IS~インフィニットストラトス~ Noblesse Oblige 作:白姫彼方
~1-1教室~
「それでは、皆さん中間テストがんばってくださいね」
四時限目、一般科目(必修)が終わり、教室内はいつもと同じく騒々しくなる。
この授業に関しては言語圏に依存する為、クラス内には日本人しかいない。いざ黒髪ばかり(美緒を除く)だと、それはそれで不思議な光景だった。
「織斑くん、学食行こうよ」
「たまには私達と食べようよー」
「そうそう。専用機持ち組はずるい」
女子にわあっと囲まれて、一夏は学食へと強制連行……かと思いきや。
「お邪魔します」
そう言って入ってきたのは楯無だった。
「何しにきたの?更識楯無」
楯無を見た美緒は一夏を守る様にわざと間に入る。
「織斑君とお弁当を一緒に食べようと思ってね」
「一夏には箒ちゃんのお弁当があるから貴方のは不要だよ」
「あら?分け合って食べるって言う選択肢もあるんじゃない?」
「何寝ぼけたことを……調子に乗ってるみたいだね、殺されたいの?」
「そう簡単におねーさんは殺されないわよ?」
2人は段々と殺気を込めて睨み合う、その影響でクラス内は静まる。
中には目頭に涙を浮かべる者さえも出てくる。それに一夏はまったをかける。
「二人とも落ち着いてくれ!俺は箒のを食べるから、先輩は悪いけど美緒と食べてくれ!」
一夏がそう言うと2人は殺気を抑えて一夏のまわりに座り、静かに食べ始めた。
この時、一夏の心境は『生きた心地がしなかった』と言う。
◆
「あ~……」
べちゃりとテーブルに突っ伏している一夏を、いつもの面々が苦笑いで眺めている。
「一夏、お疲れ様」
「おー……シャルか……」
「お茶飲む?ご飯食べられないなら、せめてそれだけでも」
「おう……サンキュ……」
一口だけでもと、一夏は顔を起こす。
「それで、あの女はどうしたのだ?」
少しぴりぴりした様子でラウラが言う。
「一夏。あの女はどうしたんだと訊いたんだ」
「ん?生徒会の仕事があるって出て行ったぞ」
「そーそー。書類がちょお溜まってるんだよね~」
間延びした声、のんびりとした調子に振り向くと、やはりというかそこには布仏本音(のほとけほんね)、通称のほほんさんがいた。
「私はね~、いると仕事が増えるからね~。邪魔にならないようにしてるのだよね~」
「自分で言うなよ……」
のほほんさんの手にはお茶漬けがあった。それも、鮭の切り身をこれでもかと言うぐらいてっぺんに乗せている。
「えへへ、お茶漬けは番茶派?緑茶派?思い切って紅茶派?私はウーロン茶派~」
空いている席に座ってそんなことを一夏に訊いている。ぐりぐりと箸でかき混ぜられたどんぶりは、なかなか混沌の様相を呈していた。
「なんとこれに~」
「……これに?」
「卵を入れます」
あろうことかお茶漬けに卵を入れるのほほんさん……正直言って想像したくない(作者本人も)
「ぐりぐりぐ~り~」
粘り気を増したそれをさらに混ぜて、のほほんさんは幸せそうに顔を緩ませる。
「食べまーす。じゅるじゅるじゅる……」
「わあ!音を立てずに食べろよ!」
「えー。むりっぽ~。ずぞぞっていくのが通なんだよ~」
「それはソバだ!」
「じゃあ努力します~。ちゅるちゅる……」
「コホン……。一夏さん?」
「ん。なんだよ、セシリア。改まって」
「あの部屋にいるのがつらいなら、仕方なく、人助けということで、武士の情けということで、わたくしの部屋にいらしても構いませんわよ?」
「ちょっとセシリア!待ちなさいよ!一夏、あんたこっちの部屋に来なさいよ。トランプあるわよ?」
「トランプで釣られるとか、小学生か!」
「じゃあ金平糖」
「幼稚園児か!」
鈴音はなぜランクを下げたのか一夏と美緒は頭を悩ませた。
「なによ、豆がいいわけ?」
「ハトか!」
「鈴ちゃん……流石にそれはないよ……」
「部屋に戻る……」
「あっ、私も部屋に戻るから送っていくよ」
疲労感を感じさせる一夏を美緒が少し支えながら食堂を出る。
「おかえりなさい。お風呂にします?ごはんにします?それともわ・た・し・?」
ドアをあけて二秒で楯無を見た一夏は口から白い物体を吐きながら脱力して膝から倒れ込むのだった。
