捕食者系魔法少女   作:バショウ科バショウ属

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 そろそろ捕食寄生、見たいネ(唐突)


粉砕

 ポータルによる神出鬼没な攻撃ではなく、領土獲得を主目的とする侵略に移行したインクブスにアメリカ軍は敗退を続けていた。

 熱核兵器による攻撃ですら国土を荒廃させるだけで侵略者を一掃できず、世界の警察は持てる通常戦力で対決する道を選んだ。

 これは、そ(・)の(・)結(・)果(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

『こちらゴースト34よりゴルフ中隊へ、現在急行中! 現在地を教えてください!』

≪助かった! 現在、中隊はオレンジ・ストリートを北上中──≫

 

 無線越しに爆音が響き、声が途絶える。

 歯噛みする少女の淡い青の瞳は、濛々と黒煙の立ち込める住宅街を睨む。

 銃声、砲声、そして爆音が絶え間なく響く。

 

≪くそ、敵の数が多い! 急いでくれ!≫

 

 息を吹き返した無線からは銃声が漏れ聞こえ、切迫した状況を伝えてくる。

 ゴルフ中隊の位置がオレンジ・ストリートと把握した今、彼(・)女(・)た(・)ち(・)の行先は決定した。

 

『了解! 行くよ、皆!』

 

 物理法則を無視して空中を飛翔する少女は、手を繋ぐ左右の戦友に勇ましく告げる。

 

『了解!』

 

 打てば響く返答。

 34の番号が描かれた灰色のロングコートを纏う4人のウィッチは、エナの残量に注意しつつ加速する。

 後ろで結った白い髪が戦場の風を受けて靡く。

 4対の青い瞳が忙しなく動き、戦場の情報を収集する。

 

 そして、活発に動く敵集団を捕捉──空中にてエナの収束を探知。

 

『散開っ』

 

 一斉に手を離し、空中へ散らばることで生まれた間隙を紫電が走る。

 エナを糧に発動したインプのマジックだ。

 回避に成功したウィッチの1人が背負ったアンチマテリアルライフルを構え、躊躇なく発砲する。

 

『後方にインプ型8体! 地上戦力は……とにかく多い!』

 

 敵情を報告しながらマガジンを空にしたウィッチは、命中を確認できず舌打ちする。

 物理法則に則った火器は、いかに身体能力が優れていようと簡単には命中しない。

 散開したことで飛翔のマジックが弱まったゴースト34は、地面へ向かって落ちていく。

 

 急速に迫るアスファルトの黒──マジックが墜落を着地に変える。

 

 衝撃を殺し、即座にストリート上を一直線に疾走する。

 スピアとメイスを携えた2人が前衛、トマホークを肩に担ぐ1人が砲手、そしてリーダーが観測手。

 ゴーストで呼称されるチームの基本編成だ。

 

『連中にマジックを叩き込むっ』

『12時方向、800m先、趣味の悪い冠を被ったオーク型を狙って!』

『了解!』

 

 観測手の目を信頼する砲手は、綺麗なフォームでトマホークを投擲。

 回転する刀身が兵士の頭上を飛び越し、スカルの冠を被ったオークの頭蓋へ突き刺さる。

 

 閃光──焔と衝撃波が周囲のインクブスを吹き飛ばす。

 

 しかし、意図的に密度を下げている群れへの被害は少ない。

 効果の薄さにウィッチたちの表情は険しくなる。

 エナで形成されたトマホークは残り3本、使用のタイミングを見極める必要があった。

 

『ウィッチが来たぞ!』

『おお!』

 

 交差点近くで主力戦車2両を盾に応戦していた兵士たちは歓声を上げる。

 それにウィンクで応える前衛のウィッチが、ゴブリンの先鋒へ切り込む。

 

『遅くなりました!』

『来てくれたか』

 

 ゴースト34のリーダーは、通信兵の隣で指揮を執る士官の下へ飛び込む。

 着剣したライフルを携える中尉は、険しい表情を微かに和らげた。

 

『これより後退を支援しま──』

『新たな敵集団が接近中! 数は60!』

 

 少女の声を遮る兵士の野太い声。

 けたたましい銃声を分隊支援火器が奏で、至近に矢弾の風切り音が降る。

 

