今年最後の投稿になります。あとがきは長々と書いていますが、内容は2024年にあった出来事の感想ですので、読まなくてよいように、先に言っておきます。
お読みになったみなさまに置かれましては、良いお年を!
そして、皆様のこれから始まる1年があらたな良年になることを願っています!!
秦の王都咸陽が予測のできない事態の連続に色めき立っている頃。
秦西部に位置し守りに易く攻めるに難い天険の地を備える雷原の地で秦に侵攻している魏軍と最初の衝突をした軍があった。
「ウぉおおおりゃぁ バハぁーアッ!!」
統率者は、陽の光にも負けぬ黄金色の甲冑を纏う男であった。
「ガハハッ」
男は、敵の先遣隊である兵数百を一撃のもと殲滅し、地平のさき。まだ見えぬ大軍に視線を向けていた。
「――まだまだ、軽い。軽いのォ」
男は、特異な意匠の面。悪鬼のごとし角や牙。或いは、猛り狂った鬣の獅子を模したのであろうか。男は、その面を手をとり、眼前を明るくした。
「あのさきにおるのは、かつて名を成した火竜の生き残りか……あるいは、まだ見ぬ大炎のもとであるかのォ」
男には渇望し続けるものがあった。
「この空気震わすようなヒリヒリとした感覚。此度の戦。ここだけの話ですむまい。大きな……戦の気配するのォ」
それは、戦場に流れ落ちる無数の血が燃料となり燃え上がる命の奪い合いのさき。将と将。お互いの軍を隔てて衝突し合い、それぞれの内に秘める情念という火と火がぶつかり絡み合い炎が巻き上がり、戦場のすべてを巻き込む大炎へと昇華する戦い。
「楽しみじゃ」
そんな闘争を望んでいる。
「行くぞ! 敵は雷原にありじゃ!!」
その報は、すぐに侵攻する魏軍に伝わることになった。
「さすがに、馬鹿ばかりではなかったか」
しかし、魏軍数十万を率いる総大将呉鳳明の表情にわずかな緊張の色すら浮かぶことはない。
「当然の対応だな。秦は楚が南虎塁を抜いたことで、戦力を楚に集中させねばならなかった。その隙は、我らに対する防衛の要。剛陵城を陥落させる機となった。その防衛の要を失った秦にとって、いまもっとも危険な敵は、楚ではなく、我ら魏に他ならないのだからな」
「鳳明様。いかがなさいますか」
呉鳳明は、戦場を俯瞰できる高台の台車から先を見渡し、不敵な笑みを浮かべた。
「いまはまだ何者かは分からぬが、この敵は、機に聡い者であるのは間違いなかろう」
呉鳳明は、いま浮かでいる幾重にもの思案を掌でふわりと包み込むように握り、口元に寄せて思考を纏めると指示を出した。
「朱比。全軍に通達だ。ここに布陣を展開する」
「ハッ! 直ちに」
朱比は拱手ののち声を張り上げた。
「全軍停止だッ!! 敵が現れた。これより、ここ雷原の地に布陣する。各部隊長は指示を聞き漏らすでないぞ!!」
南で楚の侵攻を止める戦いをする騰軍に続き、東で魏の侵攻を防ぐべく迎撃にでた麃公軍の戦いも開始しようとていた。
そして、すでに戦いを開始していた南の楚の戦場はというと。
「ッチ。秦のクソどもが。わらわらと湧いてきやがってきりがねえ――って」
楚の千人将項翼は悪態をつきながら秦兵を切り捨てたところであった。
項翼は前髪を無造作に鼻先にかかるまで伸ばしていた。戦場で命の取り合いをする者としての感覚からすれば、うっとうしいの一言であろうその前髪を項翼は存外に気に入っていたからだ。
しかし、それがふっと視界に掛かる一瞬の間である。近づく敵影が重なりわずかに反応が遅れた。
「――やべッ!!」
「死ねえ。楚の野蛮人どもに秦の地はふせぬッ…ぐフ」
接近していた敵影の額には一本の矢が刺さっている。
敵兵は絶命し崩れ落ちた。
「翼ッ!! 前に出すぎだ。戦はまだ始まったばかりだぞ」
声は遥か後方からであった。
項翼は声に向かって剣を持った片手をあげた。
「うおい!! 助かったぜ。麗。ありがとよォ!」
その様を見届けた麗とよばれた弓兵同格の千人将白麗は思いをありのままに吐いた。
「厄介な敵だ。矢傷にまったくひるまないどころか、死線すら超えて最後の一振りを振り下ろしてくる。五万の楚軍に対して秦兵はわずか五千だ。拮抗できるはずもないのだがな」
事実、楚の進軍は完全に停止し、戦いは足を止めた激しい乱戦に舞台を移していた。
そして白麗は視線をこの先陣五万を束ね義兄でもある将軍に目を向けた。
「……予想外だ。まさか敵の中に臨武君の武に並ぶ者がいるとは――」
白麗の視線の先。
まさに楚の将軍臨武君と秦将のひとりが苛烈な打ち合いを演じていた。
「うおおおおおッ! 秦の山猿ごときが調子に乗るなアアアッ!!」
