結果としてヘリオポリスはZAFT側がストライクやアルカナを
攻撃し、アークエンジェルに対しては特に攻撃を加えなかった事で
アークエンジェルは無事に港から脱出し崩壊自体は防がれた。
しかし、被害はすさまじくとても人間が住める環境ではないと判断され
脱出ポッドが射出され飛ばされていった。
そんな中、シュン、キラは周囲の警戒に出ている。
現在、アークエンジェルはサイレントモードで待機しており、
イーグル隊の母艦である宇宙護衛艦ギルデルクは、補給の受け入れ準備を整えた状態で
アークエンジェルと合流することができた。
現在両ブリッチにマリュー、ナタル、ムウ、ソーマが集まり、
ギルデルクと通信をつなぎ、話し合いの真っ最中だ
『地球軍第七艦隊所属、ドレイク級護衛艦ギルデルク艦長クラウス・ローグスター中佐だ』
「第2宙域、第5特務師団所属、アークエンジェル艦長マリュー・ラミアス大尉です」
通信越しに二人は敬礼を交わし合う。
「補給物資を融通していただきありがとうございました」
『気にしないでくれ。君たちの話はイーグル隊から聞いている。大変な思いをされたようだ」
「いえ、我々は幸運なだけでした」
『謙遜は良くない。君たちはこうしてアークエンジェルを守り通した。
それが純然たる結果だよ、ラミアス大尉。君たちの無事を、同じ軍人として嬉しく思う』
「ありがとうございます」
運も実力の内という言葉が彼の口癖だった。
それを裏付けるように彼の戦績は決して華々しい者ばかりではない。
運よく生き残った事もある。しかしそれが幸運だと言うならば、
長くは続かずに撃沈されていただろう。彼の戦歴はそんな危ない橋と共にあったのだ。
『さて、詳しい事は後で聞かせてもらうとしてとりあえず今後の事を決めようか。
すでに月基地のハルバートン提督とは連絡がかなった。
補給物資を積んだ先遣隊を既に発進させ自身も第八艦隊を率いて発信する予定との事だ。
我々はハルバートン提督の指示で今後はアークエンジェルの護衛に着くことになる』
クラウス・ローグスターの名はマリューも知っている。
ハルバートンの同期で開戦時から何度も奇跡を起こしてきた名艦長として
船乗りや技術者の中では話題の人物だった。
反面、軍上層部の反コーディネーター思想に真っ向から対立している事もマリューは知っている。
元々第七艦隊はそういう人間が多いとマリューは聞いたことがあった。
上層部は反コーディネーター思想主義者の集まりというのは有名だし
コーディネーター殲滅まで掲げる過激な人間もいる。
そういう人間にとってあくまでこれはプラントと地球連合の闘いであって
ナチュラルVSコーディネーターではないと主張する人間は邪魔でしかなく、
そう言う人間や地球軍に参加するコーディネーターを
一か所に体よく集めた結果が今の第七艦隊だった。
だがその強さはすさまじく宇宙においては切り札になりつつあるのが現状で
それを知った時、マリューにしても皮肉な話だと思った。
「中佐、艦長、私はアルテミスへの進路を取る事を進言いたします」
「傘のアルテミスか?」
ムウの言葉にナタルは頷いて説明を続ける。
「このまま月基地に進路をとっても道中戦闘も無く迎えるとは思っていますまい。
ここは一度アルテミスに向かい補給を受けそれから月基地に進路を取るべきかと」
「なるほど。しかし、ギルデルクはともかくこの艦は軍の戦績登録もないままよ」
「その辺りはユーラシア側も理解してくださるかと」
「反対だな」
ナタルの案に真っ向から否定したのはソーマだった。
「少尉のいう事はわかるがこの艦とストライク、アルカナは機密の塊なんだぜ。
連合の友軍識別信号すら持ってない俺たちが近寄って、やれこの要塞の安全がどうとか、
物資の補給のためにはなんちゃらって、こっちのデータを抜き出されて機密保持も
クソも無くなったらどうするつもりなんだよ?」
「確かにな」
「ですがほかに案は?」
「一応あるにはあります。ただあまり気分は良くはありませんが」
「何かあるのか?」
ムウの言葉にソーマは一度頷いて宙域図を出して説明を始める。
「ヘリオポリスと月基地の間にはデブリベルトがある。
そこには多くの水や物資が今も氷漬けになってるはず」
「そこからいただこうと?」
「ええ、はっきり言って墓荒らしと変わりませんが」
