彼の者の盾はどこへ向かうのか。   作:mukurobone

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第14話になります。



第14話

秦王嬴政は、山の王楊端和と強固な盟を結ぶことに成功し、山の民からの助力として三千もの猛者とともに下山を果たした。

 

一夜明けて、政は古の名君穆公が建立した家屋のなかで決戦の日の朝を迎えていた。

 

 

 

「起きてらっしゃったのですか 大王」

 

声の主は、大王嬴政の側近中の側近。政がもっと信頼を置く臣昌文君であった。

 

「ああ。昌文君か。………一つ尋ねたい。俺たちを襲った刺客なのだが、面を被った者に邪魔されたといっていた。心当たりはあるか」

 

それは、信と初対面を果たした折に、襲撃してきた刺客が口を滑らせた言葉の一つであった。

 

「面、ですか。それならば朱錐でしょう。私が王騎と戦っていたときに御車を任せましたので」

 

朱錐の名に、遠き日の政の記憶が刺激される。

 

「鬼面の朱錐か。たしか行方知れずになったと聞いていたはずだが見つかっていたのか」

「ええ。昨年の暮れに差し掛かる頃、我が屋敷に参ったようで、妻から報せを受けて知りました」

 

趙からの逃避行。連れ出そうとしてくれた道剣をはじめ、ほとんどの者が追っ手の犠牲となったあの日。自分を護り、導いた女性の姿が目に浮かぶ。

 

「あの時から 六年か」

「左様です。そして、ようやくですな」

 

徐に瞳を閉じた政は、瞼の裏に映るあの日に想いを馳せた。

 

 

「………紫夏。俺はやるぞ」

 

 

 

呟いた言葉で決意を固めた嬴政は、高らかに宣言した。

 

 

「昌文君。玉座を取り戻すぞ」

「ハッ!!」

 

 

 

王都咸陽は、古の盟復活を掲げて下山してきた山の民に困惑を隠せずに混乱の様相を呈していた。それは今や王宮王都を牛耳る竭氏一派も同様であり、早急に会議を開くと喧々と議論を交わした。そして、竭氏は有事に備えて招集していた八万を超える兵も待機していることに加えて、山の王楊端和自らが山から下り、ここ咸陽まで来ていることを重く見て、王都咸陽を守護する門を開く選択をした。

 

そして、王弟成蟜を交えた会談を安全に行うために、山界の王に侍る頭数に制限を掛けさせたところまでは順調であった。だが、そこから次の関所で武装解除を求めた瞬間から事態は急変した。突如、武器を預けるようにと近づいた兵を、先頭に躍り出た一人の山の民が切り捨てたからだ。それは遠くから様子を確かめに来た竭氏を激高させた。

 

「山猿どもがふざけた真似をツ 一人残らず皆殺しにしろ!!」

 

離れた所からその様子を眺めていた竭氏の檄が届いたかように一斉に武器を構えて突撃していく王都兵に対して、山の王楊端和の檄に応えるように突撃を開始した山の民がここに激突した。

 

 

 

「舞台は整いました。 ねぇ 昌文君。あなたの言葉 確かめさせてもらいますよ。」

 

 

 

激突の場となった王宮眼前の門を信の活躍により見事突破した政たちは、王宮へ雪崩れ込むべく突撃していたが、待ち構えていた弩を構える歴戦の兵の攻撃により、その動きを止められていた。けれどそれは、政や昌文君にとっては想定通りの展開でもあった。そこで、王宮に続く右方に存在する迷路のような回廊から、この乱の首謀者王弟成蟜と竭氏を討ちとるために、囮となる部隊と敵の急所を突く部隊の二手に分かれる決断を下した。

 

右方の回廊から急所をつくのは、信と山の民の精鋭を含む壁を中心とした部隊であった。他方囮となりこの場に残るのは、敵方が最も討ち取りたい大王である政とその側近中の側近である昌文君その人であった。

 

弩隊の後方でこの待ち伏せを発案した竭氏の片腕肆氏は、山の民の中に大王嬴政がいることを察していた。肆氏がそれを声に挙げて発すると山の民に扮していた嬴政は素直にその姿をさらした。

 

その報告を受けた竭氏は、嬴政を討ち取るために集結しつつある王都兵を続々と投入していく。それは、二手に分かれたことで頭数を減らした政陣営にとっては悪夢のような状況であった。数の差で歴然であり、圧倒的な武を誇っていた山の民の勇者たちですら疲労には勝てずに削られ始めていた。それは、政を護っていた護衛兵に及んでおり、竭氏側の将魏興の切っ先がついに届くことになった。

 

「ここまでお越しになられた武勇は認めよう。だが、生まれた刻が悪かったと諦めてもらう。大王よ 覚悟っ!!」

 

だが、魏興が馬上から勢いよく振るった矛は、政には届くことはなかった。

 

「随分と軽い剣だな。ッむん」

 

割って入った昌文君が受け止めていたのだ。そして、気合入れて地面を踏み込むと、魏興の矛をはじき返した。

 

魏興は、はじき返されて崩れていた体勢を馬上で整えると、昌文君を強敵として見据えた。

 

 

「邪魔をするな 昌文君ッ!!」

 

そして、激した魏興と昌文君よる激しく打ち合いが起こった。

 

 

