一瞬、意識がトビそうになった……。夜兎の中でも最強の類に入るだろう2人からの同時攻撃は命の危機を感じた。めり込んだ壁から這い出て、呼吸を整える。吹き飛ばされただけで終わるわけがないと確信があった。それに、喰種としての嗅覚が告げていた。凄まじい速度でこちらに迫る者がいると。
「ハハッ!これでも大した傷を負ってないんだ!いいね!お前最高だよ!ササキハイセ!!」
「テンション上がりすぎですよ!抑えて下さいッ!」
こちらに迫りながら飛び蹴りをしてきたので、マトモに当たらないようにユキムラで防ぐ。本気で握っているユキムラがどこかに飛んでいってしまいそうな勢いだ。とんでもない膂力である。
防がれた後はすぐさま跳躍、反転してこちらと向き合う神威さん。神威さんは非常に愉しそうな様子で元気もさらにいっぱいそうだ……。
「お前さぁ……。なかなか堪え性はあるけど……なんっていうか、全力じゃないっていうかさ。あんま俺のことナメてると殺しちゃうぞ♪」
「ナメてるわけないでしょ……!本気ですよ!!」
そう、赫子はなるべく使いたくない。この世界に来て既にただの人間ではない事は気付かれているが、それでもこの一線は越えたくないんだ……。
「ふ〜ん、そう。ならいいさ、全力を出させるまで!!」
先ほどよりもスピードがあがり、こちらへ攻撃を繰り出してくる。だんだんとこちらの防御をすり抜けるように攻撃が当たってしまう。傷の再生による少しの移動速度の低下がこんなにももどかしく感じるなんて……!
「傷の再生で、動きが鈍ってるよ!ササキハイセ!!全力出さないとじゃない?なぁ!」
「……。僕の全力なんて知らなくていいと思います……よ?」
赫子を使いたくないが、このままではジリ貧だ。ユキムラの血の斬撃を多用して……。
「うん、もういいや、もういい。キミが全力を出さないってそこまで意固地になるならさ……もう、おしまいにしよう」
その言葉を皮切りに、神威の攻撃威力と速度がさらに極まった。他にも攻撃が急所を狙うモノが多くなる。先程までより殺意が高くなった。
神威さんの攻撃をなんとか凌ぐ。しかし、殺意が高まった攻撃の連続に、僕は押し負けてしまいそうだった。
「ほんとうに厄介ですねッ!!」
「はい、それミス」
神威の高まる殺意と急所を狙う攻撃に気を取られすぎて、武器を狙った一撃は、琲世の手からユキムラを弾き飛ばした。神威はそのまま、拳と足蹴を琲世の全身に叩き込む。
あぁ……。全身がボロボロだ。頭からも大量に出血してる。痛みを通り越してなんだかお風呂に浸かってるみたいだ。このままじゃ死んじゃうなぁ。……、それは……それは……イヤだ!!!!
僕はほぼ無意識だったと思う。神威さんの拳を倒れる様に躱して、そのまま前進。通り過ぎざま、頬の一部を噛み千切った。
「!?噛みつき……?いや、喰ったのか?オレを?」
この世界に来て初めて人肉を喰べた。普通の食事が出来ていたから忘れていたが、この世界でも人肉の味は別格だ。その肉が、夜兎という珍しい異星人のモノだからだろうか。いや、今はどうでもいいか。久しぶりに血肉を喰らったことで、全身にrc細胞が駆け巡るのを感じた。今だけはこの衝動を解放してもいいと思ったんだ……。
「……それが、オマエの全力……。まだまだ楽しめそうだ!!」
僕はこの世界に来て初めて、戦うために赫子を解放した。
ついに赫子解放です……。