転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。 作:ひきがやもとまち
今までの伏線回収も含めて、今話からオリジナル展開も交える部分が多くなってくるかもしれません。
現時点での地上戦はNジャマーの影響により、長距離からの誘導弾による攻撃が有効打にはなりえない状況が続いている。
またザフトに続いて地球連合・オーブ軍がMS開発に成功したとはいえ、飛行可能MSは未だに希少で、重力の縛りを受ける地上戦においての空中戦闘は重視されておらず、それに応じて大した警戒もされる場所にはなっていない。
その技術的な死角を利用して、高高度から戦局全体を俯瞰視点で分析していたアスラン・ザラが《ジャスティス》を駆って介入したことから、オーブをめぐる攻防戦は混沌とした様相を呈し始めていた。
想定外の強敵《フリーダム》を3機の後期型Xナンバーに釘付けさせている隙に、ドルクの機体にオーブ軍本部を壊滅させるという戦略はキラの登場により崩壊させられ交戦状態に陥り、戦況は一進一退の硬直状態へと至っていく。
全体として攻撃側である地球軍の優勢は動かしようがなく、だがオーブ軍の奮戦によって決着そのものが付くのが何時になるかは判然としない。その状況下で起きた出来事だった。
《歴史を変える一弾》
――そう呼ばれる攻撃が行われることになったのは。
「!? 艦隊後方に反応! ミサイル群です! 本艦隊に向かって海中から対地ミサイルが発射されましたッ!!」
「な・・・ッ!?」
「なんだと!? ソナー手はどこを見ていた!」
地球軍艦隊の旗艦《パウエル》の艦橋に、その報告と警告音が響き渡ったのは、未知の赤い機体の乱入と軍本部への直進を阻まれたという知らせを受けた、その直後のことである。
前面に展開しているオーブ軍ばかりに気を取られていた連合艦隊首脳陣は、自分たちが布陣していた海の底に敵が潜んでいる可能性を、完全に失念してしまっていた。
無論、それなりの警戒と調査自体はおこなった上で布陣させてはいた。だが海上に展開している艦隊戦力での海中に対する警戒網は駆逐艦以外では然程の効果を期待できない。
自分たちが到着するより遙か以前から深海の底に敵艦隊が潜み続けていた場合には、見過ごしていた可能性が否定できなかったのだ。
「続いて魚雷による雷撃を確認しました! 真っ直ぐ航跡を引きながら本艦に向かい直進してきます!!」
「んなッ!? ・・・んだとォ・・・!?」
「!? 回避ーっ!!!」
その敵艦隊が機を見て自分たちの背後から襲いかかってきたのではないか?という可能性を連合軍艦隊は否定できる根拠をもつことができない。
島国への侵攻作戦という状況から、多数の潜水艦を連れてきていなかったのが徒になったのだ。
まして、オブザーバーとして政府から特別待遇を与えられているムルタ・アズラエルが、どう解釈するかは考えるまでもない。
「発射位置は特定できんのか!? 敵はそこにいるはずだ!!」
「航跡から発射ポイントを推測できました! 海図に出します! ポイントB3-2! 第一派攻撃時より右寄りの位置に移動している模様!」
「ありったけの対潜ミサイルを叩きつけて黙らせろッ!!」
指揮官であるダーレスからの問いに観測手から答えを聞いた瞬間。
背後から大音量の怒鳴り声でもって居丈高に上から目線で下された、オブザーバーからの“命令”に思わず対応するより先に、意外さを込めた表情で相手の顔を凝視してしまうことになる。
その視線の先に、昔オーブがあった地域で信仰されていた、『ニオウ』という名の古い神がいた。
「何をしている!? 敵がそこにいるんだろうが! さっさと撃って敵を滅ぼせ! 早く奴らを黙らせるんだヨ!」
「・・・・・・アズラエル理事。攻撃位置が判明したとはいえ、敵艦隊がそこに潜んでいるとは限りません。次の出方を待つべき――」
「ふざけたこと言うな! 無事な艦はすぐに総攻撃に出るんだよッ! 撃たれてからじゃ遅いんダッ!!」
もともと弾性に乏しい精神性の持ち主であり、過去体験からコーディネイターから一方的に殴りつけられるという行為にアレルギーじみた拒絶反応を示すようになっていたアズラエルには、『この自分が』背後から奴らに一発ぶん殴られている――そんな分際をわきまえない行為など許せる心をもっていられる訳がなかったのだ。
――しかし・・・・・・ダーレス司令が、そう言い募ろうとした時。
通信手が彼の名を呼んで、敵艦から通信が届けられたことを知らされる。
『オーブ連合首長国軍の戦士たちおよび、地球連合軍の雑兵たちに告げる。
我々はザフト軍、ラウ・ル・クルーゼ率いるクルーゼ隊である。
私は諸君ら、地球軍の卑劣極まりない下劣な行為を弾劾する』
「ラウ・ル・・・クルーゼ、だとォ・・・・・・ッ!?」
開かれた通信回線から流れ出てくる男の声で、“その名”を聞かされたことで、アズラエルの怒り顔はさらに悪化させられる効果をもたらす。
忌々しい名であり、憎らしい名をもつ男の声だったからだ。
他の者たちに公然と言える話ではなかったがザフト軍のエースとして知られるクルーゼと、ブルーコスモス盟主であるアズラエルには、過去に協力関係をもっていた時期がある。
だが、ある頃合いを境目に彼からの連絡は途絶えがちになり始め、今次大戦では幾度ニセ情報を掴まされたか分かったものではない。
アズラエルにとってクルーゼという人物は、忌まわしい裏切り者でしかなく、恩知らずな卑劣漢の名でしかなかったのだ。
――その恥知らずな宇宙のバケモノが、したり顔で今さら何を口走る気でいるというのか!?
――そんな権利と資格が、貴様ごとき裏切り者にあると思っているのか!? つけ上がるな!
