仮面ライダーAGITΩ〜Shining Brave〜 作:シュープリン
出会い
「買い出しを手伝ってくれてありがとうございます、芽吹先輩」
「ううん。これは私たち防人が無事に帰ってきた記念のパーティなんだからこれくらい」
ゴールドタワーを拠点にして、火の海に包まれた四国の結界外の調査と国土の奪還を目的に結成された部隊『防人』のリーダーである楠木芽吹と彼女らを支えている巫女の国土亜耶。
二人はレジ袋を提げながらゴールドタワーに帰っている所だった。
中身はクッキーやチョコといった菓子全般。ホットケーキミックスや生クリーム、果物も入っている。
『防人の皆さまには手料理も振る舞いたい』という亜耶の要望から、その材料も一式買い揃えた。
「第一、こんなにたくさんの物、一人じゃ運べなかったんじゃない?」
「えへへ、芽吹先輩も来てくださると言っていたのでつい買いすぎてしまいました」
今回のパーティというのは、結界外の土壌調査から犠牲0で帰ってきた事を祝うものだった。
とはいえ、その任務自体は珍しいモノではない。既に過去数度行っている。
初めてのお役目の時もこんな事はしなかったし(疲労やら恐怖やらでそんな事をする気力もなかった)、普段通りであれば今回の催しも無かっただろう。
そう、普段通りであれば。
それは、土壌採取が完了して結界に帰るときの事だった。
星屑との戦闘中、芽吹は信じられないものを目撃した。
それは人だった。
成人の女性が一人、炎と星屑が跋扈する空間の中で倒れていたのだ。
何故こんな所に、と思ったが勇者として、以前に人として見捨てられないので運ぼうとしたが、その時に一悶着があった。
『こんな所に人がいるなんておかしい』
『バーテックスの罠に違いない』
『結界内に連れ込んだ途端に星屑になったらどうする?』
確かにバーテックスの生体は未知な点ばかりだ。
星屑1体1体は同じ見た目をしているが、集まることで全く別の個体になる事もある。それが人に化ける可能性も否定できない。
結界外は熱と星屑・バーテックスの恐怖で地獄だ。そんな所で異物を目撃すれば疑心暗鬼になるのは当然だ。
確かにこの女性はおかしい(というよりおかしくない点を探す方が難しい)。
結界の外は熱と炎でかなりの気温だ。勇者システムでも無い限り焼け死ぬのがオチなのに、この女性は普通の服を着ている以外何も持っていないにも関わらず火傷一つない。
星屑に襲われた様子もなく、ただ気を失っていたような感じだ。
第一、結界は大赦が厳重に監視・管理している。方法は分からないが、大赦は結界内に暮らす住民がいつどこで何をしているのかを全て把握しているという話もある。
ではこの女性はどこから結界を出たのか。本当に結界外から現れたと言われても違和感がない状況だった。
事実、芽吹達防人は帰還後すぐに大赦へ連絡、すぐさま身元の確認等を行ったが、彼女に繋がる情報は一切出てきていないという。
現在は大赦が管理する病院に搬送され、大赦職員の監視の元眠りについている。
星屑の罠と考え運ぶのに反対していたメンバーを押し切って、無理矢理連れてきたような状況だ。
こういう軋轢は次の任務にも支障を来すかもしれない。そんな思いもあって、亜耶の提案でパーティを開くことになった。
「ねぇ亜耶ちゃん、私がしたことって正しかったと思う?」
「もちろんですよ。誰かが倒れていたら助けるのは当然の事です。芽吹先輩は正しい事をしたと思いますよ」
「亜耶ちゃんならそう言ってくれると思った。でも、時々不安になるのよね。反対していた子たちが言っていた事も分かるの。第一、あんな所でなんの装備もなく倒れてるなんて普通じゃないし、バーテックスだって言われても、否定は出来ない。亜耶ちゃんはどう思う?」