『後退しようにも連中が離してくれなくてな……』

 

 戦闘続きで疲労は隠し切れないが、肩を竦めてみせる中尉。

 それに対して、ウィッチは口元に味のある笑みを浮かべる。

 戦場で見られるニヒルな笑みだ。

 

『前へ出ます!』

『頼む!』

 

 両者は弾かれたように動き出し、ウィッチと兵士は敵と相対する。

 リーダーが矢弾を躱してチームに合流、ゴースト34は本来の戦力でインクブスを迎え撃つ。

 

『火力をオーク型に集中しろ! 接近させるな!』

 

 無数の矢弾を受けていた主力戦車が砲塔を旋回させ、住宅沿いに接近を図るオークを狙う。

 長大な主砲が照準を終え、強烈な衝撃波と共に砲弾を吐き出す。

 

 着弾、炸裂──オークの上半身が捩じ切れ、後方のゴブリンまで挽肉に変える。

 

 供給の限られる貴重な砲弾を出し惜しむ余裕などない。

 オークの高い身体能力は脅威であり、投擲物を手にした個体は最優先で撃破する。

 

『敵弾来る!』

『うわ、くそっ』

 

 矢弾の雨が飛来し、被弾した兵士が路上に倒れ込む。

 原始的な構造の飛び道具だが、その矢弾は易々と人体を貫通する。

 

『3名負傷!』

『いてぇ、いてぇよ!』

『くそっ出血が…後送しないとまずい!』

『小隊規模がチャーチ・ストリートから迂回中!』

 

 怒号が飛び交い、すかさずライフルの銃声が響く。

 しかし、矮躯のゴブリンであっても数発の被弾では倒れず、嘲りと共に矢弾を放ってくる。

 消耗戦は不利、頼りは矢面に立つゴースト34の4人だけ。

 

『CASの要請は?』

『さっきから呼び続けてます! しかし、制空権がないの一点張りでっ』

『呼び続けろ! もう国際空港まで距離がない!』

 

 その防衛線の危うさを理解している中尉は、打開策である空軍の支援を要請し続けていた。

 いかにエナによる防壁があろうとスマート爆弾の前では無力だ。

 しかし、それを搭載する航空機はマジックの攻撃に脆弱。

 焦燥感に苛まれながら、中尉は口を強く引き結ぶ──

 

≪こちらHQより全部隊へ! 増援は2分後に到着予定、繰り返す! 増援は2分後に到着予定!≫

 

 全周波数帯で一方的に告げられる増援到着の一報。

 その福音を耳にした兵士たちは、喜びより困惑が先行した。

 警官すら総動員した防衛戦の最中に捻出できる予備戦力などあるのか、と。

 

『くそったれ! あの野郎ども、肉の盾を押し出してきたぞ!』

 

 降って湧いた希望を打ち砕く最悪の報告に、ウィッチも兵士も表情が強張る。

 

 険しい視線の先、ストリートの中央で──4体のオークが盾の如く掲げる4名の女性。

 

 人間を肉の盾とするインクブスの常套戦術。

 それは理性的な軍隊を相手にする時、絶大な効果を発揮する。

 

『救出へ向かいます!』

『無理だ! くそったれ…軍曹、援護射撃だ!』

『了解!』

 

 凌辱の限りを尽くされたとしても息がある女性たちを、ウィッチは決して見捨てない。

 迷わず駆け出す少女たちの背を護らんと兵士が銃火を放つ。

 しかし、弾薬の不足した中隊の射撃は、威嚇以上の効果を生まない。

 

「愚かなウィッチが出てきたぞ!」

「助けられるかなぁ? へっへっへっ」

 

 突出してきた果敢なウィッチたちを下劣な怪物たちが囲う。

 汚らわしい略奪者の手が、得物が、伸びてくる。

 

『マジックを両翼に投げるっ』

『1本は離脱のために残して!』

『了解!』

 

 躊躇なく投擲された2本のトマホークが空を裂き、オークとゴブリンの小集団を爆破。

 それに憤りつつも下卑た笑みを隠さないゴブリンが、爆炎の陰より肉薄する。

 

『死ね、化け物が!』

 