その様子を王宮の一角からながめていた王騎は、彼の無骨な賢人の変わらない姿に愉快気だ。

 

「相も変わらず渋い働きをしますねぇ 昌文君は。そうは思いませんか 錐。」

「………はい」

 

「駆け付けたいですか 昌文君のもとへ。」

 

「私は王騎様の幕僚の一人です」

 

はっきりとした言葉を返してはいるが、握りしめている拳は本心を語っている、がそれはそれ。と王騎は言葉を続ける。

 

「あなたのそういう所、わたしは嫌いではありませんよ。 騰はいますか?。」

「ハツ ここに」

「そろそろ右龍の決着もつく頃でしょう。」

そう言うと王騎は騰に簡単な指示をだして送り出した。

 

 

「錐。わたしたちも行きますよ。」

 

 

 

 

混戦が続く中、右龍を抑えていた左慈を切って敵の制圧を果たした信を含む別動隊は玉座を目指していた。

 

「しっかし 壁のあんちゃんに、あんな無謀な一面があったなんてなぁ」

 

信は山の民に担がれている情けない姿の壁に愚痴を漏らした。

 

「………すまん。気が逸っていたようだ。情けない」

 

 

 

それは、右龍に突入した壁たちが、通路の先にあった広場で待ち受けていた、竭氏側の将左慈が率いる守備兵と遭遇した時の事。二つの勢力が遭遇した以上戦いは必定であり、すぐに激突すると乱戦となった。数の差から壁たちが押されるかに思えた戦いは、逆の様相を呈していた。それは、あまりにも屈強な山の民の攻勢に守備兵が恐れをなしたためであった。その中でもバジオウ、ダジフの力を凄まじく、守備兵の士気を大いに落としていた。

「このまま制圧するぞ」

と壁の号令のもと、士気が最高潮に達しようとしたとき、それに待ったを掛けたは、竭氏側の将左慈であった。生え抜きの武人である左慈の一刀は、飛び掛かった山の民を一瞬で両断してみせたのだ。この時、壁は将として目覚め始めており、このまま潮目を変えられてしまってはまずいと咄嗟に左慈に切りかかったのだが。

 

「私が相手だッ」

 

流れを引き寄せるべく気合をいれて放った壁の一刀であったが、左慈はそれは危なげなく受け止めた。

 

「少しはマシか。だが、それだけだ」

 

そして、取って返すように反撃にでた左慈の実力は、壁を軽く上回っていた。敵の力量を見誤った壁は躱しきれずに深手を負うことになった。

 

「はん しぶとく生き残ったか。もう 死んでいいぞ」

 

壁にとどめを刺そうと近づく左慈に「うらぁ!!」と勇敢にも切りかかったのは信であった。

 

「壁のあんちゃんは下がってな。このハゲは俺が切ってやるからよぉ」 「し、信」

 

自信過剰というか怖いも知らずというか、いずれにせよ年齢の割には、胆力の籠った一撃を放って見せた少年に一瞬目を見張る左慈。

 

「フン それがどうした」

激しく打ち合いを始めた左慈と信であったが、徐々に左慈が押し始める。野生的な動きと見た目からはわからない怪力で怒涛の攻撃をみせる信であったが、武人として本当の修羅場を潜り抜けてきた左慈には及ばなかった。そのまま左慈が押し切るかとみられた状況を変えたのは壁であった。深手を負って満足に動けないままで、背を向けていた左慈に切りかかり、手傷を負わせることに成功した。かわりにさらに一撃をもらう羽目になったが、すでに立ち上がるのがやっとの状態であった壁の躰は、自然と脱力の境地に立ち致命傷をさけることになった。再び壁が切られたことで、タガが外れた信の攻勢は、実力が上回っていたはず左慈を今度は追い詰めることになった。

 

「餓鬼がッ 次の一刀で屍に変えてやる」

 

「やってみろ このハゲがッ」

 

決着を意識して対峙した二人の剣先が交錯すると、立っているのは信だけであった。

 

「壁のあんちゃんのおかげか、最後の一撃が一番遅かったぜ ハゲのおっさん」

 

倒れ伏した左慈に言葉をかけた信も同時に切られてはいたが、重傷というほどではなかった。そして、信も対峙してわかったことだが、どう考えても壁では左慈に勝てるような気がしなかった。それは切られた壁自身も考えており、勢いが先行していた己を恥じていた。

 

その後は将が討たれたことで、まとまりを欠いた守備兵を信たちが粉砕した。そして、右龍を抜けた信たちはついに玉座に座る王弟成蟜の喉元までたどり着くことになる。そこでも、ランカイなる人外を思わせる巨人との死闘を制した信たちは、兵を引き連れて出口を塞いだ騰の活躍もあって、ようやく乱の首謀者の一人、竭丞相の首をとることに成功した。だが、逃げ惑う竭丞相に気を取られた隙にもう一人の首謀者である王弟成蟜を玉座の間から取り逃がすこととなった。

 

 

 

そして、次に成蟜の姿があったのは、両者の勢力が乱戦となって命の取り合いをしてる中央の広場であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




王弟成蟜の乱の終結まであと一話。
壁のあんちゃんは失敗を糧にして大きくなっていく(はず)

多くのあらたな評価、感想(当社比)を得たことで、たくさんの方に閲覧頂ける機会をえました。
ありがとうございます。
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