仮面ライダーAGITΩ〜Shining Brave〜 作:シュープリン
「銃構え...撃ーーーっ!!!」
防人達が普段使っているトレーニング施設、そこで、東郷美森の指揮の下銃声が響き渡った。
「ふむ...」
結果は様々。的の中心に入った者から掠りもしなかった者までピンキリ。その中でも一番中心に入ったものと言えばーー
「当ゥッッッッ然!一番射撃の腕があるのは私、弥勒夕海子ですわね!さぁ見なさい東郷さん!私弥勒夕海子の腕を!!」
「何で弥勒さんって、毎回毎回フルネームで自分の事を呼ぶんだろう?」
「そこ!聞こえてますわよ!!」
「ヒエエエエエエエェェェごめんなさいぃぃぃ〜」
「弥勒さんはさすがね。夏凜さんの時の選抜でもそこそこいい成績だったっていうのも納得だわ」
「『そこそこ』!?いいえ東郷さん、私はあの時は本気を出していませんでしたの。私が積み重ねたもの全てを解放すればきっと楠さんをも」
「雀ちゃんはもう少ししっかりと銃を構えた方がいいわね。目線も、ライフルに対して平行になるようにすれば...」
「無視!!!」
「っていうか東郷さん、何で私まで銃の訓練をしないとダメなの〜?私は護盾隊だよ?私もそっちの訓練に行ったほうが...」
「防人っていうのは私たちと違って色々な武器を使えるでしょ?風先輩は大剣、夏凜さんは短刀、友奈ちゃんはグローブみたいに武器が1つじゃ無いって言うのは防人にしかない特性。だったら、色々扱えたほうがいざという時に対応出来る幅が広がるじゃない」
「それはそうですけど...」
「それに安心して?ちゃんと盾の訓練もしっかりやらせるから。分かるわよ〜雀ちゃんの気持ちも」
「へ?」
※
「勇者パ〜ンチ!!」
「キャァァァァァ!!!!」
ゴガンという大きな音がして盾を構えていた防人が複数人吹っ飛んだ。
「痛たたた...ちゃんと構えてたのに〜」
「さすが勇者様ですね」
ピピピ〜!!
「そこ!お喋りしない!すぐに次の人に交代!!さぁ友奈、もう1本お願い!」
笛を鳴らし、犬吠埼風はテキパキと指示を出す。
「風先輩、本当にこれでいいんですか?何だか少し可哀想に...」
「何言ってんのよ友奈!相手は世界を滅ぼす程の敵なのよ?あんたのパンチの1つや2つ受け止められないでどうするの!」
「でもお姉ちゃん、神官さんも言ってたでしょ?性能は私たち勇者システムには劣るって」
「それがどうしたーーー!?気合よ気合!女子力と気合があれば何とかなる!」
「お...鬼教官...」
風の凄みに防人達は生唾を飲んだ。
だがしかし、それを犬吠埼風をよく知らないからこそのリアクションであり、
「性能がなんじゃ〜〜〜〜い!!!諦めない限り試合終了はない!!!」
「お姉ちゃんまだスリムダンク入ってるよ...」
キャラと分かってる友奈と樹は笑っていた。
※
「早く友奈ちゃんと一緒にトレーニングしたいわよね♡」
「無理無理無理無理無理無理勇者様の拳受け切るとか絶対無理〜!!!!!」
※
「うるぅぅぅあああああああぁぁぁ!!!!」
一際大きな叫び声が聞こえ、防人や友奈達はその方向を見た。
「よっ、ほっ、はっ!!」
叫びを上げながら銃剣を振り回すシズクを、乃木園子は時には傘のように槍を開きながらその攻撃を全て防いでいた。
「あの乃木様と一騎打ちだなんて、流石ね山吹さん」
「雫ちゃんって戦闘の時は性格が変わるタイプだったのね〜」
風が関心するように言った。
「いえ、性格というか人が変わってます」
「人?」
「山吹さんは二重人格なんです」
「ニッ!!?」