『現在、我がプラントとオーブ連合首長国との関係が《ヘリオポリス》での一件以来、冷え込んだものとなっている事実は誰の目にも明らかである。
にも関わらず、敵を倒すための協力を拒んだからと、プラントの支援国であると決めつけて一方的な侵略をおこなっている現状を前にして、連合軍の悪意を否定できる者がいるだろうか?
答えは、否である。断じて否である。
正義も大義もなき、欲望に基づく不当な侵略行為を正当と信じられる者がいるとすれば、敢えて言おう。
“地上のウジ虫ども”だけであるとッ!!』
「おのれ・・・おのれェっ! よくも、よくも言いたいことをぬけぬけトォ・・・・・・ッ!!」
明らかなる罵倒。見下しに基づくレッテル張り。
それを言われる立場にさせられ、激しい怒りと憎しみに打ち震えるアズラエルだったが、それが却って周囲にいる艦橋のクルーたちに冷静さをもたらしたのは皮肉というしかない。
――お前たちもコーディネイターを悪し様に罵っている。お互い様ではないか、と。
心の中で皮肉気な声を“アズラエルに向けて”呟かれている中。
クルーゼからの、冷笑混じりの声で“お為ごかし”な演説は続いている。
『残念ながら、オーブ国政府はプラントからの支援を拒否しており、我らザフト軍が戦闘に参加することは許されない。
だが私は、我らコーディネイターの同胞を差別することなく市民として遇する友好国オーブの危機を前に、見過ごすことはできない。
我らクルーゼ隊は独断により、義によってオーブ戦に介入することを決意した。
繰り返す。オーブ政府は、我らザフト軍からの支援を公式に拒否しており、これは私個人の独断での介入であることを明記して頂こう』
「殺せ! 奴らを殺してしまえッ!! 何をモタモタやってるんだよ早くしろォッ!!」
「・・・・・・対潜ミサイル発射。目標、逆探知された通信の発信位置付近の全域」
通信回線が途切れて、電波の送信された位置と金属反応とが完全に割り出されて位置に向けてオブザーバーから総攻撃を指示する御命令の怒声。
その命令に辟易した表情を浮かべながら、それでも命令そのものには忠実に実行することで従う道を選択するダーレスたち連合艦隊の司令部要員の一同。
生の怒りの感情むき出しで戦争を主導したがるオブザーバーと違って、冷静さと冷めた感情を多少なりと付与されてしまっていたダーレスたちは、この通信と先の攻撃が「陽動」である可能性への疑いがあったのだが、相手の顔を見て批判する気が失せてしまったのだ。
――トチ狂った猿に、人の言葉で説教したところで理解できる知能などあるまい。
そういう心情と理由と、服従を受容する精神によって連合軍艦隊によるクルーゼが座乗するザフト潜水空母へのミサイルの雨霰による全力攻撃は開始されることになる。
どれほど愚かな命令であり、どれだけ下卑た政府の方針であれ、受け入れる側が冷静さを如何に保ったまま相手の愚かさを理解したうえで、愚かな命令に従った“つもり”はなかったとしても。
命令にされた内容を実行する行動を行う行為こそが、『命令に従う』という事であり、『人の心』で『愚かな政府の命令に従って実行する行為』を別物に変えることも、犠牲者を減らすこともできはしない。
それが暦の異なる地球で、一人の英雄を絶望させた人が生み出した社会の構造であり、彼の敵だった者が憎むべき敵総帥の後継者となってしまう要因となり、地球に災禍をもたらし続ける一因となっていった歴史を、彼らが知ることは死ぬまでできない。
もっとも、知ったところで彼らの行動が変わることはなかったかもしれないが・・・・・・
とは言え、クルーゼ隊による独断で実行された『ザフト軍からオーブへの支援攻撃』は、この戦いに一石を投じずにはいられなかった。
現オーブ政府としては、彼らの主張と行動は自分たちの立場と正当性を認めてくれたものであり、内心はどうあれ発言内容は世界から孤立してまで中立と専守防衛の国是を貫かんとする意思を尊重するものでもある。
それが伝わったからこそ、オーブは――――激怒せずにはいられない!!
「ラウ・ル・クルーゼ・・・・・・あの男、一体なんて事をしてくれたのだ!!」
ダンッ!と、拳をデスク上に叩きつけながらオーブ国家代表のウズミ・ナラ・アスハは、額に青筋を浮かべて怒号の叫びを上げていた。
場所はマスドライバー《カグヤ》と連結したモルゲンレーテ本社施設の一角にある、特設ルーム。
彼らはとある作業を監督するため、この部屋にあるモニターから現在の戦況を眺めざるを得ず、やきもきした心地を内心で抱かされながら他の者には任せられない作業を続行していたのだが・・・・・・まさか自分たちの手の外側で、このような事態に巻き込まれる羽目になろうとは!!
「代表・・・お気持ちは分かりますが、これでは・・・・・・」
「わかっている!! もはや連合には何を言っても通じはすまいが、それでも交渉を呼びかけ続けるしか我らにも手はない。今まで通り続行するのだ」
「はっ・・・・・・」
近くにいた年配の議員服を着た側近に応えつつ、ウズミは忌々しげに親切面をして、破壊と混沌を拡大する種をオーブへと蒔くために訪れたであろう、死神の偽善に反吐が出るような思いを味あわされていた。
クルーゼが通信で述べたことは、なるほど正論ではあったろう。
オーブ軍がザフトからの支援を拒否していることは事実であったし、にも関わらず支援を表明してきたクルーゼの行動が独断専行でしかない軍の一部の暴走でしかなかったことも事実でしかない。
だが、それらの事象は『他人たちの目にどう見えるか?』という問題とは、全くの無関係な話なのも事実なのである!
