「180度回頭。減速、更に20%。相対速度合わせ!」
アークエンジェルと隣接して宇宙空間を飛ぶのは、アガメムノン級宇宙母艦。
地球連合軍が保有する宇宙艦艇の中では最大級のサイズを有し、
主に艦隊旗艦や指揮艦を担当する宇宙母艦で
地球連合軍艦艇として初めてリニアカタパルトを搭載した艦であり、
大量のモビルアーマーを搭載し、両舷には艦載機射出用カタパルトを備えてオリ
艦首両舷にはアークエンジェルにも採用されたゴットフリートMk.71を有していて、
地球軍の中でも母艦としての攻撃能力、防御能力は群を抜いて高いなど、
母艦としての能力は高い。
「しかし、いいんですかねぇ。メネラオスの横っ面になんか着けて…」
アークエンジェルの操舵を担うノイマンがそんなことをぼやいた。すると、
いつもよりも緊張感の抜けたマリューがその疑問に答えた。
「ハルバートン提督が、艦をよく御覧になりたいんでしょう。
後ほど、自らも御出でになるということだし。閣下こそ、この艦と、
Gの開発計画の一番の推進者でしたからね」
「第8艦隊だけじゃなく第7艦隊も来ています。いったいなぜ?」
「ハルバートン准将と親、いやベリアルイン准将は旧知の仲だ。
年齢差はあるがな。それに反ブルーコスモス派筆頭である
ハルバートン准将の生存を第一に考えてる。
だからこそついてきたんだろ。ここで准将が死んでしまえば連合はブルーコスモスの
唱える反コーディネーター思想に一気に傾くからな」
「なるほど、だからこそ」
「そういう事だ」
ナタルの疑問にソーマが答える。
それを聞いていたパルが声を上げた。
「ていうかベリアルイン准将って?」
「俺の父親」
「そういえばそうだったな」
ソーマの言葉にムウが思い出したように同意する。
「元々は別の人物だったんだが怪我で退役して副指令だった親父が指令になった」
一方食堂では交代で休憩に入っていたミリアリアやトールたちがテーブルの一角を占領している。
「民間人はこの後、メネラオスに移って、そこでシャトルに乗り換えだってさ。
あ!でも俺達どうなるんだろ…?」
「降りられるに決まってるでしょう?こんなの着てたって、私達民間人だもの」
トールの言葉に、ミリアリアはやれやれといった風に答えた。
先日の戦い以降ZATEは目立った攻撃をして来ない。
第8艦隊は大きな艦隊だ。アガメムノン級のメネラオスを旗艦として、
ネルソン級の現在急ピッチで修理が行われているモントゴメリとカサンドロス。
ドレイク級のモントゴメリ同様修理が進められているローと、加えて三隻から構成されている。
加えてほぼ同規模で構成されている第七艦隊も加わり相当な規模だ。
当然モビルアーマーも相当な数だ。加えて雷神もいる。
いくらZATEと言えど戦力が揃わなければ簡単には手は出せない。
第8艦隊、第7艦隊所属のクルーはそう考えている。
アークエンジェルやギルデルク、モントゴメリとローのクルーを除いて。
その頃のアークエンジェルのハンガーは、まさに戦場だった。
マードック筆頭のアークエンジェルに所属する整備班に加えて、
ルーンを筆頭としたギルデルクの整備班も加わってメビウス・ゼロ、アルカナ、
メビウス、ストライクの整備を進めていた。
「なんでこんな急がなきゃならないんです?!」
ブリッチから下りてきたソーマやシュンと共にストライクの整備に駆り出されていたキラは
悲鳴を上げるようにストライクの装甲の下に潜り込むルーンやソーマに問いかけた。
「不安なんだよ。俺はこんな状況でも仕掛けてくる奴を知ってるからな」
「第8艦隊、第7艦隊と言ってもパイロットはひよっこ揃いよ!なにかあった時には、
やっぱりイーグル隊が出れないと困るでしょ!ほら急いで冷却装置持ってきて!」
ルーンが近くにいた整備員に冷却装置を持ってくるように頼む。
「必要ですか?」
「馬鹿、それがないと大気圏でコックピット内は300度超えるのよ。
あなたその中で生き残れるの?」
「直ぐ持ってきます」
「ゼロとアルカナとメビウスの分も持ってきておいてよ」
「了解」
そんな嵐のような激務の中で、キラはある視線を感じた。感覚に従って視線を追うと、
自分に向かって手招きをする人影を見つけた。
「ラミアス艦長…!?」
「あらら、こんなところへ」
メビウス・ゼロのセッティングを終えたムウが、キラに近づいていくマリューを見て呟いた。
無重力の中を緩やかに進むマリューをキラは優しく受け止めた。
「ごめんなさいね。ちょっと、キラ君と話したくて…」
ストライクのコックピットの前、
「ごめんなさい、キラ君。私自身、余裕が無くて、貴方とゆっくり話す機会を作れなかったから。
その…一度、ちゃんとお礼を言いたかったの」
「え?」
戸惑うような声を上げるキラに、マリューは心からの感謝と謝罪を込めて頭を下げた。
「貴方には本当に大変な思いをさせて、ほんと、ここまでありがとう。
いろいろ無理言って、頑張ってもらって、感謝してるわ」
マリューはいつもの緊迫した表情とは違った穏やかで優しい笑顔をキラに向けた。
「いや、そんな…艦長…」
戸惑いの中で、キラもマリューの優しさを素直に感じることができた。
自分で戦うことに覚悟を決めたから余裕があるのか、
マリューの感謝の言葉を何の疑いもなく受け取ることができたのだ。
ストライクの事を知ったとき、アークエンジェルで戦ってほしいといったとき、
マリューはいつも苦しげで、悲しげな表情を浮かべていた事をキラは今になって思い出す。
本当の彼女は、今目の前にいるような、優しい女性なのだろう。
「声には出さないけどみんな貴方には感謝してるのよ?」
マリューは優しく笑って、ストライクを見上げる。
そして、少しの沈黙の後、彼女はまた苦しそうな声で、キラに問う。
「キラくんは、本当に残るの?アークエンジェルに」
「はい」
「どうして?私が巻き込んだこととはいえあなたはまだ一般人に戻れるわ」
「戦う覚悟を決めたんです。成り行きとはいえ僕はもう銃を人に向けて撃ちました。
その責任は取らなければならないと思ったんです。
引き金を引いておいて、自分は関わりないですという事は出来ません」
マリューはキラのその言葉を聞いたことがあった。ソーマがヘリオポリス脱出時に言った言葉だ。
キラが精神的にソーマの影響を受けているのは分かっていた。
コーディネーターという事でどうしても孤立してしまいがちなキラにとって
そんなもの関係ないとばかりに普通に接してくれるソーマやシュンを頼ってしまうのは
無理もないことだとわかっているし艦の事で精一杯でソーマ達に甘えていたことは
マリュー自身理解している。
だからこそマリューにはそれを受け入れる事しかできないことは理解していた。
そして出来る限りフォローすることを決めるのだった。