「今出てるのは好戦的な方で、カタカナでシズクって呼んでます」
「はい!?」
あまりの情報に風は思い切り声を上げた。
そんなギャラリーをよそに二人の戦いは、
「はい!」
「ぐはぁ!」
決着が着いた。
園子の大きな一突きでシズクは後方に吹っ飛んだ。
「くっそ~一発も入れられねぇとは。これが勇者と防人の差か」
「シズクちゃんも良かったよ?私何度もヒヤリとさせられたし」
「そういう慰めはいいよ。逆にイラッとする。もう一本行くぞ!」
「その意気だよ〜そりゃ!!」
再び銃剣と槍が交わった。
「確かに好戦的ね。昨日とは偉い違いだわ」
「あのシズクさん、お役目の時とかは大丈夫なんですか?団体行動とか苦手そうですが」
樹が不安な様子で言った。
「あ〜...」
防人達は顔を見合わせ、少し笑ってから言った。
「最初は大変だったんですよ。樹さんの仰る通り独断専行で。でもそれを楠隊長が諫めてくれて、以降は無くなりました」
「楠隊長って昨日会議室にいた娘よね?さすが、隊長に選ばれるだけあるわね〜」
「お姉ちゃんよりも凄かったりして」
「樹〜?生意気言わない」
「いやーーーー!!!」
姉妹のじゃれてる様子を横目に見ながら友奈は言った。
「芽吹ちゃんって夏凜ちゃんの友達だよね?さっきも二人で出ていくのを見たし」
「友達...どうなんでしょう?」
「えっ?違うの?」
「私は、そこにいる弥勒さん同様、今三好さんが使ってる勇者端末の候補生だったから分かるんですが、二人はどちらかというと、ライバル?」
「?どう違うの?」
樹とじゃれてた手を止めて風が尋ねた。
「三好さんの方はどうだったかは分かりません。でも、楠さんの方は三好さんを敵視していたと思います。三好さんが勇者に選ばれた時、楠さんは凄い剣幕で反対して納得していないようでしたから」
だからと言って悪い人ではないんですよとその防人は急いで付け加えた。
「あ〜だからか」
「?何がですか?風先輩?」
「いやね、初めて夏凜と会った時、やけに意識高いな〜って思ってたんだけど、もしかしたら、芽吹との事があったからかな〜って思ってね。お役目だけじゃなくて、芽吹の思いまで背負ったからじゃないかって」
「そっか、夏凜ちゃん優しいもんね」
※
その芽吹と夏凜はトレーニング場を離れて外に来ていた。
それぞれ勇者装束と防人装束に着替えていた。
ただし手には芽吹はトレーニングで使う木銃、夏凜は木刀を持っていた。
「あたし達はここでやっていいの?」
「あの広さじゃ、乃木とシズクの戦いでいっぱいでしょ?私たちはここでやるわ」
「勇者と防人でいいの?防人のスペックは勇者より劣る。前みたいに変身しないでやったほうがいいと思うけど?」
「何それ?舐めてるの?」
「いや、そんなつもりは...」
「あんた状況分かってるの?私たちの世界はこのままだと滅ぶ。バーテックスを全て倒したあんた達勇者がいるにも関わらず。つまり、それだけ強大な敵が来るって事。それなのにスペック差を気にしてるようじゃ、どの道滅ぶのよ!!!!!」
芽吹の啖呵を機に芽吹は飛び出した。
「うおおおおおおおぉぉぉりゃ!!」
そして木銃を思い切り振り下ろした。
「ぐっ!」
夏凜はそれを咄嗟に木刀で防ぐ。
「いきなり来るなんて、容赦ないわね」
「これは試験じゃない、実践よ。よーいドンで始まるわけないでしょ!」
芽吹はサッと距離を取ると、訓練用の銃の銃口を向けて発砲。
夏凜はそれを全弾躱すと、芽吹への距離を詰め木刀を突き出した。
「ぐぅ!」
芽吹はそれを銃身で受ける。勇者システムの力か、攻撃が重い。
