転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。 作:ひきがやもとまち
半分でも予想より遥かに長くなってしまったので、一旦キリいいところで投稿しました。
書く時間が得にくく、書く文字数は多いのは、なんとかしなきゃならん昨今の課題です。
他の連載作に影響が出過ぎる。
地球上の情勢が短期間のうちに激変し続ける中。
戦場の混乱に紛れてアラスカの攻防から脱出していたアークエンジェルは、キラ・ヤマトと合流した後、選ぶべき道に迷った結果として途中の寄港地オーブへと身を寄せる道を選んでいた。
プラントの歌姫ラクス・クラインから与えられた核搭載MS《フリーダム》をもって帰還してきたキラ・ヤマトが、ザフト軍との合流を拒んだため他の脱出者たちのように彼らの庇護下に入ることができなかったからである。
クルー達にも今までの経緯から、昨日までの敵に守られることへの後ろめたい感情がある。
だからと言って、核エネルギーで起動する機体をもったまま地球軍に復帰することもまたキラの想いに反することになる。
とはいえ、他国や他勢力にコネなり伝手をもつ者がいるわけでもない。
自力で逃げ延びるにしても、脱出行で満身創痍となっていたアークエンジェルを修復する必要があり、戦艦クラスの補修や補給がおこなえる施設がそうある訳もない。
既にして彼らには、オーブに庇護を求める以外に選べる選択肢は存在しなかったのだ。
キラの国籍が『オーブ国民』であることを考えれば、破格の待遇といっていい扱いだったと言えるだろう。
オーブ製MSのナチュラル用OS調整も、自国民の工業カレッジに通う学生が政府からの協力要請に応じただけと解釈すれば、地球軍戦艦アークエンジェルへの補給と補修に対する『見返り』としては別のものを請求することも不可能ではなかったのだから。
例によって、秘密ドックから入港を許されたアークエンジェルの首脳陣たちには、艦の修復と負傷者の搬送などを他の者に任せて、オーブ国側の代表と面会して謝罪と謝礼と事情説明とをおこなうぐらいの義務は当然ある立場だったというわけである。
他の職員たちには見つからないよう、軍本部の一室へと招かれたアークエンジェル側からの出席者は、マリュー“元”艦長とムウ。
そしてキラ・ヤマトとCIC担当のアーノルド・ノイマンが。
脱走艦となった今では軍での階級に意味などないが、下士官ばかりが多く士官が極端に少なかったアークエンジェルではマリュー以外に人を率いた経験のある者がおらず、アラスカ内部での事情を知っているのはムウだけしかいない。
キラはプラント内部で起きていた事情を知っている唯一の存在で、ノイマンはいなくなってしまったナタルの代理だろう。
一方のオーブ側からは、ウズミとキサカ、そしてカガリという以前にオーブを訪れたときに向かい合っていた顔ぶれと再会する形となったが・・・・・・もう一人、見知らぬスーツ姿の中年男性が彼らを出迎えてくれることになる。
「私はウォン・カーバインという。モルゲンレーテ社で常務取締役をしている。
代表からの指示によって、諸君らアークエンジェルへの物資等の補給は私が担当することになった。今日はその顔見せだ」
他の者には聞かれたくないであろう会合の場に、軍服姿でも議員服すら纏っていない私服姿の人物が同席を許されていたことへの驚きが顔に表れていたマリューたちに向かって、その人物は偉そうに聞こえる口調と仕草で、そう名乗る。
オーブ人の多くと同じく、東洋系の血を引いている人物なのだろう。西洋人系の特徴は少なく、面長の顔立ちで目つきに少々ケンがああった。
「あの・・・・・・本艦への物資補給の担当・・・ですか?」
「当然だろう? 今の君たちは脱走艦という立場にあるとはいえ、所属としては今なお連合軍の戦艦なのだからな。
本来なら秘密ドックから入港させているだけでも問題があるのは、今更言うまでもなかろう。他のオーブ艦と同じに扱えるわけがない。
そういう立場に今の君たちはあるのだと、自覚ぐらいは持ってほしいものだな」
「・・・・・・・・・ウォン常務」
しかめ面と不機嫌そうな声で語られる、オーブ側がマリューたちを匿うことで被る被害について聞かされて、無言のまま俯くことしか出来なくなる彼女たちを擁護するようにキサカが短く割って入り、相手もそれで矛を収めてくれたようだった。
なんというか、今までキラたちが出会ってきたオーブ関係者にはいなかったタイプの人材で、キツい指摘をズケズケと言ってくる辺り、好悪が分かれる類いの人物だろう。
カガリなどは明らかに苦手意識を抱いているらしく、先ほどから刺々しい視線を向けているほどだ。
だが、彼のような存在は組織にとって必要だった。
彼のように後方の苦境を厳しい口調で主張してくる者がいなければ、現場の判断と主張に賛成するばかりで反対する意見を誰も言わず、後方は前線を支えるために必要なものを要求通りそろえるだけ――そんな状況になってしまいかねない。
丁度そうなってしまった勢力が、今の地球軍だ。
『ザフト軍に勝つために必要だから』『コーディネイターを倒すためには必要だから』その理屈によって、政府は軍部の傀儡になりつつある・・・・・・
そういう惨状を招かぬためには、ウォンのような存在は国家や軍といった組織に必要なのである。・・・もっとも、口うるさい苦情に辟易させられそうな人物なのも事実だが。
「という、彼のような意見も国内にはあるのでね。ことがことという事情もある。
我が国とて、すべてが巧くいっている訳ではないのが実情なのだ。そのせいでクルーの方々には、またしばらく不自由を強いるだろうが、そこはご容赦いただきたい」
ウォンからの苦情めいた説明に続いてウズミが仲裁するようにそう言ったのは、最初から予定されていた流れ故での発言だったからだろう。
今回の件も含めて、すべての者が自分たちに不満を抱いていないという訳ではないのだ。誰も彼もが同情と好意でもって迎えてくれるわけがない。不満や不安を抱かされる理由となった者たちも当然いる。
それらの不安を代表する形でウォンに述べさせることで妥協案とするのが、今回ウズミが自分たちを受け入れてくれるため必要となる措置だったようだ。
苦言を呈する役だったらしいウォンにしても、『不満』ではあっても『反対』というほどではなかったらしく、言うべきことを言って満足したのか頭を一つ下げて引き下がる。
「ともあれ、ゆっくりと休む場と時間を用意することはできよう。その上で、よく見聞きし、考えられるがよろしかろう。
貴殿らの着ている軍服の意味も。その軍服を裏切れぬと言うなら、手も尽くそう」
その言葉を告げられた時、マリューは思わず自分が纏った軍服の腕章に目をやらずにはいられなかった。あるいはノイマンやムウでさえ同じだったかもしれない。
皮肉な気分であり、立場だった。
