捕食者系魔法少女   作:バショウ科バショウ属

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 Warhammerを予習に使っているゾ!


抗拒

 外敵に抗う術を手に入れたとしても食物連鎖が覆ることはない。

 かつて捕食者であったインクブスは、それが普遍の理であると知っている。

 人類の抵抗を嘲笑い、蹂躙してきたのは彼らだ。

 だから、これは順番が巡ってきた。

 ()()()()()()()()()

 

連中の数は!

なおも増加中! くそっ…何匹いやがるんだ!

 

 侵略者を阻む城壁の上で、インクブスの戦士たちは迫り来る破滅を睨む。

 数々の防衛線を呑み込んできた破滅の黒だ。

 それは山を越え、荒野を侵し、全速力で突進してくる。

 

前よりも数が増えてないか…!?

化け物が…!

 

 足音が地鳴りとなって城壁を震わす。

 彼女たちはインクブスにとって終わりなき絶望であり、死そのものだ。

 幾度、防衛戦で勝利を収めようと恐怖が払拭されることはない。

 

狼狽えるな!

 

 アックスの柄頭が石床を叩き、居並ぶ戦士たちの背筋を伸ばす。

 防衛の指揮を執るミノタウルスは勇壮な表情を崩さない。

 左腕を上げれば、カタパルトの弦が引き絞られていく。

 まだ災厄は射程外にある。

 

投擲!

 

 しかし、ミノタウルスの戦士は躊躇なく左腕を振り下ろす。

 カタパルトの弦が空気を叩き、紅の空へ打ち出される擲弾。

 

 それらは高い放物線を描き――焔の矢に射抜かれる。

 

 瞬く間に毒々しい紫の煙が空を覆い、荒野へと降りていく。 

 まるで城壁を隠すヴェールのように。

 

展張を確認!

よし、次は()()だ! 射角に注意しろ!

 

 火箭を放ったケットシーの術士が声を張り上げ、ミノタウロスは矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

扱いに気をつけろ!

おう!

 

 擲弾を携えたゴブリンがカタパルトまで慎重に足を進める。

 

 刹那、紫のヴェールより彼方――連なる山の頂にて閃光が瞬く。

 

 その光はインクブスを滅ぼす断罪の雷。

 エナの放射流が大気を焦がし、城壁上のインクブスへと走る。

 

ふんっ……無駄だ

 

 口角を上げるミノタウルスの眼前で光は絶える。

 紫のヴェールに包み込まれた雷は、粒子の瞬きとなって跡形もなく霧散した。

 

へっ…いつまでも同じ手が効くと思うなよ!

ああ、まったくだ

 

 鳴り響く雷鳴を聞き、虚勢を張るインクブスたち。

 これまで変異種が放つ雷は防御不能、一撃必殺であった。

 ゆえに様々な対抗策が考案され、唯一効果が認められたのは――

 

これでマジックは封じた。残るは……

 

 ウィッチのエナに干渉する劇物の空中散布。

 エナの収束を阻害することでマジックを一時的に無力化する荒業だ。

 当然、インクブスもマジックは使用できない。

 しかし、彼らには武器があった。

 

射角よし!

装填完了!

 

 城壁より荒野を睨むカタパルトの下で、引金を預かるオークが指揮者を見遣る。

 ミノタウロスは太い左腕を上げ、ただ斉射の時を待つ。

 大気に無機質な敵意が充満し、喊声なき行進曲が石造の城壁を震わす。

 されど、戦士たちは一歩も退かない。

 

とっておきを食らわせてやれ!

 

 左腕が振り下ろされ、カタパルトの弓が空を切る。

 

 血のように赤い月の下を潜る飛翔体――その弾道は低い。

 

 投射された48発の擲弾は、紫のヴェールを潜ったグンタイアリの最前列に直撃した。

 不吉なる白が黒を呑み込む。

 

やったぞ!

くたばれ、虫けらども!

 

 新薬に侵されたグンタイアリが転倒し、そこへ後続が激突した。

 瞬く間にファミリアの死が積み上がっていく。

 白霧に砂煙が混じり、夥しい量のエナが紅の空へ舞い上がる。

 

 災厄に抗う術――ファミリア殺しの威力は絶大であった。

 

 これまでの試作品や失敗作とは明確に異なる()()は、グンタイアリの先鋒を壊滅させた。

 しかし、災厄の行軍は止まらない。

 

ボウを構えろ!