「(それでも!)」
芽吹は突きの勢いに身を任せ後ろへ距離を取り銃口を向けた。
夏凜は発砲があると思い咄嗟に木刀を体の前に向けたー
「そう来ると思った!」
「なっ!?」
放出したのは銃弾ではなかった。その下方にあるワイヤーだ。
それが、体の前に突き出した木刀と腕に巻き付きーー
「くっ!」
「捕まえた!!」
そこでようやく発砲。
しかし夏凜は動きを制限されながらもそれを躱したり木刀で防いだりし、一発も届くことはなかった。
「(これでも!?)」
「うぉおおりゃああああ!!!」
「!?」
予想以上の機動力に驚いてた時だった。
芽吹の体がフワリと浮いた。ワイヤーで巻き付かれた事を逆手に取り、夏凜が渾身の力でワイヤーを引っ張ったのだ。
勇者の力で無ければ出来ない芸当だ。
そのまま一周振り回され、思い切り地面に叩きつける。
「がっ...」
遠心力と衝撃で芽吹の頭はクラクラした。
「はぁ!」
夏凜の木刀が芽吹の喉元の寸前で止まった。
芽吹がぶつかった衝撃音を聞いて、周囲に勇者部や防人の皆が集まってきた。
「私の勝ちね!」
結果的に夏凜は皆の前でそう宣言することになった。
※
勇者部と防人の合同訓練が行われていた頃、氷川誠は大赦神官と共に自身の戦闘スーツの開発に勤しんでいた。
防人と同じ装備ではダメ。防人用の端末に余りはないし、銃剣のような武器では氷川誠は使いこなせないから。
相手は近日中に世界を滅ぼす程の強敵。だから即戦力でなければならない。とすると理想は彼が使用していたG3-Xと似たようなシステムであることが理想だ。
幸いにもG4の設計図は手元にある。小沢澄子がいなくても彼女が設計したベースがあれば大赦職員でも再現は可能だ。
詳しく見ていけばいくほど、大赦職員からは『これは本当に素晴らしい』『これを生み出した人は天才だ』と言うような小沢澄子を称賛する言葉が出てくる。
神樹やら勇者システムやら、そんなSFの世界においても彼女の知識は凄かったのかと氷川は目を丸くした。
氷川の仕事は主にヒアリングと実地テストになる。アンノウンと戦っていた時、どのような武器をどのように使っていたか、頭にある限りの記憶を詳細に話し、そうしてできた武器を実際に試す。
だから、ヒアリングがある程度終わり、大赦職員が本格的に開発に乗り出すと、やることが無くて暇だ。
そうなると考えるのは共に戦う少女たちの事。
トレーニングをしているらしい事は聞いていたから、何か差し入れを、そう思い氷川はゴールドタワーの近くにあるスーパーへ来ていた。
昨日はゴールドタワーで1日が終わってしまったので、この世界の街を歩くのは初めてだ。
と言っても、
「(何も変わってないんだよな)」
車も、道の雰囲気も大して変わっていない。板のような機械をタッチすることで変身出来る勇者システムと違い、他の物はとても300年後とは思えなかった。
まるで、日常は天災が起きたという2015年で止まっているかのような。
そんな感じだったから、お菓子や飲み物についてはあまり迷うことは無かった。パッケージデザインが違うだけで、根本やチョコとかポテチとかドーナツとか、2004年と変わっていなかったから。
人数分行き渡るようなお菓子を籠に入れ、レジへ持っていった。
「2800円になります」
氷川は店員に言われるがまま、2800円丁度を出した。
「あの、これは?」
「はい?」
「いえ、こちらのお金は何なのでしょうか?当店では取り扱ってないのですが...」
「えっ、えぇ!!?」
氷川誠が出したのは野口英世の1000円札2枚と硬貨。