「うーーーーーん...私は他の神官さんたちから聞いただけなので分かりませんが、今まで天の神は私たちに直接危害を加えようとしていたんですよね?それなのにいきなり人に化けてっていうのは何だかおかしいと思います」
もちろん、だからって絶対に安全とは言えませんけどねと亜耶は付け加える。
やっぱり亜耶ちゃんは賢いと芽吹は思った。年は芽吹よりも1つ下だが、自分よりも思慮深い。
「とにかく、今からそうやって心配していても体がもちません!今はパーティを楽しみましょう!」
「亜耶ちゃん...」
そして、亜耶ちゃんのこういう所には本当に救われる。思考停止の楽観的では決してない。だけど、つい考えすぎてしまう自分の肩の荷を下ろさせてくれる。
皆が天使というのも、なるほど言い得て妙だ。
「そうね。私も手伝うわ」
「芽吹先輩も料理作れるんですか?」
「あっ、やっぱり意外だった?」
「いえいえそういう訳では」
「私、こう見えても料理はたまにしていたのよ。家に両親がいないときはよくパパのお弁当を作ったりして」
「パパ...?」
うぐっ。
しまったと思った。亜耶ちゃんとの会
※
※
話が楽しくてつい口走ってしまった。取り繕うと慌てて亜耶の方を向いたーーーー
が、亜耶は隣にいなかった。
「亜耶ちゃん?」
後ろに振り向くと、亜耶はその場で驚いた様子で立ち止まっていた。
「今のって...」
「亜耶ちゃん?」
「芽吹先輩!今すぐゴールドタワーに戻りましょう!」
「そのつもりだけど、何で?」
「神樹化です!神樹化が起こったんです!」
「神樹化って神樹の結界の?」
「はい!今感じたんです!神樹様の気配を!芽吹先輩、急いで大赦の皆さまに伝えないと、勇者様が!」
「そうね、行きましょう!!」
亜耶の言いたいことを察し、二人はゴールドタワーへ一目散に走り出した。
神樹化とは、バーテックスの襲来に伴いこの四国を神樹の作る防御結界に囲むこと。その際、勇者以外の全ての時間が止まる。故に勇者に選ばれていない芽吹には感じることは出来ないが、巫女である亜耶には何か気配のようなものを感じたようだった。
しかし、芽吹も亜耶も妙に思っていた。
神樹化は確かに突発的だ。しかし、それよりも前に、巫女にはもうすぐ敵が攻めてくるとお告げのようなものが今までは来ていた。
それに合わせて、大赦は密かに勇者適性の高い者達を集めていたという。
しかし今回はそういうのも一切ない、本当に突発的な神樹化だった。
だからこそまずいのだ。芽吹も亜耶も、勇者端末は大赦が回収していた事を知っていた。
つまりーー
「(勇者が、夏凜が生身で入った可能性が高い...!)」
いくら勇者でもそれでは無謀だ。一刻も早く勇者の安否を確認する必要がある。
「ですから、さっきから言ってるじゃないですか!!」
「あなたの方こそいい加減にしてくださいよ。こんな事言いたくありませんが、もういい大人ですよね?そんな格好でそんな嘘ついて恥ずかしく無いんですか?」
だからこそ、交番の側を通る際も交番の警察が誰かと言い争っている事に特に気を留めていなかった。
「ですから嘘じゃありません!!!」
その言葉を聞くまではーー。
「僕は見たんです!!木の根の世界に、あの白いアンノウンと誰か子どもがいたのを!!」
「ーーーーーーーーえっ?」
亜耶と芽吹は驚いて立ち止まった。
「僕も手伝いますから、急いで県警に連絡を取って、あの世界について捜査してください!!」
「そう言われましても、ええと、あなたの名前はーー」
「香川県警捜査一課の氷川誠です!」
「はぁ、氷川さん、もうそういう嘘は...」
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
居ても立っても居られず、芽吹が二人の間に割り込んだ?
