仮面ライダーAGITΩ〜Shining Brave〜 作:シュープリン
「ここが、結界の外...」
足を踏み入れて最初に口を開いたのは風だった。
「そう言えば風と樹は初めてだったわね」
夏凜が言った。
「話には聞いていましたが、実際に目の当たりにすると凄いですね」
樹が言った。
「いつまで突っ立っているの。さっさと行くわよ」
結界外の光景に圧倒された樹と風を余所に芽吹は足を止めずに進む。
「すいません。芽吹さん」
樹が急いで後を追う。
「ここはもう敵の領地。ボーっと突っ立てるなんて言語道断。全く、結界の外も見たことが無いような奴らが勇者なんてちゃんちゃらおかしいわね」
「ちょっと楠、そんな言い方!」
「悪いけど三好さん、私はあんた達の事を認めたわけじゃない。戦力ではあるけど、それとこれとは別。私は、この戦いであんた達以上の功績を上げて、大赦に私を選ばなかったことを後悔させてやるんだから」
フンと芽吹は夏凜から目を逸らし、結界外をただ進んだ。
向かう場所は、芽吹達防人が初めて雪菜を見つけた場所だ。
今回、防人と勇者に課せられたお役目は2つ(氷川は勇者システムの開発がまだ済んでいないため見送り)。
1つは最重要ターゲットである”鍵”と思しき人物、沢木雪菜の捕獲。
雪菜が病室から姿を消して以降、大赦の力を以て結界内を捜索したが、結局見つけられなかった。
そうであれば、単純に考えて結界外にいる可能性が高い。氷川誠の話によれば、彼の世界に現れたアンノウンを操っていた黒幕は、人間と手を組んでいた可能性もあると考えられていた。
それと同様に、沢木雪菜が天の神と手を組み、バーテックスを送り込んだと考え、その捜索を命じられたのだ。
場合によっては倒しても良いと言われている。
そしてもう1つは、世界が滅びる原因調査だ。
"鍵”が沢木雪菜だとしても、彼女の力だけで防人や勇者を倒せるとは到底思えない。
星屑の完成体であるバーテックス12体を倒した勇者と、スペックには劣るが数はある防人相手に世界の滅びを完遂させるのは至難の業だ。不可能と言ってもいい。
ならば未来では他にも要因があって滅びたはず。大赦はそう判断し、現段階で結界外にその兆候のようなモノはないかの調査が命じられた。
正直、どちらも雲をつかむような任務だと誰もが思っていた。
◯◯かもしれない、その可能性がある。その推測だけで動き、確証のようなモノを掴めるとも思えず、その曖昧さを「捜索」とか「調査」という言葉で隠している。
会議室でうんうん唸ってもしょうがないから取り敢えず現場で見てこい。そんな感じの話だった。
コンビニに寄るのとは訳が違う。相手は敵地。そんな曖昧さだけで自分たち防人を、そして勇者すらも駆り出す大赦に芽吹は少なからず憤りを覚えていた。
「(やっぱり大赦は私たちを駒としか思ってない)」
その怒りを抱えながら芽吹は先へ進む。
私たちは消耗品じゃない。犠牲0で帰って大赦の思考に逆らう。
本物の勇者がいたとしても、方針は同じだ。そしてーー
「9時の方向、星屑の集団!!!」
「任せて!私がーー」
「銃剣隊、撃てーーーー!!!!」
左から現れた星屑の集団を、東郷が撃つよりも早く銃剣隊が前に出て発砲。全てを撃ち落とした。
「凄いね皆!」
「当っっっっっ然!!私弥勒夕海子にかかればこんなもんですわ!!」
友奈の称賛に夕海子は鼻高々。
「今のは群れから外れた小隊よ。大した事ない。さ、行くわよ」
芽吹はそんな称賛も受け流し前へ進む。
ーーそして、勇者に相応しかったのは私だって夏凜に、大赦に思い知らせてやる。
※
「変ね...」
先を進むなか、芽吹がポツリと呟いた。
「変って何が?」
夏凜が何が妙なのかと聞き返す。
「敵が少ない」
「少ないって、結構戦ったじゃない」
星屑の襲撃にはこれまでに三度出くわしていた。
「そのどれもこれも数が少なかったのよ。群れから外れた迷子って感じ」
他の防人達もそうだという表情をしていた。
「そう言えば、あたし達の最後のお役目の時も今回とは比べ物にならない位に星屑が出たわね」
風が東郷が壁を壊した時の事を思い出しながら言った。
