仮面ライダーAGITΩ〜Shining Brave〜   作:シュープリン

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ReSTART

「繰り返しお伝えいたします。ただいまより、避難民への物資配給を行います。お水をお求めの方は1番テント、食糧をお求めの方は2番テントへお越しください。水も食糧も、全員に行き渡る分は用意できております。迅速な配給を可能にするために、秩序ある行動をお願いいたします。また、お体に不調のある方がいらっしゃいましたらーー」

 

香川県某所にある学校。そこから聞こえるアナウンスを横目に、氷川誠は通り過ぎた。

 

氷川誠はパトロール中だった。避難民がごった返す現在、それに便乗して空き巣や暴力事件を引き起こす人間が後を絶たず、その牽制の為だ。

 

他の警察も、同じくパトロールをしたり避難所を警護したりしていた。

 

それしかすることが無かった。

 

一回り終えた氷川誠は、G3トレーラーに戻った。

 

「ただいま戻りました」

 

「お帰りなさい」

 

「氷川さん、お疲れさまです」

 

「北條さん、来ていたんですか!」

 

「ええ、G3ユニットに配属されたあなたがどのように過ごしているのかに興味がありましてね」

 

「どのようにも何も、別に何も無いわよ。ずっと待機待機待機で。他にどうしろというのよ」

 

「そう...ですね。すいません。今のは失言でした」

 

軽口や嫌味を言いにやってきた訳では無いということは二人も分かっていた。本当は、現状を打破する状況は何かないかを話し合いたいのだと。

 

『あなたもアギトだ』と自身が認めた氷川誠と、それを支えた天才の小沢澄子に。

 

「あのアンノウンは、1体1体は大したことない量産型よ。だけど、問題なのはその数よ。倒しても倒しても現れる。しかも、あいつらは隊列を組んで行動する知性も感じられる。ある意味、どのアンノウンよりも厄介な相手ね」

 

「質より量とはよく言ったものですね」

 

「葦原さんとは連絡取れましたか?」

 

「いいえ。これだけ混乱していたら、さすがに捜すのにも限度があるわ。第一、仮に見つけ出せたとしても絶望的でしょうね。あの数を相手にするのは...」

 

小沢澄子の言う現実に、G3トレーラー内は重苦しい空気に包まれた。

 

そんな空気から抜け出したくて、外の空気を吸ってくると氷川誠は外に出た。そして、海岸から瀬戸内海を眺めた。

 

小沢澄子が、葦原涼の捜索だけにかまけていられない理由は瀬戸内海の向こうにあった。

 

そこにあるのは水平線−−−−ではなく、巨大な木の根の壁だった。

 

あの日、大量の白いアンノウンが姿を現してから10日が経った。最初は氷川誠共々、アンノウンの撃滅の為に動いていた。しかし、どこからともなく無限に現れるアンノウンを前に撤退せざるを得なかった。

 

その後、辛うじて生きていた無線の情報から四国地方だけアンノウンの目撃情報が少ない事を知った氷川誠らは、逃げ惑う人々を保護しながら四国へ向かい、アンノウン出現から4日後に辿り着く事が出来た。

 

しかし、その犠牲は大きかった。四国に着いた時には、G3部隊は全滅していたのだ。

 

司令官であった尾室隆弘は自分の責任だと攻め続け、遂にトレーラーを降りた。その背中は、今でも目に焼き付いて消えない。

 

しかし、嘆いてばかりはいられなかった。四国に着いて驚いたのは、巨大な樹木の壁が四国を囲んでいたものだった。

 

アンノウン出現時に四国にいた人達は、「気が付いたらそこにあった」と口を揃えて言う。G3トレーラーは、アンノウンに武器を開発したという実績から、その壁の解析を頼まれた。対アンノウン用に開発された武器やアギトの力と似た成分が含まれていることが分かり、四国内が安全であることは証明されたが、次々に湧いてくるアンノウン相手に使えるのかは分からない。守りは問題ないが、攻めの突破口にはならず、平行線の状態だった。

 