この国へ初めて訪れたときには、『Xナンバーやアークエンジェルを造った国が今さら中立とは』と憤る気持ちを少なからず持っていたはずの自分たち。
だが今では、『同じ地球の国家同士なら共に戦うべき』と純粋無垢に信じることができていた過去の自分たち自身の気持ちをこそ、うまく思い出せなくなっている今がある。
同じ地球の一国家でも『中立だから』と共に戦ってはくれなかったが、傷ついた兵たちを助けてはくれた中立国と。
同じ地球軍の一員として共に戦っている兵士たちを騙して、自らの手で殺戮してきた味方の国々。
あまりに激しすぎる変転が彼らの心理を混乱させずにはいられなかった。
地球軍を裏切る気にまではなれなかったものの、今すぐに原隊復帰する気持ちにもなれない。だからこそ彼らはオーブを頼り、一時だけの休息だけでも与えてほしいと願ったのだ。
これから進むべき道を考えるためにも、今だけは落ち着いて考えれる時間が必要だと思ったから・・・・・・。
そんなクルーたちの複雑な心情と立場をウズミは察しており、だからこそ先のような言い方を用いて、彼らに選ぶ道を強要するようなことはしたくなかった。
危機的状況や必要性を理由として戦うことを強要するのでは、連合軍やザラ政権と同じでしかない。
彼らには、自らの意思と判断で自分たちの進む道を決めてほしいとウズミは願っている。
・・・・・・たとえそれが、限りなく不可能に近いのが現実の状況だったとしても・・・・・・
だが無論、その対応を『気遣い』と考える意見が絶対に正しいというわけではない。
「しかし代表、代表はそうおっしゃるが現状での彼らに、それは無理なのではないですかな?」
「・・・? それは、どういう意味でありましょう? その――ウォンさん」
「艦長たちはオーブに着くまで、所在を察知されぬため無線封鎖をしていたから知らんだろうがな。地球軍本部壊滅の報から世界中が激変を繰り返していたのだよ。そのことを言っている」
「ウォン――」
室内で唯一の私服組からの言葉を聞きとがめたマリューからの問いに応じた部下に、非難がましい視線を向けて短く諫めようとするウズミだったが、この場ではウォンが譲らなかった。
それは悪意による者ではなく、彼なりにではあるが、その方がアークエンジェル乗員たちに対して誠実な対応だと信じた故での行動ではあった。
彼は上司からの言葉をあえて無視して、テレビのリモコンを手に取りスイッチを入れる。
すると室内に設置されていた壁面のスクリーンが展開され、大勢の聴衆を前にして演壇に立つ背広姿の人物が声高に訴えかけている映像が映し出される。
『――我々はこの“JOSH-A”崩壊の日を大いなる悲しみと共に歴史に刻まなければならない。
この犠牲は大きい。だが我々はそれを乗り越え立ち向かわなければならない。
諸君らの父も兄も、ザフト軍の無慈悲な侵略の前に死んでいった。その悲しみも怒りも我々は忘れてはならない。
我々は今、この怒りと悲しみを結集しザフト軍に叩きつけ、初めて真の勝利を得ることができる。その勝利こそ戦死者全てへの最大の慰めとなる。
地球の安全と平和、そして未来を守るために今こそ力を結集させ、思い上がったコーディネイターらと戦わねばならんのである!!』
それは地球軍司令部による、サイクロプス自爆によって消滅した、地球軍本部へのザフト軍の奇襲攻撃にかんする公式発表の映像だった。
沈痛そうな面持ちを仮面のように張り付かせた報道官が、自分たちのやったことなど想像すらさせぬ口調と態度で歌い上げるように、それでいて扇動するように偉そうな上から目線で聴衆に向かって語りかけている。
「これは・・・・・・」
「地球軍があてつけに実況放送を世界中に流しているのだよ、アジ演説だな。君らもよく見ておくといい」
自分たちのしたことを無かったことにして、敵の悪行ばかりを強調する報道官の偽善的な煽り文句を聞かされて、マリューやノイマンたちは耐えがたい想いに駆られて、堅く拳を握りしめて俯かずにはいられない。
こうなることは予想できていたことではあったし、敵の作戦を逆用して根拠地深くに引きずり込み、切り捨てられた味方の兵士たち諸共に敵軍を葬り去るという策が、戦略として有効なことも理解できる。
・・・・・・だが、その生贄として敵と一緒に吹き飛ばされる一員にされた者としては、感情的にも理屈的にも賛成する気分には全くなれるものでもない。
『敢えて言おう。この戦争を諸君らは対岸の火と見過ごすようになっているのではないか?
守備軍は、最後の一兵まで勇敢に戦った。彼らは諸君らの、その甘い考えを目覚めさせるために、そのためにこそ死んだのだ!
地球に生きる全ての者が力を合わせてこそ乗り越えることができるほどの脅威に、今の我々は晒されている!
この聖戦への協力を拒む者は、その意思の有る無しに関わらず利敵行為と言わざるを得ない!!』
「この理屈によって、大西洋連邦は中立の立場をとる国々にも圧力を強めるための大義名分を得た。《JOSH-A》で犠牲者となった者たちへの義憤や同情によって煽られた世論の後押しによってな。
それらの国々も無論、冷静さを保っている者はいるが、口を開いただけで非人道呼ばわりされてしまう。
大西洋連邦の行為を、主権の侵害として非難した罪によって公職を追放された者もいるほどだ」
「そんな・・・それ程まで・・・・・・」
切り捨てられた兵士たちの死を利用して、反コーディネイター感情を煽るためプロパガンダの材料とし、それでも従わぬ者たちは物理的に排除していく。
そんな無茶苦茶な論理があるだろうか? 通してよい論理だと言うのだろうか?
だが感情に煽られて沸騰した大衆世論というものは、違憲行為や違法手段による被害防止を『今は必要だから』という論法によって簡単に受け入れてしまうものでもある。
それらの行為が、『次は自分たちに向けられる未来』を考えることは、ほとんど無い。
「が、これだけなら艦長たちの話が事実であるなら、予想しうる範疇でもある。犠牲になった兵たちを哀れだとは思うがね。
しかし戦争というものに、予想外のことは付きものだ。相手と手遊んでいるわけではないのだからな、いつでも作戦通りにことが進むのなら苦労はない」
「・・・と、言いますと地球軍側になにか不測の自体があったと?」
「そうでなければ、わざわざ私も口を挟もうとは思わん。これを見たまえ」
そう言ってリモコンのチャンネルを切り替えさせるウォン。
次に呼び出された映像は、どこかの施設内にある放送室らしい場所で、先までの地球軍司令部を式場にした公式発表と異なり、飾り気のない実務的なものばかりで満たされている室内からは、効率や機能性を重視するコーディネイターらしさを逆説的に感じさせるものになっている。
『私はこの場を借りて、地球軍すべての兵士たちに隠された真実を伝えたい。
この度の《JOSH-A》を襲った悲劇は、大西洋連邦の謀略によって引き起こされた自作自演の結果だったのだ!
