彼の者の盾はどこへ向かうのか。   作:mukurobone

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第4話となります。
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第4話

 

朱錐が昌文君の私兵の一人として戦場に赴くようになってから数年が経った頃。

 

朱錐は、優れた膂力で敵を薙ぎ払い、昌文君隊の窮地には盾となり一番の働きをする鬼面の戦士として、その名を覚えられ始めていた。

 

時を同じくして、一つの噂を耳にするようになる。

 

王騎将軍の側近の一人には、男顔負けの武人であるという女兵士摎の噂を。

 

そして、あるとき、とある戦場に向かう野営地で初めてその姿を見ることになった。

 

野営地に着いた昌文君隊はさっそく野営の準備をする。そうしているうちに、遠くに砂塵がみえはじめて、徐々に大きくなる軍馬の音は一軍の到着を報せた。朱錐もまた軍旗をみて、昌文君に声を掛けた。

 

「あれは…昌文君」 

「ん? なんだ朱錐」

「王騎軍です」

 

王騎軍は、王騎を先頭にして颯爽と野営地に降り立つ。

 

先頭の王騎を筆頭に一癖も二癖もありそうな様相をした者たち群れには威圧感すらあり、その威容に友軍であるにもかかわらず気を飲まれる兵士たちの姿があった。

 

また、その威容は、異様からもきており、無骨な昌文君にして「派手好きで目立ちたがり屋のあほ共だ」と評するほどであった。が、今回に限っては一際目を惹く存在に、その意識をとられるかたちになる。

 

それが、まだ幼さの残る女兵士の姿であった。

 

「女?女がいるぞ しかもまだ子供のッ」「たしか摎とか………。あれでも、男顔負けの武人であるとか」

 

「どんなごつい女かと……可憐ではないか」 「王騎の側近の一人と聞いたぞ」

 

「王騎の屋敷の召使いの子だとも」 「あんな可愛い娘が本当に武の達人なのか?」

 

 

兵士たちが口々に語る噂を前にして、昌文君は「達人かなにかは知らんが、女兵士いかなるものぞ」と不機嫌をあらわにする。

 

「ですが昌文君。あの王騎将軍のことですし………」

 

「ふん 下らん。朱錐よ。戦場は遊び場でないぞッ それにあのバカの考えることはわからん」

 

摎の存在に否定的な昌文君を尻目に、多くの兵士たちが女兵士摎の可憐さの中にある美しさに、目を奪われることになった。

 

そんな、噂話に目を眩ませていた兵士たちは、女兵士摎の異常とも呼べる活躍によって、すぐに目を覚ますことになる。

 

それは戦が始まってしばらくしてのこと。摎は二つの首をもって帰還してきたのだ。

 

「王騎様に、これを」

 

出迎えるために現れた王騎に対して、摎が手にしていたものを掲げると、軍中に衝撃が走ることになった。

 

「っッ!?その首はッ 趙来と黒要のッ!?」 「つまりは敵の総大将と副将の首ィ!!」

 

敵総大将と副将の首がある。それはつまり、戦の終わり告げていた。それに気づき一斉に咆哮が挙がる。

 

 

「………勝った。我々が勝ったぞぉぉお」 

 

「ウオオオオオオオツーーーーーオ」

 

 

勝利を祝い騒がしい周囲とは対照的に、王騎はこの戦に終止符をうった立役者に「よくやりましたね 摎。」と静かに労いの言葉を発していた。

 

そんな中、摎の戦働きのすごさで驚きのあまり言葉少なになった二つの人影があった。

 

「………昌文君」

 

「言うな。儂も驚いている」

 

 

 

それからも何度か王騎軍と戦場をともにするたびに、昌文君隊は女兵士摎の異常なほどの戦強者っぷりを知ることになった。

 

そうした王騎軍との共闘は、隊を預かる身である摎とじィ(昌文君)を親しくさせ、また、その盾である朱錐に興味を持たせることとなる。

 

 

あるとき、昌文君に付き従い訪れた野営地の一角で「朱錐はここで待て。儂は摎に話がある」と天幕に入っていく。

 

朱錐は命令に従うように余人が勝手に入り込まないようにと、天幕の入り口前に立って門番のように立つ。

 