臨武君が振るうは大錘と呼ばれる金属の塊。俗にいう鬼の金棒に類する武器であった。当然、それを木の棒のように振るうことができる膂力は並みではない。ただ振るわれる大錐は受けるだけで至難。ひとたび攻撃されれば受けきれずに潰されるか、吹き飛ばされるかのどちらか。そういう代物であった。
しかし。
「ふざけた頭でふざけたことを抜かすな。カニ頭がアアア!!」
秦将は矛の柄で巧みに、あるいは、力ずくで受け止め、受け流し、隙をついては矛を振るい返していた。
「秦将ごときに。中華一の大国楚で、叩きあげられてきた俺の力がアアア! 受け止められるなど。 あるはずがないッ!!」
まさに剛腕であった。この膂力に任せた大振りな一撃は、受け止めた状態のまま敵を馬ごと吹き飛ばすほどのものであった。
そして両者は互いの全身が一目に入る位置取りで対峙した。
秦将は痺れた腕をふるい、言葉を発した。
「……馬鹿力が。俺はお前の尊大な自負に興味などないわ。だが、名だけは聞いてやる。俺は騰軍第一軍長録鳴未だ」
臨武君のこめかみに血管がめきっと浮かび上がった。が。臨武君はすうっと息を吐きだすことで、すぐに落ち着きを取り戻し、静かに言葉を返した。
「山猿だと侮っていたか。臨武君だ。貴様のような好敵手がいるとは予想もしなかったぞ。褒めてやる」
尊大ままな上からの言葉に、今度は録鳴未のこめかみに血管が浮かびあがった。が、こちらは大きく舌打ちし眉間に力を籠めるにとどまった。
「お前は己の力に多大な自負をもっているようだが、俺に言わせれば、ただそれだけだ。上には上がいる」
「……何が言いたい」
「てめえはただの力馬鹿だって言ってんだよ。自負に見合ってねえんじゃねえか」
「――貴様ア」
「こいや。そのふざけた頭をたたき割ってやるぞッ!」
同時に両者は駆け出し。
「うおおおおお!」
「オォおおおお!」
大錘と矛が、臨武君と録鳴未が、再び、激突し、他をよけ付けない一騎打ちが再開されることになった。
「臨武君将軍ッ!!」
「録鳴未様ッ!!」
周囲の互いの兵たちの声があがっていく最中。
他を寄せ付けない。いや。寄せる必要などないのだ。
「ったく。それで、あんたは気持ちいいでしょうが、こっちは大将。向こうは将の一人だ。釣り合ってないでしょうが」
白麗は、ため息交じりに弓に矢をつがえて弦をぎりぎりと弾いて絞りあげていく。
「叱責は後で受けるとして、万が一の事態からすれば易い。それに――」
白麗は狙いを定めながら、戦への出立前、将軍に嫁いだ姉の言葉を思い返していた。
麗。あの人は無茶ばかりするから守ってくださいね。
「わかっていますよ。姉上。先陣の兵五万の将軍が、こんな序盤で苦戦するのが――悪いんでしょうが」
矢の穂先が捉えるは秦将の右腕。武器を握る腕だ。頭を射抜いてもいいが、それでは、将軍の面目だけでなく手柄まで横取りしたことになってしまうからな。
弦は絞られてギチギチと、鈍い音を奏でて解放のときはいまかいまかと待ち焦がれている。
「悪いが、ここまでだ」
「ヒュン!!。」その音とともに腕は軽さを取り戻し、解放された弦の音に成功を確信した。
凶事を告げるように矢は放たれた。
そして、秦の大本営、王宮にさらなる事態の悪化を告げる急報が届いていた。
第99話でした。
色々なことが起きた一年でした。1月1日に発生した能登半島を襲った震度7の大地震。その翌日に起きた海保機と日空機の衝突炎上。お正月の最中。日本に衝撃が走った出来事だったと思います。さらに、年の瀬。近隣国にて再びおおきな悲劇的な事故が起こりました。また海外においても起こっていた戦争行為の終着点はいまだにわからないままに、紛争地の戦いは止むことはありませんでした。
寿胡王は言った。
人は愚かだ、と。起こった悲劇を変えることなどできないと。けれど、その悲劇のさきに。人の愚かさのさきに、何かがあると願うばかりだ。と
誰にとっても都合の良い世界など存在しないけれど、だれもが自らの足で、意思で、どこまでも歩いて行ける世界であって欲しいとは思います。
そんな世界の在り方が日々変化していくなか、明るい話題もありました。
そう。みなさんご存じ、映画キングダム『大将軍の帰還』の上映。そして、興行収益80億円突破です。すばらしい出来の映画でした。1月からスタートしたアニメキングダム五期、黒羊丘編もよかったです。キングダムは今年も最高によかった。そして、本誌は、いよいよ秦の中華統一に向けて滅ぶ国も……。来年のキングダムも要チェックです。
長くなりましたが、今年も二次創作小説『彼の者の盾はどこへ向かうのか』をお読みいただいたみなさま、コメントを頂いた皆様、評価をくださったみなさま。そして何よりキングダムを生み出し続けてくださる創作元である原作者様。ありがとうございました。
これからも、細々と更新を続けていければと思います。