「ええと、君たちは...」
「私たちは...その...」
「この人の知り合いです!」
亜耶が氷川誠を指差しながら助け舟を出した。
「はぁ...」
「では、失礼しました!」
亜耶はペコリと頭を下げると芽吹と共に誠を半ば引きずるようにして交番から出した。
「知り合いって、えと、君たちは一体...?」
訳が分からず誠は少女二人に尋ねた。
「知り合いな訳無いじゃないですか!それよりもさっきの話、どこから聞いたんですか?」
「さっきの話?」
「木の根の世界の話です!白いアンノウン?とかいう話も!あなたは一体...」
「あっ」
その時だった。
2台の車が3人を挟み込むようにして止まった。
そして中からは、仮面をつけた男女が複数人出てきた。
大赦職員だった。
大赦は四国全土に住む人達の行動を完璧に監視しているという事を(だからこそ、結界外の女性が身元不明というのがあり得ないのだが)。
※
「ちょっと雀さん、もう少し詰められませんの?」
「無理だよ、もうこっちもいっぱいいっぱいなんだもん」
「でしたらどきなさいな。ここからでは私、見えませんのよ」
「私だって見れてないよ〜」
ゴールドタワー、会議室前。
閉め切ったドアにある僅かなガラス。そこを覗き込もうと防人の娘達は躍起になっていた。
「あっ、見えた!」
他の人を潜り抜けてようやく覗き込んだ雀の目が見開いた。
間違い無かった。
あの日、讃州中学に潜入した時に見た、私たちとは違う、神樹に選ばれた正真正銘の勇者だった。
※
そんな外の喧騒を無視し、会議室内にいた芽吹はある一点を見つめていた。
彼女の方も視線に気づき、芽吹の方をジッと見つめてくる。
三好夏凜。かつて芽吹と勇者の座を争い、そして勝ち取った者。
まさかこんな形で再会する事になるとは思わなかった。
勇者が防人と出会う事は禁止されていたから。
しかも、今ここにいる勇者は夏凜だけではなかった。
「ここが、ゴールドタワー...」
「遠くから見たことはあったけど、中に入るのは初めてですね」
「まさか大赦の拠点の1つになっていたなんて」
「園っちは知っていたの?」
「情報としてはね。でも、中に入ったのは初めて。驚いちゃったよ。大赦に行ったらここに送られて、しかも皆を呼べだなんて」
結城友奈、東郷美森、犬吠埼風、犬吠埼樹、三好夏凜、乃木園子。
神世紀300年にいる勇者全員がここに集められていた。
ガチャリとドアが開き、仮面を付けた大赦神官数名と例の警官が入室(待ってましたと言わんばかりに外にいた防人達も中に入ろうとしたが、神官がキッと凄んだ(仮面で見えないが芽吹にはそう思った)瞬間にすごすごと引き下がった)
楠木芽吹、彼女の隣には国土亜耶、向かいには結城友奈、東郷美森、犬吠埼風、犬吠埼樹、三好夏凜、乃木園子、そして大赦神官数名と警察官。異様な光景だった。
「お集まりいただきありがとうございました」
まずは大赦神官の一人が口を開いた。防人のお役目関係で中心になっていた神官だ。芽吹も何度も話したことがある。
「一体私たちが何故集められたのか?教えてくれるのよね?第一、私たち防人と勇者達の接触は禁止のはず」
「それだけ、事態は切迫していると判断して貰えればと思います」
「切迫?」
「どういう事ですか?バーテックスは全て倒したのに...まさか、私が神樹を破壊した性...?」
「東郷さん!」
「いいえ、それとは全く無関係です。順を追ってご説明します。まずは彼」
と、大赦神官は一緒に入ってきた警官を一歩前に出させた。
「彼の名前は氷川誠、2002年からやって来た刑事です」
「2002年!!?」
その言葉に勇者部や芽吹と亜耶は動揺した。
「2002年って事は今は神世紀300年だからええっと...」
「大体313年前ですね、ゆーゆー」
その反応を見て、氷川はようやく実感した。ここが、今より300年以上未来の、西暦が終わった世界だと言うことを。
「そんな昔の人が何故ここに?」
「正確に言えば、彼は私たちの世界の2002年から来たわけではありません。別の世界の2002年から来たのです」
「別の...世界...?」
友奈は既に混乱していた。超過去から来ただけでなく別の世界とはーー