もしザフト軍によって地球軍本部が壊滅されていたならば、彼らは優位に立っていたはずだ。しかし現実に彼らは戦力を減らし、逆に地球軍は勢力を拡大しつつある。
今この現状を見れば、連合の悪意は誰の目にも明らかだろう!
この危機を逆用して現在、大西洋連邦が地球の国家すべてを我が物にしようとしている事実は、ザフト軍の侵略行為よりも悪質だと気づけるはずだ!!』
だが一方で、その場所の中央に立っているのは連合軍の軍服を着た壮年の士官という組み合わせが不調和だった。
マリューたちの知っている顔の連合軍士官ではない。
「この映像は・・・・・・彼はいったい?」
「アラン・タチ中尉――いや、少佐だったか? 君たちと同じく、アラスカ守備隊の生き残りだそうだ。
君たち同様にサイクロプスの被害から逃げ延びた後、ザフト軍に庇護されたらしい。その後は地球各国に向けてロビィ活動をおこなう第一人者となって。
まぁ見ての通り、ザフト軍の立派なスポークスマンといったところだな」
呆れ混じりの皮肉気な口調で語られた内容は、たしかにマリューたちにとって新鮮な情報で驚きを持って迎えられることになる。
彼女たちが茫然自失している間にも、世界は動き続けて止まることを知らなかったようだ。そして、その変化は今なお続いている。
「もっとも、この中尉だか少佐だかの某一人が騒いでいるだけなら大した問題にはならんかったろうがな。
ザフト軍が今回の一件について、自分たちの無罪と、地球軍による謀略を主張するのは当然でしかない。
やって当たり前のことを言っているだけのことに注目したがる物好きなど、滅多にはおらんよ。事実、当初の時点では地球各国のいずこも彼の話を信じるものはいなかった」
「では、別の問題にまで発展していると?」
「既に彼の誘いに応じて、それなりの数の脱出者たちがザフト軍の元に集まっているらしい。中には手土産としてサイクロプス自爆にかんする証拠をもってきた者も混じっていたようだ。
それらの蓄積によって、地球市民たちの世論が変わりつつある。地球各国から疑いの目を向けるようになってきたのだ。
大西洋連邦にとっては当然、面白い話ではないな」
それが未だに中立を保ってきた各国に、地球連合加盟の要請を拒否しやすい効果をもたらし、国内世論を味方にしづらくなった大西洋連邦が態度を硬化させて、強硬手段をとりやすい状況を結果論として形作っていく流れを生じさせることになる。
「そのような状況なのが、今の世界情勢だ。
これは君たちのためを思って言うことだが――連合軍に戻りたいと思っているなら止めた方がいい。殺されるだけだ。
敵前逃亡の罪によって軍事法廷にかけてもらえるなどと、甘い期待はするだけ無駄だ。裁判の場で余計なことを語られても迷惑なだけなのが今の大西洋連邦軍の立ち位置なのだ。
拳銃を渡されての自決を強要されるか、独房内で食事に毒を盛られて病死と認定されるか・・・・・・その程度しか待遇に違いはないと思った方がいい」
「ウォンっ!!」
遂に我慢できなくなったのかウズミは声を荒げてしまったが――それをする時機は既に逸してしまっていた。
厳しい視線でウォンを睨み付けているカガリたちの対面には、顔面蒼白になったマリューたちと、引きつった表情を浮かべて黙り込んだままのキラだけが立っている。
・・・・・・こうなることを知っていたからこそ、ウズミはこの一件をキラたちが自分の道を選ぶまでは話したくなかったのだ。
今の世界情勢は、アークエンジェルのクルー達から確実に進むべき道を奪い取る方向へと突き進みつつある。
それは彼らの選択を、戦争を理由として狭めて強要させる結果へと至らせるだろう。
「――ご存じのことと思うが、我が国はコーディネイターを拒否していない。オーブの理念と法を守るものなら誰でも入国、居住を許可する現状では数少ない国だ。
カガリが《ナチュラル》なのも、キラくんが《コーディネイター》なのも当の自分にはどうすることもできぬ、ただの事実でしかない。
なのにコーディネイターすべてを悪とし、敵として攻撃させようとする大西洋連邦のやり方にも、ナチュラルすべてを滅びるべき邪悪な旧種族と断じるパトリック・ザラの主張にも、私は同調することはできないと思っている。
いったい、誰と誰が、なんのために戦っているのか? それが分からぬ現状のまま、今さえ良ければと道を選んだところで、今日の延命が明日の滅びを確定させるだけになる・・・・・・そうとさえ感じているほどに・・・・・・」
「おっしゃることは分かります。分かりますが、しかし・・・・・・失礼ですが、それはただの理想論に過ぎないのではありませんか?」
重くなった空気を和らげるためにか、僅かに話をそらすように語られたウズミからの発言に、ムウもまた話に乗るためにかハッキリと反論を口にする。
「それが理想――そうは思っていても、やはりコーディネイターはナチュラルを見下しますし、ナチュラルはコーディネイターを妬みます。それが現実です」
「そんなものは理屈に過ぎん。口実だよ」
そこに再び水を差すような冷ややかな声でバッサリと切って捨てたのは、またしてもウォンだった。
いつもはシニカルな視点での現実を皆に語る役をになってきたムウでさえ、あまりにも感銘に切り捨てられたことで鼻白まされたのだろう。
少しだけ苦手意識を感じさせられたらしい感情のこもった視線で彼を見る。
「戦争というものは所詮、経済活動と無縁でいることはできん。
極論と承知で言わせてもらうが、この世で起こる戦争の99パーセントまでは経済的利益を理由に起こされているものでしかないのが、戦争というものの現実なのだよ。
今回の戦争でプラントに核を放ったのは、連合の主力を担う大西洋連邦だが、それに対する報復によってNジャマーを打ち込まれ、プラントの占領下に置かれた国々の多くは大西洋連邦に属していたわけではない。
核を放った当事国の本土は未だ占領されず、地球軍の盟主国として君臨し、プラントに核を撃っていない国々は国土をザフト軍に蹂躙され、地球連合の一国として命令を聞かねばならん下位の立場へと置かれるものが続出する。
――この状況を前にして、見下しだの妬みだのといった、たかが感情の問題だけで戦線を支えている戦争だと、君たちはよもや本気で思っているわけではあるまいな?」
断定的な口調で告げられる宣言だった。
反論は室内にいる誰の口からも発せられない。もはや親の仇でも見るような目つきで激しく彼を睨みつけているカガリでさえ、ウォンの主張そのものまで否定する言葉は持ち合わせていない。
だが同時にその分析の正しさは、オーブが置かれた危機的状況を示すものでもある。
コーディネイターとの戦争を隠れ蓑にしてきた大西洋連邦が、ここにきて野心を露わにする行動に出始めたことを意味する分析内容でもあったからだ。