この状況下で、『ブルーコスモス盟主が属する地球軍艦隊』に攻め込まれて窮地に追い込まれている『コーディネイターを市民として迎えているオーブ国』を、『オーブと同盟を結んでいるコーディネイター国家の軍隊ザフト』が支援して、連合軍に背後からの一撃を浴びせかけたのである。
裏事情を知らされることなく、一連の流れを見た者たちが、『オーブとザフトが密約を交わした結果』とは思わないとは到底考えられない、条件が整いすぎた現在の戦況。
ましてオーブには、プラントと同盟を結びながら、ヘリオポリスで密約によって連合軍用のモビルスーツを密かに開発させていた前科がある。
一度が二度になり、相手が逆側になったところで驚くほどのことではない――そう解釈する者の方が多数派になる立場だろう。
「オノゴロに上陸していた敵部隊が引きはじめました。海上の連合艦隊も一時後退する素振りを見せています。代表、この動きからおそらく・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
ウズミは答えない。答えるまでもない。
連合艦隊首脳陣は、ザフト軍とオーブが連携して自分たちを挟撃する危険性を本気で危惧しはじめたのだ。
それ故に、まだ攻撃続行が可能な状態で兵を退きはじめた。
現実には今頃ザフト軍は、奪取したビクトリア軍港基地を連合軍の大軍勢に攻撃されて防戦一方に追い込まれ、オーブ支援のため援軍を送る余裕など無くなっていたのが実情だが・・・・・・それらの現実と他人たち評価とは=ではあるまい。
少なくとも連合軍から見たオーブ国は、間違いなくプラントの地球上における同盟国であり、敵性国家と見なされるようになったはずだった。
戦後の扱いが思い煩われる。
連合軍によるオーブ占領が避けられなくなった際、果たして『宇宙のバケモノ』と呼んで蔑んでいる種族と正式に手を結んでいた国の民衆たちを、彼らは正当に扱ってくれるのかどうか・・・・・・甚だ心許ない未来がまつ状況へと一変させられてしまっていた。
だからこそウズミは怒りを露わに、クルーゼの暴挙を糾弾したのだが――事ここに至った後では今更過ぎる事柄でもある。
「・・・・・・過ぎたことを幾ら述べても、失った時も人もなにも戻らぬ。今の我らにできることを果たすため全力を尽くすしかない。
幸い連合軍の後退によって時間は得られた、一刻も早く作業を完成できるよう急いでほしい」
起きてしまったことを悔やんでも何も戻らず、糾弾しても他国の将になんら痛痒を感じるべき理由をもたない。
そんな現実を現実として、悔しげな思いと共に受け止めることができていたウズミであったが、彼と敵対する陣営のトップは彼ほど現実論を現実論として認められる気質は持ち合わせていなかったらしい。
「・・・ああ、そう! そうだよ! まったく、冗談じゃないッ! あんなことできる位置に敵が潜んでいたことにも気づかないなんて、アンタたち軍部の怠慢じゃないか!? ええッ!?」
「「・・・・・・」」
未だ感情が収まらず、艦橋内で当たり構わず怒鳴り散らし続けていたアズラエルの怒りは、司令官であるダーレスや、潜水艦発見の報をもたらしながら潜水“艦隊”がいるか否かまで発見することができなかったソナー手にまで及び、ついには自分の手駒として連れてきた三機の新型パイロットにまで飛び火する始末。鎮火する気配は未だ見いだすことができていない。
「お前らもダ! なんなんだ、あの無様な戦いぶりは! デビュー戦だってのに最初からケチをつけてくれて、ボクに恥をかかせることがキミらの任務だったってトコなのかな!?」
「「「・・・・・・・・・」」」
帰還してきてから早々に怒鳴り散らされた少年パイロットたち3人は、不快気な顔でダレスたち同様に沈黙していたが、その沈黙は彼らと同じ理由によるものではなく、苦痛に耐えていたのが理由だった。
彼らはナチュラルでありながら、遺伝子調整されて生み出されたコーディネイターを倒せるよう身体能力を大幅に向上させようという計画によって生み出された《ブーステッドマン》と呼ばれる強化ナチュラルの兵士たちで、力を得るため改造された肉体を維持するため一定時間ごとの薬物投与を必須とする体質へと変化していた。
また薬物投与による身体強化だけでなく、洗脳などによって精神面も強化され、凶暴性や敵愾心などを強く刺激されるように弄くられている。
アズラエルが彼らの不手際を罵っているのは、その結果としてのヤラカシに対してだった。
思わぬ強敵を目にして、3機総がかりで挑んでオーブ軍本部の壊滅は後回しにしてしまった―――それはまだいい、許せる。どのみちアイツさえ倒せば残りに圧勝できるのは確かなのだ。
だが、よりにもよって味方同士で撃ち合い、敵と戦うのがおざなりになるなど度しがたい醜態としか言い様がない。
アズラエルはそのことに対してこそ怒り心頭だったわけだが、それもまた彼自身の失態であるという側面もある。
何故ならブーステッドマンたちの錬成に当たって、彼らは昔ながらの『蟲壺』の要領で同類たち同士を殺し合わせ、生き残った者たちだけを教育するという選抜手法をとっていたからだ。
また彼らの完成に目処が立った際には、それまで運用していた洗脳コーディネイター『ソキウス・シリーズ』を用済みとして処分させてもいる。
そのような環境で育てられたのがブーステッドマンに変えられた少年たちなのだ。
おそらくは、『自分以外が死んで、生き残った成功例が自分だけ』になれば生存確率が上がるものと信じているでもいるのだろう。
事実アズラエルは、彼らよりも性能の高い新型の強化ナチュラル製造プランを検討中であり、今よりも命令に従いやすそうなソッチが出来れば今の奴らは切り捨てるつもりでいた。
運用する側が、そのような方針で使っている者たちなのだ。
同士討ちという結果は、起きるべくして発生したアズラエルたちブルーコスモス運営側による自業自得の結果でしかなかった。
だが、自分たちのミスによる結果を、自分たちのミスのせいだと認められる男であったなら、そもそも今のような状況に至ることはそもそも無かった事だろう。
「アンタもアンタだ! たった一機相手にエネルギー切れで逃げ帰ってくるなんて、口ほどにもなかったんじゃないノかなッ?」
「・・・・・・艦隊が持ち堪えとれば、もう少し粘れた――っちゅーのは、言い訳にしかなれんのやろな」