『引き続き、ニュースをお伝えします。今回のアンノウン出現を受け、総理が緊急会見を開きました』

 

手に持っていたポータルラジオから放送が聞こえてきた。

 

『皆様、大量のアンノウンの出現にさぞかし不安な日々を過ごされていると思います』

 

アンノウンが入ってこないからと言って、壁の中が安全とは限らない。

 

『しかし皆様、ご安心ください!我々には人類の新たな進化系、アギトがいます!!アンノウンと戦い、死線をくぐり抜けた最強の兵士です!長い間アギトの存在意義について議論を交わしてきましたが、我々は今こそ、アギトを信じるべきなのです!!!!』

 

避難所に備え付けられたテレビを見ていた人達の熱は最高潮に高まっていた。

 

「そうだよ。俺たちにはアギトがいる」「アギトがいる限り、私達はきっと助かるのよ」「きっと、アギトが何とかしてくれるわ」

 

「随分と都合が良いじゃねぇかよ。お前、過激派だろ?お前はアギトを滅ぼすべきだと言って、俺の弟に何をした?てめぇに救いの手なんてあってたまるか!さっさとあの化け物に食われちまえ!!」

 

「んだとコラァ!!!」

 

1:名無しさん ID:ashukyou

 

アギトが何とかしてくれるってマジ?

 

 

2:名無しさん ID:faikai

 

そもそもアギトって本当にいるの?

 

 

3:名無しさん ID:ititsuba

» 2

 

いる。ワイは変身するの見た

 

 

4:名無しさん ID:eianku

 

木の壁もアギトが作ったって事でおk?

 

 

5:名無しさん ID:jacking

 

木遁かな?

 

 

6:名無しさん ID:lovekov

 

そんな事してる暇あるなら外の怪物倒せや

 

 

7:名無しさん ID:kurozon

››6

 

それな

 

 

8:名無しさん ID:lunaa

 

 

アギトの居場所特定。場所は...

 

トントンと美杉太一はドアを軽くノックした。

 

「翔一、今日の配給貰ってきたぜ」

 

「・・・・・」

 

「こんな時になんだけどさ、たまには散歩でもして気晴らししようぜ?翔一って香川に来たことあんだろ?俺は無いからさ、案内してほしいんだよ!香川といえばうどんだろ?どこが美味しいのかとかー」

 

ドンドンドンドン

 

ドアを激しく叩く音。またかと太一は心で舌打ちをした。

 

「いるんだろう?アギトさんよぉ!!出てこいよぉ!!!」

 

ドンドンドンドン

 

「なんですかあなた達は。何かご用ですか?」

 

「おい、こいつがそうか?」

 

「いや違う。もっと若かった」

 

「じゃああれか?あんたはアギトのマネージャーって所か?」

 

「アギト?マネージャー?何の話ですか?」

 

「とぼけんじゃねぇよ!ここにいる翔一とかいうやつ、アギトなんだろ?さっきの会見でも言ってたぞ。アギトだったら壁の外にいる化け物を蹴散らせるって!」

 

「そうだ!今こそ、アギトの力を結集させて過激派に目に物見せてやるんだ!」

 

「って言うわけだ。オイ津上翔一!出てこいよ!出てきてあいつらと戦いやがれ!!!」

 

「ちょっ、止めてくだs」

 

「止めろよ!!!!」

 

強引に家に入ろうとする男二人を美杉義彦が止めていた時、中にいた太一は叫んだ。

 

「いい加減にしろよ!どいつもこいつもアギトアギトアギトって!!アギトは神様でもお前らに都合のいい道具でも無いんだよ!!翔一は、ただの人間なんだ!!」

 

太一の叫び。それは男二人すら怯むほどの迫力があった。

 

「何をしてるんですか?」

 

「氷川さん!!」

 

「あっ、あんたは...」

 

「警視庁の氷川誠です。こんな時ですが、法律は健在です。無理に押し入ろうとするなら、家宅侵入で逮捕しますよ」

 

それを聞くと、男二人はケッと吐き捨て、いそいそと帰っていった。

 