「なるほどな、確かにソーマの言う事も一理ある。それに、クルーゼの野郎の事だ。
近くの友軍って言えば、この辺じゃアルテミスだけなのはヤツらも知ってる。
行動を読まれでもすればまたすぐ戦いになっちまうな」
『そうだな。そうするほかあるまい。それに敵と遭遇と他所で
あの荒神、ルーク・ロドクルーンよりは幾分かマシだろう』
自身で言っておいてクラウスは自嘲気味に笑う。
ソーマがいるとはいえコーディネーターに対して自分達がほぼ無力に近い状態にも拘らず
こう言える自分がおかしくなった。
「ですが」
「やろうとしている事に忌避感があるのはわかるわ、少尉。
私も目先の事に囚われて見失っていましたが、私たちが動かしているのは
大西洋連邦の機密です。それに、識別信号を持っていないことも、かなりの痛手になるわ。
やはり、その辺りのことを打開するためには、早急に提督と合流する必要があります」
マリューに言われてナタルも引き下がった。
彼女自身どこか自分の案が希望的観測にの取っていたことに自覚があった。
そして自分たちがユーラシア側に対して取引が可能な状態でない事も理解している。
何より相手は全員が上官だ。
彼らの決定に従うのが軍人としては当たり前だった。
「わかりました」
『ならば行動を開始しよう』
「ではデコイをアルテミスに」
「いやちょっと持ってください。
デコイを間隔を開けてアルテミスと月本部に向けて撃ってください」
ソーマの発言に行動を開始しようとしていた仕官組がそちらを見る。
「何か策があるのか?」
ムウが声を上げた。こういう時のソーマの考えが何度も自分たちを救ってきたのは
ムウは良く知っている。だからこその判断だった。
「はい。恐らくですが敵もさっきの少尉の考え通りに考えると俺は思います。
なのでまず最初に噴射しないようにデコイをその場に時間を空けて短い時間だけ
アルテミスに向けて噴かせたように設定しておいておきます。
その後、月本部に向けて囮であるかのようにデコイを撃ちます。
それと同時に進路変更を。どうでしょう?」
『つまりデコイの反応の中に隠れようという訳か』
「ですが息を合わせなければすぐにばれます」
『だがうまくいけば撒けるかもしれん』
「やってみましょう。それしかないでしょうし」
マリューは1メートル先に針を通すような策を行う事にした。
クラウスも同意。準備に取り掛かった。
「なんだと!ちょっと待て。そんな話は認められない」
準備に取り掛かってすぐにナタルが声を上げた。
「どうしたの?」
「ストライク、及びメビウス帰投しました。
ですがポットを一機所持して帰投しておりまして」
「「「は?」」」
ナタルの呆れたため息と、マリューとムウとソーマの驚いた声が重なって、
無重力に飛散して行く。
『認められない!?認められないってどういうことです!推進部が壊れて
漂流してたんですよ?それをまた、このまま放り出せとでも言うんですか!?
避難した人達が乗ってるんですよ!?』
「すぐに救援艦が来る!アークエンジェルは今戦闘中だぞ!
避難民の受け入れなど出来るわけがない」
ナタルが言う事は正論だった。
ここで収容し連れていくよりもこのまま放置した方がこれから起こるかもしれない
戦闘を考えたらいくらか安全だろう。生きていられる保証はないが。
だがキラだけならともかくシュンも同行していたのだ。
それがわからないはずがないとソーマは考えた。
『それがそう言うわけにもいかない事態でして』
「どういう事だ?シュン」
『ベリアルイン中尉。今、送った電文を見て下さい』
ナタルと言い合いを繰り広げてるキラに割り込むようにシュンが入って来て電文を送ってくる。
「大尉、これ」
ソーマは電文呼んでそれをメインモニターに移した
「我、アルスター殿のご令嬢を乗せた避難船である。雷神の保護を願う…おいおい、まじかよ」
『やれやれ、面倒な事になったな』
アルスターと聞いて、ムウやソーマは眉をひそめる。シュンも同様だった。
名前の主は、ジョージ・アルスター。
穏健派だが反コーディネイター運動を行うブルーコスモスの一員であり、
外務次官という立場を利用して地球連合各加盟国にコーディネイターの排斥を呼びかけている
ブルーコスモス内でも相当な権力を有する人物だ。
地球軍に所属していれば一度は聞くブルーコスモスだが
