ルークSIDE
ミゲルを先頭に計六機が出撃していくのを見送ったルーク。
あれから部隊を編成に際してミゲル、オロール、マシュー、クロエ、レオンハルトと後一機で
向かうことが決まった。
ミゲル、オロール、マシューにもM69バルルス改 特火重粒子砲が装備されている。
「まだ不満なのか?」
「ええ。やはりD装備はやりすぎです。」
「仕方ないだろ。ジンが持つサーベルやライフルの実弾はフェイズシフトのせいで効果は皆無だ。
そうなると大きくてもビーム兵器で対応するしかない。
いたずらに戦力を減らすわけにはいかないんだ。分かってくれ」
あくまで中立国との関係と部下の生死を天秤にかけて部下の生死の方を取るルークと
両方を救う方法を考えるルイス。ストライクやアークエンジェルの攻撃を
全て防いだとはいえヘリオポリスは既に人が生活出来る環境ではない。
ならその天秤が部下の方に振り切れるのも仕方ないとルイスは無理矢理だが納得した。
「分かりました。確かに彼らの命は大事です。無駄死にはさせたくありませんもの」
「済まないな」
「あなたのひととなりは理解しているつもりです。その選択の理由も理解できますし」
「ありがとう」
その時通信機が鳴った。
「どうした?クロエ」
『隊長。アスランが!』
「アスランがどうした?」
「奪った機体で出撃しました!」
「「はっ?」」
「あのバカ。何考えてるんだ。直ぐ呼び戻せ」
『いいではないか、ルーク』
そこに割り込んできたのはクルーゼだ。
大方イージスが出撃したのを見てこちらに通信を入れてきたのだろう。
「どういうつもりだ?」
『かえって面白いと思ってね。地球軍のMS同士で戦うのもね』
「悪趣味です、クルーゼ隊長。それに「いい、ルイス」しかし」
「分かった。アスランにはこのまま行かせる。ただし戦闘記録はしっかり取らせろ」
『ミゲルにはしっかり伝えるさ』
そこでクルーゼは通信を切った。
「隊長!」
「言うな。悪趣味だがクルーゼの言う事も分かる」
「どういう意味ですか?」
「俺の予想なら向こうの動き次第でヘリオポリスは崩壊する。
当然協議会に呼び出されるのは確実だ。
なら当然議員からはそれだけの犠牲を強いてまでの価値があるのかと問われる。
その時の為に材料が欲しいからな」
「全く、どこまで読んでおられるのですか?あなたは」
「ここまでは出来て当然さ。後は俺にもわからんよ」
実際は原作を知るが故に出来る予測だ。
そしてこの先の流れを知るが故に備えも怠っていない。
「後はこの後の結果次第だな」
「そうですわね」
二人はヘリオポリスを再び見るのだった。
「コロニー内の避難はほぼ100%完了しているということだけど、
さっきの戦闘で警報レベルは9に上がったそうよ」
レベル9の警戒レベルなんて言えば、コロニー内に人が居られる状態では無いことを示す。
酸素も薄れて、まともに生活できる状態じゃ無い。まさに戦争状態だ。
こんな惨状を招いてしまった責任感からか、ムウには、マリューの両肩には重苦しい
何かが載っているようにも見えた。
「シェルターは、完全にロックされちまったって訳か。
あー、けどそれじゃぁ、あのガキどもはどうすんだ?」
「え?」
ムウの言葉に、マリューが呆けた声を出した。なんだ、考えてなかったのか?と、
信じられないような表情をしてから、ムウもめんどくさそうに改めて言う。
「もう、どっか探して放り込むって訳にも、いかないじゃないの」
キラ・ヤマトをはじめとした、ヘリオポリスのカレッジで学ぶ学生たち。臨戦状態となった今は、
彼らも避難民だ。軍とは無関係である彼らを安全な場所に連れて行きたいところだが、
レベル9となれば、シェルターは外部からの出入りが完全に遮断される。
しかし、軍人としての資質もない彼らをアークエンジェルに乗せるとなれば、
それは完全にお荷物となる。
後一回多ければ二回ヘリオポリスで戦闘が行われるとムウは考えている。
一回ならともかく二回戦闘が行われればへりオポリスは持たない。
ZAFT側が使う兵器次第ではその一回とて持たないだろう。
最初は船外作業服を着させてコンテナに押し込めてそこで救難船を待たせる事も
ムウは考えた。しかし崩壊からオーブにその連絡が行き救難船が来るまで数時間はかかる。
運が悪ければ一日はかかるだろう。船外作業服では持たない。
数秒の間に色々考えたがどれも現実的ではない方法しか思いつかない。
「彼らは、軍の機密を見たため、ラミアス大尉が拘束されたのです。解放するわけには…」
軍人らしい物言いをするナタルに、ムウは表情には出さずに苛立ちを覚えた。
軍の機密?体良く完成したところを、まんまと敵に奪われるような醜態を晒しておいて、
よくもぬけぬけと言えたものだとムウは思った。
「じゃぁ、アークエンジェルの脱出にも付き合ってもらうってのか?
