仮面ライダーAGITΩ〜Shining Brave〜 作:シュープリン
「アギト賛成」「アギト反対」
都会ではそんな喧騒が毎日のように飛び交っている。それを社会問題として面白おかしく報道するマスコミ。
マスコミが流す情報だけでは日本人全員がアギトの行く末に真剣と思われがちだがもちろんそんな事はない。
アンノウンによる被害、超能力者による被害を直接受けていない人にはどうでもいい話だった。むしろアギトよりも保守派と過激派の争いの方を鬱陶しいと思うくらいに。
「静かにしてください」と声高に叫ぶあまり「あんたの方がうるさいよ」と突っ込まれるようなモノだ。
そんな事だから、耐えられない人も出てくるわけで....。
※
「うぅ....酷い目にあった...」
「しろは、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないし。まだ耳がガンガン言ってるし。都会嫌い。帰りたい。もう皆どすこい...どすこい...」
鳴瀬しろは『どすこい』と呪詛のように繰り返していた。
「だから言ったんだ。今都会に行くのは危ないって」
「だって、大会の羽依里の姿を、目近で見たかったから...」
うぅ...。そういう言い方をされると弱い。ドキッとしてしまった。
「あーーじゃああれだ!気分転換に走ろう!都会にも、静かな場所はいっぱいあるから!そこを、な!」
そんな姿を見られるのが何だか恥ずかしくて、羽依里は話題を変えた。
颯爽と走れば気分も紛れる。そう思っていたのだがー
「じーーーーーーーーー」
「うぐぅ....」
それは程なくして打ち止めになった。エンジンが突然止まってしまったのだ。
どこかのヒロインの口癖のような声をつい出してしまう。
「じーーーーーーーーー」
「止めて。視線が痛い!おかしいなスタンドで入れてきたばっかなのに....」
何度試しても、エンジンはかからない。以前にもこんな事はあったが、まさかここで再発するとは。あのときも、バイクに詳しい天善に修理を任せてしまったため、自分は何をどういじればいいのかが分からなかった。
「じーーーーーーーーー」
「大丈夫!大丈夫だから!ここは都会なんだから、修理屋さんの1つや2つ...おっ、あった!」
急いで周りを見あたして見つけた『修理承り〼』の文字。天の助けと羽依里は急いでかけこんだ。
ワンワンと大きく鳴く犬に出迎えられながら(しろはは「また大声」とビクビクしていた)
「すいませーーん!ごめんくださーーい!」
入口で声を上げると、すぐに店員が現れた。
「いらっしゃい!今日は....ん?鷹原?」
「あれ?葦原先輩!?」
※
バイク店 事務所
久しぶりに会ったのだから少し話をしようと羽依里としろはは事務所に通された。葦原涼は外で羽依里のバイクの修理をしている。
「ねぇ羽依里、あの人は誰なの?」
「あの人は水泳部のOBなんだ。俺と同じ高校で、水泳部のエース。誰にでも優しくて、俺も含めて、部員全員から慕われてたんだ」
「へぇ...」
さらに、彼は男子校でありながら彼女がいるというのも尊敬の対象になっていた。
『バイク乗りはモテる』等のジンクスも全て葦原涼の習慣から来ていると言ってもいい。
高校卒業後、彼は城北大学で、水泳選手として活躍していた。だから羽依里も、一緒に泳ぎたくて同じ大学に進学した。だけど、羽依里が入部した時には涼の姿は無かった。退学をしていたと聞いて、羽依里はますます驚いた。それでついコーチに、何故辞めたのかを訊いてしまった。そしたらーー、
『俺は何も知らない...何も...』
怯えたような目をし、震えた声でそう言った。
「お待たせ」
葦原涼が事務所に入ってきた。
「先輩!どうでしたか?」
「あぁ、ちゃんと直したよ。しかし変わったモノに乗ってんだな。ピンクのナンバープレートとか」
「俺の叔母から貰ったんです」
「そうか。バイクを見て分かったよ。大切に使ってたんだな」
「はい。ありがとうございます」
「一緒にいるのは彼女か?」
「はっ、はい。しろはと言います」
羽依里は照れくさそうに言った。しろはと言うと、「どうも」と小さく首だけ一礼。人見知りモードだ。
「そう言えば、テレビ見たよ。俺と同じ大学に行ってたんだな」
「はい。水泳の強豪と言えば、あそこですから!」
「凄い活躍だったじゃないか。コーチは元気だったか?」
「はい。毎日しごかれています」
羽依里は苦笑混じりに言った。自分の知っている葦原涼で安心した。彼の話題を出したときのコーチの妙な反応については言及しなかった。
