捕食者系魔法少女   作:バショウ科バショウ属

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 みんな海外勢への当たりが強すぎるッピ!


番犬

 かつて旧首都より進出を図るインクブスとウィッチが激突した旧首都郊外。

 ポータルによる神出鬼没な戦法が主流となるまで()()に固執したインクブスの侵攻で、一帯は無人地帯となっている。

 主人を失った建築は緑に侵食され、静かに朽ちていく。

 その一つ、廃れた町工場より夜空へ伸びる煙突。

 墓標のように聳えるそれの頂点に、絢爛たる装いを身に纏う少女が2人。

 

「あの、アズールノヴァさん」

「なんですか?」

 

 アズールノヴァは振り返ることなく、蒼い瞳で眼下の街並みを観察する。

 エナの透過した場所は全て見える目だが、()()()()()()()()()

 つい最近、それを理解した協力者は恐る恐るという体で切り出す。

 

「さすがに今日は現れないと思うのですが……」

「それはインクブスにしか分かりませんよ」

 

 インクブスが激減したことで、多くのウィッチは束の間の平和を謳歌している。

 しかし、インクブスは侵略を諦めたわけではない。

 今宵も尖兵と化したウィッチが1人、蒼き焔によって処断されたばかり。

 そして、それが最後とは限らないのだ。

 

「連中以外にも警戒する必要があります」

 

 ドローンの運用者(アメリカ軍)は姿を見せていないが、ホームレスに扮した不審な人物を捕捉している。

 捕捉した場所が()()()ファミリアが交戦した地点となれば、限りなく黒だ。

 

「そ、それは…そうなんですけど……」

 

 月光を反射して瞬く刃に肩が跳ねるもレッドクイーンは弱々しく食い下がる。

 

「さすがに連日は、私、無理です……」

 

 両手で握り締めた懐中時計へ視線を落とすワインレッドの瞳は、瞼が微かに落ちかけていた。 

 睡魔に辛うじて抗っているが、限界はそう遠くない。

 連日連夜、生命の危機に晒され、時に殺人の片棒を担がされ、疲弊しないはずがなかった。

 

「…失念してましたね」

 

 アズールノヴァを名乗る以前、連戦に次ぐ連戦で鍛えられた自身を基準としていた。

 単独行動が常であったがゆえに。

 身の丈ほどもあるソードを一瞬で燐光へ変え、蒼いウィッチは小さく溜息を漏らす。

 

「ご、ごめんなさい」

「いえ、倒れる前で良かったです」

 

 小さく縮こまるレッドクイーンを一瞥し、顎に手を当てて黙考する。

 

 アズールノヴァは言葉の通じぬ狂人ではない──()()()()()()()()()()

 

 敵と看做した者を平然と斬殺する狂気を、華奢な体の内に飼っている。

 それは間違いない。

 

「明日は私だけでやります」

 

 しかし、協力者と認めた()()()ウィッチを使い潰さない程度には理性的だった。

 

「え…?」

 

 簡単に解放された事実を呑み込めず、餌を取り上げられたハムスターのように硬直するレッドクイーン。

 それを横目にアズールノヴァは淡々と言葉を続ける。

 

「力を発揮できない状態で連れ回しても足手まといですから」

 

 ここまで強制的に連行してきた張本人の言葉は辛辣だったが、首と胴が泣き別れするより良い。

 

「ありがとうございますっ」

 

 頭を下げて感謝を口にする協力者から興味を失ったアズールノヴァは、眼下の街並みへ視線を戻す。

 感謝の言葉など不要。

 都合の良い協力者であれば、それ以上は求めない。

 

「…あ、あの」

 

 途切れるかに思われた会話は、継続された。

 闇の彼方を見通す蒼い瞳が真紅のウィッチへ向けられる。

 

「アズールノヴァさんは……学校とかないんですか?」

 

 出会ってから抱いていた疑問を口にするレッドクイーン。

 喩えるならアズールノヴァは恐ろしく斬れる業物だが、一度も鞘に納まったところを見たことがない。

 プライベートが存在しているのかと心配になるほど、連日活動しているのだ。

 

「あ……あ、えっと」

 

 ()()の写真をSNSで拡散した前科がある身で、それは不用意な詮索だったが。

 睡眠不足で思考の鈍っていたレッドクイーンは自身の言葉を反芻し、徐々に青ざめていく。

 取り繕う言葉を必死に探し──

 

「通ってますよ」

 

 まるで他人事、淡泊な返答に遮られた。

 天敵を前にした小動物のように縮こまる協力者を見て、アズールノヴァは鼻を鳴らす。

 

「意外でしたか?」

「い、いえ…」

 

 慌てて首を横に振るレッドクイーン。

 本来ならば学生に相当する者が多くを占めるウィッチである以上、アズールノヴァも例外ではない。

 敵と認めれば躊躇なく凶刃を振るうウィッチも蒼き装いを纏っていない時は、学徒の1人である。

 

「たとえ薄氷の日常だとしても、約束したので」

 

 言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 アズールノヴァの月光を宿した瞳は、彼方を見ているようで、何も見ていない。

 まるで、抜け殻だ。

 その空虚な様に、誰との約束かと踏み込むことは憚られた。

 

「そういえば……最近は、興味深いこともありましたっけ」

 

 ふと、記憶の片隅にあった出来事を思い出し、独り言ちるアズールノヴァ。

 その口元には人間味のある笑みが浮かぶ。

 

 柔らかな表情を覗かせる少女の横顔は──非の打ち所がないほど完成されていた。

 