 敵を焼き尽くさんばかりの憤怒。

 振り抜かれたメイスがゴブリンの頭蓋を変形させ、弾き飛ばす。

 飛び跳ねる矮躯の影をスピアが貫き、アンチマテリアルライフルの重々しい銃声が響く。

 

「すごいすごい……弱いウィッチのくせによぉ」

 

 ゴブリンの屍を築きながら前進する人類の守護者たち。

 それを睥睨するオークの戦士は、時間と共に弱まるエナの気配を見て口角を上げる。

 多少の犠牲を許容すれば、彼女たちを打ち倒すことは容易だ。

 

「ほら、返してやる!」

『なっ!?』

 

 機は熟した、そう判断したオークたちは盾の女性たちを乱雑に放り投げる。

 戦闘の最中であってもウィッチたちは、救出に動いた。

 チームの陣形が崩れることも構わず、身を投じて受け止める。

 前衛の1人に至ってはスピアを投げ捨て、空中で2人を受け止めていた。

 

『た…たすけっ……て……』

 

 筆舌しがたい状態の女性が弱々しく言葉を紡ぐ。

 まだ意識があるという安堵、そして絶望。

 少女たちは、見(・)捨(・)て(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)な(・)い(・)。

 

『こういうのキャッチアンドリリースって言うんだろ?』

 

 これまで人間に理解可能な音を発してきたオークは、あえて英語を使って嘲笑う。

 女性を見事に受け止めた姿へ喝采を送る者すらいた。

 エナは残り少なく、手元には非力な人間を抱える状態のウィッチなど脅威ではない。

 それゆえの余裕。

 

『もう大丈夫です。私たちが付いてます…!』

 

 絶望的な状況下、されどウィッチは恐怖を押し殺し、気丈に笑ってみせる。

 軍人として、人類の守護者として、ウィッチナンバー3の意(・)志(・)を(・)継(・)ぐ(・)者(・)として──

 

「あははは! 大丈夫だってよ!」

「お前らも昨日のウィッチみたいになるんだよ!」

 

 その覚悟を嘲笑う醜悪な怪物たち。

 勝利を確信した下劣な笑い声がストリートに響き渡る。

 

 これより始まるは蹂躙か、それとも──立ち上る黒煙を大翼が切り裂く。

 

 空を見上げる全ての者が、己の目を疑った。

 主翼に輝かしい星を描く大型機は、見紛うことなく空軍の戦略輸送機だったのだ。

 

『ギャラクシーだと!? 迎撃されるぞ!』

 

 制空権が確保されていない空域に低空で侵入した鋼の大鳥。

 しかし、それを迎撃する紫電は一筋もなく、代わりに2対の翅をもつ紅蓮の影が上空を通過。

 

 そして、新たなターボファンエンジンの咆哮が頭上を通過──後部の貨物室から漆黒の影が落とされる。

 

 まるで爆弾のようだった。

 しかし、黒光りする鞘翅が戦塵を切り裂き、透明の後翅が飛び出した時、それは明確な意思をもつ。

 

「なんだ、こいつ──」

 

 減速どころか加速した影は、ゴブリンの小集団を頭上より圧殺した。

 戦塵が舞い上がり、黒煙を吹き散らす。

 

『虫…?』

 

 血飛沫で舗装を彩った漆黒の巨躯は、ウィッチたちを背に隠した。

 人間より太い3対の脚、あらゆる敵を破砕する長大な大顎、そして無機質な敵意を宿した眼。

 ギラファノコギリクワガタの名で知られる甲虫目に酷似したファミリアが、インクブスと相対する。

 

「ファミリぁっ!?」

 

 漆黒の巨影は、外見より俊敏。

 反応の遅れたオークの頭を大顎の鋭利な歯が捉え、首を引き抜く勢いで天へと投げる。

 そのまま長大な大顎で傍らのゴブリン4体を払う。

 

「ぎゃあぁぁぁぁ──」

 

 骨を粉砕された矮躯の影が住宅の壁を突き破り、断末魔は沈黙する。

 暴力の化身を前にして、思わず後退るインクブスの群れ。

 それを漆黒のインファイターは許さない。

 脚に備わる鋭利な爪が、前進のたびにアスファルトへ傷を刻み込む。

 