ヘリオポリス外に出てきゃぁ、ド派手な戦闘になるぞ」
まぁ、それだけならまだ良い。
しかしだ。自分たちじゃ対応できないからと、民間人を引きずり込む。
そしていち段落したら、機密を知ったから拘束。さらに次にくるのは、軍人ならではの強制。
「ストライクやアルカナの力も必要になると思うのですけど」
「あれをまた実戦で使われると!?」
「使わなきゃ、脱出は無理でしょ?」
マリューとナタルのやり取りを、ムウは冷ややかな目で見つめた。
こんな光景を、以前も見たことがある。
イーグル隊が結成されてまだ間もない頃、緊急の救援要請を受けて飛んで行ってみれば
次々落とされていく味方はまともに進む事も出来ていない。
敵を追い払ってから味方母艦に着艦して事情を聞いた時ムウは背筋が凍る思いをした。
何とメビウスに乗っていたのはメカニックだったのだ。
理由を聞けば機体は残っていたがパイロットがおらずそこで取られたのが、
メカニックをパイロットとしてあてがい、戦場に出すと言う愚かな決断だった。
イーグル隊が宙域に到着するまでの間で、そんな愚かな命令で戦場に放り出された
素人が何人も犠牲になった。艦を守る肉の盾となって。
それを聞いている途中で一緒に乗り込んでいたブルーコスモスの盟主の一人が
「我々の盾となれたのだ。実に名誉なことではないか」
と何ともないいった感じで言ったことでムウやソーマは切れてそいつを思いっきり殴った事を
今でも覚えている。
そのせい二人揃って軍内での出世はほぼなくなったのだが。
「それこそ、機密機密という軍からしたら、民間人にすがるなんてできないでしょうよ」
「今度はフラガ大尉か中尉が乗られれば…」
思いついたように言うナタルに、ムウは両手を上げて
お手上げという感じにジェスチャーをする。
「おい!無茶言うなよ!あんなもんがソーマはともかく俺に扱えるわけないだろ!
あのボウズが書き換えたっていうOSのデータ、見てないのか?
あんなもんが、普通の人間に扱えるかよ」
「…なら、元に戻させて…別の誰かに」
「それでノロノロと出て行って的になって死ねってその別の誰かに命令するつもりか?」
「それは……」
「気持ちは分かるがもっと現実見ろよ、少尉。生き残れないぞ。」
ムウの言葉に、マリューもナタルも黙ってしまった。
ふぅーと深いため息をついて、ムウは二人を見る。
「とにかく、シュンのも含めて隊への補給を済ませてくれ。済み次第、俺たちは宙に出る。
アルカナにはソーマが乗るからな」
「フラガ大尉?」
マリューの声に応えず、フラガはブリッジの出口へと歩み出した。
「もうごめんなんだよ。死なれるのも、死にに行かせるのも。
だから、俺たちがここにいるんだ」
自分一人だけでは、どうにもできなかったかもしれない。しかし、
ムウは今一人じゃない。頼もしい仲間たちがいる。
数々の戦場を共に巡り、こんな惨状に飛び込んで、戦況をひっくり返す様を、
ムウは何度も目の当たりにしてきた。
「死にに行くようなものです」
ナタルが困惑した目でムウに語りかける。振り返ったムウの顔に悲壮感はない。
人懐っこい笑顔で答えた。
「それでも民間人を死にに行かせるよりはマシだ。それに俺達は死にに行くんじゃない。
勝って明日を生きる。泥臭かろうがかっこ悪かろうが生き残る。生きて任務を果たす。
それが雷神の部隊だ」
ムウはブリッチを出て機体の方へ向かった。
マリューに拘束され成り行きで艦に入る事となった
ミリアリア、トール、サイ、カズイは疲れて眠ってしまったキラに
置手紙を置いて食堂で座っていた。
「この状況で寝られちゃうのってのも凄いよな」
カズイが与えられた共同スペースを出る時見た光景を思い出して口にする。
「疲れてたのよ。キラ、本当に大変だったんだから」
「大変だったか…ま、確かにそうなんだろうけどさ…」
「何が言いたいんだよ。カズイ」
本心からキラの心労を労わるミリアリアやトールと違って、カズイが言う言葉には
「別の感情」が入り混じってるようにサイには感じられた。
「別に。ただキラには、あんなことも大変だったで済んじゃうもんなんだなって思ってさ。
キラ、OS書き換えたって言ってたじゃん、あれの。それっていつさ?」
