基地とインテグラをつなぐ通路。
アスランがインテグラに到着すると入り口前でパトリックとルークが話していた。
アスランは敬礼して乗船しようとしていた時パトリックに呼び止められる。
「アスラン。ラクス嬢の事は聞いているな」
「はい。しかしまさかインテグラがですか」
「そうだ。キリネイラムとの二隻でラクス嬢の捜索に出る」
「でも、まだ何かあったと決まったわけでは……民間船ですし…」
「公表はされてないが、既に捜索に向かった、ユン・ロー隊の偵察型ジンも戻らんのだ」
偵察型ジンが戻らない?まさかとは思うが……アスランの心の何か嫌な予感がしてくる。
「ユニウスセブンは地球の引力に引かれ、今はデブリ帯の中にある。嫌な位置だ。
捜索していたガモフからの報告では足付きを未だ発見できていないらしい」
「アスラン、お前とラクス嬢が定められた者同士だという事はプラント中が知っておる。
なのに、ロドクルーン隊がここで休暇という訳にもゆくまい。
彼女はアイドルなのだ。しっかり頼むぞ。ルーク、アスラン」
「「はっ!」」
パトリックはそう言ってインテグラを後にした。
「彼女を助けて英雄のように戻れという事ですか?」
「あるいはその亡骸を号泣しながら泣いて戻れ、だな」
アスラんは驚きながらルークを見る。
「政治的にはどちらに転んでも問題はないって話だよ。
歌姫の姉と婚約者が乗った船だからな。
だが政治的な考えは俺達には関係ない。必ず助け出すぞ。アスラン」
「はい」
定刻となりインテグラは発信する。
発進したインテグラに同型艦のキリネイラムが合流した。
『お久しぶりです。隊長』
「ああ。合流うれしいよ。艦長」
キリネイラムの艦長、レイラ・マルカルが通信を入れてくる。
「命令は聞いているな」
『はい』
「そちらの機体は?」
『全機が出撃可能です』
「わかった。いつでも出撃準備を整えておいてくれ」
『はい』
二隻は暗い宇宙を進んでいく。
それよりも随分前、アークエンジェルはデブリ帯に到着した。
それに伴いソーマとキラ、複数のクルーが船外作業服を着て捜索に出る。
「これは!」
「まさか」
「ああ、この戦争の始まり。ユニウスセブンだ」
バジルールと学生組が驚き、ソーマはそれを肯定した。
機体を降り辺りを捜索すれば目にするのは女子供、老若男女関係なくあるミイラ化した死体。
それらは全て一発の核攻撃によって失われたコーディネーターの命だ。
それが生きていた形をそのまま保っているからこそ、その死に様がありありと思い浮かび、
探索していた彼らの心を締め付ける。
そんな時だった。
ソーマは調査をする上である建物に入った。
切っ掛けは何となくだった。直感と言ってもいい。
そこから直感に従って通路を進む。
「ここか」
扉を開けるとそこに眠る様に横たわった研究者風の装いの女性の遺体があった。
ソーマはその横たわる様に浮いている女性に見覚えがあった。
そこで胸元に名札があったのでそれを丁寧にとり名前を確認する。
「レノア・ザラ。まさか!」
驚いてソーマは再びその顔を見る。
表情こそ違うが確かにそれは前世でアニメの中で優しく微笑んでいた女性だった。
「ここにあったのか」
そう、アニメではDestinyで共に大気圏の熱で燃え尽きたであろう
アスランの母親だったのだ。
ソーマは持っていた端末からビーコンを発信器を取り出し、
遺体の服にとりつけてから近くにあった毛布を掛けて手を合わせて黙祷をささげた。
「なにが出来る訳じゃないけど、いつか」
もしいつかアスランと会う事があれば渡そう。
そう決めてソーマはその場を後にした
結局調査は途中で打ち切られ、
今はブリッチで方針を固める為、一同を再び艦橋に集めて会議となった。
「状況は報告を受けて聞いています。ナタル?」
「はい、物資の補給は十分可能かと」
「ちょっと待って下さい、あそこの水を補給するって、本気なんですか!?