「並行世界って事ですか?」
「有り体に言えばそれです、乃木様」
「ヘイコウセカイ?」
「パラレルワールドって言葉なら、ゆーゆーでも聞いた事があるんじゃない?私が昔書いた小説でも便利だからよく使ってたんだけど、それは本当にあるんだね」
「何故そうだと分かったんですか?」
「彼の話を聞き、私たちの世界の歴史とは大きく異なっていたからです」
そう言って神官は目の前のホワイトボードに縦線を二本書いた。
「左が私たちの世界、そして右が氷川様の世界。まず、氷川様の世界では2001年にアンノウンと呼ばれる生命体がいて、人類を攻撃していたようです」
「アンノウン?」
「もちろん、私たちの世界ではそのような記録はありません。しかし、氷川様の話から、アンノウンとはバーテックスと同質のものであると分かりました」
「どういう事?」
風からの質問に対し、つまりーーと、神官は2本の縦線の上部に大きな楕円を書きながら言った。
「2015年に私たち人類が星屑に襲われたのと同じように(左の線に黒丸を書き、楕円からそこにかけて矢印を書いた)、氷川様の世界でも2001年に天の神からの干渉があったということです(右の線にも同様に黒丸を書き、楕円からそこにかけて矢印を書いた)」
「つまり天の神は、私たちの世界だけでなく他の並行世界にいる人類も滅ぼそうとしたということですね」
天の神の目的は人類の滅亡。十分に有り得る話だ。
「はい。とは言っても、正確に言うと氷川様の世界では天の神そのものではなく、天の神に与する尖兵が中心になって行っていたと推測されます」
「天の神にも幹部みたいなのがいて、それがその氷川誠とか言うやつの世界を襲ったって事?」
「仰るとおりです、三好様。しかしその世界では、2002年に干渉を止めています」
「どうして?」
「アンノウンを送り込んでいた親玉ーつまり、天の神直々の手下ですねーここからか”彼”と呼びますーーが、人類に可能性を持ったからと思われます。そして、氷川様の話によると、”彼”は天の神の干渉が及ばないように細工を施していたようです」
「では、そのアンノウンの親玉というのは味方と考えていいわけですね」
「はい。そして氷川様をこの世界に送り込んだのもその”彼”です」
「それで最初の疑問に戻るわけだけど、氷川さんは何で来たの?」
そう言って神官は矢印の上からバツ印を書いた。
「それは、”彼”が人類を襲わなくなった2年後、2004年に(先ほどの黒丸よりも少し下の位置に新しい黒丸を書いた)滅ぼしたからです(そして、その黒丸の上からバツ印を書いた)」
「どういう事ですか?天の神は攻められなくなったんじゃ?」
「直接的にはそうです。しかし、間接的には可能だった。これは、”彼”すらも気付いてなかったのでしょう」
「間接的?」
「それが、”鍵”を用いた方法です」
と言っても、ここから先は氷川様の話と大赦に保管してあった文書から導いた推測であり、確かかは分かりませんが、と枕詞に付けて神官は続けた。
「”鍵”とは、並行世界を繋げる橋のような役割をしているモノです。転送元の世界に(友奈達の世界に白丸を書いた)、転送先のモノを置くだけで、2つの世界の行き来が可能になるのです」
「置くだけって、それだけで世界は繋がっちゃうの?そんな事...」
「先ほども言った通りこれは推論で、大赦にも確証はありません。しかし、曖昧ではありますがそのような記述のある文書があるのは事実」
「そしてここからが本題です」
皆に強調させようと神官が前置きに言ったあと続けた。
「2004年、氷川様の世界が星屑に襲撃された後、四国に私たち同様に神樹様の結界が現出されました」
「「はぁ!?」」
神官のカミングアウトに少女たちは一番大きな反応を見せた。
「えっ?えっ?何が起こったっていうの?」
「というか神樹って氷川さんの世界にもあったって事!?」
「待ってゆーゆー、今『現出』って言ったよね。『形成』とか『作られた』とかじゃなくて」
「乃木様はさすがに鋭いですね。はい。その時現れた神樹様の結界は氷川様の世界ではなく、”彼”が私たちの世界から神樹様の力を抽出して現出させたと考えられます」
