ムウ、マリュー、ナタルはレジスタンスの基地の指令ブースと言える場所に来ている。
「大したもんだ。しかしこんなとこで暮らしてんのか?」
ムウは周りを見ながら素直な感想を述べる。
「ここは前線基地だ。皆家は街にある。…まだ焼かれてなけりゃな」
「街?」
「タッシル、ムーラン、バナディーヤ…まぁ色々な所から来ている。俺達は、
そんな街の有志の一団だ。コーヒーは?」
サイーブはそう言って、くたびれたマグカップへコーヒーを注ぎ、3人分差し出した。
「ありがとう。船のことも、助かりました」
マグカップを受け取りながら礼を言うマリューへ、別に善意で助けたわけじゃない。
互いの利害が一致しただけだとサイーブは鋭い目つきのまま答えた。
「で、彼女は?」
ムウが一人だけ明らかに場違いな外見の少女を視線で指しながら訪ねた。
「俺達の勝利の女神だ」
「ヘぇ、名前は?」
またもムウが名前を聞く。
「・・・・・・・・・」
答えが返ってこないのでムウはサイーブの方を向いて肩をすくめる。
「女神様じゃ、名前を知らないと悪いだろ」
サイーブはコーヒーを一口飲んだ後むっつりと答えた。
「カガリ・ユラだ。ところで、あんたたちゃぁ、アラスカに行きてえってことだよな」
そしてすぐに話題も逸らした。
「そらぁZAFTの勢力圏と言ったって、こんな土地だ。
砂漠中に軍隊が居るわけじゃぁねぇがな。だが、
3日前にビクトリア宇宙港が落とされちまってからこっち、奴等の勢いは強い」
「ビクトリアが?」
「3日前?」
「あらら」
サイーブの言葉に、ムウはなんてこったと小さく、腹ただしそうな声で呟く。
サイーブはなんとも無いような様子でコーヒーに口をつけた。
「アフリカ共同体は元々プラント寄り。頑張ってた地球軍派の南部統一機構も、
遂に地球軍に見捨てられちまったんだ。せめぎ合うラインは日に日に変わっていくぜ?」
「そんな中で頑張るねぇ、あんたらは」
ムウの嫌味にも似た言葉に、サイーブの表情に影がさした。
「俺達から見りゃぁ、ZAFTも、地球軍も、同じだ。どっちも支配し、奪いにやって来るだけだ」
もともと、このアフリカという土地は侵略と略奪にまみれた世界だ。
開拓という名目で土地を奪われ、物のように扱われ、今も都合のいい戦場として利用されている。
地球軍もザフトも、現地で静かに暮らす人々のことなどこれっぽっちも考えずに、
大量に人が死ぬ戦争をしているのだ。
それをはい、そうですかと黙って見ていられるほど、サイーブたちは臆病者にはなれなかった。
「あの船は、大気圏内ではどうなんだ?」
気を取り直したように言うサイーブに、ナタルが姿勢を正して答えた。
「そう高度は取れない。低空での移動になる」
「じゃあ山脈が越えられねぇってんなら、あとはジブラルタルを突破するか…」
イベリア半島ジブラルタルのザフトの軍事基地。
第一次カサブランカ沖海戦においてユーラシア連邦艦隊を破ったザフトは、
イベリア半島の最南端ジブラルタル海峡を望める地にジブラルタル基地を建設した。
以後ヨーロッパ・アフリカ侵攻の橋頭堡としてザフトの重要拠点となっている。
当然そこには大量のモビルスーツがあるわけで、
そんなところを戦闘艦1隻と戦闘機2機とストライクとアルカナで突破できるわけがない。
結果などやる前からわかり切っている。
「この戦力でか?無茶言うなよ」
「なら頑張って紅海へ抜けて、インド洋から太平洋へ出るっきゃねぇな」
「太平洋…ですか」
「補給路の確保無しに、一気にいける距離ではありませんね」
「大洋州連合は完全にザフトの勢力圏だろ?赤道連合はまだ中立か?」
太平洋に出てからのことを考え始めるマリューたちに、
サイーブは困ったように顔をしかめながら話を引き戻した。
「まったく、気が早ぇな。もうそんなとこの心配か?