「テレビと言えば、実は少し心配してたんだ」
「何をですか?」
「ほら、いつだったか...もう3年前か。あの頃の夏の大会、お前出なかっただろ?」
「あっ」
「かと思えば、その大会で他のメンバーが『待ってる』と言ってたからさ。何かあったのか?ーまぁ、言いたくないなら別にいいがー」
「いえ、もう終わった事ですから。実は、あの頃はスランプになっていたんです」
「スランプ?」
「はい。葦原先輩も知っての通り、ー先輩の前で言うのも恐縮ですがー俺は皆から期待されていた選手だったのですがー」
羽依里は語った。とある大会で、自分より年下の選手とかち合った事、その選手が自分より速く、抜かれた瞬間、頭が真っ白になって泳げなくなってしまった事、そして自棄を起こして停学になった事を津々浦々に話した。
一時期は話すことも辛かったが、部員の、そしてしろはを始めとした皆の力で乗り越えることができた。
「そうか。色々大変だったんだな」
「はい。ですが、それでも今となっては良かったんです。その年の夏休み、叔母の招待で鳥白島という島に行って、そこで気持ちの整理が出来たんです。そして、隣にいるしろはとも出会えましたから」
「!?」
まさか自分に話が繋がるとは思っていなくて、しろはは肩をビクッとさせた。
今にして思っても、あれはとても不思議な夏休みだった。蔵整理の為に訪れた鳥白島。その蔵は、確かに雑多に詰め込まれていた。鏡子さんの手伝いをする形で整理をすると思われたが、実際は羽依里ただ一人に一任。しかし、不思議と困らず、夏休みが終わるより前に全てを片付ける事が出来た。
しろはは、鳥白島にある食堂の看板娘でたまに食事に行くだけの関係。店員と客、その関係でしかなかった。
ところが島を離れる日。羽依里は時間通りのフェリーに乗り込んだ。そこで船を見つめるしろはを見かけた瞬間、何故か無性にチャーハンが食べたくなった。そしてそれは、この機を逃せば絶対に食べられないと思った。
その時には、体が勝手に動いていた。フェリーから飛び降りて、彼女の前で一言。
「チャーハンの作り方を教えてくれないか?」
これが出会い(今にして思うと相当恥ずかしい)。それから仲を育み、二人は恋人になった。
仲を育んでいく内に、しろはとは不思議な結び付きがあるように感じていた。2000年の夏に二人は初めて出会った筈なのに、ずっと昔から知っていたような。まるでー
「ヘジャプ」
「何て?」
「うわぁ!!」
それはお婆さん....ではなく目の前にいる葦原涼の口から出た言葉だった(何でお婆さんだと思ったのかは羽依里には分からなかった)
「大丈夫か?二人とも、急に黙りこんで。もしかして、掘り返さない方が良かったか?悪い」
「いえいえ、全然大丈夫です。しろは、大丈夫か?」
隣を見ると、しろはは頭を抱えていた。始めは、急に自分の話になったものだから恥ずかしくて頭を抱えていると思っていた。しかし、それは違うと分かった。
体に触れて分かった。彼女は、震えていたのだ。
「何で...何でこれが視えて...」
息を荒く、冷や汗をかきながら、しろは何でとずっと『何で』と呟いていた。
「しろは!?」
ただ事ではないと、羽依里はしろはを抱き寄せた。心配になった葦原涼も彼女に近付く。
「ハァ...ハァ...羽依里!」
しろはは怯えた目を羽依里に見据え、彼の両腕を掴みながらすがるように言った。
「今すぐここを離れて。来る...何かが...来る...」
それとほぼ同時に、葦川涼はアンノウン出現時にキャッチする特異な気配を感じていた。
※
「私はすぐにでも破壊するべきだと思っていたわ。それなのに上の連中と来たらアンノウンがもっと強くなって現れるかもしれないから念のための保険だとか言って。かと思えばただの人間の気迫に気圧されて破壊。全くお笑い草よ」
「まぁまぁ、破壊することには変わり無いのですから、良いじゃありませんか」
警視庁内某所。G4チップ破壊の見届け人として選ばれた(志願した)小沢澄子は今回の警視庁の動きを批判し、それを氷川誠がなだめていた。
「全く、破壊してもしなくても批判タラタラとは、あなたはどうしたいんですか?」
「うるさい!というか、何であなたがここにいるのよ?G3ユニットでも何でもないじゃない!」
「確かにG3ユニットではありませんが、僕だってG3-Xを装着したし、あなた方にも縁があります。見届ける権利位はあると思いますが?」
「そうね。G3装着の時は逃げ出して、G3-Xの時は津上翔一を狙撃。間違えた判断を選び続けたあなたにも、確かに権利はあるわね」
