キラは一人何をするでなく救難艇を見ていた。
丁度整備班が電動カッターでゆがんで開かなくなっていた救難艇のハッチを破壊し、ピンク色の服をきた赤い髪をした女の子、フレイ・アルスターが出てくる。
フレイは偶々なのかキラを視界にとらえた。
「あー、貴方!サイの友達の!」
ポットを蹴ってこちらに近づいてくるフレイをキラは冷静に受け止める。
「ねえ、どうしたのヘリオポリス!どうしちゃったの?一体何があったの?
あたしフローレンスのお店でジェシカとミーシャにはぐれて、
一人でシェルターに逃げ、そしたら…。これザフトの船なんでしょ?
あたし達どうなるの?なんであなたこんなところに居るの?」
「こ、これは地球軍の船だよ」
「うそっ!?だってモビルスーツが!
「あ、いやぁ、だからあれも地球軍ので…」
「…え」
「で、でも良かった、ここには、サイもミリアリアも居るんだ。もう大丈夫だから」
それを聞いたフレイは心配顔から笑顔になった。
キラは黙ってフレイをサイのいる場所に案内した。
ルークSIDE
報告書を作っていると待っていた人物がやってきた。
「アスラン・ザラ。出頭致しました」
「入れ」
「失礼します」
「悪いな急に呼び出して」
「いえ。先の戦闘では申し訳ありませんでした」
「懲罰をかす気はないが話だけは聞いておきたい。
あまりにお前らしくない行動だったからな、アスラン」
アスランは少し顔をゆがませる。
ルークはアスランの様子を伺いつつ話を続けた。
「お前は最後の機体が起動したときもそばにいたな。そのあたりとも関係しているのか?」
ルークに言われて意を決したようにアスランは口を開いた。
「はい。あの最後に機体に乗っていたのはキラ・ヤマト。
月の幼年学校で友人だったコーディネーターです」
「それで?思いがけない再会にどうしても確認したくて無断で出撃したと?」
「はい」
「事情はわかった。さっきも言ったが懲罰をかす気はないが
そのような状態では出られんだろう。次の出撃は君を外そう」
「え?」
「そんな相手に銃は向けられまい。だがお前のかつての友人でも
今は敵の戦艦に乗っている。なら俺たちはそれを撃たねばならない。それはわかるな?
「キラは、あいつはナチュラルにいいように使われているだけなんです。
優秀だけどぼうっとしててお人好しだからそのことにも気づいてなくて、
だから私は説得したいんです。あいつだってコーディネーターなんだ。
こちらの言うことを理解できないはずありません」
「わかった。一度だけチャンスをやる。ただしそれ以降はZAFTの軍人として行動しろ。
意味は分かるな?」
「はい。ありがとうございます。失礼します」
アスランは部屋を出て行った。
『君にしてはずいぶん優しいのだな、ルーク』
通信越しにアスランとの会話を聞いていたクルーゼが話しかけてくる。
「いつもの嫌味か?」
『いや、素直な感想だ』
「別にそこまで優しい理由じゃないさ。そのキラ・ヤマトが
本当にこちらに来るのなら楽に最後の機体を手に入れることができると思っただけだ。
あとは本人にけじめをつけさせる為だけだ。
それよりそちらはどうだ?」
『ガモフからも特に報告はない。これは外れたかな?』
「こっちもだ。出来れば評議会に呼び出されるまでに決着をつけたいが」
『そうだな』
クルーゼは通信を切った。
「あっちにソーマがいる以上、アルテミスへの進路を避けてると考えたが当てが外れたか?」
その時、ブリッチから通信が来る。
「どうした?」
『隊長、レーダーで前方3000に大型の熱源を感知。戦艦クラスです』
「わかった。モビルスーツ隊は発進準備。俺の機体は?」
「シグーアサルトHMはいつでも準備は完了しています。
隊長が奪取したブレリュードも盾以外は修復が完了しました。
シールドは完全に溶解していたので廃棄せざるを得ないかと」
「一応、写真を撮っておいてくれ。何かあれば使うかもしれない。
ブレリュードを使う。準備を」
『わかりました』
ルークは部屋を出てパイロットスーツに着替えて機体の下に向かう。
サイたち合流したフレイたちは食堂で話していた。
「どこに行くのかな、この船」
「一度、進路変えたよね。まだザフト、居るのかな?」
「この艦と、あのモビルスーツ追ってんだろ?じゃあ、まだ追われてんのかも」
先の戦闘の一部始終を目撃していたトールとサイがそんな話をしていると、
隣で水をあおっていたフレイが心底嫌そうに眉をしかめる。
「えー!じゃあなに?これに乗ってる方が危ないってことじゃないの!やだーちょっと!」
フレイの叫びに、誰も何も答えなかった。彼女の叫びが、サイたちにとっては
どこか軽い声に聞こえたからだ。ヘリオポリスの中で、まだ逃げ回っていたか、