そうだ。自覚していたのに意識していなかった。
ここは300年後、しかも、自分たちが歩んできた歴史とも微妙にズレている。ならば、紙幣も違うのは当然ではないか。
「あっ、あの、ええと...」
氷川は急いで財布を覗き込んだ。しかしもちろん、この世界のお金など入っているわけがない。
その慌てた態度がさらに不審感を募らせた。
「あなた、何者ですか?いい加減お金払わないと警察呼びますよ」
「あっいや、ですから!」
一応僕も警察なんだけどな...。
しかしどうする?自分の正体は明かせないし(明かしたところで信じてくれると思えないが)、かと言ってお金を払わなければ偽札やら万引き疑いで騒ぎを起こしてしまう。どうすればーー
「すいません!!!!」
その時、近くから女の子の声が聞こえた。
「あっ、君は...」
昨日の会議室にいた少女だった。確か国土亜耶と言ったか。
「すいません!これオモチャのお金で内緒ですり替えちゃったんです!いくらですか?」
「2800円です」
「じゃあ大赦ペイで!」
亜弥がそう言うと板のような機械を店員に見せ、店員はそこにバーコードリーダーを翳した。
「ありがとうございましたー」
「精算は終わりました!氷川さん」
「はっ、はい」
今初めて、氷川は未来を感じた。
※
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「いえ、私たちも気付けば良かったです。この世界のお金なんてありませんよね。後で大赦の方に言っておきます」
「あっ、ありがとう」
昨日も思ったが、年の割にはしっかりした子だなと思った。
「そのお菓子、もしかして芽吹先輩達への差し入れですか?」
「えぇ、まぁ」
「神官の方から聞きました。氷川さんも勇者や防人の皆様と戦うと。一緒に戦うのですから、そんなに気を遣わなくても大丈夫ですよ。お菓子も私の方でよく補充してますし」
「いえ、そういう訳には」
「?」
「本来、あのような化物と戦うのは僕たち警察の役目です。それなのに、僕たち大人は後ろで待ってて、あんな中学生達を戦場に行かせるのに我慢ならなくて...あっ、ごめんなさいこんな事!」
いつの間にか愚痴のようになってしまった事に驚き急いで謝った。それも後ろへ待つ側の娘に。
「いえ、氷川様のお気持ちも分かります。私も、芽吹先輩達に何かあったらと思うと、とても苦しくなりますから」
「勇者とは何なんでしょうね...」
「?」
氷川がポツリと言った。
勇者の事は詳しく聞いている。
この世界では、バーテックスと呼ばれる人類の敵(もっと言うとアンノウンの本隊)に対抗できるのが勇者システム。
その勇者は、四国を覆っている壁を作り出した神樹によって魅入られた純粋無垢な少女なのだという事を。しかしー、
「僕の世界では、アギトと呼ばれる存在がいます。しかしそのアギトには、女の子だけが使えるというような特性はありません。それなのに何故、ここの勇者は選ばれるのが女の子だけなのかなと」
国土亜耶は巫女だと聞いている。俄かには信じがたいが、神樹の声を聞くことが出来るのだという。
ならばこの事にも意味があるのではと、氷川は答えが返ってくることを期待半分で亜弥を見つめた。
それを受けて亜耶は少し困ったようにしながら言った。
「残念ながら、私も神樹様の全てが分かるわけではないので、その真意は分かりません。ただ、私の先輩の巫女さんも、その上の先輩も、勇者様に選ばれる人について、同じ事を仰っているのです」
「同じ事?」
