彼の者の盾はどこへ向かうのか。   作:mukurobone

33 / 109
第30話になります。


第30話

四日目の夕刻から始まった戦いは、いまだ終結するすることはなく、新たな火ぶたが切られようとしていた。

 

朱錐は、干央からの申し入れを受け入れると、李豹を連れて山の麓に軍を動かし、山間を包囲する趙軍と対峙していた。

「朱錐様。いかが致しますか」

「虎豹たちの動き次第にはなるだろう。馮。濯と洪をここに」

朱錐は第六軍二千五百を動かしていた。対して趙軍は、集結すれば万を超えるだろうことは明白ではあるが、山間から一つの山を包囲していることもあって、対峙している数は多く見積もっても倍程度であった。

 

「李豹。軍を動かすぞ」

朱錐は趙軍の後方から上がる銅鑼の音と、山を移動する松明の明かりに虎豹たちの侵入が手筈通りに進んだことを確信した。

そして、趙軍が背後の異変に揺らいでいるのを見て取ると馮、濯、洪にそれぞれ三百を与えて三本の槍として突撃させた。

「朱錐様。戦力を分散させずに、一つとして突撃したほうが良いのではないでしょうか」

「それでも良いのだが、あれは威力偵察、いや挑発のようなものだ。釣られて追ってくるなら守りながら下がることになるが、おそらくは来ないだろう」

「それは、なぜ………いえ、初日に趙将を討ったからですね」

「そういうことだ。私たちが討ったとは知らずとも、どのように討たれたかは知っていよう。それに、彼らは山間を封鎖するように陣を敷いている。我らを追っては綻びを作るようなものだと承知しているはずだ」

朱錐の予測通り三本の槍が趙軍に確かな傷をつけて帰還しようとも、動き出そうとはしなかった。

「趙将がこちらに降りてくるまで続ける。第二波いくぞ。李豹は百人隊を指揮して馮隊に加われ。濯と洪で一隊として貫けそうなら貫いてやれ」

「「「ハッ」」」」

 

朱錐は第二波の号令を掛けると、四人は二人一組となって突撃を開始した。

 

「た、助けが来たんだ」

同じころ、趙軍の追跡に孤軍奮闘していた信とは別の方角に脱出した飛信隊の生き残りは、山の麓で戦う友軍の姿に安堵していた。

「確かに友軍だろうけどよ、数が違いすぎねぇか」

彼らの指摘通り、山の麓は見えるだけで倍程度の数の差が見て取れた。そして、全体としてみれば秦が圧倒的に劣っているのは誰の目にも明らかであった。

「あの軍は、無理に突破しようとしていない。おそらく陽動だ」

そんな中、立ってはいるが辛そうに肩で息をしている羌瘣は冷静に軍の動きを見ていた。

「陽動?あれは囮で別動隊がいるっていうのか」

「おそらく、けど………。本命はさらに少数精鋭のはず」

「だ、だけど、あの軍は、俺たちを助けに来たんだろッ」

羌瘣は瞳を閉じて思考を回転させて可能性を探るが、結論としては否であった。

「私たち全員は無理。たぶん信。信を助けるために動いてる」

「そ、そんなぁ………俺達は嬲り殺されろっていうのかよぉ」

彼らの多くは、希望を得た先にあった絶望的な答えに膝をつき両手を地面に落とした。

「膝をつくなッ まだ決まったわけじゃない」

普段から声を荒らげるようなことがない羌瘣の姿に皆が顔を挙げた。

 

「一つだけ助かる策がある」

 

また違う場所では、虎豹たちが信の捜索をしていた。

「姉さん。追っ手は全部始末したよ」

朱錐たちがいる場所を正面として、左側から回り込むようにして奇襲を仕掛けた虎豹は、趙軍の虚をついて見事に成功して、包囲されている山へと侵入していた。

「ああ、象。よくやった。これで一息つける」

虎豹は労いの言葉を述べると周囲に見渡して思考していた。

 

山はそこまで大きなものではない。だからと言ってやみくもに捜すのはさすがに無理がある。幸い趙軍は松明を焚いて移動していて、位置は掴めている。それに、朱錐たちに対して攻勢に出ていないことと、いまだに山裾を包囲していることからも対象はまだ殺されてはいないだろう。

 