現在のオーブは、キラからの技術協力によってナチュラル用のOSを搭載した地球製MSの開発技術を有する、大西洋連邦以外で唯一の地球国家という立場にある。
しかもオーブまでアークエンジェルが到着した時期に、プログラムを組まれたばかりの最新鋭OSであり、おそらく性能面では連合のそれより勝っている可能性が高い。
大西洋連邦の野心が、プラントだけでなく地球上すべての国家に向けられたものだったとすれば、彼らにとって野望を阻む障害にしかなれるはずがない立場に今のオーブは立ってしまっているのだから・・・・・・・・・・・・
ウォンの分析に基づく予測が正しかったことを証明するように、アークエンジェルの受け入れからしばらくして、地球連合軍によるオーブ連合首長国への侵攻作戦は開始されることになる。
形ばかり最後通告を送りつけ、受け入れられるはずもない無茶ぶりの要求を理由に拒否されたのを口実として、即日のうちにオーブの本島であるオノゴロ島へ全方位からの侵攻と攻撃を開始させたのである。
時期的には、地球軍本体が地上ザフト軍に占領されたビクトリア軍港奪還作戦の発動と、ほぼ同時に火蓋が切られる形となっていた。
この戦いにおいて、連合軍艦隊を事実上率いている連合軍需産業理事ムルタ・アズラエルは当初から、交渉による解決の意思をまったく見せようとしなかった。
彼は開戦に先立ち、自軍のエースに向けてこのような通信を送っている。
『白いロングダガー・・・・・・。
君があの有名な裏切り者のコーディネイター、ジャン・キャリーですか』
オーブ攻略のため投入された、エース用の先行量産されていた新型機《ロング・ダガー》
その内の一機に――と言うより、その機体の“パーソナルカラー”に対して旗艦のブリッジから直々にコクピット内の1パイロットに向けて通信が届けられていたが、それは戦勝の激励を送るためのものでは全くなかった。
『先に言っておきますが、僕はコーディネイターなんて全く信用していません。
それにナチュラルでも操縦できるMSが開発された今、あなたは用済みなんですヨ』
「私は・・・・・・この戦争を一刻も早く終わらせたいだけです」
コクピット内で通信を送られた相手は、神経質そうな細面の表情を歪め、眼鏡の奥にある細い両眼を一層細めて、通信相手から送られてくる“挑発”に耐えるしかない。
その苦行は同時に彼にとっては、今まで耐え続けてきた努力と忍耐と貢献の全ては無駄であったと認めることでもあったのだ。
『ジャン・キャリー』は、現在では数少ない地球出身のコーディネイターで、《煌めく凶星[J]》と渾名される連合軍のエースパイロットとして、キラの《ストライク》が登場するまでは連合軍で唯一のMS乗りだった人物でもある。
だが一方で、その出自と種族故に味方からも疑惑の目を常に向けられ続ける不遇な境遇を強いられ続けてきた男でもあった。
それでも尚、彼がザフト軍人ではなく地球軍として今日まで戦ってきたのは、偏に自分の存在と能力と活躍によって地球ナチュラル陣営内でも、コーディネイターを受け入れられる状況を確立させたい。そう願った故のことだった。
たとえ戦力としてだけでも、制度として社会的に受け入れられる地歩があるのと無いのとでは、その後からの展開はまるで違う。
最初は敵国であるコーディネイター国家プラントから防衛するためにも、嫌々ながら仕方なく――そんな形で始まったものであろうとも、その必要性がやがて連合内部での影響力を有する第一歩となり、最終的には二つの故郷に異なる人種同士の和解へとつながる始まりの萌芽となれるのではないか・・・・・・?
そういう淡い希望を抱いていたからこそ、彼は今日まで同胞であるコーディネイターからも裏切り者と見なされ、忌み嫌われる立場に甘んじてきたのである。
だが今、彼に送られた上司からの言葉と通信内容によって、抱いてきた夢と希望は完全に潰えた事実を告げられる。
形式的にはオブザーバーということになっている、オーブ攻略の実質的総司令官にして地球連合の支配者へと成り上がりつつある思想結社ブルーコスモスの盟主には、この戦いに勝利した後にコーディネイターという種族を、一人も生かしておく気は端から持ち合わせていなかったのだ。
『今は連合に属しているとはいえ、裏切り者はイツまた裏切るかもしれませんしねェ・・・。
せいぜい派手に暴れ回って死んじゃってください』
「クッ・・・・・・」
一方的に言うだけ言って、向こうから通信を切ってくるアズラエル。
その余りな恩知らずぶりと傍若無人な振る舞いには、目眩がするほどの怒りに駆られるものの、今この場で激発するわけにはいかない。
それこそ相手の思うつぼであり、彼は自分の反逆と、『友軍のエース』を公然と処刑できる口実を求めて、戦闘開始前にわざわざ通信を送ってきただけなのだから。
「・・・・・・とはいえ、このままではやられるだけの立場は変えようがないか。
なんとか脱走できたとしても、やはり私一人で、この戦いの憎しみの連鎖を断ち切ることは出来そうにはない。
ならば地球軍に反旗を翻した第三勢力が台頭した現状で、地球軍に戻ることもあるまい・・・」
だが全ては、この国に自分の願いを叶えうると信じられるだけの力があることを示してもらった後からの話になるだろう。
最低でも自分一人を倒せる程度の力をもつ者たちでなければ、自分が果たせなかった夢を叶えられるとは到底思えない。
いずれにしろ彼には、オーブ軍と全力で戦って倒してもらわぬことには、別の道を選べる可能性を得ることはできなかった。
地球出身のコーディネイターである彼にとり、生まれ故郷で幼き頃より親しかった者たち全てが人質たり得る。
ナチュラル第一主義を掲げて、種族主義を主張しながら、同じナチュラル国家さえ『コーディネイター討伐に協力しないから裏切り者の“疑いがある”』という理屈で平然と滅ぼしてしまえるのがアズラエルであり、ブルーコスモスという結社なのだ。
自分が生きて無事に逃げ出したことを知れば、故郷で暮らす罪なき人たちを見せしめとして皆殺しにするのを躊躇うことは決してあるまい。
「どちらにしろ、今の私には君たちと全力で戦う以外に道はないようだ。
頼むから簡単に倒されてくれるなよ、オーブ軍――ジャン・キャリー、《ロング・ダガー》発進する!!」
自らの考えと願いが、今となっては身勝手なエゴイズムと押しつけでしかないことを承知しながら、それでもジャンには願いと進むべき未来を両立させるため、オーブ軍と全力で戦い、撃破してもらうことが連合を裏切る手順として必要だったのだ。
そんな彼の期待に応えるため、という訳では全くなかったものの、オーブ軍は迫りくる地球軍の大軍勢から祖国を死守するため、全力で彼らを迎え撃ちにかかってきていた!!
