彼の者の盾はどこへ向かうのか。   作:mukurobone

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第11話となります。
間違えて12話目を投稿していたので、そちらは削除しました。
あとがきは、間違えたほうに書いていたものを流用しています。


第11話

「容赦はしない。どいてもらうぞツ!!」

 

馮、濯、洪の三人は、元昌文君隊の精鋭である。朱錐が守りの要であるならば、彼らは敵を切り裂く矛として、その武を示してきた猛者である。

そして、王騎軍に組み込まれてから五年。五体満足で生き残り続けている彼らが弱いはずはない。が、

 

朱錐はそれを寄せ付けなかった。

 

「はぁアアアああッ」

振りぬく一撃は三人の防御を吹き飛ばし、二撃目にはその体を打ち据えて落馬させた。

 

「ぐウ うッ」

打ち込まれた一打一昆はとてつもない重さ以て、足止めを担った三人を無力化した。

 

勢いそのままに駆け抜けていく朱錐の背中を、三人はただ眺めることしかできなかった。

 

 

 

「さてさてぇ 昌文君ン。これであなたは丸裸ですねぇ」

王騎の声に反応して振り向けば、そこには今まさに首を撥ねようとする矛があった。

 

「ㇴッ ぶなぃっ」

それを間一髪で躱した昌文君であったが馬脚が乱れたことで、王騎に並ばれてしまう。

 

「楽しい時間でしたが、あなたとの戦いも そろそろ幕のようです。」

 

「何を言うかッ まだ終わってなどおらんぞッ 王騎ッ」

 

「ほら 御覧なさい。 御車を。」

「 なッ !?」

 

王騎の言葉に従って視線を向けた先には、ついに、御車に届こうとする兵の姿があった。

「大王っ!!」

 

昌文君の意識は完全に大王に向けられて、それは決定的な隙となっていた。

 

 

「それに あなたもね」

 

 

振り下ろされた王騎の矛は昌文君の首に迫った。

 

 

三度目となる昌文君の命を刈り取るべく振るわれた王騎の矛。止めさせたのは、他でもない昌文君の言葉であった。

 

 

「王騎ッ 政様は昭王を超えるぞ」

 

 

ピタッと昌文君の首筋で止まった王騎の矛。

 

 

「…なにをばかなーーー」

 

言葉に思考を乱された王騎の一瞬の間を、昌文君は見逃さなかった。

 

「朱錐ツ 儂のことはいい 大王を護るのじゃッ」

 

「………朱錐さんはもう抜けてきましたか。」

 

王騎は「諾っ!!」と響く声とともに離れていく朱錐を一瞥したあと、先の昌文君の言葉「政様は昭王を超える」その意味を吟味していた。

 

「儂とて易々と討ち取られはせんぞッ」

 

再び気合を入れなおして、攻勢に出る昌文君であったが、難なくそれをさばき終えた王騎は一つの決断を下した。

 

 

「まぁいいでしょう。お別れです。昌文君。」

 

 

これまで、どこか掴みどころのない風体を装っていた王騎であったが、それを脱ぎ去り放った一刀は昌文君の躰を易々吹き飛ばした。

 

昌文君の姿は、側面に流れる谷底へと誘われて消えていく。

 

 

「ンフフフ 天の采配に 期待してみましょうか。」

 

 

そこには、空にむけて不敵な笑みを浮かべる王騎の姿があった。

 

 

 

 

昌文君が脱落したことで、護衛の士気は地に落ち、事態は最悪の方向へと舵を切ったかに見えた。

 

「大王ッ お覚悟ッ」

 

そして、今まさに御車に槍を突きたてる騎兵の姿に、昌文君の副官である壁は、絶望の色を濃くしていた。

 

「終わりだ。なにも、かも………昌文君。申し訳ありません」

そうして視線を下げ始めていた壁に声が掛かる。

 

「壁ッ あきらめている場合ではないぞ 見よ」

 

後方から発破をかけたのは、かつての自分たちのまとめ役であり、昌文君の前副官として隊を率いていた漢の言葉であった。

 

指し示された先には、突き立てられた騎兵の槍を躱して、御車から飛び出し、そのまま反撃とばかりに蹴り放つと騎兵の顔面を捉えて落馬させ、その馬を奪った漂の姿があった。

 

 

「あきらめるなッ 隊列を組みなおせ。密集して突破をはかるぞ」

 

 

勇ましく声を挙げて、佩いていた剣を抜き放って掲げる漂の姿は、まさしく将であった。

 

 

「おおぉ………」

 

思わず感嘆の声を挙げる副官に、朱錐はさらなる発破をかけた。

 

「ボケッとするな。壁ッ 率いるものが鈍れば、隊は死ぬぞッ」

 

 

「!?  ッ直ちに隊を組み直し大王ともに一点突破する 私に続けぇぇえ!!」

 

 

勇ましく声を張り上げて先頭を駆るべく速度を上げる壁もまた、将の姿を体現しはじめていた。

 

昌文君を失い意気消沈して瓦解寸前だった兵たちは、漂の檄と壁の活によりまとまりを取り戻して、包囲網に向けてがむしゃらに突貫した。

 

そして、護るべき御車が無くなり、護られるべき大王が先頭を走る。

 

それすなわち、漂を守るすべての者が必死に突撃しているということ。

 

その突破力は、敵の度肝を抜くほどの力を発揮していた。

 

それは実を結び、ついに王騎の配した伏兵の包囲を突破することに成功した。

 

死地からの脱出に、壁は喜びのままに声を張り上げた。

「よし よぉぉし!このまま全員逃げ切るぞ」

 

だが、そこに冷や水を浴びせるかのような冷静さで、漂は先のことまで見通した言葉を発した。。

 

「だめだ………副長。半分を昌文君の救出に向かわせよ。王には昌文君が必要だ」

 

