捕食者系魔法少女   作:バショウ科バショウ属

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 もうコミカライズが第2巻まで発売されている件……時の流れは早い(白目)


虚言

 すべてを隠す夜の帳は取り払われた。

 太陽が地平より顔を出し、世界を覆う霧が薄まっていく。

 徐々に姿を現す照明灯には蔦が絡みつき、学童が駆けたグラウンドには雑草が生い茂っている。

 人の手が入らなくなって久しい学び舎。

 何者にも縛られぬ小鳥の囀りが空より降る。

 

 静かな朝の訪れ――それを無粋な足音が切り裂いた。

 

 火薬の臭いが染み付いた灰色の人影が雑草を踏み散らす。

 迷彩を施された武骨なライフル、全身を装具で固めたサイボーグのような姿。

 その肩にはオールドグローリー(合衆国旗)が縫い付けられている。

 彼らは一瞬にしてコンクリート造の廃校舎を包囲した。

 

≪キャリア1に動きはない。突入せよ≫

『アルファ6、了解』

 

 玄関前に待機していた小隊は身を翻し、屋内への前進を再開する。

 天井の抜け落ちた廊下に響く足音。

 ブーツの爪先が床に散らばるコンクリート片を弾く。

 朝日の射し込む教室に灰色の人影が滑り込み、銃口が虚無を睨んだ。

 

『クリア』

 

 無人の教室を後にして小隊は次なる教室へ向かう。

 教本通り、訓練通り、無駄なく迅速に。

 そのクリアリングは彼らの練度の高さを物語っていた。

 最後の教室を前にして、先頭の兵士がハンドサインで突入のタイミングを指示。

 

 立てた指を折る――カウントの終わりと同時に影が走る。

 

 つむじ風の如く灰色の一団は祭(・)壇(・)へ突入した。

 兵士のバイザーに映り込むは、黒板を覆い隠さんばかりに積み上げられた学習机の山。

 そして、床に殴り描かれた樹木の紋様――

 

『ずいぶんと遅い到着だったね』

 

 その中心に座る男は、訪問者を嘲るようにニヒルな笑みを浮かべた。

 

『そこを動くな』

 

 銃口が一斉に男を指向する。

 既製品のスーツに身を包み、ボディアーマーの類は身に着けていない。

 ひとたび銃火が走れば、男の命は無いだろう。

 

『カイル・イーガン』

 

 名前を呼ばれた男――元CIA(中央情報局)職員、カイル・イーガンは一切動じない。

 悠然と眼鏡のブリッジを上げて、兵士たちと相対する。

 

『君は……ブライス大尉か』

 

 眼前の兵士が融通の利かない年嵩の大尉と知り、イーガンは退屈そうに鼻を鳴らす。

 

『両手を頭の後ろで組め』

 

 平静を装っているが、イアン・ブライス大尉の発する声には濃密な殺意が満ちていた。

 血で描かれた樹木の紋様は、何人の犠牲者を必要としたのか。

 カイル・イーガンの罪は横田基地の惨劇から更新され続けている。

 兵士たちは裏切者の額に照準を合わせた。

 

『つくづく愚かしいな、君たちは……』

 

 イーガンは命を踏みつけた靴底を見せつけるように脚を組む。

 まだ乾き切っていない血の臭いが微かに漂う。

 

『合衆国の喉元にナイフが突き立てられようとしているというのに』

『両手を頭の後ろで組め』

 

 言葉を弄する人種との対話は無益だ。

 苦し紛れの虚言と理解できるものであれば猶更。

 現在、窮地に陥っているのはアメリカ合衆国ではなく、彼の新たな飼い主であるインクブスなのだ。

 

『話したいなら元(・)同僚とするんだな』

 

 インクブス信奉派というテロリストを横田基地に招き入れ、多くの犠牲者を出した罪は重い。

 CIAは組織の威信にかけて裏切者を全力で締め上げるだろう。

 

『悠長なことだ』

 

 それを理解しているイーガンは、朝日を反射する眼鏡の奥で碧眼を細めた。

 あくまで余裕の態度を崩さない。

 

『動くな!』

 

 ブライスの警告を意に介さず、イーガンは錆びついた席を立つ。

 

『パッケージ13の危険性を理解しないペンタゴンにも呆れたが、救世主と讃える君らには憐みすら覚える』

 

