感想に評価、あと誤字脱字報告もありがとうございます。
となる。になる。どちら良いのか判断がつかなかったので、好みでそのままにしてあります。
短いですが、どうぞ。
「こちらになります。朱錐殿をお連れしました」
案内を務めた騰に連れられた先は、城塞都市中央にそびえる城の一室であった。
「そうか。入ってもらってくれ」
部屋の主からの承諾の声を聞いて扉を開けた騰は、開いた戸を支えながら「わたしはこれで」と身を引いた。
騰に礼をした朱錐は、部屋内より掛かった声に少しの懐かしさを覚えながら、中へと入る。
部屋の中央には机と左右に椅子が一つずつ設置してあり、部屋の主はその一つに腰かけて、朱錐に目を向けると声を掛けた。
「久しいな 朱錐」
「ハッ お招きにあずかり光栄の極みです」
「楽にしてくれていいよ。私はもう将軍でもなんでもない、ただの女だし」
「そういうわけには………」
「生真面目なところはじィにそっくり」
したり顔で言い切られた朱錐は、ため息を吐きながら言葉を返した。
「……… ハァ また怒られますよ」
「ん ふふふ。なつかしいなぁ。じィは元気にしてる?」
「はい。戦場を離れて文官になる決断をなされましたが、お変わりはありません」
「そう よかった。久しぶりに会いたいなぁ 頑固じィに」
「会いにいかれたら、よろしいのでは?」
部屋の主は、少し思案するように宙を眺めてから答えた。
「これでも死んだ身だから、さ。そうもいかないよ」
「あなたの……将軍の素顔を知るものは、そう多くはないのではないかと」
「んー それでもまだ数年だ。生きていることがバレたら、みんな縛り首だよ?」
「それはまた……まあ、そうなるでしょうね」
朱錐の答えを聞いて、腰かけていた椅子から立ち上がり背を向け、少し伸びしながら言葉を返した。
「そうだよー でもいつか行くってじィに伝えといて」
「………頑固じいにはわたしから伝えておきます」
「ふふ ありがとう。朱錐が頑固じィって愚痴ってたこともきっちり伝えます」
「あの、それはやめてもらってもよろしいですか?」
「ふふっ」「ふっ」
「「あははは」」
ーーー 二人はしばし語り合う ーーー
そうして昔の話に花が咲いた頃、朱錐は肩口から見える傷跡に目が留まる。
「躰は………その なんでもありません」
「ん あぁ これね」
朱錐の視線の先に気付いた部屋の主は、立ち上がると近くに飾ってあった剣を手にした。
「よくはなったかな。ほら、こうやって剣も持てる」
そうして右手で剣を持つと勇ましくに宙に掲げる。
「でも さッ ッ!」 カンッカㇻン カㇻン
振り下ろそうとした途端に手から滑り落ちた剣。
「………やっぱり 握っていられない、か」
瞬間、視線を落として落胆の表情を見せるも、前をみるように言葉を綴る。
「これでもよくなったほうだ。以前は腕をあげることすらできなかったから………」
朱錐はなにも語らずに「………。どうぞ」と床に転がる剣を拾うと渡した。
「ありがとう……… 。わたしには 剣しかなかったのに……… 」
それは不意のことだったのだろう。
内に秘めていた言葉を吐き出すように、部屋の主である摎は想いを口にした。
「王騎様はそんなわたしでも妻にしてくれた。けど、 あと一つだったんだ。あと一つ 。ちゃんと約束を果たして、胸を張ってなりたかった」
歪む表情に、一粒の涙が落ちる。
朱錐はそれを見なかったようにゆっくりと背を向けた。
かつて六大将軍の一人であった摎。
中華全土にその名を轟かせた秦国大将軍であった摎は、あの日、死んだ。
死んだ摎はキョウとなり、王騎の妻となった。
キョウと摎は同性同名ではあるが、全くの別人として戸籍はつくられていた。
つまり、摎の出生記録は二つ用意してあったのだ。
一つは、召使の子である摎。
もう一つは、他国の商家の娘であり一つ年下であるキョウ。
それは、王騎の父が出生の秘密を知ったうえで、匿うことを承知したときから、万が一に備えて用意されていたものになる。
例えなにがあろうとも、別人としてでも生きられるように、と。
かすかに聞こえる嗚咽を背に、
朱錐は、言葉の先にある過去へと記憶を辿った。
第3話でした。
というわけで、摎は生存しております。
次話は過去編となる予定です。