機動戦ガンダムSEED-風神と雷神-   作:秋月 了

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PHASE-25 

 アークエンジェルの艦長室に入ったは、それぞれの立ち位置に立ち、

今後の方針をどうするかを話し合うことになった。

 

「しかし、ヘリオポリスの被害は…全く復旧に何年かかることか」

 

「説教は後にしろ、ホフマン。彼女らがストライクとこの艦だけでも守ったことは、

いずれ必ず、我ら地球軍の利となる」

 

ハルバートンの言葉に、反ブルーコスモス主義とは一線を画したホフマンは、眉を釣り上げる。

 

「しかし、アラスカはそうは思ってないようですが」

 

ホフマンの指摘に、ハルバートンは簡素な造りの机を拳で叩いて怒りを露わにした。

 

「奴等に宇宙での戦いの何が分かる!ラミアス大尉は私の意志を理解してくれていたのだ。

問題にせねばならぬことは、何もない。

第一、地球のアラスカ基地の地下で秘密裏に製造すれば良かったものを、

モビルスーツ否定派の一声で宇宙の辺境、ヘリオポリスに追いやられた。

今回の事件の大本の責任は地球に踏ん反り返る上層部にある」

 

ハルバートンは怒り心頭の表情でホフマンに言い返した。

言い返されてホフマンも黙る。彼自身モビルスーツ開発計画は彼も推奨していたし

その為にハルバートンと共に色々動いてきた。

そしてこの計画には多くの人員をつぎ込んでいる。

だがそのほとんどがそもそもアラスカでやれば必要のないことだったんのだ。

そして奪われることも子供たちに戦いを強いていることもなかった。

 

「ストライクのパイロットであるコーディネイターの子供の件は…これも不問ですかな?」

 

「キラ・ヤマトは、友人達を守りたい。ただその一心でストライクに乗ってくれたのです。

我々は彼の力なくば、ここまで来ることは出来なかったでしょう。ですが…成り行きとはいえ、

自分の同胞達と戦わねばならなくなったことに、非常に苦しんでいました」

 

マリューの記憶にあるキラは、いつも悲しげな眼差しをしていた。イーグル隊や、ギルデルクの

クルーの交流が無ければ、その瞳はもっと荒んだものになっていたのかもしれない。

 

「誠実で優しい子です。彼には、信頼で応えるべき、と私は考えます」

 

「しかし…」

 

「軍規については、我々が保証しましょう」

 

マリューの主張をクラウスが援護する。

 

「彼は幾度となく我々を危機から救ってくれました。仲間としても重要な存在になっています」

 

「彼はーーキラ・ヤマトくんは船に残ると?」

 

「はいイーグル隊への入隊を希望しています」

 

クラウスは嘘をついた。

ハルバートンがどういう人間かはクラウス自身わかっている。

だがここでそういう方がハルバートンやここにはいないイーグル隊の所属する第7艦隊の

指揮官であるベリアルイン准将自身も彼を擁護しやすいと考えたからだ。

 

「ふむ」

 

ハルバートンはしばらく考えたのち口を開いた。

 

「既にザフトに4機渡っているのだ。今更機密もあるまい。となるなら、

君にもアークエンジェルと旅路を共にして貰わねばならないな」

 

「航路を共にというのは?」

 

「ローグスター中佐にはアークエンジュルの試作艦、アーガマを受領し

アークエンジュルと共に地球に降下してもらう」

 

「アークエンジュルの試作艦?」

 

「そんなものが存在したのですか?」

 

「ラミネート装甲にモビルスーツ運用の実証実験の為の艦だ。

試作艦とは言っているが全くの別物だ」

 

「アークエンジュルはオーブ製だったのでは?」

 

クラウスは疑問をぶつける。

 

「元々はな。だが当然それらの完成設計を我々も目にしている。

それを元に実験の為に極秘に完成させた艦だ。

それにドレイク級では地球には降下出来んしな」

 

ハルバートンは悔しそうな顔をする。

本当なら同じ場所でモビルスーツやアークエンジュルを建造する予定だった。

だがアラスカのモビルスーツ反対派が余計な手を回したせいで

ヘリオポリスで建造する羽目になってしまった。

そのせいで多くの者たちを失ってしまっている。

 