そうしてしばらくしてから「朱錐よ。中に入れ」と昌文君から声が掛かったので、朱錐は天幕に踏み入れることになった。

 

天幕に入った朱錐がまず名乗ると、机を介して椅子に腰かけていた昌文君が「うむ」と頷き、同じく摎も「わたしは摎という。よろしく頼む」と名乗った。

 

その席で摎より「昌文君の盾」と呼ばれている理由を聞かれたことで、そのいきさつを話すことになった。

 

 

それは、戦場へ向かう道中であり、両軍が相まみえるまでに起こった。

 

襲撃は、大戦の前に先んじて敵の将を刈り取るという奇襲だった。

 

実際、そのとき右翼を指揮していた将軍は、その凶刃によって倒される結果となる。また、その混乱に乗じて他にも多くの将が犠牲になっていたことがのちに判明した。

 

そして、襲われたのは昌文君も同じであり、その襲撃を受けた際に、昌文君を身を挺して庇い重傷をおった朱錐が、翻って一撃を敵に与えたのだ。

 

そのとき「僕の一刀を受けて生きているばかりか、よもや反撃されるとはね。そこの立派な盾に面じて今日は引くことにするよ」という言を残したことが呼ばれる所以であったことを語った。

 

余談だが、朱錐はそのあと退いていく敵を見据えたまま意識を失い、死の淵を歩くことになる。

 

そうして、死の淵からの生還を果たした朱錐は、昌文君から「お主の忠義に心より感謝する」という言を頂くことになり、一層の信頼を置かれる立場となった。

 

「あのときは、無我夢中でしたので……… 昌文君が無事でよかったです」

 

最後に朱錐がそう付け加えて、話を終えた。

 

 

何かを思考するように腕を組んで目を閉じていた摎は、椅子から立ち上がると朱錐の前に立った。

 

「朱錐殿。わたしも昌文君には世話になっている。だから、これからもうっかりじィが死なないようにしっかり守ってやってくれ」

 

あまりに堂の入った立ち振る舞いみせる摎に「ハッ!」と思わず応答してしまった朱錐は、徐に昌文君に視線をむけた。

 

そこには、腕を組みながらワナワナと震えている姿が………。

 

「だれがじいじゃっ うっかりもなにも儂は守られるほど軟弱ではないわッ!!」

 

と怒鳴った昌文君の怒りは絶賛沸騰中である。

 

そのため、なぜか朱錐も巻き込まれる形となって、摎と一緒にウダウダと説教をされる羽目になったわけだが、隙を見て舌をみせた摎に、「これは懲りてないな」と心の中でごちる朱錐であった。

 

さきに天幕での一件もあり、戦場でも「じィの面倒は頼むっ」や「じィを無事に連れ帰ってくれ」など主にじい(昌文君)に関する発言をしてこられるようになった朱錐であったが、頼まれたので「諾ッ」と了承を示すことで「………朱錐よ、あとで話がある」と昌文君からのちに詰められている朱錐の姿があったりなかったりしたとか。

 

こうして、朱錐は昌文君の盾という立場もあったためか、摎に声を掛けられるようになっていく。

 

 

 

そして時は流れて、秦に多大な犠牲をもたらした対趙戦となる南安の戦いが勃発する。

 

秦国が長年に渡って欲しては攻め、その度に敗れていたこの地を巡る戦いは、多数の将軍が戦死するほどに苛烈な戦場であった。

 

秦国の総大将であった紀陸将軍が討たれても、なおとどまり続けて激しく争ったこの戦いは、最終的に総大将となった王騎将軍の采配により、この地で勝利を収めるに至った。

 

昌文君隊もまた獅子奮迅の働きをみせ、大いに勝利に貢献したものの副官を失う結果となった。

 

辛勝であろうとも勝利は勝利である。

それも不落の地であった南安を手にしたのだ。

 

秦国中央の喜びようは、前線への戦神昭王の到来に現れていた。

 

「大王様がお越しになるぞッ」 「急ぎ全兵を整列させよっ」

 

蜂の巣をつついたように、慌ただしくなる南安の地。

 

 




何話か過去編は続きそうです。(未定)
キングダム二次小説の沼にもっと気軽に入ってもいいと思うんです。(力説)
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