「くたばぁぇがぁっ!?」

 

 不用意に間合へ踏み込んだオークはクラブを振り下ろすより早く、胴体を内歯に挟まれる。

 長大な大顎の内歯は、構造上、最も挟力が強い。

 一息でエナの皮膚を裂き、骨肉は両断された。

 

「う、うわぁぁぁ…ば、化け物!!」

「撃て撃て!」

 

 飛び散る血飛沫を前に恐慌状態となったゴブリンの射撃。

 すべての矢弾は漆黒の外骨格に弾かれ、小雨ほどの衝撃も与えることができない。

 反撃は、大顎のスイングだった。

 

『無事か!』

 

 断末魔のバックミュージックを聞き流し、ゴルフ中隊の兵士はウィッチの下へ駆け寄った。

 周辺に散らばるインクブスの残骸を警戒しつつ、膝をつく少女たちの顔を覗き込む。

 

『おい、しっかりしろ!』

 

 衝撃的な増援の登場に、4人は言葉を失っていた。

 空を舞うゴブリンの姿を目で追うリーダーの頬を、強面な軍曹が小さく叩く。

 

『え、あ……な、なんとか』

 

 ようやく現実に意識が戻ってきた灰色のウィッチは青い瞳を瞬かせる。

 各々が得物を握り直し、周辺の索敵と救出した民間人に意識を割こうとした。

 しかし、どうしても視線は漆黒のファミリアへと流れていく。

 

『あれは一体……』

『ファミリア…だよね?』

 

 今もオークを傍らの消防署に叩き込み、ゴブリンの挽肉を製造するギラファノコギリクワガタ。

 圧倒的な暴力の化身、マジックも砲弾も必要としない増(・)援(・)の存在を、ゴースト34は聞かされていなかった。

 

『それよりも民間人を後送するぞ。やれることをやるんだ!』

 

 忌々しい人類の敵を滅ぼす存在なら巨大生物とて許容するのが軍人だ。

 先任軍曹の懸念事項は、増援の正体よりも衰弱した民間人の容態だった。

 

『りょ、了解!』

 

 力強い言葉に自身の任務を思い出した少女たちは、まず身に纏っていた灰色のロングコートで女性を包んだ。

 それから優れた身体能力で軽々と抱き上げ、兵士と共に下がる。

 周辺の警戒に移った主力戦車の陰まで──

 

『中尉! こ、後方からアリの大群が接近中!』

 

 兵士の切迫した声に、無線機から耳を離した中尉は振り向く。

 

『なんだと!?』

 

 険しい眼差しの先には、国際空港へ続く道路橋を一色に染める黒い波。

 それは道路橋を渡った瞬間、住宅街を覆うように広がり、ゴルフ中隊の眼前まで迫る。

 

『こっちに来るぞ!』

『おいおい……冗談だろっ』

 

 迫り来る凶悪な造形の大顎の戦列が、本能的な恐怖を呼び起こす。

 兵士たちは反射的に銃口を向け──

 

『撃つな! 撃つな!』

 

 中尉が持てる理性を動員し、あらん限りの声で部下へ命じた。

 対話不可能な外見でも、それらは敵(・)対(・)し(・)て(・)は(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)増援の一派だと判断したがゆえに。

 

『戦車の陰に隠れろ! 君らも早く!』

『了解っ』

 

 理性で恐怖を捻じ伏せ、主力戦車の陰へ飛び込む兵士たち。

 追従するウィッチはガスタービンエンジンの唸り声を耳に、衰弱した女性の頭を胸に抱く。

 

『くそったれ!』

『おお、神よっ』

 

 大柄の兵士たちはウィッチと民間人へ躊躇なく覆い被さり、衝撃に備える。

 被食者の如く、ただ捕食者の通過を待つ。

 

 地鳴りのような足音──それが人間の上へ降り注ぐことはない。

 

 まるで水が隆起を避けるように、アリの軍隊はゴルフ中隊の周囲を駆け抜けていく。 

 状況を飲み込めない兵士たちは、それを呆然と見送った。

 

『どういうことだ…?』

 

