北アフリカ・リビア
夜、アークエンジェルからかなり離れた砂漠。
一台のジープに乗る男性が、双眼鏡でその先に鎮座するアークエンジェルを見つめている。
「どうかな?噂の大天使は?」
「はっ。依然何の動きもありません」
「地上はNジャマーの影響で電波状況は滅茶苦茶だからな。
彼女は今だすやすやとお休みか」
砂漠の虎と恐れられるザフト北アフリカ駐留軍司令官であるアンドリュー・バルトフェルドは、
部下であるマーチン・ダコスタにそう告げて、準備していたコーヒーを口にする。
「ん?」
「は、何か?」
「いや、今回はモカマタリを5%減らしてみたんだがね…こりゃぁいいなぁ」
そういいながら砂丘を降りていく。
ダコスタは呆れながら後を追う。
バルトフェルドの向かった先にはパイロットスーツ姿の隊の面々が揃っている。
「ではこれより、地球軍新造艦、アークエンジェルに対する作戦を開始する。
目的は敵艦、及び搭載モビルスーツの、戦力評価である」
「倒してはいけないのでありますか?」
そう言った部下につられるように、何人かが笑い声を上げたが、
バルトフェルドは妙に真剣な眼差しだった。
「んーーーー。その時はその時だが…あれは遂にルークとクルーゼの隊が仕留められず、
ハルバートンの第8艦隊が多大な犠牲を払ってまで地上に降ろした艦だぞ?
それに雷神という宇宙で暴れまわった化物もいるらしい。それを忘れるな。一応な。」
その言葉で、パイロット全員が真剣になった。聞く話では、
モビルアーマーで幾度もモビルスーツを撃破し、ルークと互角に渡り合った化物だ。
一応念のために言っておくとZAFT内でもルークと戦って五分以上戦えるパイロットは
片手があれば事足りる。
因みにバルトフェルトは2分で負けた。
その事実を聞けばソーマがどれほどの物か、同期でその事実を知るバルトフェルドが
ソーマを化け物と称したか理解できた。
だが、それは宇宙での話。ここは地上だ。重力があり、大気がある。そして何よりも、
この地は自分たちが制した場所だ易々とは好きにはさせない。そんな覚悟が窺える表情だった。
「では、諸君の無事と、健闘を祈る!」
「総員、搭乗!」
ダコスタの声とともに、パイロットたちは後ろに鎮座するモビルスーツ、バクゥへ乗り込んでいく。
ここでは、この機体が王者だ。
空から落ちてきた奴らに、地上の洗礼というものを受けてもらおうじゃないか。
「ん~コーヒーが旨いと気分がいい。さ、戦争をしに行くぞ!」
「ふー、ルーン准尉!今日はこれくらいにしときましょうや。
あとの調整は、実際に飛ばしてみないと、分からねぇですよ…」
夜が深まった時間の中で、マードックは疲れたように背中を伸ばすと、
背骨がポキポキと気持ち良さげに音を立てた。どうやら自分も相当疲れているようだ。
「そうねぇ。やれるところまではやってはみたけど、ここから先は予測論になってくるから」
エンジン周りをいじっていたマードックやシュンとは違い、フラップなどのウイングや、
武装関係のチェックをしていたルーンは、疲れた様子でまとめていた資料用の
タッチパッドの電源を落とす。
「確実性の無い兵器なんて聞いて呆れますよ、まったく」
「まぁそう文句を言うなって」
ルーンの愚痴に答えたのは、コクピットで制御モジュールの確認をしていたムウだ。
この機体はイーグル隊の隊長であるムウが使用するので、
ペダルの硬さや、操縦系統のマッチングを手伝ってもらっていたのだ。
「キラもソーマも、元気になったし、明日は移動するかもしれんからなぁ。
あいつらの為にもとっと仕上げたいところだが…」
「しかし第八艦隊も偉いもん寄こしたもんだ」
「スカイグラスパー。最新機を三機にスピアヘッド一機ですかい」
「ソーマならこれでもなんとか乗りこなすんだろうが」
「でもそのたびに全部ばらさないといけないから大変だわ」
「悪いな。いつも」
「あら、噂をすれば何とやら?」
「暇だからな。手伝いに来た」
「ちょうどよかった。アルカナの修理も終わってそれに合わせて調整したの。確かめてみて」
「了解」
ソーマはそういいながら自分の機体に乗り込む。
ムウとルーンとシュンはその間スカイグラスパーの資料を見ていた。
「なるほど。ストライカーパックも装備できるわけね」
「中々面白い機体だね。俺らは宅配便か?」
「はははっ大尉と小尉じゃねえや少佐と中尉ならどこへでもお届けできますってねぇ」
「給料増えんのはうれしいけどいつ使えんの?」
「確かに」
「でもアラスカに着くころにはちょっとした金持ちだろうよ」
確認を終えたソーマがムウとシュンの愚痴に皮肉を混ぜる。
「そういや、キラ君って時々なんであれをガンダムっていうの?」
「起動画面に出るんだ。
その頭文字を繋げて呼んでるんだ」
「なるほどね。軍では最初の文字のGだけだったけどその方がかっこいいかも。
さてしばらく寝るとしますか」
「ですな」
全員が自室にむかっていった。