「ヘリオポリスがザフトに制圧された今、アークエンジェルとGは、その全てのデータを持って、

なんとしてもアラスカへ降りねばならん」

 

残されたモルゲンレーテの設備や機材も、突然の災難でデータ消去もできずにザフトに

接収されたに違いない。プラントがヘリオポリスにあったモルゲンレーテのことに

何一つ言及しないのがその証拠だ。

自分たちの持ち場である宇宙を飛び越え、秘密計画を宇宙の隅に追いやった地球本部。

またプラントは機体とデータを奪った後、事を荒立てぬよう黙っているこの状況。

ハルバートンにはそれらが酷く苛立たしく思えた。

 

「G計画の開発は、なんとしても軌道に乗せねばならん!

ザフトは次々と新しい機体を投入してくるのだぞ?なのに、利権絡みで役にも立たん事ばかりに

予算を注ぎ込むバカな連中は、戦場でどれほどの兵が死んでいるかを、数字でしか知らん!」

 

目先の金や利権と引き換えに、戦場では家族や友人、地球のために戦う

若い兵が次々と死んでいることが、ハルバートン提督には我慢ならなかった。

彼もまた、この泥沼化した戦争を一刻も早く終わらせることを願っている人物だ。

そのために、宇宙という敵地の眼前に押し出されても、兵器の開発を完遂しようとしたのだ。

 

「分かりました。閣下のお心、しかとアラスカへ届けます!」

 

ハルバートンの心に真っ先に応えたのは、マリューだった。

その顔には「自分になんて艦長など」といった弱々しさはない。

キラも決断したのだ。大切なものを守るためにと。

なら軍人である自分にできることは何か?そう考えて辿り着いた答えに、マリューは心を決めた。

その姿を見て、ナタルもまた覚悟を決めた面持ちでハルバートンへ敬礼をする。

 

「頼む」 

 

それに頷いて答えて、提督は彼女らの隣に立つクラウスへ視線を向けた。

 

「君たちには、困難な道を言い渡すことを、承知で頼む…。ローグスター。

ベリアルインからも許可は取った。勝手な物言いだが、君も彼女たちを手助けしてやってくれ」

 

クラウスはそれに言葉で答えることはなく、ただハルバートンへ敬礼をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「除隊許可証?」

 

「私たち、軍人だったんだ」

 

「いかなる理由があろうとも民間人が戦闘に参加すればそれは犯罪になる。

これはそれを避ける措置だ。君たちはあの日から遡り既に軍に志願していた者とした。

これはその除隊許可証だ。なくすなよ」

 

ホフマンが説明を行い、ナタルがそれぞれに許可証を渡す。

 

「なお軍務中に得た情報はいかなる場合においても他人に「あの」ん?」

 

後ろにいたフレイが手を挙げてミリアリア達を押しのけて前に出た。

 

「君は軍に関わっていないだろう」

 

「いえ、あのキラの分は?」

 

ここで5人も疑問に思いながら口に出さなかった疑問をフレイは口にした。

 

「ああ。彼は本人の意思で軍に残ることになった。彼は少尉として

イーグル隊と共に艦と共に行動する」

 

「そんな」

 

「言っておくが艦長やフラガ大尉やベリアルイン中尉は降りるように説得したが

彼の意志は固く残る事決めたそうだ」

 

それを聞いたフレイは少し考えたに後、覚悟を決めた顔をする。

 

「私も軍に志願します」

 

「「「「!」」」」

 

「フレイ!」

 

その場にいる6人は驚いてフレイを見る。

今まで艦が少し揺れただけで悲鳴を上げていた彼女に軍人は無理だ。

そもそも彼女はサイやミリアリア達のように一定の技術力がある他の4人とは違い

箱入り娘だ。軍内で出来る事はないように思えた。

 

「私、この船に乗ってから色々な人に話を聞いて色々考えました。

今まで私は父と同じ考えでした!コーディネーターは悪だと、コーディネーターが

いるから戦争が起こるんだと。ずっとそう思っていました」

 

ずっとそうだとソーマに言われるまで信じて疑わなかった世界とフレイ自身の価値観。

それが、この船に乗ってから根底からひっくり返されたように思える。

 

「けど、違いました。コーディネーターを滅したら平和になるの?

