あと思い付きで入れたアンケートですが、やっぱりみんな忍野は甘党認識なんだなぁ。
さて、ここで回想に入ろうと思う。
時系列を何回も前後させるのは、読者を混乱させるだけだと言われれば返す言葉もないけれど、そこは物語シリーズの伝統芸能なので堪忍して欲しいところである。
もっとも、こんなところまで読んでくださっている読者の皆様なら、慣れっこであろう。
そうでない方は…ご容赦頂きたい。
忍野(?)が連れてきた、僕の主観においては、マンハッタンカフェという少女との再会を果たす前。
およそ2週間前、僕と忍が、顔の見えない馬耳の人物に景気よく蹴り飛ばされて、夜空のランデブーをきめこんだ時の出来事である。
はい、回想開始
ぽわわわわわ~ん
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「お前様!」
「……」
「返事くらいせんか! お母さん、うぬをそんな子に育てた覚えはないぞ!」
「…………ッ」
別にお前に産んでもらった覚えはないし、僕は親の言うことに対して、無闇に反発したり無視する反抗期では…あるけれど。ありまくるけれど。
バリバリの、思春期男子高校生ではあるが、一つ屋根の下で暮らしている家族を無視するようなダサい真似はしない(ちなみに妹に対しては別だ。何故なら僕は兄だから)
単純に、顎が粉々に吹っ飛んでいるせいで、喋るに喋れないのである。
「
「なんじゃ? タマちゃんのモノマネか?」
「
「しかし、多摩川のタマちゃんももう随分昔の話じゃよなぁ。今頃どうしておるんじゃろか?」
「……」
夜空を切り裂いて、綺麗な放物線を描きながら落下している最中にする話題では絶対に無かった。
いや、ある意味関係はあるのかもしれない。
と言うのも、猛スピードで吹っ飛びながらではあるが、吸血鬼の視力で周囲を見回したところ、眼下に川があったからだ。
「ぶはぁっ! やばいぞ忍、このまま落ちると多摩川のアラちゃんとシノちゃんになっちゃうぞ!」
なんとか千切れ飛んでいた顎が再生すると、僕は忍に叫んだ。
「かかッ! それならそれで見物料でも取ってやればよいではないか。そうじゃのう、300円くらいが子供の小遣いでも気軽に見に来れてリピーターからもたっぷり絞れる値段設定かの」
嫌に具体的だった。
「おいおい忍、幼女形態お前の貧相な、薄いペッタンコボディーなら一部のマニアには好評を博すかもしれないけれど、僕の美しい細マッチョの拝観料はそんなに安くないぜ?」
今の17歳状態のお前のわがままボディではこの小説にR-15タグを付けなくてはならなくなるし、自分で言うのもなんだが、僕の身体はけっこう引き締まっている。なんだか未来で付喪神の童女にぺたぺた触られながら筋肉をべた褒めされるような…妙に具体的な予感がするくらいには。
たまにお風呂に入る前に、つい鏡の前でポーズを取ってしまうくらいには筋肉質なのだ。
「でもこの筋肉、自前じゃないんだよなぁ…」
しかし、それは僕がアスリートのごとく鍛えているからとかではなく、吸血鬼の血が肉体を最も健全な状態に維持してくれているからである。
端的に言えば、ズルであった。
努力した訳でもない筋肉を見せびらかして、人からお金を取ろうと思えるほど、僕は顔の皮が分厚くなれないようである。
「ふむ、お前様のはひと揉み300円といったところかの」
「全身揉まれすぎてふにゃふにゃになっちゃうよ…」
八九寺のおっぱいは(僕に)揉まれて少し大きくなったとかなっていないとか言われているが、男の僕にはなんのメリットも無さそうであった。
「じゃあ、ひとちぎり300円」
「僕の六つに割れた腹筋はちぎりパンじゃないぞ! てか安!!」
ついツッコんでしまったが、そんなことはどうでもいい。
今はこのままいくと、
流れる湖畔や堀を渡れないという、吸血鬼の弱点。
いまいちよく分からないこの弱点は、この場合一体どういう現象を引き起こすのだろう? 水流に入ったとたん、聖水を浴びたように体が溶けたりしてしまうのだろうか?