◆
いよいよやってきた学園祭当日。
一般開放はしていないので開始の花火などは上がらないが、生徒たちの弾けっぷりはそれに匹敵するくらいにテンションが高かった。
「うそ!?1組であの織斑くんの接客が受けれるの!?」
「しかも執事の燕尾服!」
「それだけじゃなくてゲームもあるらしいわよ?」
「しかも勝ったら写真を撮ってくれるんだって!ツーショットよ、ツーショット!これは行かない手はないわね!」
とりわけ1年1組の『ご奉仕喫茶』は盛況で、朝から大忙しだった。
具体的には一夏が引っ張りだこな状態で、他のメンツはわりと普通に楽しそうにしている。
「いらっしゃいませ♪こちらへどうぞ、お嬢様」
とりわけ楽しそうなメイド服姿のシャルロットで、朝からずっとにこにこしている。
「(似合ってるって褒めたからかなぁ。それにしてはやけに上機嫌だったけど)」
ちなみに接客班(つまりコスプレ担当)は一夏、美紗緒、シャルロット、セシリア。そして意外や意外、箒とラウラ。美緒は他の露店に出なければいけないと言い、現在不参加だ。
「(ラウラは発案者だからとしても、よく箒が折れたなぁ……。しかしまあ、なんというか……)」
残りのクラスメイトはというと、大きく分けて二つ。片方が調理班でもう片方が雑務全般。
雑務は特に切れた食材の補充やテーブル整理など忙しそうにしている。そして、その中でも1番大変そうなのが、廊下の長蛇の列を整理しているスタッフだった。
「はーい、こちら2時間待ちでーす」
「ええ、大丈夫です。学園祭が終わるまでは開店してますから」
各種クレーム(ほぼすべて待ち時間苦情)にも対応していて、かなり忙しそうにしている。
「(朝より列が長くなってるけど、大丈夫かな……?)」
一夏はそう思いながら、接客の合間にひょいっと教室から顔を出す。
「あ、最後尾の看板持ちますよ」
「ねぇ、ゲームって何あるの?」
「ジャンケンと神経衰弱とダーツだって。それぞれ苦手な人のために選べるようにしてくれたみたい」
「えー、まだ入れないのー?」
一年生教室の前をほぼ埋め尽くす、人、人、人の山。その大人数に対応しているクラスメイトには、一夏は頭のあがらない思いをする。
「あ!織斑くんだ!」
「(しまった、見つかった)」
一夏がそう思っていると、すぐさま列整理のクラスメイトが数人飛んできて、一夏を教室内にと押し込める。
「こらー、出るなって言ったでしょー!」
「混乱度合いがあがるの!」
「お楽しみは最後まで取っておかないとね」
「(う、うん?最後のはなんだ?)」
「「「いいから戻る!」」」
そう言われてはどうしようもなく、一夏は接客に戻った。
◆
同時刻、美緒はIS学園の屋上にいた。だが、いつもの楽しげな表情とは違い、酷く険しい表情をしていた。
連絡相手の報告を聞いて更に表情が険しくなった。
「それは本当なの?言峰?」
『はい。間違いありません』
「さすが亡霊といったところだね。でも……不味い事になったね……それで、対抗手段は?」
『現在、本宅及び全施設、工房を捜索中で御座います』
「見つかる可能性は?」
『1割が良い方かと……何せ90年も前の
「そう……私に何かあったら全権を美紗緒ちゃんに譲渡して、もし
『はい。美緒様』
「それと……建造中のアレは?」
『既に9割完成しております。あとは、AIを搭載して試運転をすれば完成で御座います』
「急いでね……恐らく、もうそろそろ仕掛けてくるはずだから」
『畏まりました。美緒様』
美緒は通信を切ると、空を見上げた。
◆
「ああ、一夏。良かった。すぐに3番テーブルでゲームして。あと、ついでにこっちのオーダーを4番に持って行って」
戻ってすぐ、一夏はシャルロットからトレーを渡される。
「お、おう。ていうか楯無さんは?」
「生徒会の方があるって言ってどこかに行っちゃったよ」
「(な、なんと無責任な……)」
「ともかく!お店が大変なんだから、急いで!」
「りょ、了解!」
あっちに行ったりこっちに行ったりと一夏は忙しく動き回る。
「お待たせしました、お嬢様」
「きゃー!織斑くんだ~!」
「ゲーム!ゲームしよ!」