 進路上のアメリカ軍を地形情報の一部と見做すアリ──グンタイアリ──の戦列は、前進を続ける。

 国際空港に降り立ち、解き放たれた彼女らは、殲滅を母より命じられていた。

 

 その戦術は単純明快──進(・)路(・)上(・)の(・)敵全てを、体長の半分もある大顎で引き裂く。

 

 臭いと微細な振動を捉え、住宅の扉や窓を突き破って獲物を目指す。

 

「なんなんだ、こいつら!」

 

 埃の積るランドリールームに息を潜めていたゴブリンは、恐怖に凍り付く。

 眼前の退路を塞ぐ異形たちは、獲物の息遣いに触角を揺らす。

 すかさず、殺到する凶悪な大顎。

 

「や、やめ…ぉがばぁ…」

 

 喉を裂き、手足を千切り、臓腑を散らす。

 白い壁のランドリールームは前衛芸術のキャンバスとなった。

 グンタイアリは住宅に潜むインクブスを1体も逃さず肉片に変えていく。

 まだ少数の軍勢ゆえ、殲滅には時を要する。

 しかし、活動が本格化すれば、彼女らは融(・)通(・)の(・)利(・)か(・)な(・)い(・)キリングマシンとなる。

 

「ええい、何がどうなっている!?」

「エッカルトの戦士団が全滅!」

「ぐわぁぁぁぁ!」

 

 ライカンスロープを住宅ごと叩き潰し、バーゲストを一区画彼方のドラッグストアへ叩き込む。

 住宅街の至る所で、降下した重量級ファミリアが暴れ回っていた。

 

「敵はなんだ!?」

「ファミリアだ!」

 

 呼び声に応え、交差点に陣取るインクブスへ三方より同胞が投げ込まれた。

 絶命したオークの砲弾を前に散開する暇もなく、巻き込まれたゴブリンが圧死する。

 

「おのれ、虫けらがぁぁ!」

 

 勝利者の如く悠然と三方から迫る巨影の1体に、激昂したオーガは突進する。

 巨人の疾走で大地が揺れ、振り下ろされるは戦車すら破壊する必殺の一撃。

 

「なに!?」

 

 それを──ヒラタクワガタの大顎は正面から捉えた。

 

 火花が散り、アスファルトに亀裂が走る。

 振り下ろす体勢のオーガが有利、されど強靭な大顎は異界の金属を徐々に歪ませる。

 自慢の得物が聞いたことのない悲鳴を上げ出す。

 

「くっぐぅ…おのれ──」

 

 鉄塊が捩じ切れる寸前、躊躇が生まれる瞬間を、生粋のインファイターは見逃さない。

 すかさず鉄塊を投げ飛ばし、体勢の崩れたオーガの左脚を挟む。

 

「撃て、撃てぇ!」

「く、来るなぁぁぁ!」

 

 鉄塊が落ちた先、交差点へ突進するアトラスオオカブトがゴブリンをボウリングピンよろしく撥ねる。

 た(・)だ(・)の(・)質量ならば生存の見込みもあるが、エナの構成した質量には無力。

 衝突によって矮躯の骨肉は完膚なきまで破壊される。

 

「うぁぁぁ!?」 

 

 交差点の反対側では、ヘラクレスオオカブトが長大な頭角と胸角でオークを挟み、天高く投げ飛ばす。

 

「化け物がぁ…ぁぇ」

 

 左脚を失い、膝を折るオーガの首を飛ばし、ヒラタクワガタは満足げに大顎を開け閉めする。

 交差点に積み上がるは、インクブスの屍、屍、屍。

 

 唯一の不満は、最上の雌──否、母の御前ではない一点のみ。

 

 重量級ファミリアの軍団は、立ち塞がるインクブスの全てを粉砕した。

 敵前逃亡を試みた者はグンタイアリが追撃し、これを殲滅。

 上空は戦略輸送機に追(・)従(・)し(・)て(・)き(・)た(・)アキアカネの梯団が制圧した。

 しかし、これは前哨戦に過ぎない。

 

 貨物室の奥に、そして北太平洋の彼方に──主役が控えているのだから。




 空挺降下って浪漫だと思うんですよね(ろくろを回しながら)
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