「ちょっと待って。神樹の力って無限じゃないわよね?それなのに力を吸い取っちゃったら、私たちの世界はどうなるの?この氷川とかいう人の世界を守る為に、私たちの世界は生贄になれっていうの!?それなら、私たちは何のために今まで...」
「待ってにぼっしー、多分、そういう事じゃ無いと思う」
「そういう事じゃないってどういう事よ?」
「だって、神樹の力を吸い取ったのがその”彼”っていうなら、さっきの『人類を信じる』っていうのと矛盾するでしょ?この結界が無くなったら、私たちは否応なく全滅するんだから。それなのにここの神樹の力を使って他の世界を守った理由は1つしかないよ」
その時、東郷はハッと息を呑んだ。
「まさか...」
「えっ?何?東郷さん?園ちゃんも、理由ってどういう事?」
「それは多分、守る必要が無くなったから。氷川さんの世界に結界が出た時には、もう私たちの世界は無くなっちゃってるんだよ」
会議室にいる一同がその言葉に目を見開いた。
「待って乃木さん!じゃあ今この時間は!?」
「多分、氷川さんの世界ではまだ星屑の襲撃は起きていない。そういう意味では今の氷川さんは、少し過去の時間に来てるんだよ。そうだよね?あk...神官さん」
園子からの重い言葉に神官も深く頷いた。
会議室の一同が納得した。最初に話していた「緊急事態」。それは、来ると確定していた滅びの事だったんだ。
「もう少し詳しく、ご説明します」
神官はペンでホワイトボードを指しながら続けた。
「”鍵”を用いた世界の移動、とは言っても、それがあるからと言ってどこからも出入り出来るわけではありません。恐らく、パワースポットのようなものがあると推測されます。その証拠に、氷川様はここに来る際、神樹様の結界の近くに来るようにと”彼”から言われていたそうです。”鍵”の出入り口を利用して結界を現出させたのであれば、そこが並行世界を行き来出来る場所と考えられます」
これは氷川誠の考えとほぼ同じだった。アンノウンが最初に現れたあかつき号事件。それが何故瀬戸内海上だったのか。それが、元々他の世界と繋がりやすい場所だったからではという推論と。
「そして、であるならばこちらの世界での入口というのは、私たちの世界の核となっている神樹様自身、もしくはその周辺である可能性が高い。であるならばー」
「神樹にバーテックスが到達した時点で世界は終わる」
神官の言葉を引き継いで東郷は言った。
「はい。氷川様の世界の終わりというのは結果的に私たちの世界の終わりを意味しているのです。ですから、私たちはそれを全力で阻止しなければいけない」
神官は改めて会議室一同に、そしてドアの向こうに目を向けながら宣言した。
「改めて、勇者、及び防人の皆さまに新しいお役目を与えます。この世界に現れた”鍵”を撃破し、この世界の滅亡の運命を変えてください」
「うん。せっかくバーテックスから世界を救ったんだもん。また世界を守ってみせる!」
友奈はそう高々に宣言した。
そう、友奈が言うことは分かっていた。だが、東郷は半ば反対だった。満開の後遺症、戦いのお役目、そこからようやく解放されたのにまた戦わなければいけない事に。
だけど、今回は戦争とは違う。このまま行けば否が応でも世界は滅びると決まってしまっている。それならもう、戦うしかない。
「(せめて今回は友奈ちゃんを、勇者部の皆を守れるように)」
「それなら、まずは”鍵”を探さなきゃだね!」
「友奈、それだったら、ぽい人と私たちは会ってる」
「どういうこと?風先輩?」
「結城様、乃木様から報告をいただきましたが、あなた方は先の神樹化の際、星屑とは別の者から襲撃を受けたと伺いました」
「うん。あっ、もしかしてあれが”鍵”?」
「あれはアギトと言います。氷川様の世界ではアンノウンに対抗できる力の1つだったそうです」
神官の言葉に氷川誠は頷いて続けた。
「遠くからでしたが、あれは間違いなくアギトでした」
「遠くからって、そう言えば氷川さんは何で神樹化の中に入れたの?」
ふと、疑問に思い芽吹は口を挟んだ。
そもそも彼が連れて行かれたのは、それだったはずだ。
「楠さん、それは最後に説明します。とにかく、アギトの特性を伺った所、その力は勇者システムと同等であると分かりました」