「どうするの」

「そうだな………ッし。上に何かいる」

虎豹は山頂方向で動く影に目を止めた。

「どこ。夜目は聞く方だけど見えない」

「おそらくだが、向こうも私たちに気付いて姿を隠したのだろう。だが、ある程度の場所は把握している。象、頼めるか」

玄象は虎豹から大まかな場所を指示されると「任せて」と気配を消して移動を開始した。

 

「我らはここで待機だ」

 

闇夜に溶け込むように気配を消した玄象は、指示された場所まで移動をすると傍にあった木に音もなく登った。

 

姉さんはここら辺だっていってたけど、今の所は誰もいないかな。………、っていうか私よりも先に気付くとかどういう視野をしてるんだろう。姉さんは面白くて優しいし、それでいて凄く強い。白凰がないのもあるけど、私の巫舞では勝てないかもしれないな。ふふッ、それに冗談で瘣みたいに振舞ったら「象みたいな妹なら歓迎するよ」って凄い男前だったなぁ。女前かな。っといた。一人、だな。

 

玄象は怯えるように茂みに隠れている男が様子を見るために腰を上げた瞬間に後ろから拘束した。

 

「動くな。声も出すな。逆らえば首を刎ねる。分かったら頷け」

背後からの声に、無言でコクコクと頭を動かす男。

「お前は秦か趙か。秦なら一度、趙なら二度頷け」

男はコクと一度だけ動かした。

「所属はどこだ。小声ではなせ」

「ひ、飛信隊だ」

「嘘なら殺す。心して答えろ。隊長の名は」

「し、信だ。し、信とは城戸村出身の幼馴染なんだ」

「………嘘は言ってないようだな」

玄象は男の様子から真実を話していると判断して、拘束から解放すると、男は両手を地面につけて膝をついて「殺されるかと思ったぁ」と息を吐くように言葉を発した。

「率直に言うが、私たちはお前たちの隊長を助けに来た」

その言葉に男は上体を戻すと振り返った。

「な、た、助けっていうのは本当なのか」

「そう言った。どこにいる」

「う、上だ。追っ手が来たから信は弟の尾倒に任せて、お、俺が囮に………」

「分かった。少し待て」

玄象は尾平を落ち着かせるとすぐに虎豹のもとに戻ると今の話を伝えた。

「よし。対象は上だ。ここからは遮るものすべてを殲滅する。行くぞ」

虎豹は飛信隊の尾平と名乗るものを先導にして山を駆け上がった。途中追っ手とも遭遇したが、虎豹隊はそれらをものともせずに一瞬のうちに殲滅した。

 

「び、尾倒ッ 俺だ。尾平だ。た、助けが来たんだ。返事を、返事をしてくれッ」

 

趙将万極は、自軍に喰らいっしている一軍を追い払うために、山裾まで下りてきていた。

「万極様。敵はざっと見て三千程度です。部隊を集結して殲滅してやりましょう」

「ま、待て。ち、趙荘からはう、迂闊にせ、攻めるなと」

「ですが、敵はこちらを舐めてかかるかのように、突撃しては旋回、後退を続けています」

 

「わ、我らをつ、釣ろうしている、のだ。ぎゃ、逆に、し、守備にす、す、隙間をつ、作って、つ、か、まえろ」

 

第二、第三波と続けて突撃を繰り返した朱錐たちは、さらに第四波を終えて第五波に向けて編成を行っていた。

「先の突撃の際に陣形に歪みができたのか、突破できそうな場所があった。そこを狙ってはどうだ」

朱錐は洪の言に「ふむ」と頷くと李豹に声を掛けた。

「李豹はどう考える」

李豹は「そうですね」と数瞬の間、思考すると答えた。

「罠、であると考えます」

「どういった理由からだ」

「合計で四度の攻撃を加えました。ですが、反撃こそすれ、乱れなどはなく、そういった隙は一度もありませんでした。それはつまり、対峙している趙軍はよく訓練されてる兵であるという証。ということは、それが突如として明確になったというのは、少々不自然かと考えます」

朱錐は馮たちと目配せしながら、李豹の推察にうなづき合った。

「その通りであろう。趙将万極が山を下りて指揮に入ったと考えて間違いない。だが我らは敢えてそこに飛び込む」

李豹は理解できないとばかりに朱錐に尋ねた。

「罠とわかっていながら、ですか」

 

「それが罠だと、わかっているからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。