「"純粋無垢な少女"」
「あっ」
その言葉を聞いて、氷川の脳裏に小沢澄子のある言葉を思い出した。
"純粋な人間"というのは言葉の矛盾。不純を抱えているからこそ人間と言えるという言葉を。
小沢さんはまずまず純粋と言えるのは自分と津上翔一位だと言っていた。
自分が尊敬したアギトになる津上翔一。彼は純粋な人間だと小沢さんから評された。
もしかしたら、そういう事なのかもしれない。
純粋な人間でなければ、神から授かりし力を正しく扱えないと。
「氷川さん?」
亜耶の不思議そうな声にハッと思考を止めた。
「どうかしましたか?」
「いえ別に、何でもないです」
「あの、私からも1つお聞きしてもいいですか?」
「えぇ、僕に答えられるものであれば。何です?」
「アギトについてです」
「アギト?」
「アギトが勇者システムのようなものである事は昨日聞きました。そのアギトになった人の津上翔一さんがーどういった人なのかなって」
「どういった人か、ですか...」
氷川は少し考えてから口を開いた。
「津上さんは、とても抜けた人でした」
「抜けた...?」
「天然とでも言うんですかね。僕のことをからかったり振り回したり、しかもそれを無意識にやるんですから本当に参りましたよ」
「おかしな方ですね」
亜耶がクスリと笑った。
「でも、アギトになった時の彼は本当に凄いんです。人が今いる場所、それを守るために戦うんだと果敢に立ち向かっていました」
「とても素敵な方だったんですね」
「えぇ、とても尊敬出来る人でした」
「でしたら、辛いですよね」
「?」
「姉、なんですよね。今いる世界にいるアギトは。津上翔一さんの」
「ーーーー」
「尊敬出来る方の家族と戦うのはとても辛い事だと思います。私だって、会ったことは無くても芽吹先輩や他の防人の方々の親を叩けと言われればとても耐えられません。その、差し出がましいと思うのですが、その方と会っても、ちゃんと戦えるのでしょうか?」
正直、氷川誠は驚いていた。目の前の少女は確か13歳だ。自分の13歳の頃と言ったら学校で色々とバカやってた記憶しかない。
国土亜耶は、自分が会ってきたどの子よりも思慮深い。
神樹の巫女となったのも頷ける。それとも、巫女として、そうせざるを得ない環境に身をおいた結果なのか。
「何か、ここまで見抜かれていた事に驚きましたね」
第一声は素直な感想が口に出た。
「あっ、すいません!踏み込みすぎましたか?」
「いえ、国土さんの言うことも尤もです。他の防人の方も心配していると思います。一緒にいた楠さんとか」
「芽吹先輩は周りをよく見ていますからね」
「そうですね。確かに、辛い辛くないで言えば、辛いです。津上さんは両親を早くに亡くしていて、それからはずっと姉の雪菜さんに育てられていたみたいなので、その親代わりだった人と戦うのは憚られます」
ですが、と氷川は言葉を切って進めた。
「その雪菜が、結城さんたちを襲ったという事実は変わりません。雪菜が、今懸命に戦おうとしている彼女たちに危害を加えるというなら、刑事として、人間としてそれを許すことは出来ません。それに、雪菜さんがアギトになった事で変わったと言うのなら、それを止めることが津上さんの為にもなると僕は思います」
何かの間違いの可能性ももちろんある。だけど、アギトの力で人が変わる可能性がある事も知っている。木野という男がそうだったように。
ならばそれを止めることが、ただの人間でありながらアギトと共に戦った自分の使命だ。
氷川誠はそう決心した。
※
「あ”ーーーーーー辛かったよーーーーーー...」
