あの襲撃事件以来、日常は平穏に過ぎていた。
しかし、インクブスを完全に駆逐したわけではない。
だからこそ、緩んだ気持ちを引き締めるのも兼ねて、郊外に展開するファミリアの下に訪れていた。
最近、全く獲物を引掛けることのなかったヒメグモが
「一体、何者でしょう?」
定位置の左肩に乗るパートナーは、不思議そうに頭を傾げる。
ミンミンゼミの鳴き声を聞きながら折れた電柱を跨ぎ、路上に散乱したコンクリート片を弾く。
そして、眼前には巨大な壁──道路を塞ぐように倒れたマンションの残骸。
迂回する必要はない。
コンクリートの壁面に穿たれた穴から触角を揺らすヤマアリの姿が見えたからだ。
「インクブスではないんだな?」
背の高い雑草をククリナイフで払い、ヤマアリの下へ向かう。
国防軍の検問より外にある市街は、旧首都と大差はない。
インクブスが姿を消しても人は戻らず、荒れ果て、朽ちていく。
「微量のエナを感知していますが……判断が難しいです」
直接確認しなければ判断は難しいか。
今回、テレパシーを伝達してきたヒメグモは珍しい反応を示した。
端的に言えば困惑──敵味方識別の判断に迷っている。
ヒメグモの張った不規則網から脱出できない時点で、ファミリアの脅威ではない。
しかし、エナを感知している以上、放置するわけにはいかなかった。
「シルバーロータスさん」
声のする方向に振り向けば、浅緑のサーコートを纏った騎士が1人。
白磁のガントレットを胸に当て、凛とした表情で私を見据えている。
プリマヴェルデ──グラジオラスの1種である花の名を戴くウィッチ。
今日の同行者は、彼女だけだ。
「やはり、私が先行して確認を…」
「その必要はない」
先を急いだところで到着までの時間は変わらない。
最短コースを知っているのは、もちょもちょと私の指先を舐めるヤマアリだけだ。
少しくすぐったい。
「理由を伺っても良いかな、シルバーロータス君!」
騎士の肩に降り立ったフクロウが、真率な声で問いかけてきた。
そこで、言葉の選択を誤ったと気付く。
頭を傾げるヤマアリから視線を戻すと、消沈した様子のプリマヴェルデと目が合う。
「プリマヴェルデ君の権能は、未知を解明する際に力となるはずだ」
「実力を疑っているわけではない」
いい加減、この端折る癖を直さなければならない。
言葉足らずにも程がある。
2対の視線を正面から受け止め、慎重に言葉を選ぶ。
「ただ……道案内に従った方が手間が少ない、という話だ」
「ふむ」
「手間ですか?」
首を傾げるウィッチとパートナーの前で、手頃な大きさのコンクリート片を拾う。
それを青空に向かって投げる──かつり、と硬質な音が響き渡った。
律儀に回収へ向かわんとするヤマアリは制止しておく。
「これは……糸?」
朱色の瞳を瞬かせ、プリマヴェルデは正解を言い当てた。
「この一帯にはファミリアの張った巣が残ってまして……捕まると中々抜け出せないんです」
パートナーが指揮棒のように前脚を振るい、補足の説明を行う。
今、コンクリート片を弾いたのは巣を固定する係留糸だが、少し辿れば獲物を捕らえる粘液球が連なっている。
この地域はインクブスの出現頻度が高かったため、クモ目のファミリアに巣を張らせていた。
頭上の糸は、その名残だ。
「言葉足らずだった。すまない」
「い、いえ……お気になさらないでくださいまし」
「早とちりだったか! こちらこそすまない!」
浅緑の騎士は慌てて手を振り、気まずそうに目を逸らす。
彼女との付き合いは長くないが──今のプリマヴェルデは、
いつものメンバーが所用で来られないためか、必要以上に気負っている。
そして、それは空回りしているように見えた。
「行くぞ」
