中央歴1639/1/24 クワトイネ公国
この日、ロデニウス大陸の北東に位置するクワトイネ公国は信じられない物が目撃された。
「何なのだ!? あの生物は……!」
急遽行われた会議にてクワトイネ公国はその鉄竜について議論が行われたがワイバーンを軽く超える力を持っていると思われるそれに対抗できる手段など限られており、結果的に出席者達が今の状況を共有するのみで終了した。
「首相。もしやこれが噂にパーパルディア皇国のワイバーンオーバーロードなのでは?」
「可能性はありますが彼の国の竜が単体で我が国にやって来るとは思えません。ですが一応警戒は続けてください」
クワトイネ公国の周辺国家で最大の国力を有するパーパルディア皇国。最近ではワイバーンの上位種であるワイバーンロードを超えるワイバーンオーバーロードの誕生にこぎつけたという噂が周辺国の間で広まっており、国力の低い国家を震え上がらせる原因となっていた。
「とは言えもし彼の国が動き出したのであれば我々で出来る事はありません。ただでさえ隣国のロウリア王国にすら抗う力がない我々では防衛すら困難でしょう」
クワトイネ公国首相のカナタは自国の暗い未来を想像して顔を曇らせる。会議の出席者の誰もが同じような状況であり、その様相はまるで亡国一歩手前のようであった。
しかし、そんなクワトイネ公国の暗雲は直ぐに消える事となる。3日後、マイハークの沖合に巨大船が到来。彼らは自らを日本国と名乗り、先の鉄竜の領空侵犯の謝罪と国交締結を求めにやって来たという。その国こそクワトイネ公国の未来を明るいものにする国であり、約10年前に国家存亡の危機を辛うじて切り抜けた大きな傷を未だに抱える大国であった。
「総理、護衛艦いずもより連絡がありました。……接触に成功したとの事です」
「そうですか……。上手くいく事を祈りましょう」
官僚の言葉に鷹森総理は短くそう答えた。第二の国難とも言える異世界への転移よりもうすぐ一月が経とうとしている。当初こそ混乱したがあくまで転移した
「食料の備蓄はどのくらいありますか?」
「全国民が4カ月は満足に食べられる程度です。自給率が低い現状ではこれが無くなれば飢えるしかありません」
農林水産大臣より放たれるのは絶望的とも言える日本の状況。
「交渉が上手くいく可能性は……」
「現時点では何とも言えません。最悪の場合、武力による奪取も検討しています。よろしいですね?」
「その手段を選ばなくて済むように、相手が理性的な事を祈りましょう」
日本と言う国はかつて国家存亡の危機を迎えていた。それは他国からの侵略によってではなく、自然災害によるものである。太平洋プレートの先端に出来たコブのようなメガリスと呼ばれる塊によって日本は海中に引きずり込まれたのである。当初は40年の猶予があると言われていたこれも実際には翌年から発生した。地震に噴火、津波と言うありとあらゆる自然災害が日本列島に襲いかかり、そこに住む1億2000万人の日本国民を容赦なく殺していった。
日本国は直ぐに移民を行っていったが時の総理は約3500万人の日本人を避難させると移民受け入れ交渉と称してさっさと国外逃亡してしまったのである。更にはそれ以上の移民受け入れを世界中が拒否したことで約9000万人の日本人は日本列島と運命を共にする事となってしまった。結果的に現総理の鷹森の元夫である田所博士を中心とするグループによって引きずり込もうとしているプレートを分断し、沈没を回避する事となったがこの時点で日本列島内での生存者は僅か1000万人程しか残っていなかった。更に海外に移民した日本人の中でも日本に戻る事を拒否した2000万人が移民先での永住を希望したことで最終的に日本は人口約2500万人、国土の6割を消失した群島国家として再スタートを切る事となった。
しかし、移民交渉の材料とそれまでの震災によって日本の文化は失われ、荒廃した国土の日本は中々再興するに至らなかった。更には残った国土を奪おうとする隣国や、国内の治安悪化などで国家として機能するようになったのが約2年前の事だった。
隣国から軍事侵攻寸前までの圧力を受けた事で日本は自衛できるだけの軍事力を直ぐに求められる事になったり、日本人が飢えないように田畑の復興などにも力を入れて行った中での転移はまさに第二の災害と言えるだろう。
そんな日本が今後この世界にどのような影響を与えていくのか? それはまだ誰にも分からない事だった。