フレイと同じく避難船に乗っていたら、彼女の悲鳴に共感できただろうが、
サイたちは見てしまった。
命をかけて戦う者たちと、戦争によって破壊されるコロニー。そして、死んでゆく者たちを。
「壊されたポッドの方がマシだった?」
それを見たミリアリアが普段は見せない怒気をたぎらせた声と瞳で、フレイを射抜く。
「そ、そうじゃないけど…」
「親父達も無事だよな?」
「避難命令、全土に出てたし、そもそもヘリオポリス自体は無事なんだ。大丈夫だよ」
サイたちが話題を変えようと、気になることを思い思いに口にしていたら、
食堂に疲れた様子のキラが戻ってきた。後からパイロットスーツ姿のムウも入ってくる。
「キラー」
水を飲むキラへ、トールが呼びかける。
そのままキラは無重力の浮遊感を使って、トールたちが陣取る席へと向かった。
「またどっか行って全然戻ってこないしどこで何をやってたんだよ?」
「うん…モビルスーツの整備を、ね」
そう答えるキラは、なんとも言えない微妙な顔をしていた。
顔では嫌そうな表情をしているものの、どこか使命感のようなものを抱いてる。
そんな複雑な表情だ。
「そりゃ、そうだろ?今のストライクはボウズの機体なんだからな」
その会話にムウも加わった。ムウはアークエンジェルで補給と整備を受けていたのだ。
メビウス・ゼロはガンバレルという特殊兵装があるため、
ドッキングして整備するギルデルクよりも、アークエンジェルで整備した方が効率が良かった。
「僕の機体…?え、ちょっと僕の機体って…」
キラの動揺する声に、ムウは何を今更といった風に呆れたように答える。
「今はそういうことになってるってことだよ。実際、あれには君しか乗れないんだから、
しょうがないだろ」
「また…戦闘が…けど、僕は…」
「"アイツは、引き金を引いた重みをちゃんと理解してる奴だ"」
「え?」
ムウが語った言葉は、彼の意思で発せられた言葉には聞こえなかった。
キラのこぼれた声に、ムウは微笑む。
「ソーマがそう言ったんだよ。お前のことを見てな」
「ベリアルインさんが…」
それは哨戒任務から帰還した後のことだ。
戦うことも、戦争に加担することも拒絶するキラを、ソーマはみながらムウに言った。
アイツは引き金を引いた重みをちゃんと理解していると。
「勇んで戦ってくれとは言わん。けど、今は、出来ることをやるんだ。
敵が待ってくれるような、時間はないぞ。悩んでる時間もな」
そう言って食堂を後にしようとしたムウに、サイが問いかける。
「あの!この船はどこに向かってんですか?」
「月の地球軍基地だ。最初はアルテミスに向かう事も考えたんだが
現実的じゃないという意見があってな」
「現実的じゃないって?」
「色々あるって事さ。地球軍にもな」
そう言ってムウは歩き出した。
キラもムウに言われた言葉に何か思うところがあったようで、水を飲み終わると
ムウとは別の方向に向かって走り出す。
「おい!キラ!」
「え!?なに?今のどういうこと?あのキラって子、あの…」
一人だけ状況がわかってないフレイにボーイフレンドであるサイは、
深く息を吐いて気持ちを切り替え、戸惑うフレイを見つめた。
「君の乗った救命ポッド、モビルスーツに運ばれてきたって言ってたろ。
あれを操縦してたの、キラなんだ」
「えー!あの子…?」
「ああ」
「でもあの…あの子…なんでモビルスーツなんて…」
フレイは父に聞いたことがある。地球軍はモビルスーツを持っていない。
モビルスーツを操るのは人理に反した存在であるプラントのコーディネーターたちだけだと。
理由は予算やそもそもナチュラルにはモビルスーツを操る事は出来ないのだ。
しかし自分が保護されたのは、地球軍の船だ。
じゃあ、モビルスーツを動かしたキラという人物は何者なのか?
この時点でよほどの馬鹿じゃない限り察しはついていた。
「キラはコーディネイターだからねー」
「「!!」」
「カズイ!」
理由を知らないヘリオポリスの住民にとって
ZAFTは自分達の生活基盤のほとんどを奪った犯罪者でしかない。
勿論政治的な面で見れば非があるのはヘリオポリス、もっと言えばオーブが
条約を違反した事が原因だろう。
だが知らない人間はそうはいかない。
そんな状況で少し考えれば避難民もいるこの場でキラがコーディネーターである事を
喋ればどうなるかは予想が付く。
トールにとがめられてカズイは首をすくめるが既に遅く、
フレイの中には父から影響を受けてコーディネーターへの拒絶が生まれつつあった。
「確かにキラはコーディネイターだ。でもザフトじゃない」
「……」
「うん、あたし達の仲間。大事な友達よ」
「…そう…」
表面的には頷いたフレイではあるが、その表情はとても納得している表情ではなかった。