 敵へ向ける笑みは激しい攻撃性をマスキングするため。

 しかし、今の笑みは不純物のない感情の発露だった。

 それに見惚れていたレッドクイーンは、蒼い瞳が怪訝な色を宿したところで慌てて口を回す。

 

「私は成績が心配ですかねっ…さ、最近、授業中に意識が──」

「勉強なら教えましょうか?」

「はぇ?」

 

 まったく興味を示さないであろう話題を振ったはずが、アズールノヴァは乗ってきた。

 その現実を処理できず、再び硬直するレッドクイーン。

 

「どうかしましたか?」

「え、あの……どうやって?」

 

 混乱する頭が出力した言葉は、実現性について問うもの。

 しかし、聞くべきは実現性ではなく、前身の首を刎ねたウィッチの真意だ。

 

 額面通り善意を受け取って良いものか、そもそも善意なのか──

 

 様々な思考が衝突し、渋滞を起こし、睡眠不足のレッドクイーンは、やはりハムスターになる。

 

「一応、同級生ですからね」

「同級生……ふぁっ!?」

「制服と学年章」

「あ…」

 

 半眼のアズールノヴァに指摘され、レッドクイーンは自身が連行される時の格好を思い出す。

 そして、平穏と思われていた学校生活に凶刃の影があった事実に震える。

 

()()()のプライベートまで拘束するつもりはありません。だから、提案です」

 

 そんな協力者の内心に興味のないアズールノヴァは言葉を続ける。

 無償の善意ではなく、当然思惑はあるが、強制するほどの重要性はない。

 ゆえに、提案。

 

「どうして…ですか?」

「レッドクイーンは宣誓通り、私に協力しています」

 

 再誕した瞬間から生殺与奪の権利を握られていたイレギュラー(同類)は、己の生存のために協力を申し出る。

 それを承諾こそしたが、協力とは名ばかりの監視、敵対すれば処分するつもりだった。

 

「選択肢はなかったでしょうけど、おかげで私は多くの事が為せた」

 

 しかし、レッドクイーンは想像よりも有用で従順だった。

 特に空間を置換するマジックは、有象無象を駆逐する効率を大きく向上させた。

 エナを放射し続けているがゆえに被発見率が高いアズールノヴァにとって、奇襲を可能とするアドバンテージは大きい。

 

「だから、報酬のようなものですね」

 

 本来は報酬などで縛られない両者の関係性。

 これはアズールノヴァの()()()()だが、感謝していないと言えば嘘になる。

 そんな胸中を知るはずもない協力者は、鈍った思考の中で次の言葉を慎重に選んでいた。

 

「あ、あの──」

「シルバーロータス様」

 

 それは中断を余儀なくされる。

 アズールノヴァは何事よりも優先される対象を捕捉した。

 飼い主を発見し、耳を立てる大型犬の姿をレッドクイーンは幻視する。

 

「行きますよ、レッドクイーン」

「あ、はい」

 

 拒否権はない。

 レッドクイーンは蒼い瞳の向けられた方角を確認し、懐中時計に視線を落とす。

 

()()は使わずに」

 

 しかし、細い指を重ねられ、マジックの発動は中断を余儀なくされる。

 アズールノヴァは流れるような所作でレッドクイーンの脇に右腕を通し、両膝の下に左腕を差し入れ──

 

「え、え?」

 

 状況を飲み込めず固まる協力者を軽々と抱き上げた。

 所謂お姫様抱っこ。

 マジックによる空間置換は彼女を警戒させると判断したため、あえて姿を晒すのだ。

 

「暴れたら落としますから」

「アズール──」

 

 聞く耳を持たないアズールノヴァは跳ぶ。

 マジックと脚力を織り交ぜた跳躍で重力を振り切って、夜を飛び越える。

 猛禽に捕獲された小動物のように身を硬くするレッドクイーンを抱えて。

 

 電波塔、電柱、屋上の給水タンク、それらを足場に跳躍を繰り返し──前触れもなく重力に身を委ねて自由落下。

 

 アスファルトへ軽やかに降り立ったヒールが雅な音を奏で、燐光が舞う。

 

「もういいですよ」

「ひゃ、ひゃい」

 

 生まれたての小鹿よろしく立つ協力者から眼前の建築物へ蒼い瞳を向ける。

 降り立った場所は郊外にある廃工場前。

 外壁は緑に侵食されているが、赤錆びたシャッターは明らかに()()()()()()()()

 屋内は抜け落ちた天井より注ぐ月光以外に光源はなく、闇が滞留していた。

 

「ここに…?」

「はい」

 

 アズールノヴァはシャッターより上を一瞥してから足を進める。

 その背中に恐る恐る追従するレッドクイーンは、一歩進むごとに顔が引き攣っていく。

 

 ──足音だ。

 

 虫の鳴く夜であれば、耳を澄ましても聞こえない程度の。

 しかし、不気味な静寂の中、コンクリートの床面を叩く()()()()()は、廃工場内を反響して鼓膜を叩く。

 

 内と外の境界線で足を止める2人のウィッチ──その視線の先、月光の下に現れる影。

 

 鼠色の小柄な人影と周囲で蠢く長大な影。

 

「…アズールノヴァ?」

 

 紅い瞳を瞬かせるビスク・ドールの如きウィッチ。

 そして、主を守護するように()()()を巻く毒々しい紅色のヤスデが訪問者を出迎えた。




 番犬というより狂犬では(直球)
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