仮面ライダーAGITΩ〜Shining Brave〜 作:シュープリン
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ..」
息を切らしながら、俺は黄昏に染まる島を走っていた。
予想だにしなかった。まさかこんな事になるなんて。
急がないと。急いでのみきにこれを伝えないと。
役場前のいつもの待ち合わせ場所にのみきがいた。
「おっ?来たか。何をそんなに急いでー」
「逃げろ!のみき!」
「えっ?」
有無を言わさず、俺はのみきの手を取って走った。
「なっ、何を?」
のみきはまだ何がなんだか分からない様子だった。だが、説明してる暇は無かった。
俺はのみきの手を取り走り出した。
「これは一体..」
「キエエエエエエエエエエエエェェェ!!!」
のみきの疑問は背後からの奇声でかき消えた。
※
俺達は森に逃げ込んで撒いた。島のパトロールをしていた時に見つけた細い道だ。『昔採掘をしていた時にできた道だ』とのみきが教えてくれたのだ。
立入禁止と聞いていたが、こんな形で入るとは思っても見なかった。
「さぁ、説明して貰うぞ。これは一体どういう状況だ?」
俺は息を整えてから口を開いた。
「呪いだ」
「呪いだと?」
「駄菓子屋の婆さんにかけられた呪いが、今日になって一気に拡がったんだ。感染者に触れられたが最後、さっきの人たちのようになる」
「そんな..」
「もう大丈夫なのは俺達位かもな..」
「じゃあこれからどうしー」
「ーー!危ない!」
「キャッ!」
俺はのみきをとっさに突き飛ばした。のみきがさっきまでいた場所には手。
「キエエエエエエエエエエエエェェェ!!!」
天善だった。もう俺らの事がわからないのか...。
「走るぞ!!」
俺はのみきの返事を待たずに彼女の手を取って走り出した。
「これからどうするんだ!?」
走りながらのみきが言った。
「港に行って船を出す!」
「船!?」
「良一が手配してくれてたんだ。俺達はそれで逃げるはずだったが良一は..」
「キエエエエエエエエエエエエェェェ!!!!」
「あっ」
噂をすればなんとやら。目の前から半裸の良一が奇声を上げながら突進してきた。後ろからは今もなお天善が追いかけてきている。
囲まれた。
ジャキッ
俺から手を放したのみきがハイドログラディエーター改を無言で構えた。何をヤッテイルンダ?
「おいのみき、止めろ!!!」
冗談じゃない。これはやってはいけないと子どもですら知っているというのに。
「海水浴場以外で、服を脱ぐな!露出狂!」
ピュン!
銃口から勢いよく水が吹き出した。
それは、奇声を上げながら近づいてくる良一のはだけた胸にヒット。
・・・・・・・・・
間に合わなかった。
・・・・・・・・・
沈黙。奇声は発しなくなり、足も止めていた。
尚近づいてくる天善の悲鳴も俺の耳には届かなかった。
「...ない」
ボソッと良一が呟いた。
より緊張が高まった。
来る。最低最悪のPhase.2が。
「人が人を殺してはならない」
良一とは思えないほど低く重い声だった。それが合図だった。
良一の体が紫に変色し、鎧のような紫の外骨格が形成された。
歯は牙に変わり、全身にトゲを生やしてその姿を変えていった。もう良一の面影はどこにも無かった。
例えるなら、ウニ。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
さっきとは比べものにならない程の奇声だった。いや、奇声というより最早それは雄叫び。
片足をバネにして一飛で俺達の、いや、のみきの元に。
ダメだ、それだけは!
「ーーーーー!!」
「うわ!!」
俺はのみきを抱えてギリギリでそれを躱した。
のみきが立っていたコンクリートの地面は抉れていた。
「良...一...?」
のみきはまだ呆然としていた。完全に状況が飲み込めていない。
しかし、そんなのはお構い無しで良一だったモノは俺達に狙いを定めていた。手に持っているのは手裏剣。
あれはまずい。
「行くぞ!!」
「えっ?きゃあ!!」
俺はのみきの小さな体をお姫様だっこのようにして走った。
またギリギリだった。ギリギリで手裏剣を躱していた。
「おい、一体どういう事だ?良一は?」
「ーーーーー」
話している暇は無かった。今は一刻も早くあれから離れなければ。
全神経を逃げることに使え。追いつかれたら殺される。
「キエエエエエエエエエエエエェェェ!!!」
目の前から島民が。あれに捕まってもアウトだ。
俺は手近にあった曲がり角に曲がった。その背後で微かに感じた空気の音。
手裏剣が来ていた事を感じた。あのまま真っ直ぐ進んでいたら俺達はPhase.3に。死ぬほどの満たされることの無い空腹を感じて最期は...。方向的にあの島民は...。
いや、考えるのはよそう。今はあいつから逃げることだけを考えーー
その時だった。
ドゴンという音が聞こえて傍にあった塀の壁が割れた。
現れたのは、紫の怪物。良一だったモノとはまた別のウニの個体。このパンデミックに紛れて逃げた怪物だ。
「うわっ」
反応が遅れた。
俺は抱えていたのみきを離し、その場に倒れてしまった。
奴らは感染者以外を執拗に狙う。
のみきはあまりの出来事に腰を抜かしている。俺も足を痛めた。すぐに立ち上がる余裕はない。
完全に詰みだった。
後はこの怪物の思うがまま。満たされない飢えに苦しみながら最期はーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー本当に?
俺は、本当に今詰んでいるのか?なす術は無いのか?
前にも無かったか?経験していないか?こんな常識の枠外にいるような敵と相対した事が。
よく見ろ。よく考えろ。俺はーーー
その時、体が勝手に動いていた。意識がフワフワとしていた。
「ーーーー!!」
後ろでのみきが何か言っていた気がしたが、よく分からなかった。
次の瞬間、いつも水平線で見えていた緑の光が俺を包んでいた。でも何故か、家に帰ろうという気にはならなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー家ってどこだよ?
俺の体は光に包まれた。
※
俺は別に柔道とか空手とかを習ったことは無かった。あるのは水泳だけ。
だけど喧嘩だけは負けた事が無かった。型はなく、相手の足捌きから次を予測するとか、そういうめんどくさいモノは一切ない、ただ殴りたい時に殴り蹴るべき時に蹴る。その繰り返し。ただの人間が獣に墜ち、勝者だけが正義となる無法の所業。
相手がトゲの付いた腕を振り下ろそうとしてきたので、俺は敢えて接近して懐に入った。
相手の体がくの字に折れ曲がったので、顔面に膝蹴りをぶつけてやった。
相手が反動でピンとなったので、エルボーをぶつけ、怯んだ隙に胸を思い切り蹴りつけた。
相手は怪物だと思っていたのに、今はとても小さく見える。負ける気がしない。
相手はダメージに苦しんでいる様子だった。
俺は
そして、相手の体に思い切り踵落としを決めてやった。
それが最期だった。相手は虫のように悶えたかと思えばーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
※
気付いた時には、俺はそこに立っていた。一瞬、自分がどこにいるのかが分からなかった。
塀は崩れていて、コンクリートには陥没。辺りの植物も燃え、炎の赤は黄昏と混じり消えてている。その様子と俺の状況がすぐには結びつかなかった。
視線に気付き、俺は後ろを振り返った。
その時だった。
「ーーーーーーーーーーーーーーー」
抽象的だった感覚は全て飛び去った。俺と俺じゃない何かが一瞬ハマった事を思い出した。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
何かが壊れた。俺はもう叫ぶしか無かった。
そして目の前が真っ暗になり、黄昏は消えた。