万事屋加入から一週間が過ぎた。僕に起きた変化は、黒い玉子焼きを食べてから、人間と同じ味覚に戻ったことぐらいだろう。控えめに言って泣くほど嬉しかった。
味覚が変わってから、僕は色々な人間のご飯を食べた。卵かけご飯に玉子焼き(黒くない)、サラダにサンドイッチ、蕎麦にパフェ、酢昆布……と今まで食べてこれなかった分を食べた。
月山さんにも黒い玉子焼きを食べさせてあげたいな。美食家って言われてる程だし、人肉以上に味の種類が豊富な人間の料理を食べたら、ただでさえオカシイ月山さんはもっとおかしくなるだろうな。
トーカちゃんや、ヒナミちゃんにも食べさせてあげたいけど、食べたあとに倒れてしまうのが難点だなぁ。
そんなことを考えながら蕎麦をすすっていると、長髪の男性が横に座った。
「ハイセくん、それは何蕎麦だ?」
「月見蕎麦ですよ。桂さんもたまにはかけ蕎麦以外注文してみたらどうですか?」
「いいか、ハイセくん。武士たるもの質実剛健、かざりけの無いかけ蕎麦を啜るのが侍というものだ。君の上司みたいにパフェやチョコレートといった軟弱な物を好んで食べるようでは、あいつのように尿が甘くなってしまうぞ」
武士と侍のどっちなのだろうか?と思ったりするが、確かに、銀さんはビックリするぐらいの甘党で糖尿病予備軍と言っても過言ではない。
「あいつも攘夷志士たるもの、己を鍛え、週に一回はこうして蕎麦を啜らないといけないというのに……
あ、ハイセくん攘夷s」
「結構です」
「そっか……。今作初めてだな。セリフ途中で遮られたの」
「というか、新八くんと神楽ちゃんは誘わないのに、どうして執拗に僕を勧誘するんですか?」
「ハイセくんは、立派な大和男子だろう?新八くんより年上だろうし、そう考えたらそろそろ攘夷してもいい年頃だなと思ってな」
この人は攘夷を何だと思っているのだろうか?銀さんも桂さんと会話をするとき、基本ツッコミがメインになるし、この人は中々のボケキャラなんだなと理解できた。
「まぁ、ふざけた話はここまでで、本題を話そう。これから銀時にも伝えに行こうと思っているのだが、君から伝えてもらったほうが確実かもしれないな」
「何かあったんですか?」
「ここ最近、辻斬りが頻発していてな。攘夷志士も狙われている。木刀を携帯している銀時も狙わるやもしれん。一応、ハイセくんも攘夷志士だし気をつけて欲しい」
「真剣な話でふざけないでください。僕は万事屋です。さりげなく攘夷志士にしないでください」
辻斬り……桂さんも帯刀しているし、銀さんも強さは攘夷志士の桂さんと同等くらいと聞いているので、問題はないと思うが、万が一新八くんやお妙さん、神楽ちゃんが狙われたら危険だな。銀さんや真選組の人達にパトロールをお願いしたほうがいいかもしれない。
「ありがとうございます、僕も気をつけます。桂さんも有名人だし、気をつけてくださいね」
「ははは、俺を誰だと思っている。狂乱の貴公子、または逃げの小太郎。その名の通り、逃げてみせるさ」
そう言って彼はお店を出ていった。すごい格好良く出ていったが、まだ蕎麦頼んでないんだよな。店員さんも何だったんだろうという表情をしている。
けど、桂さんなりに警戒を促してくれたのだろう。万事屋に戻ってこのことを銀さんに伝えないといけない。
この時桂さんと一緒に万事屋に行けばよかったと、今になって思う。いつも一緒にいたエリザベスがいなかったこと、攘夷志士を狙う辻斬りがいたこと。桂さんなら大丈夫と慢心していたのかもしれない。
その時までは嵐の前の静けさを平和と勘違いしていた。
次回、紅桜篇突入!!