 かつてブリーフィングで見せていた涼しげな表情で兵士たちを嘲笑う。

 静まり返った教室に満ちる殺意が濃度を増していく。

 

『いいかね』

 

 クロスファイア(十字砲火)の中心で、まるで死を恐れないインクブスの信奉者は語り出す。

 

『あ(・)れ(・)は環境に適応し、進化し続けるスタンドアローンの兵器システムだ』

 

 それはシルバーロータスとの共同戦線で得たアメリカ軍の知見。

 彼女が運用するユニットはインクブスを捕食し、驚異的な速度で進化、増殖する。

 そして、指揮官が不在であっても自己判断で戦闘を続行できる。

 インクブスを殲滅するため生み出されたシステムは、人類の希望と言ってもいい――

 

『地球上からインクブスが絶滅した時、彼らを捕食することで自己を保存していたシステムはどうなると思う?』

 

 兵士たちの口を引き結ぶ理由が変わる。

 バイザーの下には苦虫を噛み潰したような渋面が浮かぶ。

 人類の天敵が存在する限り、システムは人類の味方で在り続けるだろう。

 

 しかし、すべてが終息した時――彼らは誰の味方となるのか。

 

 五大洲と七大洋を制した戦力に抵抗できる者は存在しない。

 仮にシステムが自己の保存を優先し、捕(・)食(・)対(・)象(・)を変更すればゲヘナの門が地上に開かれるだろう。

 

『パッケージ13は――いや、あの蟲どもは誰の手にも負えなくなる』

 

 口角を吊り上げたイーガンは、かつての同胞たちを見回す。

 アメリカ軍の内部にも同様の懸念を抱く者は存在し、シルバーロータスとの協力態勢を不安視する声も少なくない。

 人類の敗北という最悪の結末が回避され、戦後を見据える余裕が生まれたゆえの不安。

 これが数年に及ぶ死闘であれば、妥協点を模索する時間があった。

 あまりに劇的な勝利が議論の成熟する時間を与えなかった。

 

『キャリア1を拘束しろ』

 

 教室に響く厳かな声が虚言を切り捨てる。

 

『了解』

 

 小隊を率いる士官の命令に従い、兵士たちは雑音を意識から締め出す。

 彼らは軍人だった。

 

『ブライス大尉、君も知っているだろう』

 

 兵士たちが任務を遂行すべく血で描かれた紋様より先へ踏み込む。

 対するイーガンは仰々しく両手を広げ、なおも語り続ける。 

 

『パッケージ13の引き起こした虐殺(ジェノサイド)を』

 

 裏切者の問いかけにブライスは沈黙で応じた。

 虐殺とは、国内の掃討戦において生じた不(・)慮(・)の(・)事(・)故(・)ではない。

 シルバーロータスがアジア大陸にて行ったインクブス傀儡国家群の殲滅戦を指す。

 ローカスト(飛蝗)型のユニットは1週間足らずで軍民の半数を轢き潰し、大陸を赤く染め上げた。

 

『あんなものが救世主に見えるかね?』

『うるせぇんだよ、インクブスの狗が』

 

 イーガンの言葉を遮り、1人の兵士がライフルの銃口を突きつける。

 割れた窓から射し込む朝日がバイザーを白く染めた。

 

『彼女のおかげで俺の妹は死なずに済んだ』

 

 何もかも許容できるほど楽観的ではない。

 当然、不安はある。

 それでも彼女の献身によって救われた者たちがいる。

 

『これ以上お喋りを続けるなら、額に口を増やしてやるぞ』

 

 その事実を理解できぬ者が人類の味方を気取るなど片腹痛い。

 誰一人としてカイル・イーガンに同調する者はいなかった。

 人類の敵とはインクブスであり、眼前の男だ。

 

『救われたか、そうか……やはり愚かだな』

 

 否定されてなお裏切者は余裕の笑みを崩さない。

 両脇に回る2人の兵士には見向きもせず、眼前の銃口を観察していた。

 青い瞳の中に黒い虚無が映り込む。

 

『まだ淫魔(インクブス)には言葉が通じる』

 

 そして――右目に浮かび上がる真紅の紋様。

 

『蟲と対話できるはずがないだろう』

 