おう!

 

 ボウガンが狙う先には、白霧の間隙に殺到する黒の軍勢。

 グンタイアリは己の体を建材とし、群れで橋を架ける社会性昆虫だ。

 ゆえに姉妹の体を踏み越えることに躊躇しない。

 それでも狭路では機動が大きく阻害される。

 

撃てぇ!

 

 城壁の上より狭路へ矢弾の雨が降り注ぐ。

 大気を切り裂く鏃は重力を味方に、ファミリアの外骨格を易々と貫いた。

 荒野に縫い付けられたグンタイアリがエナへと還る。

 

次!

 

 ミノタウロスの号令が飛び、2列の長大な横隊が前後に動く。

 それは数で勝る災厄と相対するためインクブスが編み出した戦術の一つ、射撃間隔の短縮だ。

 

撃て!

 

 前列と交代した戦士たちは即座にボウガンを構え、トリガーを絞る。

 狙う必要はない。

 放たれた矢弾は密集したグンタイアリの群れに必ず突き立つ。

 

次!

撃ち続けろ!

 

 だが、絶え間なく流れる濁流とは止まらぬものだ。

 徐々に狭路を前進する黒。

 斃れた姉妹のエナに照らされ、なおも彼女たちは進み続ける。

 ついに、その脚が()()に踏み込む。

 

ごぁっ!?

 

 風切り音、そして骨肉の砕ける異音。

 突如、ゴブリンの戦士が背後へ向かって吹き飛ばされ、隊列に穴が開く。

 

一体何が――ぁがっ

 

 背後へ振り返ったゴブリンの横腹に突き刺さる褐色の影。

 それは一撃で脊椎を砕き、矮躯のインクブスを即死させる。

 

ファミリアだ!

 

 同志の陥没した腹に矢弾を撃ち込み、隻眼のゴブリンが叫ぶ。

 

 弾丸の正体は、3対の脚をもつ吸血動物――ノミだ。

 

 彼らは来た。

 グンタイアリの背に乗って、インクブスを殺傷できる距離まで。

 城壁上に狙いを定め、後脚を引き上げて関節を固定。

 蓄えた莫大な力を一気に解放すれば――

 

ぎゃっ!

ぐがぁ!?

 

 矢弾より速く、鋭く、インクブスの骨肉を穿つ。

 直撃を受けた隊列が吹き飛び、ボウガンが木の葉の如く舞う。

 原種のノミは離陸時の加速度が130G程度とされるが、ファミリアは400Gに迫る。

 インクブス駆逐のため、後脚の構造すら変質させた彼らは、まさに生きた弾丸だった。

 

下がれ!

 

 インクブスの戦士たちは城壁の射眼から離れざるを得ない。

 そして、その隙を見逃す災厄ではない。

 荒野より紅の空へ飛び上がった褐色の弾幕が夕立の如く降り注ぐ。

 

くそっ!

1匹1匹は大したことねぇ! 潰せ!

 

 既に得物を抜いていた戦士たちは、ゴブリンの頭ほどもある吸血動物へ刃を振るう。

 

ぐぁ、助け…ぎぃぇ!?

 

 ケットシーの術士にノミが群がり、豊かな毛並みの下へ口吻を突き立てる。

 吸血動物に群がられた獲物が生存する見込みはない。

 ゆえに戦士たちは背中合わせになって敵と相対する。

 

城壁に取りつかれた!

次から次へと…!

 

 隊列が崩れ、混戦の形相を呈する城壁上に緊張が走る。 

 壁面に爪を立て、城壁を登り始めるグンタイアリの群れ。

 その数は半分に減じていたが、彼女たちに士気という概念はない。

 インクブス殲滅のため、全力を以て突き進む。

 

これ以上、内に入れるな! ここで食い止めるぞ!

おう!