「氷川さん、ありがとうございます。助かりました」

 

「いえ、心配で来て良かった。またですか?」

 

「はい。最早翔一くんがアギトだということは皆知っていますからね。ああいう輩が跡を絶たない」

 

「『レストランAGITΩ』店名で掲げちゃってましたからね。アギト保護法を受けて、何度も話題にあがりましたから、皮肉な話です」

 

「分かってねぇんだよ。あいつらも政府も皆アギトアギトって勝手に祭り上げて、翔一の気持ちを全く考えていない」

 

「申し訳ありません。私も、できる限りここに来るようにするので」

 

「いえ、氷川さんが謝る事では!むしろ私達は感謝してるんですよ。もうダメだと思ったときにG3トレーラーで拾ってくれただけでなく、こんな家まで用意していただいて!」

 

「津上さんには2年前何度も命を助けていただいたんですから、これくらいさせてください。それに、家のお礼は北條さんに言ってください。元々は彼の別荘なんですから。ーーーーー津上さんは、相変わらずですか?」

 

最後だけ、1オクターブ声を落として言った。

 

「ええ。ずっと塞ぎ込んでいます。もう皆の居場所は守れないと自分を攻め続けて...」

 

風谷真魚と岡村可奈の死。それはここにいる皆に暗い影を落としていた。

 

美杉義彦と美杉太一は、静かに涙を流していた。

 

つまらないジョークを言わない津上翔一を見たくなくて、氷川誠は逃げるように立ち去った。ここに来たばかりの頃は、翔一の部屋の前に行き何度か声を掛けていた。だけどその度に、

 

「もう構わないでください。俺は戦えません...」

 

そう一言口を開くだけで後は沈黙。しまいには家の周辺をパトロールするだけで終わってしまった。

 

壁の中は確かに安全だ。あの白いアンノウンは1匹を入っていない。だけど、その後はどうなる。自分たちの世界を奪還する目星はついておらず、共通の敵が現れたにも関わらず、皆の心はどこかで食い違っている。

 

こんな毎日が、いつまで続くんだ。

 

そんな事を考えていた時だった。

 

「あれ?」

 

氷川誠はあることに気が付いた。静か過ぎる。人々の喧騒も、生き物の声さえも聞こえない。そもそも、もう自分は住宅街に入っているというのに、人の姿がまるでない。

 

「これは、一体...」

 

ーーと、氷川誠は前方に人影があえうのを見つけた。それは、氷川誠の方にへとゆっくりと近づいていっていた。そしてーー

 

「えっ?」

 

その正体に氷川誠は目を見開いた。赤みがかった茶髪の長髪、全身を包む黒い服。それは、最後にアンノウンと戦った時にいた、あの青年だった。

 

ヒュンと横切り相手を狙撃。そしてー

 

「ぎゃふん!!」

 

二人の男が、裏声な悲鳴を上げた。

 

「み...水?」

 

「ここは駄菓子屋で、皆に配給をする場所だ。争う場所では断じてない」

 

「ぐっ...」

 

男は目の前にいるちんまい少女を睨みつけたが、彼女の隣にいる男を見ると萎縮。

 

その場で舌打ちをすると、どこかへ去っていった。

 

「まったく。この状況になっても、ああいう輩は跡を絶たないな」

 

ちんまい少女は腕を組みながら呆れたように言った。

 

「のみき!」

 

後ろからの呼び声に二人は振り返る。

 

「良一、天善」

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ、いつものようにハイドログラディエーター改で追っ払ってやった」

 

「うわぁ...のみき、裸じゃなくても容赦ねぇんだな」

 

「裸で撃つのは貴様だけだ。ハイドログラディエーター改は島の風紀を乱すものに容赦しない武器。あの手の言い争いもそれに類する」

 

「島の風紀を守るのは結構だが、状況が状況だ。変に反撃されたりとかはしないのか?」

 

「その点も心配ない。私には、心強い助手ができたからな」

 

良一と天善は、のみきの隣にいる男ー葦原涼ーに目を向ける。

 

