機動戦ガンダムSEED-風神と雷神-   作:秋月 了

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PHASE-34 現実

レジスタンスのジープを追い越して二機のスカイグラスパーが街の上空にたどり着く。

 

『ひでぇ。こりゃあ、全滅かな』

 

「少佐。どうやら違うようですよ。3時の方向です」

 

『何!本当だ。こちら、フラガ。町には生存者がいる。というかかなりの皆さんがご無事のようだぜ』

 

『敵は?』

 

「もう姿はありません」

 

『そう。という事は』

 

「そういう事でしょうね。艦長」

 

そう、砂漠の虎は、レジスタンスにお灸を据えにきただけだったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

「動ける者は手を貸せ!怪我をした者をこっちに運ぶんだ!」

 

サイーブ指揮の元、レジスタンスが街の外へ逃げていた人々の状況確認に精を出していた。

少し離れた場所に自機を着陸させたムウとソーマは、そのやり取りを遠巻きに眺めている。

ちなみにトールはスカイグラスパーの中でマッピングデータの解析をしながら、

加圧装置で痺れた足の感覚が戻ってくるのを待っている。

 

「サイーブ!」

 

「長老、ヤルゥ」

 

「父ちゃん、カガリ!」

 

長老に肩を貸して立つサイーブの息子ヤルゥの元にカガリとサイーブは近づく。

 

「無事だったか。母さん達は?」

 

「シャムセリンの爺さんが逃げる時転んでそっちについてる」

 

「そうか。よく頑張ったな!」

 

サイーブは笑顔で息子の頭を撫でる。

そして真剣な顔になり長老に顔を向ける。

 

「どれくらいやられた?」

 

「死んだ者はおらん」

 

「何?」

 

「最初に警告があったんでな。今から街を焼く、逃げろ。とな」

 

「なんだと!?」

 

その言葉に最初に反応したのはカガリだ。

 

「そして焼かれた。食料、弾薬、燃料・・・全てが。確かに死んだ者は居ない。

じゃがこれではもう・・・・・生きてはいけん」

 

焼け野原になったタッシルの街を眺めながら、長老が暗い声で呟いた。

そんな長老の表情を見たサイーブは拳を握りしめて叫んだ。

 

「ふざけた真似を!どういうつもりだ!虎め!」

 

「だが、なんとかできるだろ?生きてればさ」

 

そんな怒りに震える皆に冷や水を浴びせるように、ムウが呟く。

ついでと言わんばかりにソーマも腕を組んで、言葉を加えた。

 

「どうやら虎は、あんたらと、本気で戦おうって気はないらしいからな」

 

「どういうことだ?」

 

ムウとソーマの言葉に、明らかに怒った目つきでサイーブが尋ねた。

他のレジスタンスや、街の住人たちも同じような目をしていたが、

ムウは気にする様子もなく堂々としていた。

 

「見てわからないのか?こいつは昨夜の一件への、単なるお仕置きだろ。

こんなことぐらいで済ませてくれるなんて、随分と優しいじゃないの、虎は…」

 

「なんだと!こんなこと!?街を焼かれたのがこんなことか!?こんなことする奴のどこが優しい!!」

 

詰め寄ってくるカガリに、ムウはため息を吐いた。激昂しているカガリ達には分からなかったが、

ムウの瞳には明らかな呆れと諦めが浮かんでいた。

 

「…失礼。気に障ったんなら、謝るけどね…けど、あっちは正規軍だぜ?本気だったら、

こんなもんじゃ済まないってことくらいは、あんたらだって分かるだろ?」

 

「あいつは卑怯な臆病者だ!我々が留守の街を焼いて、これで勝ったつもりか!

我々は、いつだって勇敢に戦ってきた!この間だってバクゥを倒したんだ!だから、

臆病で卑怯なあいつは、こんなことしか出来ないんだ!何が砂漠の虎だ!」

 

そう言葉を荒らげてカガリがムウに更に近づこうとした瞬間、

彼女のジャケットをソーマが引っ掴んでたぐり寄せた。

 

「いい加減にしろ!」

 

何人かのレジスタンスや、キサカが身構えたが、誰も何も言えなかった。

それは当事者であるカガリもだ。ムウはまだ優しい方かったがソーマは違う。

その目は単にカガリたちのような怒りを帯びたものではない。もっと暗く、闇のような静けさを

持ちながらも、雷のような恐ろしさがある目だった。

 

「向こうはゲームでも、勇敢な戦士同士で勝敗を決める戦いをしてるわけでもない。

戦争をしてるんだ。わかるか?戦争をだ。何がバクゥを倒しただ?

ストライクが居なければ気付かれないところで黙って指を咥えて見てただけだろ」

 

「だが!」

 

「戦争は遊びでも、ゲームでも、ましてやお前たちのような感情で左右されるような奴らが

生き伸びられるほど甘いもんじゃない!住民に勧告してから火で街を焼く?

優しいに決まってるだろ!非道なら勧告もせずにバクゥで町を人間事蹂躙して終わり!

お前たちのジープもミサイルすら使ってもらえずに踏みつぶして蹂躙して終わり!

わかるか?それが、戦争なんだよ!!」

 

そう言って、ソーマは乱雑にカガリを離した。

離されたカガリは尻もちをつきソーマを見上げる。

 

「お前達は虎から対当に戦う相手として見てもらえてすらいない。

それを理解しろ!!戦争はヒーローごっこなんかじゃないだ!!」

 

全員が、怒りに震えていた。だが反論は出来なかった。

ソーマが言った事は誰もが心の奥底で気付いていたことだった。

特に、バクゥや敵のモビルスーツを前にした者達なら尚更だ。自分たちの持つ火器やジープが、

モビルスーツの前では全くの無力であることを知っていた。

戦わなければメンツが立たない。しかし、本気の戦いになれば蹂躙される。

ただ、今は砂漠の虎の情けで生かされているという立場がわからないほど愚かではなかった。

それでもなおカガリは反抗的な目をソーマに向けていたが、その反論をソーマは許さなかった。

そもそもソーマによって現実を突きつけられて反論できるわけもない。

ただ地面の砂を握りしめることしか今のカガリにはできなかった。

 

「サイーブ!」

 

「…なんだ?」

 

「来てくれ!」

 

リーダー格であるサイーブが他のレジスタンスに呼ばれたのをキッカケに、

止まっていたように感じた時間が動き出す。

 

「今はとにかく生きることを考えよう。そこから始めるしかないだろ」

 

丁度その時ナタルが率いてきた救援物資が届き軍医が

怪我人を診察し始める。

ソーマは苛立ちを隠しもせずにスカグラスパーの元に戻る。

 

「えーと…まぁ…嫌な奴だな、虎って…」

 

ムウは困ったように呟いた。

その声に応える者は誰もいなかった。

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