人影の消えた灰色のコンクリートジャングルを、その日は白が覆っていた。
崩れ落ちた摩天楼も、折れ曲がった電柱も、舗装の剥がれた道路も、全てが白い。
雪──首都圏では滅多に見られない降雪量だ。
侵略者に人類が滅ぼされようと四季は巡る。
春が訪れるまで文明の残骸は、夜の静寂に沈む──
「…はぁっ…はぁ…!」
口から白い息を吐き出し、サイハイブーツを履いた流麗な足が新雪を踏み散らす。
華やかな青紫の装束を纏う少女は駆けていた。
その右手にはショートスピア、左手にはダガーが握られている。
彼女こそ人類の守護者──ウィッチだ。
背後より迫る足音に意識を配りつつ、白一色の幹線道路を駆ける。
凍てつく風が吹けば、新雪が舞い上がって視界を塞ぐ。
「ルゼニクス、左だ!」
首から下げたペンダントが警告を発し、白に染まった視界を凶悪な爪が切り裂く。
「くっ!」
左手のダガーを軌道上に沿わせるように振り抜き、間一髪で斬撃を逸らす。
微かに体勢が崩れるも足は止めず、駆け抜ける。
「ちぇっ…外れか」
その姿を悠然と見送る襲撃者は、白い毛並みをもつライカンスロープだ。
すぐさま白い闇に消え、足音となって追ってくる。
「このまま逃避行を続けるのは無理だぞ!」
「分かってる…!」
足音は大きさを増すばかり、対するルゼニクスは体力とエナを消耗する一方だった。
ライカンスロープは群れで行動し、時に腕利きのウィッチも仕留めてしまう。
今のルゼニクスには荷が重い相手だ。
「追いつかれちゃうぞ~」
「もうお終いかぁ?」
インクブスの嘲笑が響き渡り、ルゼニクスは口を引き結ぶ。
彼らはウィッチを引き倒し、凌辱するまでの余興を楽しんでいるだけなのだ。
失敗した──聖夜を乱す不埒者を逃すまいと旧首都まで追ったのが、失敗だった。
幼馴染とバディを組んでから順調に勝利を重ねてきたウィッチは、自身の実力を見誤ったのだ。
初めて敗北した日、自身の無力を悟ったにも関わらず。
「閉所で、迎え撃つ!」
しかし、膝を突く軟弱な己とは、あの日に決別した。
絶望の打破を諦め、誰かの救いを待つわけにはいかない。
生きて帰るために、己を救ったウィッチに胸を張って向き合えるように、戦う。
「よし、分かった!」
その決意を知るパートナーは意志を尊重し、支援する。
エナの総量に注意を払い、全力が発揮できるチャンスを待つ。
疾走するルゼニクスの眼前に現れる構造物──国道に沿って架けられた高架橋だ。
大型トラックも通過できる高架橋は、ライカンスロープの機動力を封じられる閉所とは言い難い。
しかし、ルゼニクスの碧眼には転機として映った。
「そろそろ狩るか!」
「もう少し遊ぼうぜ~久しぶりの狩りなんだからよ」
獲物に生じた微細な変化にライカンスロープは気付かない。
ウィッチの命運を握っていると信じて疑わない。
「俺の番にしていいか?」
「好きにしろよ」
白い闇の中、開かれた赤い口が下卑た笑みを浮かべる。
1人のウィッチを追い込まんと群れの速度が上がり、距離が縮まる。
両者の影は、高架橋の下へ踏み込む。
「高架橋を抜けたら──っ!?」
影に足を踏み入れた瞬間、より深い奈落が口を開けていた。
ルゼニクスは反射的に雪路を蹴り抜く。
高架橋の影を踏まず、月光の射す雪路まで身を投げる。
「な、にっ!?」
その判断は正解だ。
「うわぁぁぁ!」
判断を誤った愚者は奈落へと落ちる。
無様な悲鳴が響く中、転がるように着地したルゼニクスは思わず背後を振り返った。