だとすれば、このまま物理法則に従って落下すれば僕たちは今度こそオダブツになりかねない。
いや、そもそも陀仏になるのか? 仏教徒の吸血鬼とかあまりにシュール過ぎる。
吸血鬼って思いっ切り西洋の怪異だし、キリスト教圏のなにがしが適用されるのではないだろうか? キリスト教には詳しく無いけれど、天使とかになるかも知れない。
「ああそれは心配いらんぞ? ドラキュラかキュアドラかは知らんが、その話の元になったヤツが単に泳げなかっただけじゃ」
「そうなの!?」
けっこう有名な、吸血鬼の弱点の真相に、僕は少なからずショックを受けた。
確かに、吸血鬼が川を渡れないっていう設定はブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」以外では特に言及されてないんだよな。
しかし、その設定も英国やスコットランド近辺の「悪霊や悪い妖精は流水を渡れない」という俗信から来ているとされるから、忍が適当言ってるだけの可能性が高い。
というかキュアドラってなんだ。プリキュアなのかドラえもんなのかはっきりしろ。
まあ、ドラキュラ伯爵が実はかなづちだったとかだと、かなり残念な気持ちになるが、泳げないプリキュアとなればその属性がいきなり萌え要素として立ち上がってくるのだから、やはり可愛いは正義である。
というか、僕も別に泳ぎが取り立てて得意というわけではない。むしろどちらかと言えば、苦手な部類であった。
「まさか僕が、ホープキングダムの王女である、キュアスカーレットだったとは思いもよらなかった」
今日から僕は、深紅の炎のプリンセスである。
しかし、僕に炎要素はほぼ皆無だ。
色のイメージでも、僕に赤という印象は無く、どっちかと言えば黒である。春休みに太陽にさらされて炎上したことはあったが、あれを炎属性というのはかなり無理があるし、物語シリーズの原作小説の表紙が赤一色であるなんて事は、こじつけもいいところであった。
くそっ。僕がプリキュアに至る道はまだまだ長く険しいようだ。
「お前様はどっちかと言うと敵幹部側じゃろうが。『畜生! 覚えてやがれ!』とか言いながら消えていくやつじゃ」
「それはそれで役得だな」
むしろ、こっちから頼み込んで敵幹部に弟子入りしたいくらいだ。
ことある毎にプリキュアの前に現れ、普段は天真爛漫で優しい女の子たちに敵意の籠もった視線を向けられ、時には殴られたり蹴られたりするのだ。
なんだ? もしやプリキュアの敵って僕の天職じゃないか?
― 阿良々木暦、特技は死ににくいことと服の上からでも女子の骨盤をミリ単位で正確に識別できることです。求人があれば飛んで駆けつける所存である。
しかも、戦闘中のプリキュアのスカートや服の布が揺れる光景を間近で観察できるのである。
例え戦いには負けても、それはもはや勝利と言っても過言ではないだろう。
「いや、過言じゃろ。そんなことよりお前様よ、今は他に気にすることがあるじゃろが」
「なんだ忍? プリキュアの衣装に文句があるなら僕が相手になるぜ?」
戦うヒロインの衣装とは、女児のみなさんの憧れとして、かっこよくも可愛く、なおかつ戦闘の邪魔にならないという、非常に難しいバランスの上に成り立っているデザインなのだ。
しかも、アニメーションとして破綻なく動かせるデザインでなければならないという高難易度だ。
デザイナーの先生の血もにじむような努力と、数えきれないリテイクの果てに生み出された衣装を『そんなこと』呼ばわりするならば僕にも考えがあった。
ましてや、その衣装の布が、風になびく様の蠱惑性を否定すると言うならば、僕は徹底抗戦の構えを取らざるを得ない。
「お前様よ、儂らが今どんな状況か忘れたのか?」
「なあ忍、それはプリキュア談義以上に大切なことなのか?」
謎のウマ耳少女に蹴り飛ばされて、今まさに暗い川にドボンしそうなんてのは些事だ。
些細な事と書いて些事である。
男には引くに引けない戦いと言うモノがあるのだ。
「はぁ…仕方ないのう」
「ふっ、分かってくれたか」
どうやら、鈍い忍もやっと事の重大さが理解できたようである。
さあ、これから熱い論説を交わそうじゃないか。なに、心配は要らないさ。
弁舌という拳で殴り合ったあとには、きっとお前と僕には今まで以上の固い絆が芽生えているはずだ。
さながら、戦うことで互いを理解したキュアピーチとイースのように。
さあ、法廷の幕開けだ!