ゴールドタワー内食堂、いつものテーブルで雀はそのまま突っ伏した。
「ごっ、ごめんね。ちょっとやり過ぎちゃったかな?」
「いいえ友奈ちゃん、相手は私たちの世界を滅ぼすほどの奴ら、それ位のトレーニングじゃないと乗り越えられないわ」
「ヒィッ!仏のような顔で鬼のような事を...メブ〜何か言ってよ〜勇者様が〜!!!」
「何かって、私も東郷さんと同意見だから別に」
「ここにも鬼がーーーーー!!!」
「楠、あんた中々腕を上げたわね。ちょっとびっくりしちゃった」
うどんを持ってきた夏凜が席につきながら行った。
「それは嫌味ととってもいいのかしら?」
「嫌味って、ただの感想よ」
「そんな慰め、何にも嬉しくないわよ。必要なのは結果。敵は過程なんか褒めてくれない。私はあなたに一発も入れられずに負けた。それだけの事よ」
夏凜を睨みつけながら、芽吹はそう一蹴した。
「(何で食事の場がこんなにギスギスしないといけませんの〜!!?)」
「そう言えば雫は昼うどんじゃないんだね」
空気を変えようと風が慌てて話題を振った。
「うん。徳島ラーメン」
「あれ?ということは雫ちゃんは徳島出身?」
園子からの問いに雫はコクンと頷く。
「出身は実はバラバラなんだよね。私は愛媛で弥勒さんは高知、香川出身なのはここではメブだけだよ」
「だから加賀城さんはみかんで弥勒さんは鰹なんですね」
「そういう事ですわ。ま、香川のうどんが美味しいことは認めますが高知の鰹には遠く及びませんわね」
「ほっほ~及ばないと来たか」
「お姉ちゃん?」
弥勒のうどんへの発言に風の目がギラリと光る。
「鰹にはアミノ酸がたくさん含まれていますのよ。そのアミノ酸には筋肉を補修する効果があり運動後には最っ適!さらに鰹に含まれるビタミンB6には美肌効果もありますのよ。ほらご覧なさい。私のこの透き通るような肌。鰹のお陰でこうなったと言っても過言ではありませんのよ」
「あれ?前はアルフレッドに手入れしてもらってるって言ってなかったっけ?」
「それはそれこれはこれですわ!」
「何よ!それならうどんにだって...え〜っと、食べたら女子力が上がる!」
「アバウトだよお姉ちゃん...」
「うどんに含まれる炭水化物は脳と体を動かすエネルギーになるし、この出汁に含まれるミネラルには血行促進や疲労回復の効果があります。具材によってビタミンだったりタンパク質だったり、自分が取りたい栄養素を一編に取ることが出来るから、そういう意味ではうどんは女子力が上がる食材と言えるわね」
「ナイスアシスト東郷!そう!それがある!」
「あんた、うどんについてほとんど知らずに女子力女子力言ってたのね...」
夏凜が呆れるように言った。
「ですが、それは具材の補正があるから成り立つもの!謂わばドーピング!それでしたら単体の鰹が最高と言えますわね」
「分かってないわね。うどんとはうどん+出汁+具材で成り立つもの!故にドーピングではない!あなたは左手だけで戦った状態で勝ったと言ってるようなものよ!」
「お二人共どうされたんですか?」
夕海子と風がバチバチしてる横にお盆を持った国土亜耶が近付いてきた。その横には氷川誠。帰ってからそのまま昼という流れになったのだ。
二人の視線が亜耶の後ろの氷川に集まる。
「えっと?」
「(氷川さんは別の世界の出身!)」
「(ならば、彼が選んだものが別の世界でも人気という事ですわ!)」
「「氷川さん!何を選んだ!?」びましたの!?」
「えっと...うどん」
カンカンカン!!
Udon Win!