ここ!バナディーヤにはレセップスが居るんだぜ?」
「あ…頑張って抜けてって、そういうこと?」
引きつった笑顔を浮かべるムウに、サイーブは無表情で頷く。
この地を安全かつ素早く離れるには、
砂漠の虎と恐れられるアンドリュー・バルトフェルドとの一戦は避けられないものだった。
「ふぅ」
その頃、キラはアークエンジェルのカモフラージュ作業を終えて、小高い丘の上で一息ついていた。
人型を模したストライクだからこそ、カモフラージュ用の布を覆いかぶせる作業や、
大きなテントを張るにも重宝され、キラはいつもの戦闘での操縦とは違った繊細な操作に
少々疲れを感じていた。
「ご苦労さん」
そんなキラへ、後ろからやってきたサイがミネラルウォーターが入ったボトルを手渡して労った。
「ありがとう、サイ」
ボトルを受け取って一口煽る。うん、美味しいとキラは疲れた心に染み渡っていく冷たさを
味わっていると、サイも隣に腰を下ろしてボトルを呷った。
「なぁキラ。地球の戦いって、やっぱ大変か?」
しばらくして、サイはそんなことをキラに聞いた。キラは昨日の戦闘を
思い出しながら困ったように笑う。
「うん、モビルスーツって重いから、地球の重力にもろに引かれちゃって」
思い出してみれば昨日の戦闘も綱渡りの戦闘だった。
ソーマが戦闘ヘリを即座に破壊し援護してくれたからこそまだ余裕があった方だ。
それがなかったらと思うと今でも肝を冷やす思いだ。
宇宙との違いで戸惑う事もあった。
だがキラには指針がある。
モビルスーツとモビルアーマーの違いこそあるが
ほぼ同じ条件下でソーマはほとんど問題なく機体を宇宙にいたころと同じように
動かし自分より先に敵機を墜としていた。
彼にできるなら、自分もやらなければ。そんな気持ちがキラの中にはあった。
それはコーディネーターという事から来る傲慢な考えではない。
ただキラにとってソーマは目標であり憧れなのだ。
ふと下を見ればルーンが指示を出していた。
その隣でフレイがつなぎを着て指示を受けながら働いている。
「フレイ?」
「ああ、ルーン准尉にスカウトされたらしい。
フレイ、計器とか扱ったことないから艦で出来る仕事ってほどんどなくてさ。
ほとんどの時間部屋で寝転がってるしかなくて。そんなフレイを見て
暇なら手伝えって、ルーン准尉が。働かざる者食うべからずって怒られたって言ってた」
「そうなんだ」
「筋がいいって褒められたとも言ってたかな。正直今までより生き生きとしてる」
「そう」
サイの言葉にキラはそっけなく返事する。
サイとフレイが婚約関係にあり更にその関係が進展していることは
トールから聞いていたし自分でも応援しているがやはり少し彼にも嫉妬はあるのだ。
だがそんなことは知らないサイは嬉しそうにフレイの事を話す。
だからなのか嬉しそうに話すサイや眼下で張り切って働くフレイを見て
キラはこの幸せを絶対に守ろうって心に決めるのだった。
「じゃあ、俺も仕事あるし。キラもあんまり無理するなよ?」
「大丈夫、ありがとう。サイも無理しないで」
サイは腰を上げると、アークエンジェルへ戻っていく。キラも少し休憩してから
ストライクへ戻って作業に取り掛かる。
仕事がひと段落したのは日が落ちる頃だった。
キラはストライクを降りて一人その場に座っていると
一人の少女が坂道を上がってきた。
「さっきは…悪かったな。殴るつもりはなかったーー訳でもないが…あれは勢いだ。許せ」
なんともぎこちない言葉だ。謝っているのだろうけど、それを伝える言葉にすら戸惑いを感じる。
勝気に見える彼女の容姿からは想像もできなかった言葉に、キラは思わず吹き出してしまった。
「な、何がおかしい!」
「何がって」
しばらく笑っていると、少女は安心したように目を細めた。
「ずっと気になっていた。あの後…お前はどうしただろうと」
ヘリオポリスで、自分だけをシェルターに入れてくれた見ず知らずの少年。
悲惨な戦場、破壊されたヘリオポリスの港や外壁は、少ないながらも死傷者を出すことになった。
もしかしたら彼も死んでしまったのではないのか?無事だろうか?色々な事を考えていた。
それが、
「なのに!こんなものに乗って現れようとはな」
カガリはキラの背後に立つストライクを見ながら皮肉を言う。
「おまけに今は地球軍か!」
「いろいろあったんだよ。・・・・・・・・・・いろいろとね」
キラはうつむきながら答えた。
カガリはそれで色々と察して、
「そうか」
とだけ答えた。
前線基地に警笛が響く。
サイーブは指令室を飛び出す。
「どうした?」
「空が・・・空が燃えてる!」
「タッシルの方角だ」
さらなる波乱の気配がすぐそこまで近寄っていた。