姉
土方が歩いている。既に日は落ち、周りには人の気すらない。そんな中、唐突に土方が後ろから刀で刺される。土方は、振り向き黒装束の男を目にした後、倒れてしまった。
「おい、起きろ。朝だぞ」
「あれぇ?土方さん、死んだはずじゃ?」
「馬鹿野郎、誰が死ぬか。寝ぼけてねぇでさっさと顔洗え。客だぞ」
「客……?」
真選組屯所の一室では、近藤の笑い声が響いていた。
「そうか、それはめでたい。式にはぜひ真選組総出で出席させてもらうよ」
「でも、正直諦めてたのよ。この歳でこんな身体だから誰ももらってくれないって……。感謝しなきゃね」
「いやいや、ミツバ殿は昔と変わらんよ。キレイでおしとやかで賢いって総悟もよく話しているよ、自慢の姉だとね」
「もう、おだてても何も出ないわよ」
近藤とミツバ、双方の笑い声が響く部屋を、真選組隊士が何人か覗いていた。
「誰だ?あのべっぴんさん」
「チクショー、お妙さんという者がありながら」
「お前ら知らないの?あの人沖田隊長の姉上様だよ。名前はミツバさん」
「よく激辛の食い物送ってくる……、アレ辛くて食えねーんだよ」
「あんなおしとやかで、物静かそうな人が沖田隊長の姉上?似ても似つかねぇな」
「そりゃそうだよ。世の中バランス良く出来てんの。姉弟の片方がしっかりしてりゃ、こっちの片方はちゃらんぽらんなの」
その瞬間、爆音と共に近藤達のいる部屋のふすまと隊士達が吹き飛んだ。
しかし、近藤は意に介さず、爆破させた張本人に挨拶している。
「おーう、やっと来たか、総悟」
「まぁ、相変わらずにぎやかですね」
「すんません。コイツ片づけたら行きやすんで」
総悟が、山崎の首を掴み、刀の切っ先も首に突き付けている。山崎がヤラれる前に、ミツバから静止の声が掛かった。
「ダメよ、そーちゃん。お友達に乱暴しちゃ」
総悟は、ミツバの方をギロリと睨んで
「ごめんなさいおねーちゃん!!」
「えええええええ!!」
すぐさまミツバに土下座をした総悟。そんな隊長の姿を見て、山崎は驚き、しばらく口が空いていた。
「ワハハハ!総悟は相変わらずミツバ殿には頭があがらんようだな!」
「姉上、お久しぶりでござんす。遠路はるばる江戸までご足労ご苦労様でした」
「だれ?」
「まぁまぁ、姉弟水入らず。邪魔立ては野暮だぜ。おい総悟、今日は休んでいいぞ。ミツバ殿に江戸のまちを案内してやれ」
「ありがとうございます!!ささっ姉上!」
礼を言うと、総悟はすぐに準備をして、ミツバを連れて屯所から飛び出て行ってしまった。
また、爆発の音を聞き、真選組屯所で稽古の仕事をしていた琲世も近藤達へ近づいてくる。
「近藤さん!今の音は!?」
「局長……。あれは?」
「おお、ハイセくん。すれ違いだったね。ちょうどさっきまで総悟の姉がいたんだよ」
「そうだったんですね。やけに訓練場の人が少ないと思ったら……。分かりました。ありがとうございます。もし機会があれば一度お会いしてみたいですね」
「おう!俺からも伝えておこう!」
汗をタオルで拭いながら、訓練場へと戻っていく琲世。琲世の姿が見えなくなったとき、もう一度山崎が声を掛ける。
「局長!ミツバさんと沖田隊長って……」
「あぁ、アイツは早くに両親を亡くし、ずっとミツバ殿が親代わりだったんだ。総悟にとっちゃお袋も同然だな。それに、今日くらいはいいだろう。男には、鎧の紐を解く場所が必要なんだ。あんな感じでな。それに、アイツはいつも弱みをみせず、片意地張って生きてるからな。そういうのはなおさら大事なんだ」
「わかりました……。今日の沖田さんは見なかったことにします」
ミツバ篇突入!!