 

 ミノタウロスの腹底まで響く号令に、戦士たちは雄叫びで応じる。

 近場のノミを始末し終えた者から射眼へと駆け寄り、得物を構えた。

 

来るぞっ

 

 石造の壁面を撫でていた触角が空を切る。

 そして、凶悪な大顎を備えた頭が城壁上を覗き込む。

 

こ、こいつらっ

 

 アックスを振り上げたオークの戦士は顔を歪める。

 その眼には、グンタイアリの頭上で跳躍姿勢を取るノミが映っていた。

 

うわぁぁぁ!

 

 身構えていた戦士団を褐色の弾丸が襲う。

 吹き飛ばされたゴブリンが壁外へ転落し、頭を失ったオークが床面に赤い前衛芸術を殴り描く。

 奇襲は成功、グンタイアリたちは屠殺場へ脚を踏み入れる。

 

怯むな!

 

 ミノタウロスの戦士もまた死地へと踏み込んだ。

 鍛え上げられた足腰を使い、長柄のアックスを水平に振り抜く。

 

 風を捲る分厚い刃――それは音を置き去りにした。

 

 光芒一閃。

 撫で切られたグンタイアリの小集団が四散し、外骨格の破片が壁外に降る。

 

突っ込め!

うぉぉぉぉ!

 

 いち早く立て直したオークの戦士たちが得物を手に、迫り来る黒へ突撃する。

 クラブの一打が頭部を陥没させ、アックスの一撃が脚を斬り飛ばす。

 

ぎゃぁぁぁ!

 

 しかし、彼女たちは捕食者だ。

 被食者の抵抗など意にも介さず命を齧り取っていく。

 

や、やめっあがぁぁぁぁ!

化け物ども、がぁっ

 

 凶悪な大顎でゴブリンを引き裂き、オークの眼球に毒針を捻じ込む。

 いかに勇猛な戦士も数的劣位まで覆すことはできない。

 孤立した者は生きたまま全身の肉を噛み千切られる。

 

死ね、死ねぇ!

 

 怒号と悲鳴。

 入り混じる赤と黒。

 血と肉片が全てを等しく汚し、銀色のエナが狂ったように舞い踊る。

 捕食者と被食者の闘争は生存競争であり、死闘だ。

 

エリアス、上空より新手だ!

 

 そして、狩りと称した娯楽的殺戮に走るインクブスと異なり、彼女のファミリアは徹底的だった。

 鳴り響く重々しい羽音。

 赤き月を背負う者は、黄と黒の警告色で存在を主張する。

 

ボウを持てる者は空を!

 

 打ち鳴らされる大顎の打音を聞き、指揮者たるミノタウロスは鬼気迫る形相で叫ぶ。

 眼前の敵に手一杯の状況で、ボウガンを手に取れた者は少数。

 60体から成るスズメバチの編隊が一斉に降下を開始する。

 

 迫る羽音――突如、静止するスズメバチの編隊。

 

 彼女たちの先制攻撃は的確で、致命的だ。

 腹部の毒針より噴射された毒液が、混戦中のインクブスたちを襲う。

 

ど、毒だっ

目がぁぁぁ!

 

 毒液を浴びた顔面を押さえ、悶え苦しむ戦士たち。

 脚を止めた者には例外なく凶悪な大顎が突き立てられ、その四肢を引き千切られる。

 グンタイアリは誤射など気にした様子もない。

 毒液は獲物の鮮血で洗い流すだけだ。

 

小癪な真似を……

 

 ミノタウロスはアックスの分厚い刃を盾に、毒液の直撃を防いでいた。

 滞空する警告色を鋭く睨みつけ、体を軸に長柄のアックスを回転。

 

降りてこい、虫けらども!

 

 血塗れのグンタイアリを粉砕し、歴戦の戦士は雄叫びを上げる。

 大顎を打ち鳴らす災厄の娘たちは獲物を複眼に映す。

 無機質な敵意を宿して。

 

このエリアスが相手をしてやる!

 

 群と個、捕食者と被食者――対極の異形が激突する。

 

 

 赤く染め上げられた城壁に響く戦場音楽は、終幕を迎えつつあった。

 羽音に負けぬ怒号、外骨格を砕く鈍い音、瀕死の戦士が漏らす呻き声。

 闘争の後には、濃厚な死だけが残された。

 されど城壁の主は変わっていない。

 

奇妙なファミリア?