怒りの火の粉は、新参の凶暴そうな見た目と雰囲気をもったサングラスの士官にも向けられたが、相手の男――『ドルク・カッツェ中尉』は反論することなくアズラエルからの罵声を受け入れたようだったが、その大人しさは別のことに意識が向いていた故だったらしい。
「せやけど、あの機体、なんか妙やったのは確かや。明らかにオレらの使こうとるMSとは違う部分がありよった」
「ヘェ? どこがどう違ってたって言うンです? ボクにも分かるように説明してほしいモノですねぇ」
ねちっこい口調と視線でアズラエルが問いを重ねる。
その目つきは、『見苦しい言い訳を・・・』と罵っているのは明らかだったが、今のドルクは気づかなかった。
「あのガキンチョ共を相手取って、ろくに消耗もせずに勝てるヤツなんざおらんやろ。
せやのにコッチがエネルギー気にしてビームライフル連射しとるのを、あっちは化け物ビーム砲を平然と乱発してきおっとった。
挙げ句エネルギー切れで撤退しようって時になっても、あっちは全然消耗したようには見えへんとくる。なにか? オーブ軍のMSはバケモンか何かなんか?」
「・・・・・・ナンだって・・・?」
ドルクから告げられた話を聞かされて、アズラエルの態度と表情が急激に一変させられたのは、その瞬間からのことだった。
たしかに旗艦の艦橋から遠目に見ていただけではあったが、自分たちの新型3機を相手に立ち回ってみせた『謎のモビルスーツ』の性能は凄まじいモノがあったことは彼もイヤイヤながら認めていた。
ただ、それを撃墜するまでに至らなかったのは、機体を動かすためのパーツ3人が不要不急の仲間割れを始めた結果だったと思っていたし、途中で敵が変わったことからエネルギー残量までは考えが回らなくなっていたのだ。
・・・だが、もしドルクの言う話が単なる言い訳ではなかったとしたら――アズラエルの頭脳が急速に冷静さと利害損得の計算とが戻り始めてくる。
「コッチとあっちで、そない撃ちあったビームの数が違ってたとも思えん。それでもエネルギー総量には差がありすぎっちゅーのは、明らかやった。あれやと流石に勝負にならん。
オーブ製のバッテリーっちゅーのは、そないに高性能やったんか?」
「・・・・・・いや。バッテリーの容量は、ザフトも連合もオーブでも、そんなに大した差はないはずだヨ」
仮にも地球連合軍需産業理事として、アズラエルには軍事技術面に関して一定以上の知識と分析力を有している。そうでなければ今の年齢で現在の地位まで上り詰めることはできていない。
構造が単純すぎて、技術力の差が性能に影響しづらいバッテリーは、連合ザフト、そしてオーブでもMSほどの性能差をもたせることが出来ておらず、純粋に大きさがそのまま蓄積可能なエネルギー量に直結している状況が開戦以来ずっと続いていた。
あるいは、あのオーブ軍とザフトが密かに開発していたと思しき新型2機だけの専用として特別製のものが使われているのかもしれないが、もしそうなら他の量産機のバッテリーが味方の《ストライク・ダガー》とまったく同じ程度というのは辻褄が合わない。
それだけのことが出来る技術力を手にしているのだ。
最低でも、それなりの差が出る程度には量産機用にも割り当てられているのが妥当だろう。だが現実には、ようやくドッコイドッコイという範疇。
――とすれば、あの動きを可能にできるエネルギーの使用方法を、ヤツらは生み出したということなのか?
ありえない話じゃあナイ。
アレも元々ヤツらが生み出したモノだし、機体の方はオーブがもともと生み出してた機構が多く用いられてもいた。
ヤツら同士が手を組んでいたなら、不可能なことじゃまったくない―――
「・・・・・・気が変わりましたよ、司令官さん。あの2機のMS、なんとしても壊さずに全力で確保してください。
手足はもがいても構いませんし、パイロットの生死は問いませんが、機体の胴体部だけは壊してはいけません。わかりましたネ?」
「い、いきなりそう言われても困ります理事。我が艦隊が与えられている任務は、オーブのマスドライバー《カグヤ》を確保することが最優先でありますし、第一あれほどの力を見せつけてきた連中です。
まともに向かっていけば、何機の味方が撃ち落とされるか分かったものでは―――」
「アー、そういうのはいいんですヨ。勘違いはしないでください」
「は? 勘違い、と申しますと・・・?」
あまりに理不尽すぎる上に意味不明な要求をもとめてきた『厄介者のお客様』に対して、それでもなお司令部から『全面的に要求には沿うように』と厳命されているダーレスたちは、何とか言葉を濁して可能な範囲で妥協点を見いだそうとしたのだが・・・・・・そんな彼の涙ぐましい努力を否定するように、お客人は短くその一言を告げてくるのみ。
「命令しているのは、最初からボクです。キミらに拒否権はないんですヨ」
それが答えであり、拒否できない命令であり、連合軍艦隊全体の新たな方針でもあった。
こうしてオーブ攻防戦における2日目の戦いが再び幕を開けることになる。
地球軍による2日目のオーブ侵攻は、昨日とは明らかに動きと方針が異なっていた。
敵軍の目標は、完全にキラとアスランが操る2機の新型MSだけに絞られ、全戦力をもってしてでも彼らを倒すため死力を尽くしているのは明白な戦い方だった。
と言って、他のオーブ守備軍の戦いが楽になったというわけではなく、余計な手出しをさせないための足止めを目的とした距離を置いての消耗戦は、数で劣るオーブ軍のパイロットたちを心身ともに疲弊させずにはいられない。
それでも尚、攻勢が弱まったことだけは事実であり、本来は予定外の戦力だったムウの《ストライク》だけは遊撃用の戦力として支援に回すことができたが、アークエンジェルはオーブ艦隊と共に連合軍艦隊との艦隊戦から外すわけにはいかなかった。
大気圏内での飛行可能な戦艦という、波の影響を受けずに移動可能な海上戦力のあるなしは、制海権をめぐる戦いに大きく影響を及ぼす存在だ。
四方を海に囲まれた島国であるオーブにとって、制海権を奪われることは敵陸上戦力の上陸を容易にさせてしまうリスクを背負っている。
輸送機からの降下と、艦隊から上陸してくる敵MS隊に挟撃されれば、寡兵であるオーブ軍には為す術がない。
だが、その総攻撃にもオーブ軍とキラたちアークエンジェル隊は、防ぎきることに成功させた。