「敵艦よりの巡航ミサイル発射を確認っ」
「第一、第二護衛艦群を出動させろ!」
「オノゴロ上空にも大型機接近。敵MS部隊を降下させた模様!」
「第八機甲大隊を回せ! 奴らの侵攻を許すなッ!
チィッ! 敵の展開が速すぎる・・・っ」
未だMSの開発成功が影響しづらい空から侵攻させた輸送機から、降下させた連合製量産型MS《ストライク・ダガー》の大軍によって力押しで勝負を決してしまおうという挙に訴え出たのだ。
大雑把ではあるが、大軍勢で迫る連合軍から少数で守りに回らされたオーブにとっては最も取ってほしくない戦法だった。
国家代表ウズミの名代として軍最高司令室に詰めるカガリと、彼女を補佐する熟練のキサカは対応に躍起になり、火消しのための部隊配置と移動指示を伝達するだけで手一杯な状態へと陥っていく。
「前線より報告! 敵MS隊がイザナギ海岸に上陸されました!」
「くっ! アークエンジェルに救援の要請と、出撃許可を出させるんだッ!!」
本来なら年齢的にも経験のうえでも未熟なカガリではなく、現職を退いたとはいえ事実上の国家代表であるウズミが直接指揮を執るべき状況であったが、民主国家であるオーブでは軍の最高司令官という役職を政治のトップが兼ねることはできない。
それは独裁権力へ至る道であることは歴史が示す事実だからで、このような状況下でも『状況を口実とする理由』を懸念する声は0にはなれないのが民主国家という体制の特徴のひとつ。
このような状況だからこそ、形式だけでも堅守することで内部での内輪揉めを避けることが現実的で効率的な方法になってしまっていた辺りに、オーブという小国の苦しい内情が現れていたのかもしれない。
そんな圧倒的大軍に寡兵で挑まんとするオーブ軍にとって虎の子と呼ぶべき、核エネルギーを搭載したパトリック・ザラ自慢の新型機フリーダムは、思うほどの活躍を示すことが出来ていなかった。
参戦した直後こそ獅子奮迅の活躍を見せていた《フリーダム》だったが、すぐにも連合軍旗艦から発進された3機の新型MSとパイロット達の相手をするため釘付けとなり、他部隊を支援する余裕が完全に失われてしまっていたのが、その理由だった。
『ハァァァッ! 抹殺ッ!!』
『・・・・・・ウザぁ~ぃ・・・・・・』
『へへっ! 殺されるより殺した方がマシってねッ!!』
「くぅっ!? コイツら・・・っ」
形状から見てXナンバーの後継機シリーズとして開発されたらしき3機のMS部隊の威力はすさまじく、さしものキラも足止めするだけで手一杯にならざるを得ない窮状へと追いやられていく。
初めて目にする特殊戦に特化した機構に翻弄されているという事情もあるが、敵パイロットたちのナチュラルとは思えない操縦技能の高さが彼を戸惑わせていたのも、その一因だった。
特にOSによる癖を全く感じさせない機動は、キラを最も困惑させる要因となる部分だったと言っていい。
通常ナチュラルが、MSという巨大な精密機器の塊を自分の手足のように動かすには生まれ持った能力が足りないため、OSによる補助が不可欠になる。
地球軍の《ダガー》もオーブ軍の《M1アストレイ》も動きの多くをコンピューターのOSにサポートさせることでナチュラルによるモビルスーツ操縦を可能にしているという点で変わりはない。
だが反面、そうであるが故にコンピューターに標準登録されていないイレギュラーな動きには弱く、機体からOSに情報を送り精査した上での機動という流れを必要とする反射速度には限度もある。
むしろコンピューターによる機体制御の補助は、演算や敵機動の分析といった計算式によって正答を導き出せる分野のため、特殊な生まれによって他より高い能力を与えられていたキラにとって、OSの補助頼りな地球軍のMSを相手取るのはお手の物だったかもしれない。
だが今キラが相手にしている連合軍の新型3機には、それら機械的な動きの制限がまるで見られなかった。
反射速度も高く、ナチュラルの身体能力では扱いきれぬほどの高機動を誇りながら複雑な挙動を苦もなくこなしているように感じられる。
「っ! ビームが、曲がる!? ――しまった!」
『ハぁッ! 瞬殺っ!!』
3機の内の1機であるカーキ色の機体に向けて発射したビームが、両肩にマウントされた盾のような武装で方向を大きく曲げられて回避されるという、変則的な防御方法を見せつけられて驚かされた直後に、今度は上空から可変機が発射可能な破砕球を投げつけてくるのを避けて再反撃を試みるフリーダム。
苦戦してはいるものの、一対一であればキラは自分が敗れるほどの強敵とまでは思っていない。それは客観的な事実でもある。
仮に一機ずつと戦うことが出来た場合に、軍配は確実にキラの方へと傾き、3機の敗者と3連勝して勝ち残った1機のフリーダムという結末へ必ずや至ることになったはず。
だが、二対一では不利になり、三対一では防戦一方に追い込まれるのは避けられない程度には、彼らは強い。
と言って、どれか一機だけでも他の者に任せるには、強力な味方がオーブ軍には存在しない。
強いて言えばムウが新たな愛機として機種転換した《ストライク》だが、その彼とてMSパイロットとしては初陣であり、素質はともかく経験値が圧倒的に乏しい。この3機の相手を任せるには不安がある。
しかし戦況は彼にとって、どんどん好ましからぬ方向へと進められているようだった。
コクピット内にブザーが鳴り響き、オーブ軍司令部から緊急連絡を伝えてきたことを彼に知らせる。
『キラ! 敵艦隊から発進した一機が、もの凄い速度でこちらに向かって直進している! 防衛部隊が足止めしているが、抑え切れそうにない! 何とか援護することができないか!?』
「な・・・!? まだ四機目がいたのか・・・っ」
カガリからの悲鳴じみた報告を聞かされ、キラは自分が敵の罠にはめられたことを悟らされた。
この3機は囮だったのだ。
最初から彼らが自分という強敵を抑えている隙を突いて、残る一機の特殊戦機がオーブ軍本部を叩くという腹づもりだったのだろう。自分はその罠にはまり、まんまとオノゴロ上空で一進一退の攻防戦という不毛な消耗戦に付き合わされるという為体を晒してしまった!