 

 肩で息をするミノタウロスの戦士は、要領を得ない報告に眉を顰める。

 捻じれた左角は折れ、右肩と左脚の肉を齧り取られた姿は満身創痍と言っていい。

 それでも城壁の守備を預かる者として責務を果たさんとする。

 

攻勢に参加せず、その辺を動き回ってるそうだ……

 

 半ばで折られたクラブを杖にして、報告を続けるオークの戦士。

 右眼から額まで走る裂傷からは絶えず血が流れている。

 

 致命傷でなければ些事――それよりも災厄だ。

 

 これまで数多の同胞を屠ってきたシルバーロータスが無駄な手を打つはずがない。

 確認の必要があった。

 

ここは任せる

 

 静かに頷いたオークの戦士に場を預け、ミノタウロスの戦士は巨躯を翻す。

 石床を叩く蹄の音に、疲労困憊の戦士たちが辛うじて顔を上げる。

 彼らが城壁の片隅に押し除けた肉片と臓物は全て同胞のもの。

 怨敵たるファミリアはインクブスに何も残さない。

 トロフィーも、勝利の余韻も。

 

エリアス、生きてたのか

 

 倦怠感を滲ませる声で指揮者を出迎えるのは、黒毛のバーゲストだった。

 自慢の鉤爪は欠け、黒い毛並みは己の血で固まっている。

 本来、術士であるはずのバーゲストも肉弾戦に参加せざるを得ない戦況。

 

シルバーロータスとやらを嬲るまでは死ねん。それで奇妙なファミリアとは、どいつだ

 

 苦々しい表情を加虐的な笑みで隠し、エリアスは件のファミリアについて問う。

 

…さっきから動き回ってる

 

 赤い眼に胡乱な色を宿し、城壁の下を顎で指し示すバーゲスト。

 言葉より己が目で確かめよ、と言外に語っていた。

 

 射眼まで歩み寄るエリアス――その眼下には、不吉な白が広がっている。

 

 荒野を覆い隠すように滞留する白は、災厄の軍勢を飲み込んだ死の霧だ。

 

何匹かは死んだようだが……

 

 その白霧の外縁にて蠢く黒い影。

 揺れる長い触角とオーガに迫る巨躯は、遠方からでも容易に視認できた。

 白霧に触れては慌てて引き返す、という行動を繰り返している。

 

災厄め、何を企んでいる…?

 

 数にして21、目的は不明、現状では脅威を感じない。

 だからこそ不気味であった。

 

どうする?

 

 ボウガンを携えたゴブリンが射眼から身を乗り出し、重量級ファミリアを睨む。

 

射殺せ

はっ…当然だな

 

 エリアスの言葉を聞き、薄笑いを浮かべるゴブリン。

 インクブスの戦士たちは一斉にボウガンの切先を壁外へ向け、矢弾を番える。

 シルバーロータスの策謀が何であれ、黙って見過ごす選択肢はない。

 

放て!

 

 号令と共に放たれる弾幕。

 それは鋭い風切り音を伴って重量級ファミリアへと降り注ぐ。

 

 微細な振動を感知――漆黒の巨影が消える。

 

 渦巻く白霧を攪拌し、荒野に突き立つ矢弾の雨。

 

ちっ! 見た目より素早いな

 

 射手のゴブリンは思わず毒づく。

 地を駆ける漆黒の外骨格には矢弾が幾本も突き立っていた。

 重量級ファミリアの巨躯ともなれば、弾幕を掻い潜るなど不可能。

 しかし、たかが矢弾如きでは致命傷にはならない。

 

次で仕留めるぞ!

おう!

 

 ボウガンに新たな矢弾を番える戦士たち。

 対する漆黒の異形は長い触角を揺らし、背を向けて駆け出す。

 

なんだ、とんだ臆病者じゃねぇか

はっはっはっ! 群れなければ何もできんか!

 

 それを敗走と見做したインクブスは、勝利者の如く笑った。

 否、勝利者なのだ。

 

 災厄の前進を阻んだ――戦士の半数近くを失って。

 

 それでも勝利に違いはない。

 ゆえに彼らは敗北者を嘲笑う。

 最後の一兵となっても戦うグンタイアリを残し、荒野の方々へと散った衛生害虫を。




 ????「薬剤抵抗性って知ってるか?」
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