彼の者の盾はどこへ向かうのか。   作:mukurobone

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第32話になります。


第32話

「あなたには戦場から消えてもらいます」

 

龐煖の殺戮と万極の出現で血の夜が明けた五日目の早朝。

朱錐たちは、救援した飛信隊を連れて昨夜の爪痕が残る野営地に戻っていた。

「おう。帰ったのか朱錐」

「ああ、すまないな。録嗚未。後事を任せてしまって」

録嗚未は「気にすんな。無事ならいい」と出迎えたあと、王騎からの言葉を渡した。

「王騎様より呼び出しを受けた。虎豹。指揮は任せる。馮は部隊の編制をすませてから、兵には休息をとらせてくれ。濯と洪は付いてきてくれ。あと玄象のことなのだが………」

「すまない。でも、妹が見つかったんだ。それに、もとより万極の動きは早く的確でもあったんだ。象が悪いわけじゃないよ」

「いや、隊規違反のことではない。それに象はもとより虎豹付きだ。私から言うことは何もない。ただ、したいようにさせてやるといい」

「ん、わかったよ。ありがとう」

 

そうして朱錐は「あとは任せた」と虎豹に目配せして頷き合うと王騎の下へと馬を走らせた。

 

その頃、力を使い果たしたまま眠りについた羌瘣の傍には、玄象が寄り添っていた。

「この馬鹿は、巫舞を使い過ぎて戦場で眠り込むなんて、ほんとお馬鹿なんだから」

玄象は、すやすやと眠る羌瘣の姿になつかしさからか視界が少し滲んでいた。そうしてしばらく頭をやさしく撫でてから、気を取り直すと勢いよく「ベシッ」と頭を叩いた。

羌瘣が「痛ツ」と目を開けて上体をおこすとそこには………。

「象姉がいる………死んだはずなのに。えっ、え?ほんとに象姉なの」

「生きてちゃ悪いのか。この寝坊助がッ」

と再び羌瘣の頭を叩いた。

「痛い。それにこの叩き方は象姉だ」

玄象は羌瘣の言葉に呆れるような顔になると言葉を発した。

「ったく、あんた私をどういふうに覚えているんだい」

「しょ、象姉ッ」

玄象は涙でぐしょぐしょになりながら抱き着いてきた羌瘣を「よしよし」とあやすように背中を叩いて落ち着くのを待った。そして、落ち着いた頃を見計らって、これまでの経緯を話した。

「そういうわけで生き残ったってわけさ。ちなみに里ではなんて聞いてたんだ」

「祭で幽連たちの徒党に囲まれて、最後は首を刎ねられて焼き殺されたって。死体のそばに白鳳もあったからてっきり」

「概ね間違っちゃいないよ。ただ必死に逃げて拾われてたまたま里と仲介できるお大臣がいてね。だからもう私は羌族とは名乗れないんだ。ただ衣装については言われてないから、色だけ少し変えてあとはそのままさ」

と話して最後に「なんて幸運なんだろうって思わない日はなかったよ。姉もできたし」と締めくくった。

羌瘣は割とざっくりとだけ話しを聞いてあとは流していたが、最後の一文だけは聞き逃さなかった。

「姉?象姉に姉がいるの」

「うん?もちろん血は繋がっちゃいないよ。あんたと私のようなもんさ」

「ふーん、わかった。それでどんな人なの」

「物凄く強くて、奇麗で、格好いいよ。多分もうすぐ来ると思う」

噂をすれば影が差すとまではいかないが、朱錐を見送った虎豹はそのまま玄象たちの様子を見るために顔をだした。

「ん。おっ、妹は起きたのか。良かったな。象」

「はい。ちょうど姉さんの話をしていた所です。ほら、瘣も挨拶して」

羌瘣は虎豹の姿を認めるとじっと眺めてから呟いた。

「はじめまして、羌瘣です。虎のお面を被った変な人」

すかさず玄象の拳が羌瘣の頭を捉えた。

「痛い。象姉。私は本当のことを言っただけ」

と悪気もない様子で言い放つ羌瘣とそれを嗜めるように言葉を重ねる玄象の姿に、虎豹は本当に仲のいい姉妹であることを確信した。

「ふふッ 変なお面か」と虎豹は徐に面を外した。

羌瘣はさらされた魅力あふれる虎豹の素顔に思わず「きれいなひと」と言葉を発した。

「だから言っただろ。かっこよくて綺麗だって。それにものすごく強いから。姉さんは」

「それは姿を見ただけで分かった。隙が見えない。でも私の巫舞なら負けない」

「あんたは何で張り合ってるんだよ」

虎豹はなんとなくだが羌瘣の気持ちが察せられた。

「羌瘣はね、自分の姉が私に取られたような気がしてるんだよ」

虎豹の指摘が図星だったのか「そんなことない」という言葉とは裏腹に、頬は朱を注がれたようになっていた。

 