『いい加減に落ちやがれよテメェーッ!!』
『・・・・・・ウザァ~イ・・・うざいうざいウザーイっ!!』
『へぇ? 面白そうなヤツと遊んでんじゃねぇかよ。お前らッ!!』
「くっ!? コイツら・・・またッ!!」
再び攻勢を強め始める連合の強敵パイロットたち。
幸い敵の連携はとれておらず、むしろ互いを牽制し合うかのような無駄撃ちまでやってくれることで、数の差ほどにはキラは不利な状況にまでえ陥ってはいない。
しかし、それで油断できるほど弱い敵ではなく、彼らの内1機だけでも抜かれてしまえばオーブ軍本部は壊滅されかねない威力を付与されている者たちばかりだ。
また、相手の不和に乗じるには自分の側にも数がない。自分が割り込もうとすれば、流石に敵同士も共闘を優先させやすくなり、乗じる機会が著しく減少してしまう。
(どうする!? 一撃を加えて敵の連携を崩した瞬間に隙を突いてオー軍本部を目指して脱出すれば――けど、それだとコイツらに前進を許してしまうことになる! 一体、どうすれば・・・!?)
二派に別れた強敵たちに二正面作戦を強いられたことから、両立できない問題解決を担わされたキラは僅かながら混乱させられ、その混乱がほんの一瞬だけとはいえ彼の意識と動きに隙と油断を生じさせてしまった。
『ヘヘッ、何やってんだよテメェらっ!』
『なっ!? オルガてめぇ!』
「なっ? いったい何を・・・!?」
下方から火力重視の機体が飛翔しながら、援護射撃と言うより味方諸共に巻き込もうとしているとしか思えない大口径ビーム砲による連続発射を放ってきたのを寸前で回避するのに成功するキラ。
狙っていた標的に回避されたビームは、射線上に強襲をかけようとしていた可変機が位置していたことから慌てて攻撃を止めて回避行動に変えざるを得ない。
同士討ちとも呼ぶべき強敵達の行動は、キラにとって乗じるべき隙でしかなく、仲間割れによって互いの機動を制限し合って動きを止めた相手たちの1機だけでも機能停止に持ち込ませようと勝負に出たまではよかったのだが。
『このヤロー! 邪魔するならテメェから抹殺ッ!!』
『・・・・・・ウッザ』
「うっ!? しま――ッ」
だが、しかし。
自分を撃ってきた味方機に対しての報復として放ったビーム攻撃の射線上に、飛行可能な大型シールドをもつ機体がいたことから予想外の事態が発生することになる。
シールドの効果によって射線が曲げられたビームが、よりにもよって敵機に狙いを定めた直後のフリーダムに真横から迫ってきてしまったのである!
キラは本人も未だ知らぬ生まれの事情から、プログラミングや空間把握といった分野に卓越した能力を生まれ持たされていた少年で、こと『計算』や『演算』などの数字による分析で分かることが可能な範囲では、未来予知に等しい力を発揮してきた。
ただ、そういうタイプの弊害として感情的な暴発や、不条理な理由による突発的行動といった非合理的な動きには、必ずしも完全な対処ができる力を持てていない。
通常であれば、そういった攻撃は非合理であるが故に精度が低く、命中率も高くない計算に基づかない『まぐれ当たり』を期待したものでしかなかったため、能力の高さによって予測できなくとも回避することができた。
だが、この時の敵たちは今まで相手をしてきた者たちとの誰とも違っている者たち。
感情的な動機で放たれた非合理な一撃であったにもかかわらず、射撃そのものは高度な計算に基づく正確無比な一弾として放ってくるのである。
味方機がいる状況だったならともかく、自機だけで相手取るには厄介な相手たちだった。
なんとか直撃を回避して、空中でクルリと機体を一回転させ、真横から迫りくる敵の攻撃をかわしながら正面の敵と即座に向かい合う、そんな曲芸じみた機動までやってのけたキラだったが。
『ハッ! ・・・終わり♪』
「!? しま――っ!」
だが、その直後に真下から直近の位置に急上昇してくる敵機の存在を、予測することは不可能だった。
頭部に設置された「口」のある辺りのパーツが、光輝きはじめるのを見て、キラはそれが奇襲用の接近射撃武装であることを悟らされる。
(やられる――!)
今からでは避けられぬと判断して、直撃による致命打を避けるためフェイズシフト装甲で防げる部分へダメージを反らそうと機体を微動させる――その瞬間。
――ビシューン!!
バチバチィィィィッ!!!
『迂闊だぞ、キラ!』
「――なッ!? あ、アスラン・・・・・・アスラン・ザラかっ!?」
突如として上空から舞い降りてきた真紅の機体が、自分に迫るビームの前に立ちはだかるとシールドを掲げて防ぎきり、反撃としてビームライフルを発砲して敵の陣形に穴を穿つ。
敵味方識別にも反応しない初めて見る機体の助けに、驚愕させられていたキラの耳に届けられたコクピットに響く未確認機からの通信。
その声に、今度こそキラは唖然とさせられるしかない。
それは彼にとって、求め続けた相手の声であり、関係修復を望んでやまなかった親友の、そして二度と過去の自分たちには戻れないことを覚悟した――自分の手で殺そうとしたザフト軍のエース・パイロット。
望み求めた相手が今、目の前に降りたち自分を助けてくれたMSから語りかけてきてくれる。
一度は――自分の方から永遠に絆を断ち切ろうとした親友が!
彼を殺そうとした、自分を!!
「アスラン、なのか・・・?――い、一体どういうつもりだ!? ザフトがこの戦闘に介入するのか!?」
『そんなことはどうでもいい! 今はお前にもやるべきことがあるんじゃないのか!?』
「くっ! それは・・・・・・」
今の立場に基づく問いかけに対して、“あの頃”と同じように叱責で返され、言い返そうになりながらも現在の状況がそれを許されない事実をキラ自身も忘れてはいない。
現在もなおオーブ軍本部には、目の前の三機と同等の威力をもった敵新型MSが進撃し続けており、それを止められる戦力を持った存在は現時点では自分しかいない。
思うところはある。任せて委ねても大丈夫な相手の立場なのかという不安もある。
だが、こと任せるに足る実力に関しては、彼以上の存在を自分は知らない―――っ
「――わかった、僕はオーブ軍本部への援軍に向かう! ここは君に任せる、アスラン!」
『ああ、任せてもらう。・・・・・・気をつけろよ、キラ』
「・・・・・・・・・君こそ、アスラン」
通信の最後だけ短く付け加えられた一文に、語り尽くせぬほど多くの想いを込めて呟き捨てて、キラはスロットルを最大まで踏み込んで軍本部へと猛スピードで急行していく。
あっという間に後ろ姿すら見えなくなった未知の白い新型MSに、背後からの追撃を仕掛けたいと考えながらも、割り込んできた未知の赤い飛行可能MSの異質さに躊躇いが生じて、結局は見逃すことしかできなかった3機の敵MSは、強敵の片割れが完全に戦線離脱したことで戦意に再び火が付いたらしい。
『・・・なんだ、コイツ? 増えてやがる』
『・・・・・・どっちも倒しちゃっていいの・・・?』
『なんだかよく分かんねぇが、テメェも抹殺!!』
3機そろっての攻撃に、今度はアスラン・ザラの駆る新型MS《ZGMF-X09Aジャスティス》が一対三の戦いを再開させた。
「フリーダムを撃墜され、お前たちに機体を奪取させるわけにはいかない。それは俺個人の意思でもある。
お前たちは、ザフト軍のパイロットとして俺が相手をする。俺はキラほど優しくはないぞ・・・・・・アスラン・ザラ、《ジャスティス》これより任務を全うするッ!!」
新たに参戦した想定外の新戦力の登場によって他部隊への援軍が可能になったフリーダムは一路、オーブ軍本部へ向けて真っ直ぐ機体を直進させていく途上にある。
そんな彼に先行するようにして、別の方角から軍本部へ向かって進撃してくる“未確認の大型戦闘機”の接近を阻もうと、オーブ防衛隊に属するアストレイ部隊が決死の防衛戦を構築してはいた。
「来ました! レーダーに感あり、敵接近!」
「迎撃! 迎撃しろ! なんとしても撃ち落とすんだ!