「ということはそのアギトっていうのも私たちと同じ女の子が?」
「いえ、アギトの力を得たものには男性も含まれていましたから、恐らく基準はありません。力を得た者は肉体の内部から改造され、変質した姿であると思われます」
「つまり、私たちの勇者システムとは逆ですね」
勇者に変身する時の様子を思い出しながら東郷は言った。
勇者システムは外部から神樹の力を取り込むシステムだ。内側からの改造とは違う。
「はい。そのような特性である以上、”鍵”の可能性が極めて高い。そして、私たちは既にその正体についても心当たりがあります」
「えっ?」
驚いた顔で氷川は神官を見た。その話は初耳だった。
勇者部の皆も驚いた様子だったが、芽吹と亜耶はなるほどといったような顔をした。
「先日、防人の皆さまに結界外の調査を依頼し、その際に身元不明の女性を発見しました」
そう言って神官は奥にあったスクリーンに映像を映し出した。
「これは、その女性を運んだ病室のカメラ映像です」
「あっ!」
ジッと映像を見ていた全員がある瞬間に声を上げた。
「はい。この瞬間に女性は姿を消している。国土様の感じた気配の事を考えると、この時間は神樹化が起こった時間。つまり、時が止まった中でも彼女は動いていたと言えます。また、先の神樹化については、”鍵”を天の神が見つけたからこそ星屑を送り込んだと推測されます」
「っていうか、何であんたら大赦は直前まで神樹化の事分からなかったの?前までは風に事前に知らせられてたのに」
「そうよ!あたしのメールに届いてなかったわよ!?」
あたしがメールを見落としていたんじゃないかって冷や冷やしたんだからと言う風のボヤキを無視し、神官は言った。
「それは、先の襲撃は本当に緊急のものだったからと思われます」
「緊急ってどういう事ですか?」
樹が首を傾げた。全ての戦闘が緊急ではないのか?
「実は天の神も神樹様も、『神』と言われるもの全てはある程度未来が見えるという事が分かっています。大赦の巫女たちが事前に襲撃を察知できるのもその恩恵によるものです」
「未来が見えるって、またトンチキな話が出てきたわね...。神だからって言われればそうだけどもう何が何やら」
情報の洪水に風は頭を抱えた。
「しかし、そんな神でも未来視が出来ない条件があります。1つは一定以上の感情による暴走。先の東郷様の暴走のようなーーー」
「陳謝!!!!!」
「あああああもうそういうのいいから!!!」
最速の土下座。早く座って座ってと椅子に促す勇者部。それを見て、先程までとんでもない話をしていたにも関わらず芽吹は面食らっていた。
「(これが、勇者部?)」
もっと落ち着いてるというか大人びているというか、荘厳な雰囲気を想像していた。
それに夏凜はーー
「で、他の条件って何なんですか?」
気を取り直そうと園子が発した言葉に再び芽吹は顔を強張らせる。
「もう1つは並行世界からの干渉。恐らく、氷川様の世界に流れ込もうとした星屑達が、”鍵”の現出によって流れ込んできた為と推測されます」
「つまり、経路の違いって事ね」
風の結論に神官は頷いた。
「したがって、これより先は突発的な神樹化があると判断します。そのために、回収していた勇者端末をいま一度ーー」
その時、神官は途中で言葉を切った。隣にいた氷川誠が、目を見開いて先ほど投影したカメラ映像を見ていたから。
「氷川様?」
「彼女は、まさか...いや、でもそんな...」
「まさか、あの女性をご存知なのですか?」
その可能性はもちろんあった。しかし、状況をすぐにでも勇者や防人に共有したいがために映像を見せるのを後回しにしていた。
「だけど、何故...」
それは、現実ではあり得ない人物だった。
アンノウンの事件を追う際に辿り着いた女性。初めてアギトにまで至れたと思われる女性。
そして、亡くなったと思われた女性。
「でも、間違いありません」
氷川誠は一言一句を噛みしめるようにして続けた。
この世界に現れた”鍵”と思われる人物。そして、勇者と呼ばれる少女たちに敵意を示した人物はーー
「彼女は、沢木雪菜です」
氷川誠が憧れた人物。アギトに変身し、何度も助けてくれた恩人の姉だった。