「ディゲニス!」
ルゼニクスと同様に飛び越えたライカンスロープたちは、滑り落ちた同族の姿を探す。
高架橋の下には──擂鉢状の雪穴が築かれていた。
影に隠れる巧妙な位置を見るに、自然発生した陥没ではない。
そこには明確な意思が介在する。
「く、くそっ…なにがばぁっ!?」
穴の中腹で辛うじて踏み止まっていたライカンスロープを白が襲う。
ロータリー除雪車を思わせる雪の投射、質量による打撃。
それは獲物を滑落させんと穴底より行われていた。
「ぐぁっぎゃぁぁぁ……がっ…ぐぁ……」
雪を散らして転がり落ちる白毛のライカンスロープ。
その最期は、同族の眼でも見通せない闇が覆い隠す。
「おい……おい、ありゃなんだ?」
「俺が知るかよ!」
正体不明の雪穴から後退り、ライカンスロープの群れは警戒心を露にする。
背後のウィッチなど眼中にない。
穴底で同胞を貪る者は、インクブスの天敵であると直感が告げていた。
「今しかない…!」
「ああ!」
ウィッチとパートナーは、穴底の主よりも正面の敵だけを見ていた。
高架橋を抜け、幹線道路上に望んだ閉所はない。
しかし、この好機を逃すわけにはいかなかった。
ルゼニクスは持ち得るエナをショートスピアに注ぎ込み、雪上を駆ける。
「おいおい、ウィッチが飛び込んできたぜ」
エナを纏った極上の雌が自ら向かってくる光景に、ライカンスロープたちは無意識のうちに口角を上げた。
余力のないウィッチなど脅威ではない。
「待ち切れなかったのかぁ?」
群れで最も若いライカンスロープが獣欲のままに駆け出す。
嬲るだけなら番を求める若き同族だけで事足りるだろう。
その姿を正面に捉え、ルゼニクスは雪路を蹴り抜く。
青紫の装束が靡き、月光の空を舞う。
「地を穿て!」
ショートスピアを担ぐように構えたウィッチは、パートナーの言葉に応えた。
「はぁっ!」
投擲。
同時に地を蹴ったライカンスロープと刃が交わることはない。
微かに逸らせた白い毛並みを風が撫でる。
刹那、世界の色が反転──ショートスピアの影は8つに分かれ、
それはライカンスロープの群れを囲うように突き立っていた。
「それで終わりかぁ!」
殺人的な速度で拳が振り抜かれ、投擲で姿勢の崩れたルゼニクスを襲う。
「まだっ」
逆手に握り直したダガーを間に割り込ませる。
苦し紛れに繰り出した死に体の防御。
月光が瞬く──視界の端で、折れた刃が回転する。
一切の減速なくライカンスロープの拳が細い左腕を捉えた。
エナの防壁でも減衰できない衝撃に、華奢な身体が軋む。
「いぁ──」
空中から叩き落され、幹線道路に墜落するルゼニクス。
新雪に覆われた路上を何度も跳ね、歩道の標識に直撃して止まる。
常人であれば即死、ウィッチでも致命となる一撃だ。
「何がしてぇんだ、このウィッチは?」
白毛のライカンスロープは軽やかに着地し、獲物の抵抗を嘲った。
頬が触れる路面は冷たく、全身が鈍痛を訴えている。
「ルゼニクス!」
首から下げたペンダントが煌々と輝き、主の名を叫ぶ。
朦朧とする意識を覚醒させ、ウィッチは右手を路面に這わす。
指向──ショートスピアの囲いより脱していないライカンスロープの群れ、その
路面に触れる右手よりエナの紫電が走る。
起死回生の一撃──
「
ショートスピアにエナが伝播し、マジックが発動する。
「なにっ!?」
純白の大地を貫き、現出する青紫の棘。
まるでルリタマアザミの蕾のように鋭くも美しいマジックが咲き誇る。