気負うな、などと安直な言葉を彼女が欲しているはずもない。
だから、私から言えることは何もなかった。
ヤマアリの黒い腹部を追って、廃れたコンクリートジャングルの中を進む。
時折、頭上に張られた糸が陽光を反射して、きらきらと瞬いた。
「シルバーロータスさん」
「どうした?」
成長した低木をククリナイフで叩き折り、背後のプリマヴェルデへ振り返る。
「先程はファミリアと何をしていらしたのですか?」
私を映す宝石みたいな朱色の瞳には、躊躇と求知の色が同居していた。
気まずい空気を続けられるよりは良い。
ヤマアリに舐められていた指先を見せ、プリマヴェルデの質問に答える。
「ケミカルコミュニケーションの一種だ」
「コミュニケーション?」
人間のコミュニケーションは言語を主とするが、言語を持たない虫は別の手段でコミュニケーションを取る。
触角や脚の接触、鳴き声や打音、そして化学物質だ。
嗅覚や味覚に関わる化学的信号もコミュニケーションのツールとなる。
「アリは集合や分散、警告といった意思疎通をフェロモンで行っている。それをファミリアにも模倣させた」
ヤマアリが私の指先を舐めたのは、敵味方識別のためだ。
放射されるエナを感知すれば敵味方識別は可能なため、フェロモンの確認は必要ない。
しかし、なぜかヤマアリはグルーミングを好んで行う。
「こうして道案内ができるのは、道標フェロモンのおかげなんですよ!」
うきうきで解説するパートナーに苦笑しつつ、前を歩くヤマアリを見遣る。
道標フェロモンはウィッチにも感知できない。
だから、最短コースは彼女しか
「なるほど、それならばインクブスに解読される心配もない!」
「汎用性は高くない」
「テレパシーがありますからね」
パートナーが言うように、テレパシーの汎用性が高いため使う機会は少ない。
最初の想定はマジックを無力化した際の伝達手段だったが、速度に難がある。
手札は多いに越したことはない。
しかし、全てを使いこなせるわけではなかった。
「本当に、底の見えない方ですわね」
眩しいものを見るような視線から目を逸らし、ヤマアリの影を追う。
底が見えないのではなく、手札の多さで底の浅さを誤魔化している。
「試行錯誤する時間があっただけだ」
年端もいかない少女たちが骨身を削って生み出した時間を、私は試行錯誤に費やした。
その成果は、確かに快進撃を支えている。
だが、それは準備の時間があれば誰でも出来ることだ。
「その時間を有効に使える方は、そう多くありませんわ」
買い被りが過ぎる。
「他者を頼れば、より多くのインクブスどもを駆逐できたはずだ」
「それはっ…そうですけど…」
折れた電柱から下がる蔦をククリナイフで払い、晴れ渡った青空を見上げる。
「私は、自己を中心にして考える凡俗に過ぎない」
何かと理由を付けて、協力を模索してこなかった。
その下らない自己満足で破綻し、手遅れになってから他者に頼る。
つまるところ、先見性が無い。
「貴女が、凡俗なら……」
足音が止まり、聞こえてきた声に微かな違和感を覚える。
抑え込んでも滲み出た感情の揺らぎ、とでも言おうか。
背後へ振り返る──廃墟の中で、ウィッチが立ち竦んでいた。
俯いた彼女は両手を強く握り、絞り出すように言葉を放つ。
「私たちは、何ですの…?」
鋭い眼差しを向けられ、口を閉ざすしかなかった。
謙遜も過ぎれば嫌味と言うが、私にとってシルバーロータスとは謙遜する価値もないと思っている。
だが、他者にとっては違う。
そんな簡単な想像力が働かないから、無自覚な言葉が飛び出す。
うんざりする──自己嫌悪ばかり積み上がっていく。
ミンミンゼミの鳴き声が辺りに満ち、握ったククリナイフの刃が陽光を反射する。