「いつって…」
口には出さないが三人はカズイが言いたい事を何となく気づいていた。
最初にキラがMSに乗っていたのを知った時から
気絶したマリューを看病するときはミリアリアが
通信を試すときはサイが
サイとカズイがストライカーパックを取りに行く間と
それを取り付ける最中はトールがキラの近くにいた。
その間誰もキラがOSを書き換えるところを見ていない。
更にキラがMSに乗っていたのを知る前の戦闘でノロノロとどんくさい動きをしていたが
ある時から急に動きが変わったのを三人は思い出しカズイが言いたい事を何となく察する。
三人の表情を確認したカズイが畳み掛けるように
自分の臆病でひ弱な心に従った言葉を紡いでいく。
「キラだって、あんなもんのことなんか知ってたとは思えない。
じゃああいつ、いつOS書き換えたんだよ。
キラがコーディネイターだってのは知ってたけどさ、
遺伝子操作されて生まれてきたやつら、コーディネイターってのは
そんなことも大変だったで出来ちゃうんだぜ?
ザフトってのはみんなそうなんだ。そんなんと戦って勝てんのかよ、地球軍は…」
カズイの言葉の中にある感情は劣等感。ナチュラルであるカズイ達と、
さっきまでモビルスーツで戦っていたキラ。
キラは学友を守るためが為にマリューに従い戦っていただけだ。
それは普段のキラやキラの性格をよく知るカズイ自身分かっている。
だがどうしてもコーディネーターに対して劣等感を抱いてしまうのだった。
その時食堂にパイロットスーツを着た二人の男性が入ってくる。
見た目はミリアリア達とそこまで変わらない男性たちだ。
サイ達はその片方の人物を知っていた。
キラが銃を向けられたときに真っ先にかばってくれた人だ。
「済まない。水を二つ貰えるか?」
男達は窓口で水を貰うとサイ達とは離れたテーブルに座る。
すると一人がプラスチックで補強された写真を置いて二人して手を合わせた。
「済まない、ゲイル。本当は酒で弔ってやりたかったんだが今はこれで我慢せてくれ」
「お疲れ様です。ゲイル。ゆっくり休んでください」
その光景を見てそれが弔いなんだと理解した。
涙は流していなかったが、二人が泣いているようにミリアリアには見えた。
四人はだんだんいたたまれなくなり食堂を出てキラの下はヘ戻る。
「お断りします。僕達をもうこれ以上、戦争になんか巻き込まないで下さい!」
「…キラ君」
眠りから覚めたキラが通路で鉢合わせたのは、
彼にもう一度、ストライクに乗るよう交渉をしにきたマリューだった。
コーディネーターとわかった時に、銃口を向けてきておいて、敵が来たから戦えだって?
その説得の言葉に、キラの怒りは沸点を超えた。
「貴方の言ったことは正しいのかもしれない。僕達の外の世界は戦争をしているんだって。
でも僕らはそれが嫌で、戦いが嫌で中立のここを選んだんだ!それを…」
キラの言葉を遮って、艦内に警報音が鳴り響く。警報音の合間に、
ナタルの焦ったような声が響き渡った。
『ラミアス大尉!ラミアス大尉!至急ブリッジへ!』
通路に壁に備え付けられた通信モニター越しに、マリューが応答すると、
今度はナタルの強張った声がスピーカーから発せられる。
『モビルスーツが来ます!早く上がって指揮を!』
「わ、私が?」
『先任大尉はフラガ大尉ですが…』
そこでマリューは気づいた。
アークエンジェルの開発に一切かかわっていないムウに
艦の事が分かるわけないという事に。
「…分かりました。では、アークエンジェル発進準備、総員戦闘第一戦闘配備」
マリューの一声で、艦内にアナウンスが流れ始める。戦闘配備が始まる。またーー戦争が始まる。
「シェルターはレベル9で、今はあなた達を降ろしてあげることもできない。
どうにかこれを乗り切って、ヘリオポリスから脱出することができれば…」
なんて、なんて白々しい。申し訳ないように言うマリューの姿が、
今のキラにはそうとしか見えなかった。
「卑怯だ!あなた達は!そしてこの艦にはモビルスーツはあれしかなくて、
今扱えるのは僕だけだって言うんでしょ!」
「いや、君は出なくていい」
そのキラの言葉を、真っ向から叩き切る声が、キラの後ろから発せられる。