「心強いというが、俺はただ歩いているだけだぞ?そんなに役に立ってるか?」

 

「自分では気がついていないだろうが、貴様の凄みには一定の威力がある。ハイドログラディエーター改と掛け合せれば、風紀を乱すものを追い払うには十分なのさ」

 

「確かに、こいつの凄みには禍々しい力を感じている...この騒動が終わったら一度卓球で一太刀...」

 

「あっそうだそうだ!こんな話をしに来たんじゃねぇ!!」

 

良一が、突然思い出したかのように手を叩いた。

 

「どうした?」

 

「そろそろ配給の時間だろ?それでまた駄菓子屋に人が集まってきて、手に負えないんだ」

 

「この島の男たちは皆、物資が来たとかで港に向かったからな。蒼たちだけでは手を焼いている」

 

「了解した。ならば私達もそちらに向かおう」

 

「あぁ」

 

葦原涼は短く返事をすると良一と天善についていこうと駆け出したが、

 

「葦原!」

 

その背中を、のみきは再び呼び止めた。

 

「前にも言ったが改めて。しろはと鷹原を助けてくれてありがとう。無事に島に連れてきてくれて、本当に感謝している」

 

「.....」

 

「さぁ行くぞ」

 

のみきは良一と天善の後を追った。少し遅れて涼もそれに続く。

 

涼には分かっていた。この言葉は、涼を気遣う優しい言葉だということを。しかし涼は、その言葉を素直に受け取る事が出来なかった。「救った」とはとても思えなかったから。

 

駄菓子屋から少し離れた場所。大きな蔵が目印の加藤家。そこの玄関ドアにしろはは来ていた。

 

しろはは何度か深呼吸をすると、意を決してドアを開いた。

 

「こっ、こんにちは!」

 

「はーい」

 

すぐにこの家の家主、岬鏡子が出迎えた。

 

「あら、鳴瀬さん」

 

「えと...羽依里と鏡子さんに食べ物を持ってきました。今日も駄菓子屋で配ってたので...」

 

「まぁまぁいつもありがとう」

 

「あの...今日、羽依里は...」

 

羽依里の話題を出した途端、鏡子の表情が曇った。

 

「相変わらず。今日部屋で...休んでいるわ」

 

鏡子が一瞬言い淀んだ事に気付いたが、しろはは無視した。

 

「あの、今日も、会っても...」

 

「えぇ、是非会ってあげて」

 

しろははゆっくりと、一歩一歩を踏みしめるように羽依里がいる部屋へと進んでいった。羽依里の部屋は変わらず、夏休みに初めて彼が島を訪れたときと同じ場所にあった。

 

「羽依里」

 

トントンと軽くノックをするとしろははゆっくりとふすまを開いた。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

羽依里は今日も変わらず、部屋の隅で布団にくるまって丸くなっていた。

 

「あぁ...しろは...か」

 

「えと、今日もお見舞い持ってきた」

 

しろははなるべく表情に出さないようにしながら持っていたビニール袋を差し出した。

 

「あぁ、いつもありがとう」

 

羽依里はそれを受け取ろうと手を伸ばした、その時ー

 

「ゔ...」

 

その手は虚しく宙を切った。

 

「うわああああああああああああああ!!!!」

 

「羽依里!!」

 

しろはは暴れる羽依里を見て慌てて抱きしめる。

 

「大丈夫。大丈夫だから」

 

「ごめん、しろは...だけど駄目なんだ...空が...空が怖いんだ....」

 

「大丈夫。私が..いるから。大丈夫」

 

涙目になりながら、しろはは母親のように『大丈夫』だと言い続けた。

 

何がどう大丈夫なのか。それはしろはにも分からない。

 

氷川誠は、自分が今置かれている状況に酷く驚いていた。

 

しかしそれと同時にこの状況を待っていた自分もいた。

 

2002年の冬、最後にアンノウンが確認されたとき、彼らに守られるようにしていたこの青年を。

 

『もしかしたら、その人こそ、アンノウンを操り人間を殺そうとした黒幕かもしれないわね』

 