「でもそれだとおかしくないですか?私たちの世界がもうすぐ滅びるなら、それこそ星屑が活発に動いているはずじゃあ」
「ううん、いっつん、その話と今の状況は矛盾しないよ」
「園ちゃんどういう事?」
「星屑だけだったらどれだけ来ようと私たちと防人の装備があれば簡単に対処出来るでしょ?だから、星屑だけで私たちの世界を攻めてくるのは無いなと思ってた。天の神は、私たちに対抗した装備で攻めてくる。バーテックスを複数体同時に出撃させたりとかね」
「じゃあ園っち、まさか!」
「うん。星屑がこれだけ少なくなってるという事は...」
「メブメブメブメブメブメブメブメブメブメブメブ〜!!!」
雀からの呼びかけに会話はそこで途切れた。
「どうしたの雀!?」
「あっ、あれ...」
雀が指差す方向を芽吹も見る。
「.....?」
初めそれはただの炎だと思った。
しかしそれが徐々に持ち上がり、形あるモノが宙に浮き上がった事でそれは違うと分かった。
「あっ、あれは...」
芽吹も資料で見たことがあった。
白い布の様な器官と膨らんだ下腹部。乙女座・バーテックス。
「バーテックス!?あたし達が倒したはずじゃあ!」
「いいえ風先輩、前に言ったでしょう?バーテックスは再生するって。もう再生されたと言うことね」
「でも色は全然違うよ?」
芽吹が最初炎と間違えたのもそれが理由だった。友奈達が戦った時はヴァルゴバーテックスはピンクを基調としていた。だが目の前のそれは、炎を思わせるオレンジ色でシルエットのような姿だった。
「あれはまだ不完全だからよ」
友奈の質問に芽吹が答えた。
「最初の防人のお役目の時に言われたわ。御霊の無い、不完全なバーテックスになら出くわすかもしれないって」
「なるほどね。だったらこいつは大した事ないわね。だったら私たち勇者部がーー」
「銃剣隊、撃てーーーーっ!!」
「ちょ!?」
芽吹の指示で銃剣隊が一斉射撃。
ヴァルゴは下腹部から卵のような物を飛ばし、銃剣隊の弾と相殺させる。
「防御。つまり、私たちの攻撃を脅威に感じたって事よね」
それだったら防人の装備でも十分戦える。
「メブメブメブメブまずいよ〜!怒らせちゃうよ!逃げよ?今すぐ逃げよ?勇者様を主体にすれば安全にー」
「何言ってんの!倒せるものは倒しておかないと完全体になったらどうするの!?」
「どうするのじゃないわよ!今友奈に当たりそうになってたわよ!?勝手に攻撃しないで!!相手は不完全とはいえバーテックスなのよ?私と友奈で前に出るからあんた達は東郷と一緒に後ろからーー」
雀を嗜める芽吹に夏凜が割って入った。
「そうやって指示するの止めてくれる?」
それがどうも芽吹の癪に障った。
「はぁ?」
「この防人の指揮権は私!あんた達勇者部とは手を組んでるだけで組織が違うのよ。私たちは私たちで勝手にやるからあんた達勇者も勝手に攻撃すればいいのよ!」
「そんなーー危ない!!!!」
「きゃぁ!!」
咄嗟に夏凜が芽吹を抱えて右に飛んだので、芽吹は受身も取れずに転がる。
『何をするのよ』とは言えなかった。
二人が立っていた場所に雷が降り注ぎ、大きな陥没が出来ていた。
精霊バリアのある夏凜ならともかく、私が喰らったらそれだけでーー芽吹はゾッとした。
電気を使う敵は、一体しかない。
上空を見て芽吹は唖然とした。
頭部から伸び出るチューブのような器官、魚の骨を思わせる細く長い装甲。牡羊座バーテックスだ。
未完成体とはいえ二体同時出現。さすがの芽吹も全く想定していなかった。
アリエスはチューブからまた電気を貯め始めた。
「護盾隊は盾を構えて攻撃に備えて!!すぐ!!」
「ですが楠さん、もう一体、ヴァルゴはどうしますの!?」
銃剣隊の攻撃で怯んだのは一瞬。すぐに攻撃の主ー銃剣隊ーを狙うような動きを見せた。
「銃剣隊は全てヴァルゴに向けて!!あいつが出す弾を全て撃ち落として!!」
この攻撃を回避すれば必ず隙が生まれる。そこでどちらか一体を退けられれば活路がーー
この時、芽吹は忘れていた。自分たち防人の他にも強力な助っ人がいることを。
バンッ!