 人ならざる者へと変質する声。

 碧眼の奥底で赤々と燃ゆる大樹。

 床面に殴り描かれた紋様が不気味な光を帯び、3本の根を伸ばしていく。

 

『こいつ!?』

『撃て!』

 

 ブライスの号令が飛ぶ。

 

 兵士たちが引金を絞る刹那――イーガンの頭蓋が爆ぜた。

 

 脳漿が朝日の下に飛び散り、積み上げられた学習机を鮮やかなピンクが彩る。

 遅れて窓外より響き渡る銃声。

 意思を失った肉体が床に倒れ込み、すべてが沈黙する。

 

≪こちらゴースト7、エナの変異を確認したためキャリア1を処理しました≫

 

 頼もしき守護天使の声が通信越しに聞こえ、ようやく兵士たちは銃口を下ろした。

 

『こちらアルファ6、迅速な対応に感謝する』

≪被害はありませんでしたか、大尉?≫

 

 割れた窓から見える2階建の住宅へ手を振り、ブライスは埃の舞う教室を見回す。

 周辺の警戒に移った部下たちに異常はない。

 

『ああ、モーガン少尉のおかげで全員無事だ』

≪そうですか……よかった≫

 

 娘ほど年の離れた少女が零した安堵の声を聞き届け、周波数を切り替える。

 この粗末な祭壇には懸念事項が残されていた。

 

 ――床面の黒く焦げ付いた樹木の紋様。

 

 イーガンの足元に収まっていた木は枝葉を伸ばし、3本の根は教室の隅にまで達する。

 明らかに成(・)長(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

 

『HQ、こちらアルファ6、インクブスによる工作活動の痕跡を確認した』

≪了解、ゴースト7の到着まで周辺を維持せよ≫

『了解』

 

 通信を終えたブライスは色素の薄い瞳を閉じ、静かに息を吐く。

 拘束対象であるカイル・イーガンは死亡したが、想定された事態のため動揺はない。

 大人ではなく子供に引金を引かせた事実に、言い知れぬ怒りを覚えていた。

 

『やっぱり拘束なんて無理な話ですよ、大尉』

 

 ブライスの隣に並んだ偉丈夫の中尉は首を横に振る。

 そして、兵士たちの苛立ちを代弁するように毒を吐く。

 

『信奉派はアルカイダと同類のく(・)そ(・)っ(・)た(・)れ(・)です。吹き飛ばされて清々しましたよ』

 

 共に死線を潜り抜けてきた戦友の愚痴に、ブライスは苦笑を漏らす。

 かつてアメリカ軍を苦しめたテロリストは中東から人類ごと駆逐されたが、苦い記憶は刻まれている。

 横田基地で行われた自爆攻撃は、その記憶を鮮明に蘇らせるものだった。

 ただ――

 

『信奉派と一緒にしてやるなよ、中尉』

 

 彼らと信奉派には明確な違いがある。

 顎から上を粉砕された死体へ向く2対の視線。

 

『連中は殉教者じゃない』

 

 死の寸前まで人類を嘲笑していたイーガンは、インクブスの傀儡だ。

 日本国防軍まで食い込んでいた協力者の追跡を撹乱する囮。

 あるいは祭壇に捧げられた生贄。

 

『……何をするつもりだった?』

 

 紋様の一筋を靴底で伸ばしてみるが、禍々しい黒が霞むことはなかった。

 

◆

 

 鉄筋コンクリートの墓標が立ち並ぶ旧首都。

 侵略者が姿を消してなお人々の戻らぬ地にローターの羽音が降り注ぐ。

 上空にて滞空する緑の機影は、陸上迷彩を施した汎用ヘリコプターだ。

 日本国防陸軍と記された機体側面の大型ドアが開かれる。

 

「ここまでで結構よ」

「ご武運を!」

 

 空中へ飛び出す人影。

 戦装束が風を受けて踊り、黄金の髪が陽を帯びて瞬く。

 重力に従って自由落下する少女はパラシュートを装備していない。

 

 アスファルトで華奢な肢体が砕ける――ことはなく、軽やかな足音が鳴り響いた。

 

 眼前に聳え立つ高層ビルを見上げる碧眼。

 砲爆撃の被害を辛うじて逃れた比較的損傷の少ない建築だ。

 そこから荒れ果てた国道へ視線を落とし、赤錆びた放置車両の陰から迷彩柄の人影を見出す。

 