「ガクッ...」
「えと...何?」
※
「へー氷川さんって香川出身なんですね」
「はい。だから、讃岐うどんが恋しくなっちゃって」
「ほらご覧なさい!氷川さんは地元補正あっての選択!ならば私の鰹も」
「もう鰹もうどんもいいから」
夕海子と目も合わせずに芽吹がきっぱりと断ち切り、弥勒夕海子は静かになった。
「ではここでずっと警察官をやっていたんですね」
「ここでというのが正確かは分かりませんがそうですね。最初は香川県警にいて、その後G3の装着員に選ばれてから東京に移りましてー」
「G3!出た!G3!」
氷川の発言に友奈の目がたちまち輝く。
「氷川さんの世界にいたバーテックスみたいな敵と戦う武器ですよね!?凄いですね!私たちみたいな勇者システム以外で戦うなんてカッコいいです!」
「私はその開発者に興味がありますね。私たちの世界よりも300年以上前からバーテックスと渡り合えるものを作ったという、その小沢澄子という方に」
「東郷変なスイッチ入ってない?」
「システムについては大赦職員も驚いていました。まさか300年も先の未来でも驚かれるものを作っていたなんて思ってもみませんでした。帰ったら小沢さんに伝えておきます」
「それを使って戦闘にも参加するんですよね?」
友奈が言った。
「はい。僕の戦闘経験がどれだけ役に立つかは分かりませんが、皆さんにだけ戦わせるわけにはいきません。元々僕らの世界から始まった事です。僕も全力で皆さんをお守ります」
「頼もしい大人!!!!」
感激した雀が寄り添ってきて言った。
「心強いよ氷川さんーーーーー!!!私を守ってね!そうしないと私死んじゃうんだからね!!」
「死!?加賀城さんそれはどういう...」
「真に受けないでください氷川さん、雀はいつもこうなんで。でも、こう見えてもしっかりとお役目はしているんで安心してください」
「メブーーーー!!!そんなに突き放さないでーーーーーー!!ごめんーーーー!!私が他の人に擦り寄ったからーーーーーメブが一番だよだから私を見捨てないで守ってーーーーーー!!!!」
「守る!守るからもうそんな言い方しない!!!」
芽吹は無理矢理雀を引き剥がす。
言われなくても芽吹は皆を守るつもりだ。
『犠牲0』が彼女の掲げた方針なのだから。
「ご馳走様。じゃあ私は先にジムに戻ってるから」
「あっ、ちょっと待って!って他の人も!食べ終わってもここに残ってくれない?」
席を立つ芽吹や他の防人達を急いで止める風に芽吹は不思議がった。
※
「全員に行き渡ったかしら〜?」
防人達にプリントを渡し、風は続けた。
目を落とすとそこに書かれていたのは午後のスケジュールと割振り表だった。
「午後は、私たち勇者部の活動をしてもらいます」
ユウシャブノカツドウ?
「共に戦う勇者部員として、午後は気分転換も兼ねて私たち勇者部の活動を手伝ってもらおうと思います。と言っても、部外者をあまりズカズカ私たちの学校に入れるわけにはいかないので、皆さんには主に外の依頼を担当して貰おうと思います。樹」
「はい」
姉に呼ばれ、隣に立っていた樹が一歩前に出る。
トレーニングじゃないの?世界の危機なのに?
「まずは大きな所から、このAと書かれたグループにいる方はこれから友奈さんと夏凜さんと一緒に灯籠祭りのゴミ拾いに行ってください」
「昨日はあんな事があったから中断しちゃったからね」
「今日は2倍頑張ろう!夏凜ちゃん!」
何で夏凜もそれを当然のように受け入れているの?
「灯籠祭りというのは?」
氷川の質問に亜耶が答える。
「灯籠祭りというのは神世紀300年を記念したお祭りです。灯籠を点けて、ご先祖様に感謝の気持ちを送るんです」
「へー何か鳥白島の海の祭事みたいですね」
「鳥白島?」
「あ〜はい、僕の世界にはそういう島があるんです。小さな島ですが、その海の祭事になると多くの観光客が来るので、香川の交番勤務時代はよく警備に駆り出されていました。そのお祭りも灯籠祭りと似ていて、灯籠を海に流して感謝の気持ちを送るんです」
「あっ、そう言えば樹ちゃん、そのお祭りは昔どこかの島で行われていたモノだって言ってたよね?」