今の私に必要なのは、自覚だ。
「失礼、少々…取り乱しましたわ」
ゆっくりと腕を組み、プリマヴェルデは静かに目を閉じた。
感情を抑え込んでしまう姿に、どこか危うさを覚える。
「忘れてくださると──」
言葉を途中で切り、眉を顰めたプリマヴェルデは周囲を見渡す。
「この臭いは…?」
遅れて私も異変を察する。
周囲を取り巻く青臭さの中に混じる異臭。
「…腐敗臭か」
インクブスどもの巣で嗅ぎ慣れた、蛋白質の腐敗した独特の臭いだ。
プリマヴェルデと視線を交え、私たちは一斉に駆け出す。
「シルバーロータスさん、野生動物の可能性は?」
「無いとは言えん」
ヤマアリの腹部を小突いて急かし、腐敗臭の発生源まで駆ける。
接近するにつれて臭気が強まっていく。
住宅のブロック塀を飛び越え、マンションの駐車場に降り立つ──
「これは…!」
雑草に侵食されていないアスファルトの地に、肉塊があった。
四散した欠片を含めて、
人間だ──衣服の残骸から辛うじて判別できる。
夏場だけに腐敗が早く、臭いを嗅ぎつけたハエが集り、ぶんぶんと羽音が聞こえてくる。
心を凍らせ、怒りを締め出す。
「酷いものだな」
「ああ」
憤りを滲ませるフクロウの言葉に頷きだけ返す。
一斉に道を開けるクロバエのアーチを潜り、ゆっくりと遺体へ近づく。
激しく損壊した遺体は、まるで絞られた雑巾のようだった。
インクブス以外に、こんな芸当ができる者は──
「先を急ぐぞ」
「ええ」
情報が不足している以上、確認してからでも判断は遅くないはずだ。
不用意に遺体を動かさないよう注意し、マンションへ足を向ける。
ヒメグモの巣は既に目視できている──上階から周囲の住宅に伸ばされた係留糸が目印だ。
立体的に糸が張り巡らされ、上階近くは籠のようになっている。
不規則網と言われる形態だ。
「糸には触れるな」
「分かりましたわ」
プリマヴェルデに注意を促しておく。
巣の下方、地面近くは糸が疎らになるが、その糸には粘液球が数条連なる。
これに捕まると糸の固定が切れ、上方へ吊り上げられる仕組みだ。
「あれか」
それを実演した存在が巣の上方に吊り下がっていた。
捕まった際に暴れたらしく、周囲の粘液球を巻き込んで繭のようになっている。
迷惑そうに見下ろすヒメグモと比較して、体長は2mほどか。
「確かにインクブスではないようだが…実に奇怪だな!」
糸の隙間から見える外皮は黒く、筋肉質な隆起が見える。
フードを取り払い、ヒメグモへ
「ここからは私に」
「任せる」
プリマヴェルデの本領は、ここからだ。
一歩前に出た騎士の横顔に陰りはない。
彼女の権能は解析──私には真似できない、彼女だけの力だ。
ヒメグモはマンションの玄関近くに異物を下ろす。
その周囲にはヤマアリが集合し、即応できるよう待機する。
「これが犯人でしょうか?」
パートナーと見下ろす先で、白磁のガントレットが黒い外皮に触れた。
窒息しても不思議ではない拘束の状態だが、微かに身動ぎする。
油断ならない。
「だとすれば、脱出できない理由が分からん」
人体を雑巾のように絞るには、オーガほどの膂力か、マジックが必要となる。
しかし、拘束から脱出できない時点で、どちらも持ち合わせていない。
「…解析が終わりましたわ」
「どうだ?」
プリマヴェルデは怒気を滲ませた険しい表情で振り返る。
嫌な予感がした。
「プリマヴェルデ君」
「大丈夫ですわ、グリム」
エナの光が瞳から霧散し、プリマヴェルデは長い溜息を吐く。
どう言葉にすべきか、感情を整理しているように見えた。
実に1分ほどの沈黙の後、彼女は口を開く。
「信じ難いことですが、これは……いえ、
予想はしていた。