キラとアスランだけに戦力が集中してくれたことで彼らの力を遺憾なく発揮でき、敵軍の目的がオーブ占領から変わっていたことも影響していた結果だったのだろう。
「・・・ハァ・・・、ハァ・・・、ハァ・・・・・・」
「ふぅ・・・、ふぅ・・・・・・クソッ、・・・はぁ・・・・・・」
だが流石に疲労の蓄積までは免れない。
キラだけでなくアスランさえもが息を荒げて、過去や未来について話し合うことすらないまま体力回復のための時間に充てざるを得ないほどの消耗ぶり。
他の部隊の者たちも似たような状態で、生き残った数と機体こそ多いものの、数ほどの活躍が明日まで可能かどうかは怪しい限りという惨状だった。
明日の3日目までは保たせられると思う。
――だが4日目の明後日には、どれほど残っているのか分からない・・・・・・そんな惨状。
そんな中でのことだった。
司令部で情報集積と分析に当たっていたオーブの代表首長ウズミの元へ最悪の知らせが届けられたのは。
それは、『ビクトリア軍港基地』をめぐる攻防戦が決着したという一文。
ザフト軍は敗退して残存戦力がカーペンタリアへと撤退し、地球軍がマスドライバーを――宇宙への出入り口を取り戻したという最悪の凶報が。
「・・・ここまでだな。地球軍がマスドライバーを取り戻し、ザフト軍が撤退した以上、オーブをめぐる攻防戦の結果には意味がなくなってしまった。
初めから、わかり切っていたことではあるが・・・・・・」
様々な思いを込めてウズミは呟きながら大きく息を吐き出すと、手にしていた一文に記されていた内容が示す意味に嘆息させられる。
可能性が高いとは思っていなかったが、その可能性が潰えたことには、やはり残念さを感じずにはいられなかった。
もし地球軍がマスドライバーの確保に失敗するか敗れるかした時には、オーブの《カグヤ》は彼らにとって唯一の地球側に残ったマスドライバーになり、それを破壊してしまうリスクを恐れた連合との交渉が可能になっていたかもしれない。
だが、主要な輸送路となるビクトリア軍港を手にした今となっては、オーブのマスドライバーは補助的な価値しか得られない。
連合側にとって、それほどの譲歩や妥協を受け入れてくれるほどのカードにはなれないだろう。
「代表・・・では、やはり」
「うむ。みなは以前からの計画に基づき各々の部署で、果たすべき役目を果たしてほしい。
もはやオーブの陥落は免れようもないが、これを終わりの日にしないためにも例のプランに従ってな」
「は・・・・・・それでは」
同年配の側近たちを下がらせてから、一人残ったウズミは太く息をついて空を見る。
これから娘たちが行くべき場所。・・・だが、娘より先に行く自分たちは、宇宙での再会ができる時がいつか訪れることができるだろうか・・・?
平和になった遠い未来という刻で、互いに再会し合えることが出来るようになった、その時に―――
「今の我らは明日には終わりを迎えることになる。だが、それをオーブの終わりに繋げさせぬため果たすべき役目というものがある。
とはいえ、娘たちには恨まれるだけかもしれないが・・・・・・」
オーブ攻防戦が始まってから、3日目の早朝。
敵の新型MS確保とオーブ攻略のため、攻撃準備を完了させて出撃命令を待っていた連合軍艦隊の首脳陣にたいし、一つの報告がもたらされていた。
「《カグヤ》に集結している? オーブ軍の残存戦力すべてに持ち場を放棄させて、ですカ?」
意外そうな表情と声音で、アズラエルはその報告を受け取らされることになる。
今まで寸土といえども自分たちを上陸させまいと必死に守り続けてきたオーブ軍が、今になって急激な戦略方針の転換。
そこに意外性を感じて驚かされたわけだったが、艦隊司令のダーレスにはもはや自分の見解から見た意見を口にする意思を半ば以上放棄するようになっている。
「うむ、どうやらそのようだ。あちらも背水の陣といったところなのだろう。
当然、きみがご執心の2機も今の配置はそちら側だ」
「・・・ザフトの潜水艦隊は本当に周囲のどこにも潜んではいなかったんでしょうね? また奴らに背後を突かせるため囮をやってるダケの可能性は?」
「それはないと断言できる。あれから念入りに周辺海域を調査させたが、艦隊規模のものが潜んでいるらしき反応は一切感知できなかった。
おそらくは少数で侵入していたか、あるいは単艦だけでの偵察任務に過ぎなかったのかもしれん。いずれにしろ警戒するほどの数がないことだけは保証できる」
仏頂面で事務的に事実のみを通達してくるダーレスからの報告内容に、アズラエルは納得し、「なら悪あがきか・・・」と内心でも声に出しても侮蔑の意思を露わにする。
司令から聞かされた状況下での話であれば、敵の意図が読めたからだ。
自分たちは元々、マスドライバーとモルゲンレーテの確保を目的としている。
傲岸不遜なアズラエル自身でさえ、手駒である3人のパーツたちには、その2つを『壊すことのないように』と制限を課すことで戦闘の被害に巻き込まぬよう配慮していたほどだ。
その場所を背にしてオーブ軍が再配置されたからには、攻撃に巻き込まぬため大部隊での総攻撃は避けざるを得ない。
それを狙ってアスハが、こちらの打つ手を制限してくるためにマスドライバーを人質に使った時間稼ぎに打って出てきたのだろう。
「ちっ、アスハめ・・・この期に及んで追い詰められるあまり、形振りかまう余裕すらなくなってきましたカ。
まっ、いいデスけどね。そーいうのも、なかなか見苦しくッて。ワタシもそろそろオカで食事をしたいですし、存分に叩きのめしてあげま―――いや、待てよ」
そこまで得意げに語ってから、ふと記憶巣を刺激させられるナニカを思い出した顔つきで考え深げに沈思黙考した後。
「・・・そうか、ヘリオポリスか。
ヤツら、カグヤを使ってヘリオポリスへと自分たちを逃がすつもりなんだ! 今まで使う素振りすら見せなかったから油断させられた!!」
導き出された結論を声に出して聞かされたことで、ダーレスもまたその危険性に思い当たり、ハッとした表情で顔を引き締め直さずにはいられない。
そう――このC.E.の時代には、歴史の立会人として生まれ変わりを求めた男の謀略によって、オーブの飛び地としてのスペースコロニー《ヘリオポリス》が今なお宇宙に健在であり続けていた。
その場所へ、代表首長のアスハがオーブ軍の残存戦力を率いて逃げ込むことができれば、オーブは滅びることなく本国だけを占領された状態で存続することが可能になってしまうのだ!