銃声が鳴り響き、アリエスの頭部にあったチューブが裂かれた。
「今よ!」
「はぁ!!!」
身悶えのような動きをするアリエスに夏凜が短刀でその細い胴体を切り裂いた。
それが致命傷になり、アリエスの体は炎の中へ消えていった。
「はぁ!!」
方やヴァルゴの方では、気がつくとワイヤーのようなモノで体が縛られていた。
ワイヤーのような蔦を辿ると、そこには犬吠埼樹の姿が。
「ナイス樹!後はお姉ちゃんが」
「お姉ちゃんダメ!このバーテックス、弾をいくつか出してる!!」
縛る直前、ヴァルゴは上空に卵のような弾を数発出していた。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい後ろから来るよーーーー!!!」
「落ち着きなさい雀さん、この向きなら弾は私たちに来ませんわよ」
と、雀以外の誰もが思っていたのだが...
カンッ
弾は岩を弾いて防人の方へ向かっていった。
「反射してんじゃねーーか!!」
シズクが現れるももう間に合わない。
「死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう〜!!!」
「銃剣隊、急いで弾を撃ち落として!!」
言いながら芽吹も銃剣を急いで向けるーーが、間に合わない。
「ハイ!!!」
そのまま弾は防人ーーーーー
の前に突如現れた盾によって防がれた。
「乃木さん!?」
「間一髪って所だったね」
園子が自身の武器の先端を傘のように開き弾を防いだのだった。
「こんな所にも隠れていたなんて、ゆーゆー!!」
「了解!!うぉりゃあああああ!!!」
園子の掛け声に友奈は前へ飛び出し、岩に向かって拳を振り下ろした。
「あっ!」
芽吹は驚きのあまり声をあげた。それは、岩ではなかった。
それは、擬態された反射板。
「キャンサーバーテックス...」
不完全とはいえ3体目のバーテックスの出現に芽吹は戸惑いを覚えた。
「ゆーゆー!!」
「任せて!!」
園子の声に合わせて友奈が前へ飛び出し、
「勇者パーーーンチ!!!!」
反射板を何重にも重ねて盾にしたキャンサー拳を振り下ろした。
キャンサーの反射板はあらゆる物を弾く。サジタリウスの放つ矢を弾いて撹乱するのはもちろんだが、弾く特性は当然、防御にも通じる。
何重にも張り巡らせたのなら当然、反射の強度も数倍数十倍に跳ね上がると防人の誰もが思ったのだが、
「ええええぇぇぇ!!!!」
その結果に雀は大きな声を上げた。
防御に使用した反射板が全て粉々に砕かれたのだ。
「反射が出来ないほどの攻撃なんですの?結城友奈、何て力...」
「さらにもう一発ぅ!!!」
完全に無防備になったキャンサーの体に友奈は左拳を突き出した。
その一撃でキャンサーの体は跡形もなく消滅した。
「ナイス友奈!!あたし達も負けてられないわね!!!」
ヴァルゴの弾を無害にしたのを確認し、風は再度ヴァルゴと向き直った。
「これで、終わりよ!!」
樹の拘束で動けないヴァルゴを風は大剣で一刀両断。ヴァルゴの体は縦に真っ二つに割れ、そのまま消滅した。
「一丁上がり!!」
「大丈夫皆、怪我してない?」
防人を心配した友奈が駆け寄ってきたが、誰一人としてまともに返すことが出来なかった。
皆、呆気に取られていた。
疑似バーテックス3体に囲まれる。防人にとっては想像を絶するほどの状況であったのに、勇者達は迷いもなく対応し、全て一撃で倒した。
トレーニングや一緒についてやったボランティアの時は自分と変わらないただの中学生に見えたのに。
これが勇者の力なのか。
防人達は勇者の底しれない力を感じ取った。
そして芽吹は一人拳を握りしめていた。
「(何も、出来なかった...!!)」
勇者を凌駕する結果を出して、大赦の、勇者の鼻を明かせてやろうと思ったのに、自分の行動は全て空回りに終わった。
勇者と防人との壁。それは自分が思った以上に高く高くそびえ立っていて、芽吹はその下でただ一人、悔しいと歯軋りするのだった。