「おやおや、そういう事を言ってもよろしいのですか?その、間違えた判断が巡り巡ってこうしてG4チップの破壊に繋がったのですよ」
「二人とも、来ましたよ!」
入口のドアが開き、チップを入れたケースを見て二人は口を閉じる。
G4。それは、G3の後継機として開発された特殊装甲強化服。小沢澄子の手によって設計されたが、装着者の負担を考え封印。ところが、自衛隊員の深海理沙がデータを盗んだことをきっかけに日の目を見る事になった。G4は圧倒的な力を見せていたが、装着者である水城史朗の死をきっかけに再び凍結。
G4はその時完全に破壊されていたと思われたが、G4の力を司る根源のチップは無傷で残されていた。小沢澄子はすぐにでも破壊するべきだと意見したが、「アンノウンの強さが未知数な以上万が一の為に保険でとっておくべきだ」と上層部は否定し、今日まで存在し続けていた。
「ではこれより、G4チップの破壊を行います」
取り出したのはハンマー。物理的に破壊するのが今回の目的だ。G4システムのバックアップは存在しない(小沢澄子が全て調査した)。設計書データも消去された。つまり、チップが破壊されればそれでG4は完全に消滅する。
上層部の一人が、チップをケースから取り出しテーブルの上に置いた。
ただ壊すだけなのに、緊張した空気が会議室に充満した。
槌を右手に持ち、上に振り上げた。
その時だった。
バンッと会議室の扉が勢いよく開いた。
驚いた様子で一同が会議室のドアに目を向けると、中に入ってきた男が、槌を持った男に体当たり。
尻餅をついた事も確認せずに、そのままG4チップを手のひらに収めた。
「これだ。これさえあればきっと...!?」
G4チップに男が気を取られていた時には、氷川誠は動いていた。彼の腕を後ろに回し、床にしっかりと抑えつける。
「何を...してるんですかぁ!?」
「氷川...誠!」
氷川誠は男に手錠をかけようとした。
その時ーーー
ピーーーー
警視庁全体に通信を知らせる音が鳴り響いた。
『警視庁から各局へ。品川署管内へ、アンノウン出現との110番入電中。G3部隊は、戦闘態勢に入ってください』
「アンノウン出現?」
2年ぶりのアンノウン出現情報。それは、先の出来事と相まって、会議室の人全員を混乱させた。しかし、それだけでは済まなかった。
ピーーーー
『警視庁から各局へ。蒲田署管内へ、アンノウン出現との110番入電中。G3部隊は、先の品川署と並行して....』
ピーーーー
『警視庁から各局へ。横浜署管内へ、アンノウン出現とn』
ピーーーー
『警視庁から各局へ。鴻巣署管内へ、アンノウン出現との入d』
ピーーーー
ピーーーー
ピーーーー
アンノウン出現の情報が、鳴り止まなかった。
「氷川くん!」
頭上からの小沢澄子の声に、氷川誠はハッとなった。
「腕は衰えてないわよね?G3-X出動!さらに小室くんとも連絡を取って!G3部隊を全て出動させる!」
「彼のことは私に任せてください!」
「はい!」
取り押さえた男を北條透に任せ、氷川誠は小沢澄子と一緒に部屋を出ていった。
その時、足音によってかき消えていた声が、北條透の耳に入ってきた。
「やっぱりだ。あのお方の仰る通りだった...世界は終わる。全て」
北條は男の顔を天井に向けて睨みつけた。
「どういうことですか?あなた、何か知っているんですか!?あの方とは、誰ですか!?」
「答えたところで全てが手遅れですよ。こうなってしまったらもうどうすることも出来ない」
カリッと男は何かを噛んだ。
「おい、どうしたお前、オイ!!!!」
その瞬間、男は全身を痙攣させ口から泡を吹いた。北條透は急いで心音を確かめると既に音は無かった。呼吸も、していなかった。
「何が、どうなって...」
北條透は訳が分からなくて首を振った。それでも、刑事としての癖で、男の周りをざっと観察。そして、あることに気が付いた。
「G4チップが...無い...?」
※
氷川誠はG3トレーラーに向かう最中に目に入った窓の外を見て唖然とした。
時刻は昼過ぎ。にも関わらず外は夜のように暗く、辺り一面から赤い火と黒煙が上がっていた。
彼の知る世界は、どこにも無かった。
1999年、長野県から未確認生命体が出現。未確認生命体4号が0号と相討ちになったのを最期に全滅。
2001年。アンノウン出現。アギト、ギルス、G3-Xの活躍でそれを撃破。
そして2003年現在、この世界にある日常はまた、一旦終わりました。