おそらくアスハは最初から、それを計算して今までカグヤを使わず、大事に奥へしまい込んだまま敵の注意から剃らしてきたのだろう。
今からでは、投入できる兵力は限られている。自分の子飼いとドルクの4機だけだ。
逃げるヤツらを乗せたシャトルを撃ち落とすことも不可能ではないが、距離がある。艦砲やミサイル発射で狙える射程内に、今から進軍させて間に合えるかどうか・・・・・・!!
「止めさせろ! 無茶でもなんでも、絶対に破壊させるんだヨ! ヤツらが宇宙に逃げてバケモノ共と完全に結託する前に、こっちにはソレをのんびり待ってやる義理なんかないんだからな!!」
「――ハッ!! 全艦全速、攻撃を開始せよっ!!」
元はと言えば、アズラエルのせいで意欲を失っていた艦隊司令部の面々だったが、これほど手こずらされたオーブ軍の残存戦力がザフトと合流され、作戦も失敗となるのを受け入れる気は彼らにもない。
型通りの職務だけをこなすだけでよいと怠惰な思いを抱くようになっていた自分たち自身を叱咤させ、彼らはオーブ本島の中枢に向かって全速力で進軍を開始させる!
「レーダーに機影じゃ! モビルスーツじゃな、速度と数から見て例の新型じゃろうッ。後続として艦隊も前進してきておる!」
「ラミアス殿に急ぎ発進の許可を! 他の者たちも最小限の人数だけを残して避難させるのだ! 《クサナギ》への積み込み作業は完了しているか!?」
その報告を聞かされたウズミは、自分たちの国に最後のときが訪れたことを悟らされ、彼の号令以下の元、かねてからのプランに従って各々が役割を果たすため各所へ散っていく。
すでに今日の日のため、役割分担と残すべき者たちの選別はできている。
生き続けさせるべき者と、生かすことができぬ者。
人として生きるべき生命の価値を選別するのは傲慢と呼ぶべきものかもしれない。だが今は、そのような理屈の言い合いをするべき時ではなく、するだけの時を残されてもいない。
元より自分たちは生かすべき命を選ぶ側ではなく、生きれる命を選ばされている側。命の選別についての理非を、己たちの側だけに語るのは無意味ではなく矛盾するのだ。
「ウズミ様も早く《クサナギ》へ、ご避難を! ヘリオポリスまで行けばオーブ再興への道が開けます! そこまでの道筋は我らが確保いたしますれば――」
「そのように余計な事はしなくてよい! 貴様らも早く脱出するのだ! ここに残るのは我らだけでよい!」
「なっ!? ウズミ様、いったい何を・・・っ!?」
まだ若く、側近に採用されて間もない人物―――たしかアスハ家とも縁のあるマシマ家の次男として行政府の官僚に採用されたばかりだったはずの青年が、あまりに予想外なことを言われたという表情で驚愕を顔に貼り付けさせられる。
彼は今この時まで、自分が忠誠を誓った主であるウズミは、滅びゆく祖国再興のため自分たちを率いて戦い続けてくれると信じて疑っていなかった。
そんな相手が今ここで死ぬという。それは一体どういうことなのか?
それでは生き延びた者たちはどうなる? 祖国の地に残る者たちは?
彼らは皆、再び自分たちの生まれ育った国が復活して、それまでと同じ生活に戻れる日がくると信じるからこそ、忍従の日々にも耐えうるというのに・・・・・・一体なぜ!?