キラが振り返ると、そこには自分の学友達と、二人の地球軍のパイロットが立っていた。
ソーマSIDE
ゲイルの弔いを終えたソーマはシュンとMSハンガーに向かっていた。
そこでキラがマリューに怒鳴っているのが見えた。
聞いていればマリューがもう一度ストライクに乗ってほしいという頼みに
キラが拒否しているという内容だ。
だが聞いていれば優しげに話しているし本人にもその気はないだろうが
死にたくなければストライクに乗れと言っているようなものだ。
「卑怯だ!あなた達は!そしてこの艦にはモビルスーツはあれしかなくて、
今扱えるのは僕だけだって言うんでしょ!」
遂にキラが確信を突く。
マリューは黙っているがそうだとしか言えないだろう。
だがソーマはそうさせたくなかった。
例え運命が変えられないのだとしても少し抗う事にした。
「いや、君は出なくていい」
キラやその学友たちが此方を向く。
「ラミアス艦長。俺達が出てジン部隊をかく乱する。
その間にヘリオポリスから脱出してほしい。」
「む、無茶よ!いくらアルカナがあるとはいえたった三機でどうにかできる状況じゃないわ」
「けど、どうにかしないといけないんです。下手をすればコロニーが崩壊する危険もある」
無謀だと難色を示すマリューだが、ソーマは頑なに出撃すると答えた。
「敵のザフト艦は三隻。G兵器を四機鹵獲され、俺たちが撃退したモビルスーツは三機。
G兵器を戦線に全て投入するとは考えられない。出ても一機だろう。
よって、敵がモビルスーツを満載していたとしても、
出てきて五機ほどだ。フェイズシフトは厄介だが五機の撹乱なら、
なんとかできるかもしれない。」
「そ、そんな予測論で…」
むしろここまで情報がある任務も珍しいとソーマは思った。
ジン10機を相手取り、艦を守るために大立ち回りをしたこともある。
ザフト艦が腹に抱えたモビルスーツと死ぬ気で戦っていれば、
その懐に何機格納できるかも、おのずと予測はできる。
それに彼女は大事なことを忘れているようにも思えた。
「それでも戦わなきゃならないのが軍人なんですよ、ラミアス艦長」
マリューは元々、技術士官であり、艦長として大成するのはかなり先の話だ。
今の彼女は軍人というよりも、技術者の側面が強い。故に伝える。
軍人というものはそうだと。ソーマはグリマルディ戦線から今まで、それを何度も、
嫌という程体感した。仲間の死をもって。
「君はキラ・ヤマト君と言ったね」
先ほどまで、マリューを睨んでいた少年を、俺は目にする。
「は、はい」
たどたどしく答えた彼こそが、この物語の主人公であり、
この戦争に終止符を打つ鍵となる人物であり、ラウ・ル・クルーゼが憎む根源である存在。
ソーマは前世でSEEDを何度も見ている。キラが逆境や戦場を乗り越えるたびに強くなり、
そしてフリーダムに乗る時を知っている。
だからこそ、ここで彼を戦闘に出す意義も全て理解している。
だがそれはアニメの中の話だ。
ここは違う。死と隣り合わせの現実なのだ。
しかも彼は民間人。
アニメの中の主人公だったからと言って考えなしに流れに任せていいわけじゃない。
「友人と共にここで休んでおくといい。敵は俺たちがなんとかする」
「だ、だけど!敵はザフトで…モビルスーツなんですよ!?」
「自惚れるな」
キラの学友であるトールがそう言ったのを、ソーマは目つきを鋭くして叱咤した。
「俺は、お前らの身を案じて言ってるんじゃない。
戦う気もない奴に戦場に出られても足手まといだって言ってるんだ」
キラが出れば、原作通りに撃退はできるだろう。しかし、それはヘリオポリスの崩壊を招く。
多くの人々の住む場所を奪うことになる。軍とは何ら関係の無い人々が、
政府や他国の軍の身勝手のとばっちりを受けて生活を基盤から根こそぎ奪われ、
裏切り者とプラントから指を差されながら宇宙を漂流することになる。
そういった物を防げるのならば、それは防ぎたい。
それよりもソーマにはキラに対して苛立ちがあった。
「引き金を引いておいて自分は関わりないですという君よりも
俺たちの方が戦える。それだけだ。行くぞ、シュン」
「了解!!」
呆気に取られたキラを一瞥し、俺たちはメビウスが待つハンガーへと走った。