「まったく。私が羌族でなくなっても、あんたはいつまでも私の妹。わかった?」

と玄象が羌瘣の頭をぽんぽんと叩くと「………うん」と羌瘣はそっぽを向いた。

 

ところ変わって、信は医務室として使われている天幕で目を覚ましていた。

「こ、ここは。それに俺は………ッ」

信は状況を思いだすと瞬時に上体を起こしたが、同時に躰に走る痛みに顔を歪ませた。それでも、持ち前の反骨心からか言葉を発した。

「いってえ。龐煖っつたか。あの野郎は今度会ったら絶対ぶっ殺してやる」

そこに、信の様子を見るために訪れた尾平の姿があった。

「し、信。気が付いたのか。よかったぁ、このまま目を覚まさないかとおもったぜ」

と信は馴染みの出っ歯の壮健な姿に安堵の息を吐くと、気になっていたことを尋ねた。

「尾平。弟の尾倒のやつはどうなったんだ。俺の隣にいたはずだ」

尾平は信の言葉に顔を歪ませると言葉を発した。

「あいつは、お前を護るために………役目を果たしたんだ。顔をみて笑ってやってくれ」

尾平はそう言葉を発すると、信がいる寝台の隣で白い布を顔に掛けられた躰に視線を向けた。

「う、嘘だろ。び、びとう」

悪い夢なら覚めてくれとばかりに、信は顔に掛けられて布をまくった。

「おい………、何に寝てんだよ。尾倒。俺が大将軍になるところを見届けるって言ってたじゃねえかよ」

そして信は、「おい、起きろよ。なぁ」と尾倒と躰を叩いた。

「………何泣いているだよ。信。痛みで目が覚めたじゃねぇかよ」

と尾倒が声を発した。「ッ!?」と驚き距離をとる信に「見たか。いまの信の驚いた顔」と尾平は天幕から覗く飛信隊の生き残りともに、にやにやと笑っていた。

すべてを察した信は「び~へ~え~」と怒りを充電するかのように言葉を発すると爆発した。

 

「てめぇ冗談でもやっていいことと悪い事ってのがあるだろうがぁあああ」

と信の怒声は天幕に響き渡ると尾平に制裁を加えるべく駆けだした。

 

その頃、実践を観戦するために高台にいた蒙毅や河了貂などの軍師候補生は、突如昨日現れた李牧と名乗る男の勧めでその護衛カイネとともに、より戦場を見渡せる城跡にいた。

「このようなところに古城跡があるとは知りませんでした。李牧殿はこの辺りに御詳しいのですね」

「いえいえ、そのようなことはありませんよ。たまたまです」

蒙毅は、李牧とカイネが帯剣していた剣を念のために預かり、そのうえで少しでも素性を探ろうとしていた。

「蒙毅殿はそのご年齢からして聡明であられるようだ。私も見習いたいくらいです」

と李牧と名乗る男は万事そつのない返答をして、名以外をさらさなかった。そんな二人の応酬とは縁がないように、河了貂は李牧の護衛であるカイネと会話を重ねていた。

「ふーん。やっぱりカイネはいいね」

「うん?なにがだ河了貂」

「だってカイネは戦えるんでしょう。俺にはどうしたってそんなことできないから、みんなとは一緒にいけないし」

「あー。まあ私は戦わないといけなかったから自然とだ。それにお仕えすべき人に出会えたからここにいる」

「あの李牧ってひと?」

「李牧様、だ。まあなんだ、お前だって戦場に立つために軍師の勉強をしてるんだろ。まずはやるべきことをやりな。文句ばっかり言ってても仕方ないだろう」

河了貂はその言葉に「それはそうだけどさぁ」とわかってはいるけど、なんだかなぁという気持ちの抜けなかった。そんな様子にカイネは、知り合ったばかりとはいえ、少し情が移ったのか忠告するように言った。

「いいかい、河了貂。一緒に戦場に立ちたい奴いるのはわかったけど、戦場はそんな甘い場所じゃないよ。朝笑ってたやつが昼には死んでる。ましてや軍師なんてものは、そこにそいつを送り出す側だぞ。あんたの知り合いがどんな奴か知らないけど、そういう覚悟はちゃんとしときな」

カイネの真剣な忠告に、河了貂は少し俯きながらも「わかってるよ」と元気なく答えた。

「はい。この話は終わり。で、どんな奴なんだ、そいつは」

と、カイネは少し言い過ぎたなと反省しながら話題を変えることにした。

「………信っていうんだ。でも、馬鹿だし、粗暴だし、勢いだけはある馬鹿。それに鈍感」

とりあえず、碌な男じゃないなと考え始めたカイネはそのまま思ったことを口にした。

「あんた、なんでそんなやつのために戦場に出ようなんて考えたんだい」

「やさしい所もあるんだ。馬鹿だけど。………たまに頼りになる」

 

カイネは「この子悪い男に引っ掛かるような娘じゃ」と少し心配になりながらも大人しく聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




明日分をドンッ!
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