余力がないと踏んでいたライカンスロープに回避は不可能。
白毛を棘が刺し貫く。
「がはぁっ!」
「ぐぁぁぁぁ!」
鋭利な棘は屈強な脚を貫通し、腰にまで達した。
筋線維を引き裂かれ、骨まで砕かれたライカンスロープたちは一歩も動けない。
しかし、まだ生命は尽きていない。
悪を砕く一撃が必要だった。
「ルゼニクス、あと一押しだ!」
しかし、焦燥を滲ませるパートナーの声が、ウィッチに届くことはない。
エナで形成された青紫の棘が揺らぐ──ルゼニクスは限界を迎えていた。
制御を失ったエナが霧散し、棘は砂塵のように崩れ出す。
路面に触れる右手から力が抜けていく。
「やってくれたな…!」
「くそが…脅かしやがって!」
月光を浴びて傷口の再生を始めるライカンスロープが、怒気を孕んだ眼でウィッチを睨む。
ルゼニクスは辛うじてウィッチの姿を保っているが、凄惨な凌辱に抵抗するだけの余力はない。
消耗した少女の意識は朧気で、今に吹き消えてしまいそうだった。
「傷が癒えたら、たっぷり可愛がってや──」
インクブスの下劣な口を、甲高い金属音が噤ませる。
「……あ?」
ライカンスロープの至近に突き立った
戦闘の余波が原因、とは考えない。
エナの流動を感知したインクブスたちは、一斉に高架橋を見上げる。
「なっ!?」
高架橋に設けられた遮音壁は、別次元の存在に破壊されていた。
視線の先には──遮音壁を突き破る巨大な雪球。
雪上を幾度と転がされ、締め固められ、肥大化した大質量。
それは
「よ、避けろぉぉぉ!」
どれだけ叫ぼうと脚の再生は間に合わない。
ルゼニクスの放った一撃は、彼らを死地に縫い付けていた。
「うわぁぁぁぁぁ──」
重力加速度に従って落下した雪球は、ライカンスロープの群れを断末魔ごと圧殺した。
大質量の激突は路面を陥没させ、旧首都を震わせる。
「さむい……」
雪と風が吹き荒れ、ルゼニクスは小さく身体を丸めるしかない。
刺すような冷気に少女の意識は急速に薄れていく。
「あ、あし、脚がぁぁぁ!」
それを辛うじて繋ぎ止めたのは、四肢を砕かれたライカンスロープの絶叫。
鉛のように重い身体は動かず、音だけが無為に聞こえる。
新雪を踏む音に意識が向く──高架橋の下で、宝石のように紅い瞳が妖しく光る。
霞む視界の中、影より歩み出た人影には見覚えがあった。
鼠色のオーバーコートを纏っていようと分かる。
犯した過ちへの謝罪、それ以上に感謝を伝えたかった相手。
あの日から探し続けてきた
「ありが…とう……」
「ルゼニクス、しっかり……ルゼニ…!」
パートナーの声が遠のき、少女の意識は安堵と共に闇へ沈む。
抜き放たれた刃の風切り音が耳を撫でる。
「これで11体」
かつて少女を救ったウィッチの声は冬将軍のように冷徹で、刃のように鋭かった。
◆
インクブスが出現してから4度目の冬、4度目の雪。
肌を刺すような冷気は、ウィッチの身体であっても堪えるものがある。
それでもインクブスは現れ、嬉々として人を犯し、喰らい、殺す。
「くそ…!」
白毛を赤く染めたライカンスロープが潰れた左腕と両脚を引き摺り、雪上を無様に這う。
いかに月光で身体の活性を強化しようと、再生に時間を要する損傷だ。
雪路に残された血痕を踏み、一歩一歩確実に距離を縮める。
「なんなんだよ!」
陥没した交差点の手前で止まり、手負いの狼は逃げ道を探して視線を彷徨わせた。
「ひっ!」