ナタルさんだって見たでしょ。あそこは血のバレンタインで
何十万人もの人が亡くなった場所で……それを……」
「あそこには1億トン近い水が凍り付いている。我々には手段を選んでいる余裕はない」
「で、でも……」
声を挙げたキラを筆頭に、サイ達もまた気が進まない様子を隠しきれていない。
いや、気が進まないのは誰も同じだ。
この場合、割り切れていないというのが正しい。
「キラ。俺達だって、何も喜んでいるわけじゃないさ。『水が見つかった!』ってな」
「ベリアルインさんのいう事は僕だってわかりますけど」
「俺達だってできればあそこに踏み込んで補給なんてしたくないさ。
これからする事ははっきり言って墓荒らしと変わらないからな。
でもしょうがねぇだろ。
俺達は今、生きている……生きている以上、生き続けなきゃなんねぇって事なんだよ」
簡単に納得できるはずがない。していい話ではない。
だがそれでもソーマとムウの話を免罪符に無理やり納得する。
「悪いな、こんなことに加担させちまって」
不意にソーマは口を開いた。
「君たちがあそこから物資を回収する事に忌避感を持つのは間違ってない。
俺もいや、俺達軍人はそう言うのを日常的に見てる。
だからそう言った感覚が麻痺というか退化しちまってるんだと思う」
「ベリアルイン中尉」
「ユニウスセブンの事件。24万3721名が亡くなった地球軍が行った最大の虐殺事件。
そういう数字でしか、俺たちはそれを知覚することができなくなったのかもしれんな」
まるで、歴史の教科書に載っている例文を丸暗記して喋ってるようで、
悲惨な事故を悼んでいるようには見えない。しかし、ソーマの表情はどこか悲しげだった。
「俺達軍人は死者の事を気にする余裕はほとんどないんだ。
殺して殺されて殺されたから殺して。そんな事ばかりしてて自分や仲間が生きるだけで必死さ。
それは俺も同じだ。だからいつの間にかそんな感覚を抱かなくなった」
ソーマはそこでキラ達をしっかりと見た。
「だけど君たちは忘れないでほしい。君たちが抱く忌避感、倫理観は間違っていない。
そんな事も抱く事もない俺達が間違ってる。
俺を軽蔑してくれて構わない。嫌ってくれてもだ。だから、
その想いだけは忘れないでいてほしい。辛い事を言ってると思うがな」
生き抜く。生きて、使命を果たして明日を迎える。死んだ仲間の分まで。
ソーマは改めてそれを胸に刻んだ。
「副長、準備は?」
「はい。すでに完了しています」
「では、始めましょう」
「待った。その前に」
作業を始めるように指示を出そうとするマリューにソーマが待ったをかける。
「何を?」
「死者にはちゃんとした弔いをしないとな」
アークエンジェル内では今、クルーによって折り紙がおられている。
避難民の子供、エルが折り紙の花の折り方を教えてくれてそれをみんなで折っていた。
「ねぇ」
「ん?」
フレイは不意に折り紙を折るソーマに声をかけた。
ずっと疑問だった事を投げかけた。
「どうしてコーディネーターにそこまで優しくするの?」
「どういう意味だ?」
「とぼけないでよ。貴方達、地球軍なんでしょ?なんでコーディネーターに
優しくしたり、弔ったりするのよ」
「おい、それ本気で・・・・」
共に折り紙を折っていたシュンがフレイの言い放った言葉に怒りを示そうとするが
それをソーマが抑えて静かにさせる。
「確か、フレイ・アルスターと言ったな。君にとって敵とは何だと思う?」
「それは、プラントに住むコーディネーターが…」
ソーマはそこで目を細めて思った。この子もしっかり親の影響を受けてるんだなと
彼女の父はブルーコスモスの盟主だ。
比較的穏健派とはいえ反コーディネーター思想は過激派とはそこまで変わらない。
だがソーマは違う考えだった。
「そもそもそこから違うんだよ。俺たちの敵はコーディネーターじゃない。プラントだ」
「けど!コーディネーターさえ居なければ、戦争なんて」
「起こってたさ。コーディネーターが存在しなくて、
プラントに住むのがナチュラルだったとしてもな。
たしかに、コーディネーターが生まれてから、人種的な差別や偏見は根強くなった。
そこは否定しないよ。けれど戦争ってのはそんな単純なものじゃない。
もっとどす黒いモノから生まれてくる。人種差別だとか、至上主義とか、
そんなものは戦うための大義名分で、誰かが言い出したものに過ぎないさ。
そしてその誰かは今もそう叫んでいる。
その陰で兵器なんかの戦争に必要な道具に食料を売って
戦争という悲劇の裏で甘い汁を吸い続けている。
それにわかりやすいだろ?ナチュラル対コーディネーターの方が」
人種差別、経済の不振、そして不特定多数による扇動。そのどれかだけでは条件が足りない。
全てが揃い、尚且つそこに政治的な思惑や権力が絡んだ時に、戦争の火種ができる。
「元々プラントは研究コロニーだ。それを大西洋連邦・ユーラシア連邦・東アジア共和国の
三国がこれに出資し、理事国となった。
そこにジョージ・グレンをはじめとしたコーディネーターが移住した。
そして理事国はプラントを締め付けた。いや締め付けすぎた。
ノルマを課すことでな。
締め付けが過ぎれば当然自由を叫ぶ者が出てくる。
それがたまたまコーディネーターだっただけだ。
それが例えばナチュラルだったとしても独立を叫んでいたら
この戦争は起こっただろうさ」
戦場に出れば嫌でもコーディネーターの能力の高さには四苦八苦させられる。
撃墜数の結果から余裕だと言われがちだが毎回死に物狂いだ。
ソーマ自身ハーフコーディネーターではあるが能力の数値の上では
コーディネーターには及ばずねたんだこともあった。
特に同じ転生者であるルークはコーディネーターとして生まれている。
やろうと思えばできたはずだと。
それでも今はとにかく生き残ることを第一に考えていた。
「嘘よ。だってパパはコーディネーターが悪だって。危険だって」
「そうか。それはそうだ。子供にとって親の言う事はすべてであり価値基準だ。
君がその影響を受けるのも仕方がないことだ。
だが今日、君は異なる価値観、思想の人間と出会ったんだ。
もう少し視野を広げて周りを見てもいいんじゃないか?
そうして出た答えが新たな君の価値基準だ。」
「広い視野、新たな価値」
ソーマの言葉はフレイの中にストンと納まった。
フレイの中で今まで凝り固まっていた何かが砕けた瞬間だった。