「ではお前様、気を付け!」
「ビシッ!」
僕は言われるがままに、空中で直立不動のポーズをとった。
確かに何事も、ことの初めには儀式が必要だ。
起立、気を付け、礼、着席だ。
アイサツは神聖な行為。古事記にもそう書かれている。
「よっと」
そして忍はそんな僕に、手を伸ばして握手を…するわけではなく、1枚の板のようになった僕を引き寄せて、その足を僕の背中に置いた。
サーフボードに乗るみたいに。
「ひゃっほーう!」
コヨミサーフィンである。
ばっしゃんばっしゃん水面に叩きつけられながら、僕はトビウオみたいに川面を跳ねた。
「ガボッ、ガボッ、ガボボッ!」
水が口や鼻に入ってめちゃくちゃ痛い。しかもそれが何度も連続するもんだからもはや水責めの拷問みたいであった。
そして、ついに対岸に辿り着くと、僕から足を離して忍はひとり優雅に着地した。
「ぐえっ!」
空中で乗り捨てられた僕は、勢いそのままに、河川敷の草地に立てられた『ごみを捨てるな』と書かれた看板に頭から突っ込んで穴を開けたあと、たっぷり数メートルは転がってやっと止まった。
ただでさえボロボロだった僕の服は、いよいよ雑巾ですら顔をしかめるほどの有様になってしまったのであった。
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「やばい、何も持ってない」
なんとか夜間水泳を回避した僕は、こんな夜間まで帰っていないとなると、きっと妹達が「これだから兄ちゃんはダメなんだよな」「駄目駄目だよね、駄目すぎて出目金になっちゃうよ」等と不愉快なことを言っているであろうから、とりあえず家族に連絡をしようとした。
しかし、僕はスマホを入れていたエコバッグを持っていないことに気がついた。
学校の林にいた時は確かに持っていたので、あの馬耳と尻尾の生えた子をベンチに運ぶ時に置いてきたようである。
最近はスマホで連絡を取ることに慣れて、すっかり利用する機会がなくなってしまった公衆電話を使おうにも、財布も一緒にエコバッグに入れていたせいで10円玉すら持ってはいなかった。
「どうしよう忍、自販機のお釣りを漁るしかないかな?」
「我があるじ様から、真っ先にその発想が出てくることに儂は悲しみを禁じ得ぬよ」
すごく悲しい目をされた。お前そんな目ができたんだな…
ならば、やはり僕の腹筋をちぎりパンのように切り売りするしかないのか…。
誰が買うんだそんなもん?
僕たちは途方に暮れながらも、とりあえず今さっき吹っ飛んできた方向、つまりは川向こうにあるはずの、あの大きな学校を目指すことにした。
犯人は再び現場に舞い戻るのである。
「じゃがお前様よ、なんじゃったんじゃ? さっきの」
どうやら、あのフラットなシルエットが美しい少女とそっくりな…双子のようにそっくりだった人影は、やはり忍は見えていなかったようであった。
彼女には、突然僕の顔面が陥没して吹っ飛んだように見えたというのだ。
まさか、あの顔の見えない女の子は、ケモ耳少女のスタンド能力だったのだろうか?
僕はスタンドの矢を心臓に受けた覚えは無いのだが。
「蹄鉄付きのシューズのう…なんじゃ、その対吸血鬼専用みたいなふざけた装備は」
「もしかしたら、現役女子高生バンパイアハンターとかだったのかも」
だとしたら…興奮するな。
「どうしよう忍、僕なにか悪役っぽい台詞考えておいたほうが良いかな?」
「プリキュアの敵かおぬしは」
いやだって、ケモ耳と尻尾の生えた美少女だぞ?
筋肉盛り盛りのマッチョマンや、宗教家のおっさんとか実年齢一桁のバンパイアハーフの兄ちゃんにつけ狙われるよりは、可愛いい女の子が相手となれば心の持ちようもモチベーションも変わってくる。
そう考えれば、あの耳と尻尾も、変身した姿なのかもしれなかった。東京ミュウミュウみたいな感じで。
普段は学校に通う容姿端麗な女の子、しかしてその正体は人知れず街の平和を守る美少女戦士なのだ。
やべえ、俄然盛り上がってきたぜ。
まさか、戦う美少女に蛇蝎を見るような目を向けてもらいたいという夢が、こんな形で叶うかもしれないとは思ってもいなかった。
しかも、これは流れ的には戦いの中で友情が芽生えて、改心した僕は正義の心を持つ吸血鬼として追加戦士になることは決まったようなものじゃないか。
なに、最近は男の子でもプリキュアになれる時代だ。
神原の言を借りるならば、変身時のキメ台詞は「駆け抜ける迅雷の騎士キュアコヨミン!」かもしれない。
僕の変身バンクアニメーションの原画は、是非とも板岡先生にお願いしたいものだ。
閑話休題
なにはともあれ、僕と忍は街の明かりを目指して歩き出した。
ここでじっとしていても何も分からないし、事態が好転するとは思えなかった。
いや、ひとつだけ分かったことがある。
なんとここ、本当に多摩川だった。タマちゃんの居た、東京と神奈川の間を流れるあの川である。
忍と二人してトボトボと、暗い河川敷を歩き始めて間もなく、電車が走る高架橋近くの看板に大きく書いてあったのを見つけた。とりあえず、ここは日本であることは間違いないようであった。