あの戦いの後、小沢澄子はそう結論付けた。

 

氷川誠の動きは早かった。

 

ホルスターにつけていた銃を取り出し、銃口を青年に向けた。

 

「やっぱり、今回の惨劇もお前の仕業だったのか!」

 

「・・・・」

 

「答えろ!!今回現れたあのアンノウンは何なんだ!?お前はあいつらをけしかけて、一体何をするつもりー」

 

「違います!!」

 

氷川誠の言及を、青年はさらに大きな声で一蹴した。

 

「確かにあれは、貴方がたがアンノウンと呼ぶ生物と同格のモノです。しかし、あれは私が仕掛けたものではありません」

 

「どういうことだ!?」

 

「私は人間を愛していた。そして、憎んでもいた。だから一度、人間を滅ぼそうとした。しかし私はあの日、ある人と約束しました。これからの人間の行く末を見守ると。しかしそれを、あのお方は許さなかった」

 

「あの方?」

 

「太陽、月、星、そして光と闇。森羅万象を受け入れてきた天。私の父です」

 

青年は空を指差しながら言った。

 

「しかし私は、あの方がそれを許さないことは分かっていました。だからこの世界に結界を張り、父からの干渉は遮断するようにしたつもりでした」

 

「・・・」

 

「しかし、あのお方は一枚上手でした。私の結界の綻びに気付き、尖兵を送り込んできた」

 

「尖兵?それが、あの白いアンノウン?」

 

青年はコクリと頷いた。

 

「氷川誠。ただの人間でありながら私を大いに驚かせたあなたに私は全てを託します」

 

「託すって...どうすればいいんですか?僕一人ではあの数はとても...」

 

「戦う必要はありません」

 

「えっ?」

 

「今、この地を囲んでいる木の壁。あれは、父が見つけた綻びを利用し、私が向こうの世界から抽出して出したもの。今からその穴を利用して、あなたを向こうの世界へ送ります」

 

「ちょっと待ってください!向こうって、どこの事ですか?」

 

「こことは別の地。私ではなく、父が直接支配する世界です」

 

青年が言った言葉に、氷川誠は思い浮かぶことがあった

 

「パラレル...ワールド」

 

いわゆる並行世界。昔読んでいたSF漫画にそんな設定があったが、実在していたとは思ってもみなかった。

 

「父が見つけた綻びとは、簡単に言えば鍵のこと。鍵さえあれば、こちらとあちらの世界を自由に行き来できる。たとえ、過去の世界だとしても」

 

「まさか...」

 

「そうです。今からあなたをあちらの世界の少し前の時間へ飛ばします。そして、あちらの世界にある鍵を破壊するのです。そうすれば、あなたが今直面している現実を0に戻すことが出来る」

 

「全てを元に...!?」

 

氷川誠は思わず目を見開いた。

 

つまりこの惨劇は、別の世界にいたアンノウンと同質の怪物が生み出したモノだ。そして、その惨劇は別の世界と今の世界が繋がっているからこそ起きたもの。だからアンノウンがこちらの世界に来る前に鍵を破壊し、タイムパラドックスで元に戻せと言っているのだ。

 

白いアンノウンの性で大勢が死んだ。多くの人間の心を壊した。人類が2000年以上積み上げてきた全ての文明を壊した。

 

それが全て無かったことになるなら万々歳だ。

 

だけど、信用できない。

 

話が上手すぎる...。それこそ、そんな事が可能ならこの青年が仕掛けた2年前のアンノウン事件での被害も無かったことにしてほしいと思った。

 

そんな氷川誠の思考を察したのか、青年は口を開いた。

 

「信用出来ないかもしれません。ですが、私は待っています。私とあなた達が出会ったあの場所で」

 

鳥白島 駄菓子屋前

 

「ふぅ。ようやく一段落ね」

 

「蒼ちゃん、お疲れさま」

 

「うん。ありがとう、藍」

 

駄菓子屋の看板娘、空門蒼は、姉の藍からペットボトルを受け取ると軽く口をつけた。

 