本部への接近を許――う、ウワァァッ!?」
「しゃ、シャイド隊長ーーっ!? うおわぁぁぁっ!!」
ビシューン! ビシューッン!!
ズガン! ズガーン!
猛スピードで接近してくる敵機の動きに反応できず、立ち塞がろうとした部隊の中央にたつ機体が撃墜され、空いた防衛網の隙間から機体を滑り込ませると空中で機体を一転。
一瞬にして異なる形状へと変化させた敵機が、右手に持つ形となるビームライフルを背後に向けて発射し、抜かれた後となっていた防衛網を構築する部隊の生き残りまでもが撃破されてしまったことから追い打つ者すらいなくなり、完全に行く手を阻むものが無くなった後のルートを、真っ直ぐにオーブ軍本部へ向けて機体を直進させていく。
「へ、変形しただと・・・? あの機体は戦闘機じゃなく、MSだったと言うのか・・・」
一連の光景を間近で目撃することになった防衛隊所属の歩兵は、MS相手に無力であった故に生き残ることが許された幸運な一人として、敵の驚くべき機体性能と操縦技術に舌を巻かずにはいられなかったが――彼が敵機について最も気になったのは、別のこと。
「お・・・踊っていた、のか・・・? あの機体・・・。
戦いながら踊っているなんて・・・・・・そんなことが」
そう、彼の目にした大型戦闘機からMS形態へと瞬時に変形して、通り過ぎた後に残されていた味方機にビームを発射して撃墜させた一連の動作は凄まじい手際としか言い様がないものではあったのだが――その動きの流れの中で明らかに彼の目には、敵のMSが『踊りながら銃を撃っているよう』に見えていたのである。
まるで反社会的な若者たちが夜に集うクラブで、スラングを多用しながら歌い上げるロッカーたちのリズムに合わせて踊るように。
そのMSは戦場を、ダンス会場の舞台のように、ロックフェスティバルの会場のように。
踊りながら銃を撃ち、楽しみながら反社会派の歌詞を大音量で奏でながら突き進んでいく。
そういう敵であるように、彼の目には見えていたから――
――こうして、地球軍本部の崩壊によって再び動き出した世界において。
一つの勢力として纏まるべきという主張によって、同じ地球の軍同士で戦い合うという結果を生じさせてしまっていた地球上の国家と国家が戦い始める中。
彼らと反対の陣営に属する者たちの中でも、同じような動きが生じつつあった事実を、多くの者たちはまだ知らない。
「あの物量では時間の問題でしょうが、オーブはよく持ちこたえているようですな」
「ああ、やはり侮れん国だよ。地球軍がムキになるのも分からんではない」
オーブ軍と地球軍とがぶつかり合っての攻防戦が始まった開戦前より、オーブ海の海底深くに潜みながらザフト軍潜水空母が、戦況をつぶさに分析して把握することに努めていたのである。
「あの見慣れぬ敵新型MSのデータは?」
「最優先で取らせておりますが、この位置からの分析ですので然程のものは・・・・・・」
「ま・・・仕方がないさ。ザラ議長の喜びそうな土産話はすでに手に入ったことでもあるしな。本国への報告は伝えてくれたのか?」
「はっ、カーペンタリア経由で既に。最優先でお伝えするよう厳命いたしました」
「決行だ。私も本国に戻った後のために、心証はできるだけ良くしておきたいものさ」
ザフト軍の指揮官にして、歴史の立会人として生まれ変わることを望んだ者の親友。
そして現在の敵味方に囚われることなく、新たなる世界と新体制に生まれ変わらせることを望んでいる、ザフト軍にとって《未来の裏切り者》となることが確定している仮面の男。
その点では彼もまた、キラやラクスたちと同じ道を歩もうとしている一人だったと言えるだろう。
ただし、彼が親友と共に創りたいと願っている未来の世界と体制は、キラたちが望み求める世界とは全く別のカタチをしているだろうが―――
「オーブはザフトからの支援を拒否している以上、我らが表だって手を出すわけにはいかんし、今のまま地球軍を消耗させてくれればビクトリアを守っている味方に対して、結果論としての支援にもなるだろう。
・・・・・・だが」
「人を残せば、そいつはまた新たな武器を手に来るものだ。
ならばこの戦闘、“我らのため”に国是を証明して差し上げるのも悪くはないか――」
そして、地球上の深海から一つの情報が発信された時より、わずかに時間は前後する。
地球から遠く、暗黒の宇宙に包まれた世界にそびえ立つ、巨大な砂時計にも見える建造物の一つの中。
とある一般住宅を目指して、陸専用の装備で完全武装した兵士たちの一団が、密かに何十もの包囲の輪を狭めるように迫りつつある。
その住居の扉が乱暴に開け放たれ、サブマシンガンを持った兵士が乱入しながら叫び声を轟かせた。
「シーゲル様! この隠れ家もどうやら発見された模様です! すぐにも特務隊が押し寄せてくるでしょう! 一刻も早く避難をッ!」
「むぅ・・・よもや早くもここを察知されるとはな。ザラ子飼いの特務隊を甘く見てしまったか・・・・・・娘たちの方は大丈夫なのか?」
「幸いなことに、ラクス様を連れて先行していた者たちの所在は、奴らも未だ発見することができていないようです。合流すれば我らにも勝機はあります。どうか、お早くっ」
「そうか・・・・・・事こうなっては、やむを得んな」
目立たぬ私服姿で潜伏していた盟主を守るように、彼の周囲にいた兵士たちが護衛しながら隠れ家からの脱出を図ろうとする、プラント評議国“前”評議会議長シーゲル・クラインと、彼の主張に賛同してパトリック・ザラをこそ『プラントに仇なす敵』と思い定めたザフト軍兵士たちの一派。
彼らにとって現議長のパトリック・ザラは、このプラントと宇宙に光をもたらす者とは到底思うことができない、腹の内に黒々とした闇を抱えているようにしか見えない存在だった。
地球軍本部への奇襲失敗以降、その闇と疑念は深まる一方のように彼らには思われ、それが彼らの去就と所属と旗色とを選ばせることになる。
現ザラ政権や世間一般から見れば、彼らは祖国と政府を裏切った反逆者として定義される存在になるのだろうが、彼ら個人個人にザフト軍やプラントを裏切っているという認識はない。
ただ、『国賊パトリック・ザラ現議長を裏切っている』という認識だけは、間違いなく有してもいる。