そんなこと全然ない!そんなの、虐殺と一緒だと!」

 

ラクスのように、戦争を悲しむコーディネーターも、キラのように仲間のために命を

かけて戦うコーディネーターもいる。だからこそフレイは気づいた。

彼らもただ守りたいものを守るために戦っているだけではないのか?

それなのにただコーディネーターを悪として一括りにして滅ぼした世界に何が残る?

 

「世界は、コーディネーターが居ても居なくても、ナチュラル同士だったとしても!

いがみ合って、依然として戦争のままで私…自分は中立の国に居て

全然気付いていなかっただけなんだって、思い知らされた」

 

フレイはただ、父の思想が絶対だと思っていた自分を恥じた。そんなこと、

正しくないという視点が持てた故に、自分の醜悪さや、人としての未熟さを思い知らされた。

 

「でも、キラはそんな私たちを命がけで守ってくれてた。父のこともそうだし、そして今も。

そんな彼を一人にして…私は…!」

 

そんなキラを残して、この噛み合わない違和感を忘れては、

また自分はブルーコスモスの思想に染まってしまうのではないか。

それがフレイにとっては何よりも苦しく、辛くて怖いことだった。

 

「フレイ…」

 

サイも、フレイの変化に気がついていた。ユニウスセブンの後から

彼女の心の在り方が変わっていく様子を間近でみていた。

悩み、苦しんでいる姿も知っている。

フレイは伏せた眼差しをしっかりと上げて、ナタルに高らかに言い放つ。

 

「私も、アークエンジェルに残ります!」

 

 

 

 

 

 

フレイの言葉を聞いて、サイはナタルから貰ったばかりの除隊許可証を破いた

 

「サイ!」

 

「フレイの言ったことは、俺も感じてたことだ。それにキラだけおいていくなんて、出来ないしさ」

 

キラはコーディネーターだから。キラがモビルスーツに乗れるから。そう言って、

友達であるキラが戦っているのをただ見ているだけで、彼が悩んだり、

苦しんでいることに知っていながら何もしてやれなかった自分に、サイは腹が立っていた。

ただ、フレイが残ると言ったから、サイも残る決断をしたのではない。

自分にできることを精一杯やって、命をかけて戦うキラに応えたいと、本気で思った。

 

「トール?」

 

サイと同じように除隊許可証をやぶいてトールもサイと肩を並べた。

 

「アークエンジェル…人手不足だしな。この後落とされちゃったら、なんか…やっぱやだしよ

それにこのまま降りて元の生活に戻ったとしてもふとした時に

ああ、今キラが戦ってるかもしれないって考えちまった時、俺は罪悪感に押しつぶされちまうよ」

 

「トールが残るんなら…私も…」

 

「みんな残るってのに…俺だけじゃな…」

 

結局全員、同じ気持ちだった。キラと自分の間の差を感じて劣等感に襲われる事があっても

友達が一人で大切なものを守るために立ち上がった姿を、

戦いも、人の生き死にも目の当たりにした。それらを知らないふりをして、

ヘリオポリスの頃のような生活に戻るイメージを誰も持てなかったし、

それで納得できるほど子供でもない。

キラが大切なものを守るために立つなら、自分たちもそれに付き合おう。

それがトールたちの間で共有された思いだった。

 

 

 

 

 

 

 

ルークSIDE

 

 

 

ルークはブレリュードの発進準備を整える。

 

『隊長。全機発進準備整いました』

 

「わかった。各機発進しろ」

 

クロエ、レオンハルト、アスランが順番に発進していく。

 

「ルイス。艦を頼んだ」

 

『お任せを』

 

「ルーク・ロドクルーン。ブレリュード出るぞ」

 

ルークは機体を駆り宇宙空間に飛び出ていった。

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