ククリナイフの刃が月光を反射して瞬き、ライカンスロープが慌てて振り向く。
眼に宿る感情は、恐怖と絶望。
「来るなっ」
白毛のライカンスロープは頭上の耳を倒し、無様に喚く。
命乞いをしないのは、連中なりの矜持らしい。
だが、死を恐れる視線は、私と──背後のファミリアを何度も往復する。
もさもさと雪の落ちる音が、吐息を掻き消す。
私の背後には、ライカンスロープの群れを一網打尽にしたスカラベが触角から雪を振るい落としている。
「来るんじゃねぇ!」
一歩踏み込めば、手負いの狼は雪を散らして後退る。
「うっ──」
白が舞う。
軽く踏み固めただけの雪路が崩れ落ち、ライカンスロープの影が消える。
「うわぁぁぁぁぁ!」
悲鳴が擂鉢状の穴を反響し、旧首都に木霊する。
ライカンスロープは地獄まで一直線に転がり落ちていく。
終着点には、この大仕掛けを
「やめ、いぎぃ、あがぁ…」
鋭利な大顎が白毛を貫き、白を赤が彩る。
新雪の積もる穴底で消化液を注入され、ライカンスロープは口と鼻から血泡を吹き出す。
確実に息絶えるのを見届けてから、私は静かに息を吐く。
「これで12体」
雪のように白い息が揺蕩う中、ファミリアの食事風景を眺める。
アリジゴク──ウスバカゲロウの幼体は、黙々とエナの吸引を開始した。
コンクリートとアスファルトの地では基本的に活動できない局地戦用のファミリアだ。
冬季だけは巣穴を形成する
原種と同様に長期間の絶食に耐えるからこそ可能な運用だが、変態するだけのエナは得られない。
「あれで最後か?」
「はい、全滅を確認しました」
定位置の左肩でパートナーは前脚を上げて報告する。
本来、ハエトリグモに冬毛などないが、ふさふさの毛並みが視界の隅で揺れていた。
「増援はないか?」
「新たなポータルは確認できません。これで終わりですね」
「よし」
ククリナイフをシースに差し込み、私は踵を返す。
インクブスの死骸を処理し、早々に引き上げるとしよう。
雪に覆われた旧首都での狩りの目撃者は月だけ──
「シルバーロータス、彼女はどうしますか?」
ではなかったな。
微かに緊張した声色で問うてくるパートナーを見遣り、溜息を漏らす。
彼女とは、先程までライカンスロープと戦っていたウィッチだ。
私にとっては狩場でも多くのウィッチは忌避する旧首都に、なぜ踏み入ったのか?
「パートナーは?」
「近くで呼びかけているようですが……」
高架橋沿いの雑居ビルに視線を向ければ、歩道に横たわるウィッチの姿が見えた。
その付近には雪で白く着飾ったカマキリが、護衛を兼ねて電柱と同化している。
「意識を取り戻していません」
パートナーの黒曜石のような眼に仏頂面の私が映る。
救出したウィッチから感謝の言葉はなく、逆に攻撃されることもあった。
進んで関わりたくはない。
私は面倒が嫌いなんだ。
「はぁ……分かった」
いかにウィッチの身体能力が高いとは言え、限度はある。
そして、纏う装束は肌を露出させており、防寒性は期待できない。
──凍死の危険は、ある。
身に纏っている鼠色のロングコートを外し、ウィッチの下へ近づく。
雪像のようになってもカマキリは平然と動き出し、三角形の頭を私に向ける。
「容態は?」
それを手で制し、ウィッチのパートナーへ端的に問う。
細い首から下がる水滴型のペンダントが弱々しく光った。
「君は、先程の…」
気絶するほどの打撃を受けたようだが、酷い怪我は確認できない。
ただ、少し呼吸が浅いか?
