捕虜交換から数時間後。
ラクスをプラントへ送る為の迎えの艦が到着した。
「残念ですわね。せっかくお会いできたのに、もうお別れなんて…」
「プラントでは、皆心配しています」
アスランの手に引かれて迎えの船まで向かう輸送機に乗り込むラクスにルークとルイスが
最後の挨拶をする為に扉近くで見送る。
「ロドクルーン隊長、お世話になりました」
「いえ、御身柄はラコーニの隊が責任をもってお送りするとのことです」
「インテグラやキリネイラムは追悼式典には戻られますの?」
「さぁ、それは分かりません」
「戦果も重要なことでしょうが、犠牲になる者のこともどうか、お忘れ無きよう」
「…肝に銘じましょう」
「何と戦わねばならないのか…戦争は難しいですわね。
お姉さまもありがとうございました」
「妹を助けるのに理由はいらないよ。気にしないで」
それから少し話した後
「では、またお会いできる時を楽しみにしておりますわ」
ラクスは挨拶をして輸送船に乗り、インテグラの隣に停船していたローラシア級で
本国であるプラントへ向かうのだった。
「何と戦わねばならないのか、か」
ラクスの乗ったローラシア級を艦内通路から見届けている時
ルークはアスランに告げた。
「イザークが足付きとの戦闘で負傷したそうだ」
「イザークが!」
「ストライクの攻撃を受けてコックピットが爆発してヘルメットのバイザーが割れて重症らしい。
奴はお前の友人はどんどん強くなっている。それが雷神の影響かは分からないがな。
アスランも心してかかれよ。でないと死ぬのはお前自身になるぞ」
「はい」
ソーマside
戦闘が終了し、キラは一人、展望デッキに来ていた。
もうすぐ第8艦隊と合流する。
だがキラの頭の中は別の事でいっぱいだった。
それはアスランの事。さっきまでの戦闘にはいなかったが
次はもしかすれば出てくるかもしれない。
キラはこれまで二度だがアスランと戦った。
ヘリオポリスでソーマから言われたことは今も頭に残ってるし戦う覚悟も決めた。
だがやはりアスランと戦えるのかと問われてしまえばすぐにはハイとは言えない。
それはキラ自身が一番よくわかっていた。
(どうすれば)
こんな時はいつもソーマやシュンが相談に乗ってくれるが
今はいないしこんなこと言えるわけがなかった。
「よう、キラ」
「戦闘お疲れ様。よく艦を守ってくれたな。
あと五分程で第八艦隊と合流できるらしい」
悩んでる時、ソーマとシュンがやってくる。
「大丈夫か?」
「え、あ、はい」
咄嗟にキラは取り繕う。
だがソーマにはそれは無駄だった。
「嘘だな。お前、悩んでるだろ」
「どうして?」
驚いてキラはソーマの顔を見る。
ソーマはしっかりとキラの目を見て答えた。
「顔見りゃわかる。短い間だが俺達は戦友だぜ。
戦友が苦しんでりゃ、なんとなくわかっちまうんだ」
「そう言う事、話してみるのも手だと思うよ。
案外、話せば楽になるかもしれないし」
ソーマに合わせるようにシュンは話す。
いつも通りの彼らにキラは重い口を開いた。
「イージスのパイロット、彼の名前はあすらん・ザラ。彼は僕の幼馴染みなんです。
まだ小さい頃…月で通っていた学校で知り合って、ずっと一緒でこのトリィをくれたのも、
アスランなんです」
キラの肩も、震えている。よほど、辛かったのだろう事は分かる。
「なんてこった」
「キラ」
肩を震わすキラに、シュンは右手で目を覆い、ソーマはまっすぐと目を見つめて彼の名を呼んだ。
そしてまだ年端も行かない彼を、しっかりと抱きしめた。
「辛かったな。よく、話してくれた」
キラは戸惑った目をして、隣にいるシュンを見たが、彼もジルと同じように
穏やかな瞳でキラに微笑みかけた。
「う、ううう…うぁあああ…!!」
本当は、アスランと戦いたくない。
そんな思いとそれを許してくれない状況の板挟みで苦しんでいた時
何のために戦うかを示してくれた二人の兵士が、
キラの心の中にあった苦しみを優しく受け止めてくれた。
キラは自分の中で堪えていたものを吐き出すように涙を流す。
しばらく嗚咽をあげて泣くキラを、ソーマは制服が涙で濡れるのも気にせず
頭を撫でたり、背中をさすったりした。
「辛かったな。今は思いっきり泣けばいい。全部吐き出しちまえ」
コーディネーターと言ってもまだ16歳の子供だ。
前世や今世で自身がキラと同い年だった頃、
ここまで悩んでため込んだ事はなかっただろう。
そう思うとソーマは少し後悔した。
もっと早くこうするべきだったと。
勿論、彼なりにキラの精神を支えていたつもりだった。
だが足りなかった。それに追い打ちをかけるようにくる
アスランの説得の言葉。勿論アスラン自身も今のキラと同じ思いだろう。
だがあちらは軍人として鍛えられている事も有り精神的にも大人だ。
だがキラは何の訓練も受けていない民間人。
そんな彼が覚悟を決める時間もないまま、人を殺し、ここまで戦ってしまった。