「状況を説明してもらえる、中村さん?」

 

 ウィッチナンバー1、ラーズグリーズは普段通りの調子で声をかけた。

 国防軍の現場指揮官は動じることなく、戦女神の下まで駆け寄る。

 身長差から両者の視線が微かに動く。

 

「既に対象は死亡しており、抵抗勢力の存在も確認できません」

「対象の死因は?」

「右側頭部が内側から破裂したことによる外傷性ショック死と推定されています」

 

 感情を殺した声で淡々と報告する現場指揮官。

 その間にも高層ビルを囲う1個小隊は、2階の窓に銃口を指向している。

 各々が口を引き結び、緊迫した空気を纏う。

 

「2階で何らかの儀式を実施した形跡があり、中特防の到着まで部隊を屋外で待機させています」

「賢明な判断ね」

 

 軽く頷いてみせる戦女神に緊張感はない。

 国防軍はフェアリーリングとの交戦を経て、これまで以上にバイオハザードを警戒している。

 しかし、物理的な防除が無意味であるとラーズグリーズは理解していた。

 

「儀式の形態は?」

「死亡した対象を中心に、祭壇のようなものが構築されていたと報告を受けています」

 

 エナの輝きを帯びた碧眼がマジックの痕跡を探す。

 腰に手を当てて佇むラーズグリーズは無防備に見えるが、この状態でも目標を瞬時に蒸発させることが可能だ。

 自他共に認める最強とは、あらゆる戦場において過剰戦力。

 そんな彼女が赴いた理由は――

 

「傀儡の次は祭壇、ね」

 

 インクブスの新たな戦術への警戒。

 これまでインクブスが悪趣味なオブジェを構築することはあったが、加害性はなかった。

 効(・)果(・)を伴うようになったのは先日の襲撃からだ。

 

「ひとまず現場を見てみようかしら」

「了解」

 

 ラーズグリーズは空色の戦装束を翻し、高層ビルの正面へ向かう。

 全面ガラス張りのエントランスに人影はなく、砕けたタイルが床一面に散乱している。

 照明の落ちた薄闇を反響する硬質な足音。

 それは2階へ通じる4基のエスカレーターを前にして停止する。

 

「靴跡ばかりね」

 

 埃と粉塵の堆積したステップには、人間の足跡だけが刻まれている。

 ここへ逃げ込んだ対象が国防軍内部に巣食う信奉派だったとしても、あまりにインクブスの痕跡が少ない。

 辛うじてエナの残滓を感知できるが、それも微弱。

 しかし、皆無でない以上、祭壇の危険性を排除することはできない。

 

 ――インクブスは馬鹿ではない。

 

 仏頂面のウィッチを思い出し、ラーズグリーズは苦笑交じりの溜息を漏らす。

 5年前から停まったままのエスカレーターに足を掛ける。

 規則的な足音が2階のオフィスエントランスへ辿り着いた時――

 

「……悪趣味な祭壇だこと」

 

 ラーズグリーズは祭(・)壇(・)を目にする。

 オフィスエントランスの白いタイル床を侵食する赤き大樹。

 それを囲うように9つの死体が配置され、埃臭さに混じる血臭が鼻を突く。

 

「生命の樹……というより世界樹かしら」

 

 3本ある根の1本を踏んでみるが、特筆すべき異変は起こらない。

 エナの残滓を探る碧眼は、血で殴り描かれた大樹を上から下まで流し見た。

 中央に座する背広姿の男は右側頭部が弾け飛び、既に事切れている。

 

「妙な話よねぇ」

 

 インクブスは決して相容れない異界の怪物だが、その容姿や能力は人類の文化史から近しい存在を見出すことができる。

 人類ありきな繁殖手段に加え、異界に存在しない人語を巧みに操る。

 意図して生み出さなければ、こうも歪な生命体は生まれまい。

 彼らは奇妙な存在だった。

 

 反転する世界の色彩――崩れた天井近くに現れる9つの刃。

 

 風と共に薄闇を切り裂き、祭壇に突き立てられるエストック。

 その柄に巻かれた白銀の糸が荒ぶる風の中で揺蕩う。

 これにて悪しきエナは完全に封じられた。

 