「ウズミ様! 何故ですかウズミ様! あなたは我らを・・・オーブの民を見捨てるおつもりだと仰るのですか・・・ッ!?」
「分からぬか!? オーブと民たちを生かし続けるためにも、我らは逃げることがは許されぬことが! そして国を蘇らせるためには我らが死なねばならぬことが分からぬか!」
「!? そ、それは一体・・・どういう・・・・・・?」
相手の言っている話の意味が分からずに混乱して立ち尽くす彼を、他の者に命じて共にクサナギへと急ぎ連れ出されていく、その途中。
彼は唐突になんの理由もなく、ウズミたちの意図を理解する。させられてしまった。
もし今この戦場から、若い娘のカガリだけでなく、代表首長のウズミまで逃げ出してしまえば、残された者たちや祖国防衛で戦死した兵士たちの遺族からは、『部下を捨て駒にして自分たち支配者層だけ逃げのびた』という恨みを買うことになってしまう。
侵略者に征服されて敗戦国となる土地で生きていくことになる者たちにとって、それは致命的なまでに祖国再興の願いを阻むことになるはずだ。
古来より、滅びた国の民衆たちから望まれずに再興できた祖国というものは存在できた例しがなく、出来たとしても三日天下で滅びる砂上の楼閣でしかない。
脱出者たちが飛び立った後に、連合に降伏することも、また出来ない。
生きて敵の虜囚となった者たちは逃げ延びたオーブの残党たちにとって人質以外の何者でもないからだ。
地球軍がウズミの頭に銃口を押しつけて投降を求めてきた時、たとえ本人が見捨てるよう叫んだとしても両手を上げずにいる道をカガリは選べる人柄ではないのだ。
また、生きたまま降伏したウズミたちオーブ国の者たちには、罪の償いとして逃げ延びた同胞の追跡と抹殺とが、免罪の条件として求められることは目に見えている。
無論その彼らの家族は本国に残ったまま人質として残されて、だ。
その程度のこと、今の連合はやる連中の集まりになっている。
いずれにしてもウズミたちに生き延びれる道は既に無くなっていたのが、現オーブ最後の代表首長と側近たちの避けられぬ運命だった。
そうこうしている間にも、戦局は動き続け、事態は急速に展開していく。
旗艦パウエルから発した新型3機とドルクのMSたちは、一直線に《カグヤ》へ向かい直進しようとするが、それを許してやるほどキラとアスランもお人好しではありえない。
「来るぞ、キラッ!」
「クサナギは発進、急いで下さいッ!!」
『チィッ!!』
『行ッくぜぇぇッ!!』
にわか作りの連携しかできないよう教育されたブーステッドマンたちと、昨日今日合流したばかりのスタンドプレイを好むドルクと異なり、望み続けながら叶うことがなかった共闘が可能になったキラとアスランの親友コンビは阿吽の呼吸で互いをフォローし、敵の意図を阻むよう動き続ける!
「アスラン! 《カグヤ》にッ!!」
「ああ、わかっているッ!」
『オイオイオイオイ! ヤバいんじゃねぇのかアレは!?』
『クッソー! 落ちろ! 落ちろーッ!!』
『・・・・・・くっ! マスドライバーが、邪魔で・・・っ』
時間稼ぎの戦闘可能時間ギリギリまで戦ったキラたち2人は機体を反転させ、マスドライバーを通って宇宙へと飛び立とうとしている《クサナギ》との合流を目指して飛翔する。
一方で、『マスドライバーとモルゲンレーテを壊してはいけない』と制限を課せられていた新型のパイロットたち3人は、無意識のうちに攻撃に巻き込まぬため射線が甘くなって狙いが付けられない。
昨晩まで続いてきた『お仕置き』の恐怖も心に強く焼き付いたままになっていた。
ここでもまた、ブルーコスモスの非人道的な計算式が、自業自得の失敗を招く遠因になってしまっていたのだが・・・・・・当事者たちにとって重要なのは今この時の戦闘での勝敗。只それだけしかなかった。
結局、その制限が仇となり敵の新型も、滑走路を走る《クサナギ》も、マスドライバーそのものを破壊することで足止めするという戦法すらも取りえぬまま、連合軍はオーブ軍の残党たちと代表首長の娘とキラたちアークエンジェル隊を、宇宙へと取り逃してしまう失態を演じる羽目になるのだが・・・・・・この戦いにおける一番の敗北と失敗は、むしろ戦場跡に残されていた最後のオーブ元首によってもたらされることになる事実を、世間はあまり認識していない。
「種は飛んだ・・・・・・これでよい。オーブも世界も、奴らの好きにはさせん」
モニター越しに愛娘たちの脱出を確認したウズミが、壮絶な決意と覚悟を秘めた表情で指を伸ばした先にあったもの――このモルゲンレーテ本社施設全体の自爆装置。
国家機密に類する情報が多く集まり、知られれば国家の存立すら脅かしかねないものまで含まれているデータの宝庫と呼ぶべき場所であるが故、いざという時には証拠隠滅のため全てを灰にできるよう設置されていた装置を、ウズミは今別の目的と理由で使おうとしている。
何故ならば大前提として今の世界情勢は。
《JOSH-A》の壊滅に憤った地球連合が、プラント討伐のため協力せぬ国は敵に味方するものとして強硬的な姿勢で圧力を強めている情勢下にあり。
オーブ連合首長国は、不条理な要求を強要してきた連合軍に対して、『交渉による解決を最後まで求め続けた国』であり。
連合軍は交渉を求め続けているオーブに、『返答もせぬまま攻撃を再開した侵攻軍』という立ち位置になっていた。
この関係性になった後の地球軍が、圧倒的大軍で攻めかかりながら三日間も攻め落とすことができなかった島国を相手に、残党部隊の宇宙への脱出を許させてしまう。
そして、戦う力と兵士たちを飛び立たせた施設が大爆発を起こして消滅し。
その時の爆発で、残されていたオーブ旧指導者層の大半は全滅することになる。
―――この一連の流れと出来事を見たとき。
真相を知らぬ世界中の国々は、一体どのような背景を、この事件の中で『滅び去っていった国』と『滅ぼした側』に抱くことになるか・・・?