「その鳥白島とかいう島のお祭りがモデルだったのかもしれないわね。もう四国以外の島は神樹に近いからって理由で全部封鎖されてるし」
そんな雑談の間も、風と樹は坦々と割振りを発表していった。
子ども会の手伝い、迷い犬/猫の捜索、犬の散歩等々...。
「子ども会楽しそ〜!」
「この猫かわいーーーー!」
午後の内容を聞いて、防人達も気持ちがそちらに傾いているようだった。
「さて、割振りは以上だけどまだ呼ばれていない人はいる?」
「ちょっと待ってよ!」
芽吹が勢いよく立ち上がった。
「あれ?分からなかった?芽吹は確か灯籠祭りの手伝いに入れてたはずだけど...」
「そうじゃなくて!何で今そんなレクリエーションをやるの!?大赦から言われたでしょ!?このままだと世界は滅びるって!」
「もちろんそれは知ってるし、理解もしたわよ?でもだからって、ずーーーっとあんなトレーニングをしてたら疲れちゃうじゃない。トレーニングならあたし達が午前中にビシバシしといたから、午後は息抜きを兼ねて部活動をやろうって」
「それがいけないのよ!」
芽吹の声が食堂に響く。
「そんな暇は毛頭ない。あんた達勇者はそりゃバーテックスを全部倒したから鼻高々で呑気に構えていられるんでしょうけどー」
「ちょっと楠!そんな言い方ー」
「あんたは黙ってて!!」
夏凜の言葉を芽吹はピシャリと遮る。
勇者部の心構えもそうだが、芽吹は夏凜の態度も気に食わなかった。
勇者を決める時も、夏凜は確かに必要以上に周りに気を遣う気がある娘だったが、状況はきちんと把握し、それに対してストイックに活動する人だった。
それなのに、何だこの腑抜けは。
「とにかく、私は行かない。相手はあんた達が倒したバーテックスよりも遥かに強いのよ。そんな時間があるなら、私は特訓を続ける」
そう言って芽吹は食堂のドアに手を掛けた。
「楠さん、私たちは...」
芽吹の背中に防人の一人が声を掛ける。
「別に、好きにすればいいでしょ」
芽吹はそう答えると食堂から出て行った。
※
「頑なで真面目な方なんですね」
「前の夏凜みたいね」
「あたしはあそこまで頑固じゃ無かったわよ!!でもまぁ、あいつの言ってることも分かるけど」
「そりゃあたしだって、楽観的に構えてはいないわよ?でもさ、未来を変えようっていうのに変えたあとの事も考えないとダメでしょ。夏凜知ってる?信頼っていうのは手に入れるのは簡単でも失うのは一瞬なのよ〜」
「その後はネットで叩かれる日々。勇者部とかいう組織は無能、約束を破る身勝手な人の集まり、行き着く先はーー」
「って東郷!!変に脅かさないでよ!!」
「でも、どうしようか?防人の人たち半分も減っちゃって...」
後ろを見ると付いてきたはいいものの、本当に良かったのかと不安な表情を掲げる防人達。
結局、半分近くは芽吹に続いてトレーニングに戻っていった。
雀ちゃんも『ここで行ったらメブに守ってもらえなくなっちゃう』と、夕海子さんも『楠さんに負けてなどいられませんわ』と、雫ちゃんも黙ってトレーニングの方へ行ってしまった。
ついでに言うと氷川さんも『午後からは武器の調整の為に研究室へ行かないといけませんので...』と言って辞退した。
「大体あんた、説明が悪いのよ」
「ま、こうなっちゃった事は仕方ない。編成を決め直しましょう。はい皆注目〜!」
風と樹が再度防人達を集めた横で、友奈は神妙な顔を浮かべていた。
「芽吹ちゃんと、どうやったら仲良く出来るかな?」
※
芽吹はゴールドタワーの窓から勇者と一部の防人が出ていくのを見ると、フンと鼻を鳴らしてトレーニング場へ戻っていった。
勇者とはどういう存在なのかをずっと想像していたが、実際に目の当たりにすると、正直失望した。
天の神の魔の手が神樹に到達して世界が滅びる。それは『かもしれない』という仮定ではなく確定している未来なのに、それに関わる内容以外にうつつを抜かすなど言語道断ではないか。
非常時だというのに部活動だのなんだのに貴重な時間を使う勇者部に、芽吹は激しい怒りを覚えた。
そして、益々分からなくなった。
あんな奴らが勇者になって、どうして私は選ばれなかったのかと。