それは宇宙世紀の暦を用いる地球圏統一国家の国軍が二分して争われた、《グリプス戦役》での《反地球連邦政府組織エゥーゴ》の兵士たちと酷似した心情によるものだと言える。
あの戦いの少なくとも序盤から中盤にかけて、連邦の正規軍は敵対するティターンズであり続け、彼らエゥーゴの兵士たちは『連邦の裏切り者』『反逆者たち』という立場が公的に正しい評価となっている位置にあった。
だが戦い終わった後に反逆者となっていたのはティターンズの側で、反逆者に与して連邦正規軍と戦った《一年戦争》の英雄アムロ・レイなども戦後は原隊復帰を許され、新たなジオン残党狩り部隊《ロンド・ベル》のエースとして最後のジオン戦争へと連邦側で参加している。
『国の裏切り者』『敵に寝返った卑怯者』『味方を捨てた売国奴』といった評価やレッテルが、所詮は『現在の政府主流派から見た所属と評価』でしかないという現実を示す一例が、連邦軍を二分した内乱でもあったのだ。
結局のところ、内乱に反乱軍が勝利して終戦することができたなら、『反乱軍』こそが『新政府軍』となり、敗れた政府と正規軍は『反乱勢力』の『残党軍』として追われる身分へと転落する憂き目にあわされる。
戦争という行為は、そういうものだった。
現時点での所属と立場だけで、それらの地位と評価が永劫不変なものであると信じられる者は、気楽な人生を送ることができるか、もしくは反逆者として縛り首にされるかの、いずれかの可能性が高かろう。
いずれにしても、それらの評価を議論されることが許されるのは、内乱の中で『死ななかった者だけ』に与えられる特権であることに変わりは無い。
「・・・? どうしたのかね? 何かあったのか?」
「・・・・・・」
兵士たちに先導されていたシーゲルは、最初に扉を開いて外の警戒に当たっていた一人が動きを止めたままであることを不審に思い声をかけるが、返答はない。
やがて相手の体がゆっくりと動き出し、両膝をつくように頽れてから前のめりに地面へと倒れ伏す。
動かなくなった彼の体の下から、赤い液体が流れ出して小さな池を作り出すのは、全てが終わった後のこと。
「これでも亡国の前議長閣下に敬意を払い、余裕をもって出向いてきたつもりだったのですがな。所詮は時代遅れの骨董品共と手を組むような輩など、こんなものか」
「!! 君たちは・・・・・・ザラの手の者か!?」
「心意気だけは評価しますが、時代を読み違えてしまっては意味が無い。
どれほど高尚な理想を目的にしようと、秩序を脅かす者はただのテロリストだ。
あなた方は既に、時代の流れに乗り遅れているのですよ。
老害には、そろそろ引退願いましょうか・・・・・・やれ」
勝ち誇って余裕綽々での猶予まで与え、完全包囲下に置いた処刑相手の射殺命令を部下たちに下す、ザフト軍特務隊の指揮権を与えられたプラント司法局の若きエリート部隊長。
新時代の旗手が誰であるかを、正確に見抜いていたことを疑わない会心の笑みを浮かべた彼の指示に従って、兵士たちの銃口はシーゲルの体一つだけに集中し、そして
ズダン!ズダン! ズダダダダッ!!!
短くも激しい銃声が幾重にも響き渡り―――やがて静かになる。
それは地球上で、オーブと地球軍艦隊とが激突した翌日の出来事。
その更に2日後、ザフト軍はビクトリア軍港基地の防衛に失敗し、地球軍はマスドライバーと宇宙への出入り口を確保することになり、オーブでの戦闘も終結することになる。
だが、それらは全て今の時点では未知数な、未来に起きうる可能性の物語でもあった―――。
つづく
オマケ『オリジナルMS設定』
《ブリッツ・プラス》
ドルク中尉に与えられた連合軍製の可変MS。
後期型Xナンバーのプロトタイプであり、ベース機となった機体というオリジナル設定の存在。
《ストライク》を初めとする初期Xナンバーが、《デュエル》をベース機として生み出されていったという説が正しかったと仮定して、『Gジェネ』での開発系譜から後期Xナンバーのカラミティ以外でベース機となっていたのは《ブリッツ》だったと推測される。
ただ、いくら特殊戦に特化した武装の機体が《ブリッツ》とはいえ、《レイダー》のような可変機や、飛行可能MSの《フォビドゥン》に一足飛びで到達できる機体だったとは考えにくい。
そのため、後期型Xナンバーを開発するに当たって、ブリッツを発展進化させた後期型Xナンバーのベース機となった機体があったのではないか? という仮定をもとに生み出されたオリジナルMSが《ブリッツ・プラス》になる。
本来は新型機開発用のベース機であり、最初から機体を動かすためのパーツとして生体CPUとしての《ブーステッドマン》と同時に新規開発することがが時期的に可能だった《カラミティ》等と違って、乗り手となるパイロットが未定のまま開発が進められていた機体で、実験段階だったことからおそらく《ソキウス》などナチュラル以上の能力を持った者たちがテストパイロットを務めていたと推測されている。
だが、一般のナチュラルでも操縦可能なOSが開発されたことでソキウスたちが用済みと見なされ、後期型Xナンバーとブーステッドマンたちも完成し、逆に使い手がいなくなってしまって事実上の破棄と同然の扱いを受けることになってしまい、実際の戦闘では使われることなくお蔵入りとなってしまったMS―――そういう設定を想定してみました。
武装は、ベース機であるためデュエル同様にオーソドックスに一般的なものばかりで、特殊武装はなにも装備されていないが、地上でも飛行可能な可変機構をもたされた連合軍初のMSとして基本スペックは非常に高い。
MS適性を持ったナチュラルであるだけでなく、どうやら特異体質の持ち主なのか、ヤザン並に人間離れした身体能力を誇っているドルク中尉という異常個体が現れたことで、急きょ彼専用機として配備され、フリーダムの前に立ち塞がることになる。
あるいは、C.E.の世界では誰からも提唱されることなく、優れたMSパイロットを示す能力のことだと曲解した地球の将軍も現れなかったため誰も気づいていないだけで、本島は―――『宇宙という新たな環境に適合して能力を拡大させた新人類』として覚醒しているのが彼―――なのかもしれない可能性も0ではない。
そんなパイロットが愛機として操るオリジナルMSという設定です。