言に対する苦言として現れていたのである。
だが―――
「ええモチロン。なにか問題がありますカ?」
「・・・いや、そういう訳ではないが・・・大丈夫なのかね?」
「ナニがです? ボクが交渉そっちのけで、強引に戦いを始めるとでモ?」
「・・・・・・・・・」
だが、如何に不安があったとしても、事この手の問題で彼に異議を唱えることは連合の首脳たちにも出来ない。出来るわけがなかった。
「もしかしたら、アレのテストもできるかもしれませんしネ――」
「ッ!? あ、あの機体を使うつもりだと言うのかね、きみは!?」
「それは、向こうの出方次第ですケド・・・・・・?」
独り言のように呟かれた言葉を、首脳たちの一人が聞き咎めて驚いたように声をあげ、それに対してアズラエルが答えるのを周囲の者たちは聞かされる。
「そのアスハさんとやらが、噂どおりの頑固者なら――ちょっと凄いコトになるかもしれませんネ・・・・・・」
無邪気にも見える笑顔で、ねっとりとした声音を聞かされながら、周囲の者たちは青ざめた顔色で黙り込む。黙り込むことしか出来なくなるしかない。
アズラエルの言い分を並べると、こうだ。
『地球にある国家のすべては、地球の敵であるコーディネイターたちから地球を守るため戦っている自分たちに協力する義務がある。
その義務を果たすのを拒んで、協力を拒否し続ける者は、理由も立場も国家だろうと関係なく、攻め滅ぼすか否かを決めていい権利が、地球を守るために戦っている自分たちにはあるのだ』
そういう事になるだろう。
プラントと戦って地球を守る戦いに協力を拒む者は、主権国家でさえも返答次第では叩き潰すと彼は宣言してのけたのである。
国家でさえ、平然と滅ぼさせる挙に出ることが出来るのがアズラエルという男なのだ。
・・・・・・自分たちに反対する政治家の一人や二人など、国を滅ぼせる男が排除するのを躊躇う理由を持ち合わせているはずもない。
だからこそ連合首脳陣は、彼の暴走を止められない。止めるための発言を命惜しさで言うことができない。
それが現在の状況を形作る要因になっていたとしても、世界を守るため自分たちだけが人身御供として無駄死にする気など、彼らのような人間にあるわけがないのだから―――
「それに―――」
ふと、席を立ってオーブ行きの準備に赴こうとしていたアズラエルが、ふと思い出したように足を止め、連合の首脳陣へと体ごと振り返りながら愉快そうに、軽い口調で思い出話を語りかける。
「地球の一国家であるのなら、オーブだって連合に協力すべきですヨ。違いますか?
第一、コッカ主権の尊重って言ったところで、もう犯しちゃってるじゃないですか。すでにひとつ。
今サラって言うんじゃないんですかネぇ? これって」
「そ、それは・・・・・・しかし・・・」
相手から指摘された出来事を思い出させられ、狼狽えた様子で目線を逸らして顔を背け、他の首脳たちも気まずそうに顔を合わせようとしなくなる。
それら周囲の光景を見渡しながら、小さく鼻息で笑い飛ばすアズラエルが語っているのは、先日に勃発した『とある事件』についての記憶。
――予定よりもサイクロプスで与えた敵の被害が少なく。
期待よりも各国市民たちの反コーディネイターが高まりを見せず。
予想よりも連合への加盟国と勢力拡大が進まず。
想定よりも多く生き残ったザフトの残存部隊は、想定より早く態勢を整え直すことができてしまえる・・・・・・
予定外尽くしの状況下に陥っている中で、ザフトが再攻勢の態勢を整えなおすより前に全面的な反攻作戦に打って出ることができなければ、勝利の可能性は得られない窮状を前にして、時間をかけれるだけの余裕がなかった連合軍は、状況打破のため遂にタブーを犯していたのだ。
それは『条件交渉』を求めてきている中立国内にある都市の一つに、『テロリストが潜んでいる疑いがある』として強引に軍を進めさせるという強攻策。
家屋や建物を破壊し尽くさせ、女子供までもを皆殺しにさせた。
『見せしめ』としての虐殺を断行していたのだ。
その効果そのものは凄まじく、アラスカでの真相暴露によって旗色が曖昧になっていた国々は一斉に連合へとなびく意思を示してきている。
正式な調印はまだだが、最後まで中立を貫いていた赤道連合もスカンジナビア王国からも、すでに参加を受諾するとの通達を受けとっている程だ。
―――だが、強攻策の使用で予定の遅れという問題を解決することに成功していた地球連合軍は一方で、その成功によって新たに別の問題を生じさせる土壌をも同時に耕す結果をもたらしていた。
今までは中立を尊重して直接的な武力行使を控えてきた国々に対して行った、危急の事態故の強攻策の使用による大きな成果。
その結果に至るまでの過程の中、地球連合軍の軍部内に、若く血気盛んな士官たちを中心として新たなグループが形成されていく。