回復体位にすべきか──沈黙するペンダントに視線で次の言葉を促す。
容態を正確に把握している存在はパートナーだけだ。
危機的状況に取り乱すパートナーは少なくないが──
「…傷は治癒しつつあるが、体温が下がってきている」
冷静に分析できている点で、今日は当たりだ。
寒々しい風が吹き、高架橋の下で砕けた雪球から白が舞い上がる。
「風を凌げる場所へ移動する」
不用意に動かすことは望ましくないが、体温の低下も無視できない。
華奢な身体をロングコートで包み、起こさないよう静かに抱え上げる。
目を覚ましてパニックを起こされたら面倒だ。
「感謝する」
ウィッチにしては貧弱な私でも短距離であれば人を運ぶことは可能だった。
月光の射し込む屋外から落雪の危険がない雑居ビルの1階へ入る。
荒れ果てたフロアの空気は刺すように冷たい。
「普段はバディと行動しているのだが──」
「呼び続けろ。凍死するぞ」
後悔の言葉を聞く気はない。
パートナーが己の行動を後悔する時、ウィッチの生命と尊厳は蹂躙されている。
室内の温度と比例するように思考が冷めていく。
今はやるべきことをやれ。
「そう、だな……すまない」
爆風が吹き抜けたと思しきフロアを見渡し、まだ形の残っているカウンターが目に入る。
あそこなら多少強い風雪でも防げるだろう。
ゆっくりと少女を下ろし、足音に気を配って離れる。
カウンターの陰に隠れる少女の横顔は、どこか安らいで──
「私は行く」
錯覚だ。
1階の出口から内を覗くカマキリと視線を交え、周囲の警戒へ戻るようアイコンタクト。
「最後に、君の名を伺ってもいいだろうか?」
背中に投げかけられる言葉に、足を止める。
私の名前を知ったところで意味はない。
そんなものよりも少女の容態に気を配れ。
「凍傷に注意しろ」
名も知らぬパートナーの問いに答えず、雑居ビルから立ち去る。
友好的に振舞えば、協力関係を築けたのかもしれない。
だが、私には分不相応なものだ。
さくさく、と新雪を踏む音が響く──次第に波立つ感情が静まる。
夜に沈む旧首都は雪が音を吸収し、痛いほどの静寂が支配していた。
ファミリアの存在すら隠してしまう白い闇が、どこまでも続く。
「シルバーロータス」
「どうした?」
ふさふさのパートナーが私の名を呼ぶ。
刺すような冷気に負けじと明るい声色で。
「今日はクリスマスですねっ」
「ああ」
今宵は聖夜、どれだけの苦境に陥ろうと根強く残る文化の残滓。
我が国ではイエス・キリストの降誕祭というよりサンタクロースの飛来日だが、子どもに小さな幸福の訪れる日だ。
足を止め、背後を振り返る──ウィッチも、その恩恵を受ける子どもだ。
命を賭して戦った彼女にも幸福が訪れることを願う。
「今年は欲しいプレゼント、決まりましたか?」
芙花に渡すクリスマスプレゼントは既に用意してある。
インクブスが出現してからサンタクロースは休業中のため、私が代理を務めていた。
だから、何を要望しようと揃えるのは私だ。
「去年と同じ──」
「インクブスの駆逐以外で、です!」
それでもパートナーは、私に難題を投げかけてくる。
日常生活に不便を感じたことはなく、趣味という趣味もない。
常に不足を感じているとすれば、インクブスを駆逐する手段だけ。
「それ以外で、か」
「はい!」
私たちの言葉は雪に吸い込まれ、廃墟の闇へ溶けていく。
高架橋の下、雪球で圧殺したインクブスを掘り出すスカラベを眺めながら、しばし黙考する。
赤黒い雪が飛び散り、頭を突っ込んだスカラベが尾部を微かに揺らす。
この質量攻撃は死骸の回収が手間だな、と思考が脱線する。
「……難題だな」
「そこまで悩まれることですか…?」
聖夜の問答は、後始末を終えて帰路に就くまで続いた。
問答の結果、クリスマスプレゼントは──料理に使う香辛料のセットになった。
騙して悪いが、小噺(本編開始前)なんでな。