ギルデルクというか第七艦隊に所属するメンバーは賛同していない者の集まりでもある。
しかし、そんな相手でも第八艦隊の宇宙戦艦に乗っているとなれば、嫌でも噂が耳に入るものだ。
そしてその娘と言えばフレイ・アルスターだ。
この物語の鍵を握る人物であると同時にキラの運命を左右する一人と言ってもいい存在だ。
「おそらく、誰かが俺たちをイーグル隊と知ってわざわざ光学通信を」
『まったく人気者も辛いものですね』
「冗談を言ってる場合じゃねーぞ、シュン。どうすんのよ、まったく…」
ナタルが言うように外に放り出せば、全員仲良くブルーコスモスからの嫌がらせが
待っているだろう。嫌がらせと可愛く言ったが、
正確には「身に覚えのない処罰」、「突然の左遷」、まだこれだけならマシだ。
下手をすれば体をいじくりまわされて生体兵器扱いで前線送りか。
ジョージ・アルスターの娘を迎えれば原作通り無知と立場がある事をいい事に
無茶苦茶にされる。まず面倒ごとしか起こらない気しかしない。
それがブリッチにいるアークエンジェルクルーやギルデルククルーには想像できた。
ようはどう行動しようが待っているのは面倒事だった。
この場においてはムウの泣き言はだれもが理解できたし、全員の思いの代弁だった。
「いいわ、許可します」
うむむむ、と唸るムウに、溜息をこぼして気持ちを切り替えて凛とした声でマリューが答えた。
「…艦長?」
「今こんなことで揉めて、時間を取りたくないの。…収容急いで!
同時に発進準備も急いでいつ敵に見つかるかわからないわ」
「…分かりました、艦長」
艦長の一声で、モビルスーツの収容に加えてポッドの搬入も始まり、
ブリッチも一気に慌ただしくなっていく。
「イージス、ジン二機、帰投しました」
「損傷は?」
「軽微です」
「これからどうされるのですか?隊長」
「宙域図を出してくれ。それとクルーゼ隊長にも通信をつなげろ」
「はっ」
通信兵がヴェサリウスと通信をつなげる。
『大変なことになったな。』
「微塵もそんな事も思っていないくせによく言う。」
『お見通しか。』
「ああ、ミゲルは?」
『機体は損ねたようだが生きてはいる。既に戦闘データは届いているよ見るかね?』
「送っておいてくれ、後で見る。それよりこれからの事だ。」
『脚付きはこのまま月本部に向かうと思うかね?』
「五分だな」
『理由は?』
「ここから月本部まで戦闘や補給なしで行ける距離じゃない。
俺ならデコイでカモフラージュしつつ友軍基地で補給を受けてそれから月本部に向かう
だが俺が考えている事は向こうも考えているはずだ。
なんせ、向こうの友軍はアルテミスしかない。
ならその思惑を利用して一気に月本部にという向けてという考えも不可能じゃない」
『私も同意見だ。だがヘリオポリスが無事だったとはいえ破片の中には熱を持つ者も多い。
敵艦の動きが分からないままだ。・・・・網を張るかな。』
『網をでありますか?』
ヴェサリウスが先行しアルテミスとの間で待ち伏せする。
ガモフとインテグラで追い立ててくれ。』
「しかし万が一敵が直接月基地に向かった場合逃げられてしまいますが。」
ルークとクルーゼ案にルイスが懸念点を挙げる。
「デコイ発射。発射と同時にエンジン始動。デコイの反応に陰に隠れつつ、
月本部へ進路修正。突発的な艦の揺れに注意せよ」
「3番、デコイ発射!」
発進準備が完了し、策通り行動を開始した。
まずデコイを時間設定で発射し宇宙空間に漂わせる。
その後もう一つデコイを発射しそれと同時に艦の進路を変更。
デコイの後を追うように進路を取った。
「大型の熱量を感知。諸元解析予想コース月面、地球軍大西洋連邦本部。」
『決まりだな。敵はアルテミスに向かうよ』
「だが万が一もある。その反応は俺の方で追おう」
『頼んだ』
「しかし、先程帰投したクロエとレオンハルトの機体以外、使えるモビルスーツがありません」
「あるだろ。地球軍から奪ったのが五機も。」
『データの吸い出しは終わっているんだ。使わせてもらおう。』
「分かりました。」
『では予定通りに』
クルーゼは通信を切った。
「インテグラ発進!先ほど感知した反応を追う。
整備班にモビルスーツの整備を急がせろ!
それとアスランを俺の部屋に呼び出してくれ。」
「はっ。」
「後は任せる。」
ルークはブリッチを出ていった。