「こっちはご褒美セットだから、座って座って!」
「(それにしても、結構な重労働だな、これは……)」
働いているうちにだんだんと暑くなってきたのか、一夏は腕まくりをする。
「こら、一夏。勝手に服装を変えるな」
「箒か。ちょっとぐらいいいだろ?」
「ダメだ。せっかくの衣装だから、ちゃんと着ろ」
「なんだよ……。もしかして箒、気に入っているのか?」
「なっ、何を言うか!わ、私はただ、仕事はちゃんとするようにと思ってだな!」
「冗談だって」
「な、なに……?」
「なんだよ?」
「ふ、ふん!何でもない!」
スカートを翻して、箒はキッチンに向かった。
「(よし!がんばるか!)」
それから1時間ほど忙しく動き回り、一夏はやっとのことで引っ張りだこから開放されたのだった。
◆
美緒は現在、学園内を彷徨い歩いていた。その眼に映る光景はどれも美緒にとってまぶしく映る。
「(やっぱり良い場所だね……ここは、私には勿体無いぐらいに……)」
そうして、暫く歩いていると、第4アリーナから大人数の声がしたので、美緒は第4アリーナに向かったのだった。
◆
一夏は演劇に参加しているはず……なのだが何故かセシリアの狙撃、鈴音の飛刀を避けていた。
「し、し、死ぬ!死んでしまう!」
そう言っている間にも、セシリアの狙撃が雨霰と降り注ぐ。セットに隠れたが、すぐにセシリアの狙撃によって追い出される。
ステージに出ると、拍手と歓声が上がり、一夏は律儀に挨拶をしていると、その隙を見逃さないとばかりにセシリアの狙撃襲い掛かる。
「げぇっ、行き止まり!?」
「一夏、伏せて!」
「!?」
突然、一夏の前に現れたのは、白地に銀のあしらいが美しいシンデレラ・ドレスを纏い、対弾シールドを装備したシャルロットだった。
「しゃ、シャル、助かった……」
「いいから、早く逃げて!」
「お、おう!サンキュ!」
「あ、え、えっと、ちょっと待って!」
「な、なんだ?」
「その、できれば王冠置いていってくれると嬉しいなぁ……」
「う、うん?まあ、いいけど」
王冠に手をかけた一夏を、楯無のアナウンスが遮った。
「王子様にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます」
「はい?」
一夏は一瞬ぽかんとしたが、そのまま王冠を外すと―――
「ぎゃああああっ!?」
一夏の全身に電流が流れる。
「な、な、な……」
ぶすぶすと服の所々が焼き切れて煙を上げる。
「なんじゃこりゃあ!?」
「ああ!なんということでしょう。王子様の国を思う心はそうまでも重いのか。しかし、私たちには見守るしかできません。なんということでしょう」
「2回言わなくていいですよ!」
一夏は急いで王冠をかぶりなおす。
「す、すまん、シャル。そういうことだから」
「ええっ!?そんな、困るよ!」
「そう言われても……スマン!」
「あっ!い、一夏ってばぁ!」
脱兎の如く逃げ出す。
しかし、一夏の前に現れたのは黒髪と銀髪のシンデレラ×2だった。
「一夏、そこに直れ!」
「王冠は私がいただく」
箒は日本刀、ラウラは二刀流のタクティカル・ナイフを装備していた。
「あ、あ、あぶねぇ!!」
間一髪、両サイドからの斬撃を回避した一夏は、そのままゴロゴロと転がっていく。
「邪魔をするな、ラウラ!」
「こちらの台詞だ。まずお前から排除してやろう」
「面白い……来い!」
「さあ!ただいまからフリーエントリー組の参加です!みなさん、王子様の王冠目指してがんばってください!」
「はぁっ!?」
地響きとともに数十人のシンデレラ(?)が一夏に迫る。
「織斑くん、おとなしくしなさい!」
「私と幸せになりましょう、王子様」
「そいつを……よこせぇぇぇ!」
一夏は向かってくるシンデレラ(?)の一群からどう逃げたものかと考えながら、セットの上を走り回る。
「見つけたぞ、一夏!」
「(ギャー!箒だ!)」
「その王冠をよこせ!そうすれば、……そうすれば……」
「な、なんだよ?」
「ええい!とにかくよこせ!断れば斬る!」
「(なにそれ、怖い!誰か助けて!)」
「こちらへ」
「へっ?」
一夏は足を引っ張られて、セットの上から転げ落ちたのだった。