果たして連合軍は、ジョシュアで自分たちがやってのけた手段を、自分たちがやられる側になって尚も、『勝つためには有効な作戦』と嘯く心地で居続けられることができるか否か。
「・・・あるいは、これはオーブの理念と国是に反する行為やもしれぬ。
無用な争いの火種を世界中にまき散らし、無意味な犠牲となる者たちを多く生み出すだけの謀略として後世から批判の的となる第一歩となるやもしれぬとも思う。
だが我ら人間には、未来の全てを予期して道を選ぶことができぬなら、自らが信じた未来へ続く道を進むしかない。
お前には恨むよりも、むしろ怒られるだけかもしれんな。カガリ・・・・・・その日の訪れが、せめて遠き未来であることを祈って。
お前と、お前の兄弟にハウレアの守りがあらんことを」
そうして、ウズミ・ナラ・アスハと、旧オーブ国が残した最後にして最大の“嫌がらせ”が光の本流によって世界へと解き放たれることになる。
それは今までの地球の歴史が終わり、新たな歴史の始まりを告げる光が飛び立つことになる瞬間でもあった。
その光が、人の心の光となるか、禍々しい宇宙を乱す物の怪でしかないのか。
現時点ではまだ決められる者は誰もいない。
――そして時は僅かに戻る。
踏み込んできたザフト軍特務隊の陸戦要員たちによって一斉射撃が行われた、プラント国内の一角にある一般家屋。
兵士たちによる銃撃が終わり、全ての音が消えて静かになっていたその場所で――今、一人の男が血を吐くような思いで言葉を紡ぎ出そうとしている。
「な・・・な、にぃ・・・・・・っ!?」
朦朧としつつある意識の中で、男は自分の吐き出した血の塊に濡れた服を見下ろしながら、倒れ伏している周囲の部下たちを見渡しながら。
なんとか動く体を傾けて、自分たちを“背後から撃ってきた者たち”と相対し、そこに自分たちとまったく同じ装備に身を包む、ザフト軍の陸戦部隊が銃を構えた体勢のまま睨みつけてきている光景を目撃させられることになる。
「きさ・・・貴様、らァァ・・・・・・! シーゲルの手の者、か・・・・・・この裏切り、者ど――」
「――撃て。豚をこれ以上、鳴かせてやる義理はない」
容赦なく、慈悲もなく無駄もない。
冷徹無比な処分の仕方によって、最後に生き残っていた隊長を処理し終えた部隊の長は、何事が起こったのか把握し切れていないらしいシーゲル・クラインと、彼を守るため肉の壁として立ちはだかったままの兵士たちの前へと近づき、ザフト軍正規の敬礼の仕方で規律正しく名乗りを上げる。
「小官は、ザフト軍キンゼー隊の隊長で、ガディと申します。
ご無事で何よりでした、シーゲル・クライン議長閣下。馳せ参じるのが遅れてしまい、ザフト軍人として不明のいたすところであります」
「・・・・・・君たちは、我々を助けに来てくれたのか? しかし一体何故・・・」
「我らは閣下のお志に賛同し、パトリック・ザラに未来なしと見て進むべき道を選ぶことを決めた者の一人なのです」
尖った顎を保つ鋭い顔立ちのザフト士官は、折り目正しくシーゲルに対して目上に対する礼を示すと、部下に命じて持ってこさせた物へと案内させ、
「どうか、この車を使ってラクス様の元へお逃げ下さい。この車は我らが今日のために用意していた物です、いかな特務隊でもしばらくは目を誤魔化すことができるはず」
「・・・ありがたい話だ。だが、こんなことをして君たちは本当に大丈夫なのか? 助けてもらった身で言うことではないと承知しているが、それでもザラは容易い相手ではない」
「すべてはプラントとコーディネイターの未来のためです。その為なら我らの命、惜しむものではありません」
真摯な態度と口調で語りかけてくる相手の言葉。
少なくとも、見た目の言動や態度から嘘を感じさせる要素は何も見いだせない。
どのみち誰かを信じない限り、今の自分たちには活路はない。
シーゲルは心の中で覚悟を決める
「今は耐えて雌伏し、立つべき時が来るのをお待ちください。我らもその時には共に立ち上がりましょう。
生きてこそ得ることのできる、真の勝利と栄光を手にするその日まで、我らの命、閣下のお手にお預けさせて頂きたい」
「・・・・・・分かった。君たちの覚悟と貢献、しかと受け取らせてもらおう。生きてこそ得ることのできる勝利の日に返すために――」
そう言って、車へと乗り込む前に浮かべたニコリとした笑顔は嘘ではなかった。
やがて彼らを乗せた車は走り去り、その後ろ姿さえ見えない距離まで離れたことを確認させた後。
ガディと名乗ったザフト軍の隊長は、自分たちが乗ってきた車の一つに歩み寄ると、乗せてあった小型通信機を手に取り、
「提示報告。こちらは指示通り、特務隊の連中を始末して、シーゲル・クラインを逃がしてやることにも成功した。すべて予定通りだ、なんの問題も起きちゃいない」
『結構だ。これで種と共に実も飛ばすことができた。親が生きていた方が、子は成長を遅らせるものだからな』
「分からんな? 奴さんを生かしておくと、後々オレたちにとっても邪魔な存在になりかねん相手だ。殺せるときに敵の手で始末できるなら、その方が楽だと思うがな」
『フフ・・・それも一つの正論ではあるな。だが今は私に従え、ガディ。決して君たちを悪いようにはしない』
「そう願いたいものだな、以上だ。報告を終わる。――まったく、シロッコとつるむようになってから妙な連中とばかり馴れ合うようになっちまった。これも時代ってヤツなのかね」
――新たなる同士からの報告によって、プラントの方でも状況は整いつつあることを確認し、私が再び直接立つべき時が訪れようとしているのを強く実感させられていた。
ちょうど地球の方でも騒動が終わったであろう頃合いであり、彼らも宇宙へ戻ってきている時機のはず。
転生社特権としての原作知識によって、彼らの潜伏場所と目的は来る前からとうに知れているのだ・・・・・・ならば先んじて移動を開始しておくのも悪くはあるまい。
「宇宙へと帰還してくるクルーゼを出迎える、“ついで”として大天使たちの性能テストをしてやるのも一興か。あの後の戦いで、どれだけ強化されたか見せてもらおう。新型の実戦テストになる。
戦いは、力だけでは勝てんという事実を、この世界の連中は知らない者が多すぎるのだ。フフフ・・・・・・」
つづく