微量のエナを含んでいると聞いた時点で。
外れてほしい最悪の予想だったが、それでも対処は可能だ。
ウィッチを無力化してきた手段が通じるか、早速──
「変形した体内のエナと刻まれたマジックの性質から推測するに、おそらく…」
プリマヴェルデの言葉には続きがあった。
「爆弾になっていますわ」
この世界は、どこまでも悪辣らしい。
◆
薄闇の支配する回廊の空気が微かに震え、天井から埃が落ちる。
地震という事象とは無縁の異界で、この振動を生み出すのは
「またかよ……これで何回目だ?」
天井を見上げる矮躯の略奪者、ゴブリンは忌々しげに目を細める。
雑務の多くを担う彼らは、インクブスの軍勢に欠かせない存在だ。
軍事的才覚に長けたオークの造った要塞も、ゴブリンの助力が無ければ運用は覚束ない。
災厄の侵略は確実にインクブスの数を減じていた。
「懲りない連中だぜ」
「ああ、諦めが悪い」
武骨な開き扉を守るゴブリンは、隣に立つ同志の言葉に頷く。
大陸から帰還した同胞も加わり、守備隊の増強された要塞は難攻不落だ。
それを脅威と見なした災厄は連日、激しい攻撃を行っているが、その全てが退けられている。
「これなら玩具を見繕っても──」
「巻き添えはごめんだぞ?」
開き扉に振り返って下卑た笑みを浮かべる同志に、胡乱げな視線を返す。
彼らが守っているのは、ヒトの雌を飼う部屋の一つだ。
雌の供給が激減してから
「けっ…冗談だよ」
下卑た笑みを消し、鼻を鳴らすゴブリンは肩を竦める。
しかし、これまでの鬱屈とした空気は纏っていない。
敗北を続けてきたインクブスにとって、防衛戦の勝利は大きな意味を持っていた。
士気を持ち直させ、彼らの自尊心を幾許か取り戻したのだ。
「ここの
ゴブリンは得物のクラブを持ち直し、真率な声で同志に呼びかけた。
「どうした?」
その緊張感を帯びた声に、同志は怪訝な表情を浮かべる。
先程までの冗談を言うような空気ではない。
「妙な音がしねぇか?」
ゴブリンは尖った耳に手を当て、回廊を反響する音を聞く。
己の息遣い、風の抜ける音、扉の奥にいる雌の呻き声、そして──頭上より響く戦場音楽。
全ては聞き慣れたものだ。
神経を尖らせるような音ではない。
「上の音が反響してるだけだろ」
「いや、引っ掻くみたいな音が聞こえる」
しかし、注意深く周囲を見回すゴブリンの表情は硬いままだ。
さすがの同志も取り合わざるを得ない。
「引っ掻くって……まさか、最奥のウィッチか?」
「動かねぇって話だろ」
回廊の奥、その突き当りにある重厚な扉へ2対の視線が注がれる。
そこには、かのシリアコ卿すら打破できないマジックで己を封じたウィッチが
彼女の時間が動くことは二度とない──ならば、回廊を反響する音は何か。
環境音に掻き消されていた異音が、同志の耳にも届き出す。
「くそっ…どこからだ?」
雌たちを飼っている部屋に異常はない。
音源の位置を探り当てんと扉の前から離れる。
ゴブリンたちは顔を見合わせ、数歩進んだ先の壁に尖った耳を付けた。
「…壁か?」
精神を蝕む音は石造の壁面より奥、土中から響いていた。
土を
「拡張の予定なんてあったか?」
要塞の通路を拡張しているのではないか、と一縷の望みをかけて同志へ問う。
しかし、手に握ったクラブの切先は石造の壁へ向いている。
「いや、聞いてねぇ…」
異常事態が進行中と判断し、ゴブリンたちはクラブを構える。
伝令に走る判断を下すより早く音源は石造の壁面と接触した。
硬質な音が反響し──
「冗談だろ…!」
要塞の回廊に振動が走り、並びの歪んだ石の隙間から埃が噴き出す。
「伝令に…うわ!?」
後退るゴブリンの前で壁面が崩れ、床面で石が砕け散った。