当初は歳の近い者同士が集まった程度の士官クラブのような小集団に過ぎなかったはずの彼らの内からリーダー格として音頭取りをする者が現れたことから急速に先鋭化していき、今では無視するには巨大すぎる影響力を持つ勢力へと成長しつつある。
連合の首脳たちにとって厄介だったのは、昨今アズラエルが彼らの後ろ盾となるため接近しつつあるという事だ。
『かつて旧世紀の生物学者ダーウィンは、海から発した生命が地球の大地という環境に適合して進化した存在こそが人間であると語った。
この説に従うならば、試験管の中から誕生し、宇宙という生命を拒絶した世界こそを生活空間として選んだコーディネイターたちは、我われ地球人類と同じ根から生じながら進化の途上で分派し、全く異なる生物へと変化する道を選んだ人類とは異なる、宇宙をすみかとする生命体――俗に言うエイリアンであると断言できる』
『現在、我われ人類が生まれ育った母なる生命の星たる地球は、エイリアン共の非道なる侵略によって、かつてない痛手を被り続けている。
だが、悲しいことに今の地球国家政府に、この事態を収拾できる能力がないことは、今回の一件を見るまでもなく、誰の目にも明らかであると言わざるを得ない。
地球を汚染し続ける薄汚いコーディネイター共を追い出し、地球の平和と穏やかなる日常を回復することができるのは、平和のためには血を流すことを恐れず、決断すべき時には躊躇わず断固たる決意でもって前へ進める覚悟ある者たちだけだ』
『形式主義に陥り、過去に心囚われた旧弊極まる老兵たちに、それは出来ない。
我らのような若く新鮮な血によってこそ、現在の地球が陥っている窮状を突破し、新たなる可能性を地球で暮らす全ての人達に希望の光として見せることが可能になるのだ。
そのためにこそ我らが立つべき時が訪れようとしている。
真に地球を愛し、大地に根ざした環境にこそ生きる人類の守人、《大地の会》は、この聖戦に勝つため如何なる犠牲も厭わぬことを、ここに誓うッ!!』
そう叫んで、過激な士官たちを結集させて『地球防衛のための総力戦』を強く訴える彼らの存在は、軍の士気高揚という点では役立つ存在ではあったが、その感情エネルギーの発露を果たして自分たちはコントロール可能なのか・・・・・・今更ながら自信を失いつつある首脳たちに、とどめとばかりにアズラエルは続きを述べて、今この場における最後の言葉として去って行く。
「そー言えバ、彼らの中でも特に活躍してる人がいるらしいデスねェ。うちが開発した新型の亜種とも相性いいって話ですし、せっかくだしオーブには彼も連れていってみるとしましょうカ。
南国の海でのバカンスと洒落込めるかどうかは、アスハさん次第になるでしょうが・・・・・・それも運命ってヤツと思って諦めてもらうしか、ね」
――――宇宙、地球の地下深くで、それぞれの思惑と謀略とが、それぞれの首脳陣たちによって紡がれようとしている地球の空。
その場所を今、一機だけで南方へと飛翔していく戦闘機の機影が、小さな点として青空の中にポツンと染みのように浮かんでいる。
『ドルク大尉! 一機だけで艦隊との合流ポイントに向かうなんて無茶だぜ! ザフトの奴らやオーブ軍の連中に会ったらどうすんでェ!?』
コクピット内に響いてきた、通信機越しに聞こえてくる基地官制の下士官からの制止に、問われた側は特に気にすることなく胸ポケットから紙切れを取り出して唇に含む。
それを放した直後から、「クッチャ、クッチャ」と粘着質なものを口の中に含んで噛みしめている音を発するようになりながら、彼はお気に入りの愛機と二人きりのランデブーをそれなりに楽しんでいた。
なんとかいう戦死した提督が残していた遺産で、壊れていたところを修理させた代物だと聞かされたときには、とんだガラクタを押しつけられたと思ったものだが、今では大いに気に入っている青と白に色分けされていた戦闘機。
特に地球軍の戦闘機でありながら、ビーム砲をラックして装着できるのは実に良い。
これならコーディネイターが造った、堅いだけの鈍間なブリキ人形の《ジン》でも、デカい犬っころロボットの《バクゥ》でも、乗っているバケモノ諸共ふっとばしてブッ殺すことが可能になる。
強いて言えば、バカみたいに燃費が悪すぎて、すぐ丘に戻って補給を受けなけりゃ動けなくなるところだけは、気に入ることが出来ないままになっている欠点。
わざわざ自分を名指しで「お呼び出し」をくらった相手と新たな戦場では、この機体より、もっとご機嫌なオモチャを与えてもらえるなら願ったり叶ったりだが、果たして―――
「バッキャロウ! ゴミディネイターだろうがゴーブだろうが、邪魔する奴らは片っ端からヤっちまえばええんや! いっちょう派手にヤリにいこうやないか!!
それじゃいくぜぇ――ミュージック、スタート! ひゃっほうッ♪」
つづく