「皆もありがとう。おばあちゃんも皆出払っちゃったから、本当に助かったわ」

 

「この辺の人たちは皆、避難所の整備に出払っちゃったからなぁ」

 

「同じ鳥白島青年団の仲間だ。こんな時こそ遠慮するな」

 

良一と天善からの温かい言葉。普段は裸バカと卓球バカなのに、こういうときは頼もしく見える。

 

「しっかしあれだな、この駄菓子屋は何でも揃ってるのは分かってるつもりだったけど、今回ばかりは驚かされたな」

 

「あぁ、まさか地下室が存在していたなんてな」

 

鳥白島に避難してきた人々の配給はもちろん避難所である学校でも行われていたが、駄菓子屋でも行われていた。その理由は地下室の存在だった。普段はカーペットに隠されていて目にすることは無かったが、床下の階段を伝って降りると、そこにはかなりの数の段ボール箱が所狭しと置かれていた部屋があった。

段ボールの中には非常食や水、携帯トイレ、懐中電灯、ラジオ、電池。とにかく災害に役立つありとあらゆる物が揃っていた。元々店内にあった品物とあわせるとかなりの種類になり、学校に持っていくとなると面積が足りないので、食糧や水などの生きていくために必要な最低限のモノは学校へ。その他プラスアルファは駄菓子屋で配給しようということで結論付けた。

 

「多分、島民もほとんどの人が知らなかったと思うわ。あたしだって、今日まで知らなかったんだから」

 

「おばあちゃんは防災に普段から気を遣っていたということだな。備えあれば憂いなしとはこのことだ」

 

「ううん。そういうのとはちょっと違うみたい」

 

「どういうことだ?」

 

「あたしもお婆ちゃんから地下室の事を教えてもらったときに聞いたから詳しくは分からないんだけど、何か、ずっと昔から言われ続けていた事みたい。有事に備えておきなさいって。耳タコになるまで言われ続けていたから、何か義務感みたいな感じでずっと蓄えていたらしいわ」

 

「・・・・・」

 

鳥白島少年団の話を横で聞きながら、葦原涼は水平線にある木の壁を見つめていた。

 

ラジオから壁がどうなの非常事態につき新たな政府が確立しただの聞く価値の無いニュースが永遠と流れていた。

 

アギトをこの惨劇の希望に仕立て上げようとする姿勢にも腹が立った。

 

アギトの力は何でも出来る魔法使いじゃない。それができるなら、とっくにやっている。実際は、他の人間と同様に壁の中まで逃げることしかできなかったちっぽけな力でしかない。後輩一人守ることが出来ない力でしかない。

 

現実はそんなものだ。

 

「・・・・・」

 

津上は無事なのだろうか?氷川は?かつて共に戦った仲間が一緒だったなら鷹原一人位はもしかしたらーー

 

「心配なのか?鷹原の事が」

 

「?」

 

声がした方に振り返ると、そこには野村美希が立っていた。

 

「気にするな、というのは難しいことなのかもしれないが、私はしろはと一緒にここまで連れてきた事に本当に感謝しているんだ」

 

「そーそー!後のことはきっとしろはが何とかしてくれるわ!」

 

「何せあの二人は、運命的にダブルスを組んだ仲だからな」

 

「俺たちだってついてるしな!」

 

「・・・・」

 

気がつけば蒼、天善、良一も側にいた。

 

その言葉で、少しだけ軽くなった。

 

「ありがとう」

 

この島の人達の絆は強い。涼は改めてそう思った。

 

程なくして鳥白島青年団は休むために解散したが、涼は何となく寝付く気が起きなくて(今は避難所の一角で寝起きしている。のみきからは役場の寮を使えと言われたが辞退した)島をブラブラと歩いていた。

 

アギトについての喧騒や明日を不安する声が遠のき、静かな時が流れた。

 

島には自然がたくさんあるのに、虫の声一匹聞こえないのが、かえって不気味だった。

 

「ん?」

 

木々を何となく見つめていたとき、涼の目の端で、スッと『何か』が横切った。光の玉のような物だったと思う。

 

誰かが夜の見回りでもしているのか?