一気に破孔は拡大し、全てを呑み込む奈落が口を開ける。
その奥底で影が──無数の黒が蠢く。
それは無機質な複眼であり、強固な外骨格であり、閉じられた2対の翅だった。
インクブスを狩る者たちが穴より溢れる。
「こ、こいつらはっ」
立ち尽くすゴブリンの眼前で、漆黒の大顎が開かれた。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
薄闇に満たされた回廊を断末魔が木霊する。
咀嚼音と外骨格の擦れる音が響き、闇より深い黒が横穴から回廊を侵していく。
黒の正体は、インセクト・ファミリア。
大顎と爪から赤茶けた土を落とし、触角を掃除する
初期形態の参考となったコマユバチに穴を掘る生態などない──これは進化の一樹形だ。
母の下で活動するベッコウバチやジガバチといった狩蜂に倣い、異界の土に爪を立てた。
しかし、飛行に適した体は掘削に向かない。
ゆえに身体を最適化し、長い脚と強靭な爪を備えるようになった。
「おい、何があった!」
回廊に響き渡る野太い声は、潤沢なエナの塊から発されていた。
断末魔を聞き、駆け付けたオークの戦士だ。
感情の無い複眼が獲物を観察する──群れは軽度の飢餓状態にあった。
狩りの成功率が下がれば、エナの供給が減り、ファミリアは飢餓に直面する。
命令の不履行と淘汰の危機は進化を促し、変異種と新戦術を生み出す。
インクブスが抵抗する限り進化は止まらない。
「答えろ、バザロフ…なっ!?」
驚愕で見開かれるオークの眼には、一寸先も見えない闇が映る。
床、壁面、天井──回廊を覆う漆黒が大顎を打ち鳴す。
難攻不落と謳われた要塞の内より死の宣告は為された。
外骨格の擦れる音がオークに殺到する。
「なぜ、ここに──」
驚愕で立ち竦む獲物を無数の大顎が襲い、表皮と筋肉を引き裂く。
解体作業は一瞬で完了した。
血飛沫に彩られたファミリアは肉片を取り合い、指の1本まで残さず喰らう。
しかし、空腹は癒えない。
「敵しゅぅぁ腕がぁぁ!」
「助けてくぇぁぎぃ!?」
前進を開始した漆黒の軍勢は道中のインクブスを次々と肉片に変え、薄闇を赤で彩っていく。
行軍の足音が回廊を反響し、獲物の断末魔を踏み潰す。
「なぜファミリアが…!」
「早く横隊を組め!」
緊急事態に即応したのは、要塞内を巡回するオークの戦士団だった。
苛烈な防衛戦が続く中、秩序の維持を任された彼らは精強な戦士だ。
楕円形のシールドを一列に並べ、上層へ続く回廊を物理的に遮断する。
災厄が溢れ出せば、要塞の失陥は免れないだろう。
「バーゲストの術士が来るまで時間をっがっぐぁ」
「どうした、リザンドロ!」
戦士団を指揮するオークが得物を取り落とす。
口から泡を吹きながら揺れる巨躯は、重力に屈して床面に倒れる。
その背中には穴が穿たれていた──毒液を滴らせる針が穿った穴だ。
痙攣する戦士を踏みつけ、悍ましき天敵が大顎を打ち鳴らす。
上層まで通じる回廊は、壁面に開かれた穴より溢れる漆黒に覆われていく。
「背後からだと!?」
「よ、横穴を掘って…ぐあぁぁぁ!」
挟撃された戦士団は抵抗もままならず蹂躙された。
精強な戦士であっても己の腕より多い大顎は避けられない。
毒針に自由を奪われ、生きたまま全身の肉を噛み千切られる。
被食者の末路は食料か、苗床だ。
「ば、化けもぉがあぁぁ!」
「俺の脚が! やめっう、腕ぁがぇ!?」
断末魔を残して同胞たちは闇に消える。
蠢く漆黒の影から咀嚼音だけが響き、回廊を血臭が満たしていく。
手負いのオークは諦観し、引き攣った口から言葉を漏らす。
「そうか……災厄の目的は
回答は、同胞の血に塗れた大顎だった。
コード991かな?(すっとぼけ)