「随分と長い散歩だったわね――」

 

 一仕事を終えたラーズグリーズは、肩越しに背後へ視線を投げる。

 埃と粉塵が雪のように降る中、黒い羽音が響き渡った。

 

「レーヴァン」

 

 エスカレーターの手摺に降り立つ者は、ウィッチナンバー1のパートナー。

 生物的な温もりを感じさせないワタリガラスの模造品。

 

「汝の命を果たしたまで」

 

 レーヴァンは普段通りの無機質な口調で応じる。

 一般的なパートナーが持ち合わせている愛嬌は欠片もない。

 それを軽く流すまでが彼女たちの定型化した遣り取りだ。

 

「直接会いに行けとは言ってないわよ」

 

 しかし、今日は違った。

 ラーズグリーズは形の良い眉を顰め、怒りにも似た不快感を示す。

 

「手段について言及しなかったのは汝だ」

 

 瞬き一つせず、レーヴァンは淡々と主の落ち度を指摘する。

 そこに一切の悪意はなかったが、それが逆にラーズグリーズの神経を逆撫でした。

 

「これまでの合理的な判断はどうしたの?」

 

 シルバーロータスに面会する場所と時刻を伝えるなら、パートナー間のテレパシーで事足りるだろう。

 わざわざ本人と接触し、他者に情報が洩れる危険を冒す必要はない。

 ウィッチナンバー1のパートナーらしからぬ浅慮な行動だった。

 

「貴方の飼い主は何を企んでいるのかしら」

 

 ウィッチの命令を聞かぬパートナーが従うとすれば、得体の知れない人類の味方(オールドウィッチ)だ。

 仮面を取り繕わないラーズグリーズの鋭い眼差しがレーヴァンを射抜く。

 

「我が主は汝だ」

 

 パートナーは彫像のように微動だにせず、やはり淡々と語る。

 

「首輪をつけてくれた相手を信じると思う?」

「総てのパートナーはオールドウィッチから遣わされた。それは事実」

 

 インクブスの侵略から人類を救うため、オールドウィッチから遣わされた人類の味方。

 底抜けの善性と道徳心で少女を導き、戦う術を授ける無償の奉仕者。

 そして、ウィッチの最期を見届ける死神(ヴァルキュリア)の代行者。

 それがパートナーだ。

 

「されど、彼奴の従者ではない」

 

 ガラス玉を思わせる眼がラーズグリーズを映す。

 

「我々は自らの意思によって主を定める」

 

 力を欲する少女たちの前に姿を現したパートナーは皆、自由意思であると宣う。

 レーヴァン自身も例外ではないと。

 例(・)外(・)的(・)措(・)置(・)を施されたウィッチナンバー1は鼻を鳴らし、首元を指先で叩いてみせた。

 

「格外の力を秘めた汝に仕える上で枷を求められたが、それは既に果たしている」

 

 これまで幾度と聞いた定型の回答を聞き、オフィスエントランスに気怠げな溜息が響く。

 あくまでオールドウィッチの支配下にはないと主張するが、証明する術はない。

 敵対しなければ味方とは限らない、と理解できぬ知性では無かろうに。

 

「何度でも繰り返そう。我が主は汝だ」

「なら、不用意な接触の理由を答えなさい」

 

 ラーズグリーズは無意味な問答を断ち切り、真正面から切り込んだ。

 嫌味も皮肉も通じない相手と理解していながら、お喋りに興じた己を冷笑する。

 時間の無駄だと――

 

「ふむ」

 

 淡々と言葉を返してきたパートナーが言い淀む。

 置物同然だったワタリガラスが首を上げ、薄闇に閉ざされた天を仰ぐ。

 不気味な静寂に包まれた祭壇で、戦女神は従者の言葉を待つ。

 

「汝の……いや」

 

 一度紡ぎかけた言葉を否定し、黙考。

 今までにないパートナーの反応に、ラーズグリーズも思わず目を丸くする。

 主に伝えるべき情報を選定し終えたレーヴァンが再び嘴を開く。

 

「我が友との盟約を果たすため」

 

 無機質だった言の葉に初めて感情が宿る。




 次にくるライトノベル大賞2025にノミネートされたゾ!(宣伝)
 やったぜ!
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