 

涼は光を見つけた方向へ歩いた。

 

「これは...?」

 

涼の周りは、虫の声も聞こえないほどに静かだった。それが、誰もいない世界、死の世界を思わせていた。

 

だけど違った。虫は存在していた。

 

淡く光る蝶が。

 

 

同時刻。氷川誠は小さな漁船を借りて、瀬戸内海へ出ていた。

 

行き先はあかつき号事件の現場。こちらの世界にいた人間が、人ならざるモノと初めて遭遇した場所。

 

青年が「待っている」と言っていた場所の心当たりはここしか思いつかなかった。

 

小さな漁船を借りて、陸を離れる。

 

出港する直前、念の為小沢澄子には連絡を入れた。

 

「ここに来てまた驚くことが起きるとはね...」

 

開口氷川誠の耳に届いたのは呆れ声だった。さすがの天才小沢澄子も頭を抱えているのが電話越しでも分かった。

 

「とは言え、情報元が情報元なだけに無視は出来ない。調査、お願いできる?」

 

気が付くと葦川涼は山の奥深くまで入っていた。街灯の灯りはもうとっくに届かない闇の中。ちょっとした散歩のつもりだったので懐中電灯も持っていない。今ある灯りは、目の前でゆっくりと羽ばたいている蝶の光だけ。

 

見たこともない蝶だった。昆虫に詳しい訳ではないが、光る蝶なんて見たことも聞いたこともない。

 

その蝶には、不思議な魔力のようなものを感じていた。

 

「珍しいから」ともちょっと違う。ついて行きたい。ついて行かなければならない。そんな使命感のようなものも感じていた。アンノウンという未知の生物との戦いを通じて警戒心を強く持っていたはずだったのに、あれからはそんな気持ちを微塵も感じなかった。

 

もっと奥へ、奥へ、奥へ...。

 

「ここだ」

 

氷川誠は瀬戸内海上のある場所で船を止めた。街との距離、間違いない。ここが、あかつき号事件の現場だ。木野薫の、葦原和雄の、そして津上翔一もとい沢木哲也の、その他大勢の人の運命が変わった場所ーー。

 

その時だった。

 

「ここは...?」

 

不思議な光る蝶を追って山に入っていた葦原涼だったが、開かれた場所へやって来た。

 

鬱蒼と茂っていた木々は無く、ただ野原が広がっていた。その中心には一本の木。まるで他の木々が、あの木に遠慮して立っているかのように、円形状に広がった野原だった。

 

中央の木々にいくつかの光が見えた。

 

葦原涼はゆっくりとその木へ近づく。

 

「これは...」

 

葦原涼は感嘆の声を上げた。光る蝶が1羽2羽3羽...とにかくたくさんの蝶がその木に集まって来ていた。

 

まるでクリスマスツリーだ。こんな状況じゃなかったら、島の皆にも見せたいと思うほどに綺麗だった。

 

瀬戸内海上 あかつき号事件現場

 

「うわっ」

 

現場に着き、これからどうしようかと氷川誠が考えあぐねているときだった。突然、光が彼の体を包んだ。

 

灯台ではない。もちろん太陽の光でもない。この光に、氷川誠は見覚えがあった。

 

まさにこの場所。あかつき号事件を遠くから見たときに目撃した、オーロラにも似た光だ。

 

ふと、葦原涼は横を見ると、そこに、先ほどまで追いかけていたあの光る蝶がゆっくりと変わらず飛んでいた。

 

そして彼の身長より少し高い部分で、ゆらゆらとその場に留まっていた。

 

まるで待っているかのようだった。

 

氷川誠を包んでいた光はますます強くなっていった。その光は遠くにある街が、目の前にそびえ立つ木の壁が、彼が今立っている船が見えなくなるほどに強くなっていった。

 

葦原涼は、その蝶に向かってゆっくりと手を伸ばした。

 

そして、遂に彼はその蝶に触れた。

 

 

 

 

そしてーーーーー

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