仮面ライダーAGITΩ〜Shining Brave〜   作:シュープリン

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プロローグ
はじまり


ずっと昔。小さな頃。永遠みたいな夏を駆け回っていた。

 

あの日私は私は海に来ていた。私は夏が好きだった。私は海が好きだった。毎年夏になると、大好きなお父さん、お母さん、そして大切な弟と海へ行けるから。仕事が忙しくて、いつも帰りが遅い両親も、この季節だけは特別。私達をずっと見ていてくれる。弟の笑顔も、いつもよりずっと輝いているように見えて、私は幸せだった。

 

「こっちに来て〜!!こっち〜!!!」

 

私は、この言葉が好きだった。この言葉を言うだけで、大切な人がいつも側に来てくれるから。さしずめこの言葉は魔法の呪文。大きな影法師さん2つと小さな影法師さんを呼び寄せるという私の魔法。私の思い出。

 

8月。セミが元気に鳴き、夏休み真っ盛りのこの季節。私が思い出すのはいつもこの光景だった。太陽がギラギラと大地を照らし、どんどん気温が上がっていく。そんな中を私は走り、大好きな人と冷たい水をかけあいっこしたりする。かき氷を食べたり、砂浜でお城を作ったり、ちょっと疲れたらお昼寝したり....。どんなに遊んでもやることは尽きなくて。あの眩しさだけは忘れない。そう思っていた。

 

 

ーーーーそれなのに、

 

「ぐぅ...ううぅうああああえぁぁえあああああ」

 

今私は、太陽の光など届かない暗い部屋にいる。ほんのりと照らしているデスクスタンドの明かりがやけに眩しい。

 

あまりの眩しさに、私は机から離れ、壁にもたれ掛かった。

 

「ああぁぁぁああああああ....」

 

それでもダメだ。

 

眩しい。眩しくてたまらない。体が熱い。熱が出たかのように火照っている。まるで、酷い風邪を引いたかのように。

 

「こっちに....来て....」

 

助けて、翔一さん。

 

「こっちに....来て...」

 

助けて、風谷教授。

 

「こっち....に.....来て...」

 

助けて、哲也。

 

「こっちに...来て」

 

助けて、お父さん、お母さん。

 

光が溢れてくる。眩しい眩しい眩しい眩しい。デスクスタンドの明かりは、こんなにも鬱陶しいモノだっただろうか。

 

ーーーーいや違う。光は私だ。私の腰からの光。眩しかった光は私が出していたモノだったのだ。

 

こっちに来て。

 

その瞬間、私が苦しんでいた光が全身を包んだ。光が、磁石のように私に引き寄せられ、私が私で無くなっていくのを感じた。

 

そこから先は覚えていない。

 

ただ、眩しさだけは忘れなかった。

 

その日は雨が降っていた。大雨だった。雨の夜道を、翔一さんの車は走っていた。夜の闇を照らすのは車のヘッドライトと、時々轟く雷の光だけだった。

 

翔一さんは運転しながらも、チラチラと私の様子を伺っていた。だけど、私はそれに気遣う余裕もなかった。あの日の光が、力が離れない。逃げても逃げても私を追い掛ける。

 

ウザい。

 

ウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 

次の瞬間ーーー

 

ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!

 

耳を劈くような音と共に車の窓が全て割れた。

 

「止めてくれ...許してくれ...」

 

私は、男の後を追い掛けていた。その男は鳥籠を持っていた。娘の誕生日プレゼントとか言っていたっけ。

 

「止めてくれ...止めてくれ...」

 

男は、呪いのようにそれを呟いていた。

 

止める?止めるって何?どうやったら、これを止められるの?止めたいよ。私だって、こんなことしたくないよ。だけど、止められないのよ。

 

「許してくれ...止めてくれ...」

 

許すも何も、私は怒っていない。ただこれを止めてほしいだけ。

 

「止めてくれ...」

 

助けてよ。あなたは超能力の研究をしてるんでしょ?だったら止めさせてよ。

 

声が出ない。

 

「止め...」

 

その言葉はある時急に止まった。気が付くと、私の足元に、電池切れのおもちゃのようにピクリとも動かない男性の姿があった。

 

ピリリッピリリッピリリ

 

無機質な機械音に、私はハッと我に返る。

 

目の前にいる男は、助けを乞いていた時とは違いピクリとも動いていなかった。

 

震える手で携帯電話を開くと、ディスプレイには新着メールを知らせる通知。

 

何故なのか、私は藁にも縋る思いでそのメールを開いた。

 

『ごめん、姉さん。少し遅れる』

 

「あっ...あぁ...あっ.....」

 

その時、私は初めて理解した。何があったのか、私は何をしてしまったのか。その理解という毒が全身を周り、私の全てを蝕んでいった。

 

私は周囲を見渡すと、左にあるトンネルの方へと走り出した。

 

振り返る事は無かった。

 

私はもう、待ち合わせる事は出来ない。

 

私の居場所はもう、どこにもない。

 

私は、ビルの屋上にいた。いや、正確にはビルの屋上にいる人から伸びた手にぶら下がっていた。

 

私は、遠くに行きたかった。誰も私を知らない場所で、0から人生を始めたかった。

 

それなのに彼は....

 

「お願い...離して」

 

私は、彼に初めて懇願した。

 

どうして私をこの地獄に留めようとするの?

 

彼氏だったら分かってよ。私の気持ちを。私はもう1秒だってここにいたくないんだよ。ここの空気を吸いたくないんだよ。

 

だから、楽にさせてよ。

 

「ぐぅ....」

 

彼は、顔を歪めながら、そんな私の願いを叶えさせまいと上へ引っ張り上げようとしていた。

 

しかし、天の神は私の願いの方を叶えた。

 

私の手は、彼の手から滑り落ち、私は下へと落ちたのだった。

 

全てがスローモーションのように感じた。

 

あぁ、走馬灯ってこういう事を言うのか。

 

私の気分はとても晴れやかだった。

 

これでようやく逃げられる。

 

そう思っていたのにーーー、

 

「雪菜!!!!!!!!」

 

彼の声を聞いた。その瞬間、私の心に晴れやかとは違う気持ちが芽生えた。

 

どうしてこうなってしまったんだろうか。

 

彼と一緒にいる時間は楽しかった。弟の話を聞くのは楽しかった。家族で海に行っていた時は楽しかった。家族家族家族家族家族ーーー。

 

そうだーーーー。

 

お父さんとお母さんが死んでから、全てがおかしくなったのだ。おかしな力を手に入れた。その性で私は私じゃなくなった。

 

ただ、普通のことを普通に出来たら、それで幸せだったのにーーー。

 

しかし、そんな思考も、グシャという鈍い音と共に消えた。

 

「あぁ.....ゆき...な...」

 

男はガクリと項垂れた。助けたかった。それなのに、自分の気持ちは相手に届かず、逆に自分の方が、彼女の懇願する顔を見て手を緩めてしまった。

 

男はそうして、コンクリートの床をただじっと見つめ続けた。

 

 

 

 

 

彼の横を、淡く光る蝶が横切ったが、彼は遂に気付かなかった。

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