「………ですがそれではあなたを護るものが ーーー 」

 

議論してる暇なかった。さらなる追撃の手が彼らに襲い掛かったのだ。

 

「大王ッ 右手のっ 右手の丘から新手がっ」

 

視線を向けた先には、丘の向こう側から湧き出るように現れては、こちらを包囲するべく展開していく敵の姿があった。

 

察した漂の決断は早く、敢えて、いまだ隊列が乱れている敵に向けて馬を走らせた。

 

「ッ!? 無茶なことを。壁は昌文君を頼むぞ」

 

「朱錐殿 かたじけない。半数は私にっ 残りは彼とともに大王のもとに向かうのだっ」

 

 

 

壁が最後に見たのは単騎で突破した漂の姿と行く手を阻む敵を悉く粉砕する朱錐の姿であった。

 

 

敵は単騎で駆け上がってきた大王の姿に、困惑のまま突撃を許してしまい隊列を乱していた。そこに朱錐が先頭を駆る集団が不意打ちとなって突撃したことで大打撃を与えていた。しかし、それでも数の差は歴然であり、敵を突破できたのは、朱錐と満身創痍の兵が十騎に満たない数であった。さらには包囲網を突破できたものの、先に抜けてた大王の姿を見失う結果となった。

 

それでも、わずかに残る馬の足跡を辿ってしばらく。馬の足跡は森へと続いていた。そこからさらに手分けをして痕跡を探していると、兵の一人が主のいない馬を引いてくることになる。そのことから、大王は追っ手を撒くために馬を降りると、森へと分け入ったと推測が経った。

 

 

「この暗がりでは、大王お一人をみつけだすのは困難極まりないな」

 

「ですが朱錐殿。我々は大王を見つけるまでは帰るわけにはいきません!!」

 

「わかっている」

 

朱錐は言葉を発しながら思案していた。

 

「困難である」とは正直な感想である。それは兵たちも同じであろう。しかし、多くの同胞の屍を踏み越えてここまできた彼らも収穫なしで帰るわけにもいかない。大王の安否、さらには安全な同胞のいるところまでお連れしなければ、死んでいったものたちに顔向けできないと考えているだろう。けれど、兵の中には放っておけばあきらかに命に危機に瀕するほどの重傷者がいる。大王の安否は最重要だが兵の命を軽んじるわけにもいかない。

 

それらを勘案した朱錐は、妥協案となる指示をだした。

 

「ここからは二人一組に編成し直す。次に一番怪我の重い者とその次に重いものを一組として、さきに合流場所に行き現状の報告を頼む。残りはこの場所から森に向かって捜索を開始するぞ」

 

朱錐は、そのあともいくつかの指示を出したあと、最後に火急の合図として矢筒に残っていた矢、嚆鳴矢をそれぞれに渡した。

 

そうして、朱錐たちは人海戦術とはほど遠いギリギリ連携の取れる範囲に拡がると、最後に痕跡のあった場所からゆっくりと森へと入っていった。

 

闇夜に包み込まれた森は、行く手を阻んでいるかのように隔絶とした空気を漂わせていたが、対をなすように、浮かびでた月の明かりが導を示すように差し込み、道を照らし出していた。

 

 

捜索は一人は騎乗したまま高い視線を保持して遠くを。一人は歩兵となって近場の茂みを探しながら大王に呼びかける形で開始した。

 

 

しばらくは、なんの発見もないまま歩を進めていると、朱錐の右手側から一頭の馬がゆっくりと駆けてきた。

 

「この馬は………」

馬の状態を確認した朱錐は、右手側に展開していた兵のものであると確信して声を挙げた。

 

 

「どうかしたかっ」

 

 

朱錐が声を張り上げると遠くに見える茂みが一揺れ、影が森の中へと消えていったように見えた。それを不審に思った朱錐は武器を構えて慎重に歩を進めると、そこには、右方に展開していた兵たちの変わり果てた姿があった。

 

倒れ伏す首のない二つの躰と躰を失くして転がる頭が二つ。

 

それは右手を捜索していた兵たちに間違いなかった。

 

片方は何が起こったのか理解していないような呆然とした表情に対して、もう片方は苦悶の表情を残していた。そのことが気になり、近くに横たわっていた躰を調べると片方の躰にだけ前方から躰の中心に剣が差し込まれた状態で倒れていた。

 

「………」

 

先ほどの茂みの揺れに森の中に消えたような影。それに二人を亡き者として、去ったところをみるに、少数、あるいは単独の可能性もある。そうなると、考えられるのは兵ではなく暗殺者の類か。

 

朱錐は思考が纏まるとそれを一端横に置き、嚆鳴矢を空へと放った。その音を目印として、左手側にいた二人がこちらに向かってきているのが見えた。

 

 

「なにがあったのかは不明だ。ただ、敵がいると心得よ」

 

 

そこから慎重に索敵しながら進むと遠く暗闇の先に灯りが漏れている地点を発見した。

 

 

「村、だろうか………とにかく行ってみるしかない」

 

 

 

 

 

 

 




壁が活躍!(原作比10%)

この小説のどうでもいい話。
朱錐の主武器なのですが、まったくイメージが固まらないままここまで来ました。最近こんな感じだろうと思いついたので表記しておきます。
角が八角ある棒状のもので先端は多面的に加工されており刺突も可能。長さは230㎝?くらいで、見た目にはわからないように、片側が意図的に重く造ってある。特徴としては、太い、べらぼうに重いの二点。
片側が重い理由は、棒術として扱うのではなく、乱雑に薙ぎ払うのには偏りがあったほうがいいような?と。
朱錐さんの体格。
剛の者という表記でしたが、蒙武と王騎の間位とします。膂力は作中トップクラス。
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