国内であることを確認出来てほっと一息ついた時、なにかの音楽が聴こえた。
高架橋の下、視線の先でなにか珍妙な動きをしている人物がいたのだ。
ぱたぱたと、なかなか素早くダイナミックな動き。それはどうやらダンスの練習であるようだったが、それは特に大きな問題ではなかった。
吸血鬼の視力で見通したその人物には、なんと先程の少女と同じような、馬の耳と尻尾が生えていたのである。もしや新たな美少女戦士が、プリキュア伝統のEDダンスの練習をしている現場に立ち会えたのかもしれないという感動に打ち震えそうになりながら、僕は河川敷の坂を下った。
「やあ、お嬢さん。良い夜だね」
忍では怯えられるであろうから、僕がなるべく不審がられないように気さくに声をかけ、君はなんなのかと尋ねた。
すると、なにやら酷く怯えたような目をされた。
確かに僕は今、ロックミュージシャンでももうちょっと服らしい服を着ているというそんな有り様であったので、残念ながら当然の反応であった。
しかし、声を上ずらせながらもその子は親切にも答えてくれた。
―
その後、その子はお礼を言う間もなく、ささくさと荷物をまとめて逃げるように走り去ってしまった。
とんでもない速さで…。
レイニーデビル状態の神原駿河くらいの脚力であった。
「なんじゃ? この辺りでは、馬の怪異に取り憑かれるのが流行っておるのか?」
「そんなインフルエンザじゃあるまいし…」
ていうか、取り憑かれのが流行るってなんだよ。
ともあれ僕たちは気を取り直して、街の明かりを目指して再び歩き始めたのであった。
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「いや! 流行ってるとかそんなレベルじゃないだろ!!」
繁華街にたどり着き、そこで見た光景に僕は思わず叫んでしまい、通行人から不審な目で見られた。(僕は既に忍の物質造像能力で作った服を着ていたので、裸同然で歩いているのを見咎められたとかではない)
でも誰が僕を責められようか?
だって、そこかしこ、あっちを見てもこっちを見ても、馬耳と尻尾を生やした女性が老いも若きも、わんさと闊歩していたのだから。(しかも、なんだか皆が皆やたら綺麗な人ばっかりだ)
「さすが東京…恐ろしいところだぜ……」
「いやいやお前様、流石にこれはそんな都会はすごいみたいな話ではなかろう…」
もっともである。
僕は田舎住まいではあるが、さすがに東京では馬の怪異に取り憑かれている人が大量発生しているなんて話は聞いたこともない。
それに、街のあちこちの看板の化粧品などの広告写真にも、でかでかとケモ耳女性が載っているのである。
「おいおいお前様、これってまさかあれじゃろか? 流行りの異世界転生ってやつではないか? チート貰って異世界でハーレム生活みたいな」
「いや、僕はいきなり前世の記憶が蘇ったとかではないし、トラックにも轢かれてないぞ…」
確かに、馬に蹴られて三人の死神に手招きされた覚えはあるが、目が覚めたら赤ん坊になっていただとかではない。これはどっちかと言うと昔ながらの異世界転移のジャンルであろう。
魔法騎士レイアースとか十二国記とかそういうのである。
もしくは、もしもボックスでこうであることが当たり前のパラレルワールドに来てしまったようなものだ。
ということは、もしあの学校に辿り着きエコバッグを回収して、スマホと財布を取り戻してもお金は使えないし電波は圏外の可能性大だ。
やばい、僕と忍に忍野みたいな根無し草生活を送るスキルはないぞ…。
「ノブえもん! 元の世界に戻る道具出してよ!」
「ええいっドラえもんみたいに呼ぶでない。儂も流石に時間移動ならともかく異世界に来たことなどないわ!」
忍が暗に時間移動なら出来るなどと大法螺を吹いていたが、そんなことは今は気にしていられない。
だって、つまり僕たちは、他の誰をも頼ることのできない世界にぽつんと放り出されてしまったのである。
「どうしよう…」
本当に、多摩川のアラちゃんシノちゃんになるしか無いかもしれない…。
いや本当に、昨日まで1文字も書けてない状態で「いうて1話分で終わるだろう」と思ってたんです。連載って難しいですね…
感想やここ好き、誤字報告等、いつもありがとうございます。
ソーラン踊って喜んでます。
阿良々木暦のコーヒーの飲み方
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ブラック
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ミルクのみ
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砂糖のみ
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ミルクと砂糖ありあり