そして元々の性格なのか、やはりコーディネーターとナチュラルの差か、
あるいは敵味方の話であるせいなのか。
恐らくその全てだろう。キラはここまで溜め込んでしまった。
なら今は全てとはいかずとも少しでも吐きださせる事に努める。
それが今のソーマに出来る事だった。
キラが泣き止んだ頃フレイが展望デッキにやって来た。
三人を見つけたフレイは三人に抱き着いた。
「ありがとう。パパや皆を守ってくれて一度お礼を言いたかったの」
「フレイ。いやそんな」
「受け取っとけよ。キラ。それがお前が守った者だ」
「はい」
このお礼はキラにとって最上ともいえる褒美となった。
「フレイ!」
「パパ!」
そんな空気をぶった切るように数人の兵士を連れたジョージ・アルスターが複数の兵士を
連れてやってくる。フレイはそちらに向かいジョージとハグする。
ソーマとシュンはキラを後ろで庇いつつ規則正しい敬礼を行う。
キラも二人に倣ってぎこちなく敬礼をした。
「イーグル隊所属、ソーマ・ベリアルイン中尉です」
「同じく、シュン・イザワです」
「す、ストライクのパイロットの、キラ・ヤマトです」
その三人を眺めて、ジョージは感慨深く呟く。
「そうか、君たちが」
ジョージの傍にいるフレイが笑顔で三人を見つめた。そうだ、彼らが父を救い、
自分たちを守って戦ってきてくれた英雄だと言いたげに。
そんなフレイを見ずに、ジョージは緩やかに片手を上げた。
「そして、ストライクのパイロット…」
ジョージが手を上げたと同時、二人の背後から武装した地球軍兵士が現れる。
武装兵は、手に持ったアサルトライフルの銃口を、ジョージが向ける視線の先へ差し向けた。
「コーディネーターの、キラ・ヤマト…」
咄嗟の出来事だった。ソーマとシュンは素早く、キラを庇うように武装兵の前に立ち、
隣にいたフレイは呆然とその光景を見ているだけだった。
「パパ…?」
わずかに呟いた言葉も、ジョージの耳には届くことはなかった。
「アルスターさん!これはどういうことですか?」
「最初は素直に感謝したよ。私たちを助けてくれた君たちに。けど、驚いたよ。
ストライクのパイロットが、まさかコーディネーターだったとはね」
「パパ!キラはパパの言ってるようなーー」
「フレイ、コーディネーターは危険なんだ。今は大人の話をしている。わかるね?」
フレイの反論も、優しい口調で制するが、ジョージがキラに向ける視線は明らかに
嫌悪と侮蔑の眼差しだった。ジルは視線を鋭くして、ジョージと向き合う。
「キラをどうするつもりなんですか」
「彼は、ストライクの情報を知りすぎている。故に、月に到着し次第、
然るべき処置をさせてもらうつもりだ」
然るべき処置。ブルーコスモス派である彼のその言葉に、二人はは小さく舌打ちをして毒づいた。
だがそれに最初に反論したのはフレイだった。
「わからないわ。パパは誰のおかげでさっきの戦闘を生き残れたのかわかってないの?
キラはパパにとって命の恩人なのよ。恩人に対してこんな行動をとるのがパパの恩の返し方なの?」
フレイは自身の中に出来た新たな価値観の下にジョージに対して叫んだ。
そして元々純粋な彼女は気づいていた。この戦争がただコーディネーターを悪として
ナチュラルを正義として掲げてるほど簡単なものではないこと。
そしてその裏で利益を得て笑っている者たちがいる事に。
「フレイ、それは・・・」
「そうだというなら私、パパの事嫌いになるから!」
「フレイ、それとこれとは話が・・・」
「同じことだわ。助けたのはキラ。違うの?」
「それは・・・」
フレイに言い負かされうろたえるジョージ。
ソーマとシュンはそれを見てひそかに「「おーこわっ」」とつぶやいた。
そしてさらに人が集まる。
「これはどういう状況かね?」
現れたのはコープマンとクラウス、マリュー、ムウだった。
コープマンはジョージが兵士数名を連れて勝手にアークエンジェルに移動したのを知り、
急いで引き取りに来たのだ。
「アルスター外務次官。これはどういう状況でしょうか?」
「いや、これはだね」
「乗船される際、同行は確かに認めましたが兵士を勝手に動かす事、
更に変に動きまわる事はない様にお話しし、了解を得たはずですが?」
「いや、しかし」
「言い訳を聞く気はありません。それに彼の事を決めるのはハルバートン提督であって
貴方ではありません。すぐにモンゴメリにお戻りいただく。お連れしろ」
コープマンに睨まれてキラに銃を向けていた兵士は慌ててジョージを連れて行った。
それを見送ってコープマンはキラに前に出る。
「私が至らないばかりに不快な思いをさせてしまった。すまない」
コープマンは真摯に頭を下げた。
キラはそれに驚いてしまう。
「そして我々を助け、守ってくれている事、深く感謝する」
そう言ってコープマンは踵を返して去って行く。
キラはそれをただただ見送るだけだった。