本文中で昌文君様としていたのですが、コメント欄にて昌文君の『君』は称号というか尊称にあたるので『様』はいらないんじゃないかなとご指摘を頂きましたので変更しておきます。恥ずかしながら名前だとずっと思ってました……。感想欄にて返信が叶いませんでしたんでかわりに表記しておきます。
戦神昭王の登場により沸き立った南安の地は、静謐に包まれていた。
「さすがは王騎。我が宝刀よ。此度の戦働き、真によくやったぞ」
「身に余るお言葉。ありがたく頂きます。」
労いの言葉を掛けた昭王は、王騎とそのあとも和やかに会話を続ける。
「長らく求め続けたこの地での戦いは、多くを失わせもしたが、新しい芽吹きもあるときく」
「芽吹き ですか。」
「うむ。お前の側近だと聞いたぞ。女兵士で名は確か………」
「摎。」
「そうじゃそうじゃ 摎であったな。最近よくその名を耳にきくぞ。どこじゃ」
その言葉に数瞬の葛藤が過るものの王騎は答えた。
「摎。前へきなさい。」 「ハイッ」
昭王と摎が対面した直後に、昭王が携えていた剣を落とすという事態はあったものの
「お前は儂の宝だ。 もちろんここにいるうぬら全員もだ。帰ったら褒美をとらすぞ!」
との昭王の言葉に沸き立ち、二人の対面は終わった。
昭王は背を向けて歩き出し、摎はその場で涙を流し立ち尽くしていた。
「大王様ーッ」「大王様 万歳ッ」
昭王の姿が遠ざかろうとも兵たちの冷めやらぬ熱気は声となって顕在し続けていた。
そんな喧騒のなか、朱錐は二人の様子に妙ななにかを覚えていた。
それは、摎という人間をわずかながらにでも知っているがゆえに感じたものだろう。また、傍で複雑そうな表情をして、摎を見守る昌文君の姿にも違和感を感じ取っていた。
「昌文君。なにかあるのですか」
「………」
昌文君は涙を隠すように顔を両手で覆って、立ち尽くしている摎を見つめたままだ。
「………昌文君?」
「朱錐。いまは黙っておれ」
昌文君は朱錐の言葉を封じると立ち尽くす摎に背を向けて歩き出した。
それから数刻。
南安の地は、昭王が王都に向けて出発したことで、落ち着きを取り戻し始めた。
普段の姿を取り戻した南安の地。
天幕から姿を現した昌文君は「少し出てくる」と外で待機していた朱錐に視線を向けた。
「お供は必要ですか」との朱錐の声に、少し迷う素振りをみせたあと、朱錐はついていくことになった。
向かった先は、摎の滞在する天幕になる。
天幕に着いた昌文君は「朱錐はここで待て。決して誰も通すでないぞ」と厳命し中へと入っていった。
すると「ドゴンツ」となにか固い音と「グツ」という昌文君らしき声が聴こえたために、朱錐は中へと声をかけた。
「昌文君。物凄い音がしましたが………」
「ぬぅぅ……… すまん。 うむ。何でもない、何でもないぞ」
と、どこかくぐもった声が返ってきたものの、その言葉に従い朱錐は任務に戻った。
それから中で何が話されたのかを朱錐は知るすべもないが、今日感じた違和感となにか関係があるのだろうかと思案していた。
そうして一刻ほどしてからだろうか「朱錐よ。中に入れ」と声が掛かる。
中には、椅子に腰かけている昌文君と寝台から起き上がったように座っている摎の姿があった。
「朱錐。摎がお主に聞きたいことがあるそうじゃ」
「私にですか?」
朱錐の疑問に答えるように、摎が言葉をつづけた。
「じィと話していて、朱錐の仮面のことを思い出したんだ」
「じい………」と昌文君はいらっとしたのか小声でつぶやいたが、話の腰をおるのもはばかられたため我慢した。その様子を朱錐も把握していたが、巻き込まれたくないので、気づかないふりをして話をつづけた。
「仮面……… この鬼の面のことですか」
「そう それ。ちょっと事情があって興味がでた」
朱錐は話の先がわからずに、促すように尋ねた。
「事情………ですか。それでなにをお聞きに?」
「その仮面なんだが………」
そう言葉を続けようとして何かに気付いたのか、声が止まった摎に、昌文君が「どうした。摎よ」と声を掛けると
「朱錐の素顔をみたことがない!?」と続けた。
昌文君は、そういえばそうか。と視線を朱錐に向けると、話すように、と頷いてみせる。それを見た朱錐は話し始めた。
「それは、そうでしょうね。ほぼ被っていますから。むしろ私の素顔を知っているものは、少ないかと………」
朱錐が、外しましょうか?と尋ねると「見たいっ!」と返ってきたので、徐に仮面に手を掛けて外した。
しばらくまじまじと朱錐の素顔を眺めた摎は、呟くように言葉を口にした。
「………なんか、すごいやさしそうでなごむ」
朱錐の「やっぱりか」とどこかあきらめ気味な表情にも、穏やかさがあふれていた。
「ええ。よく言われました。ほかにも迫力がないとか軍に向いてない顔、なんていわれましたね」
「それで、仮面を?」
「そうなります。顔も守れますし、敵にはこの鬼の形相を覚えられて恐れられますから、よかったと考えています」
仮面を手に「もう付けても?」とジャスチャーをすると頷く形で摎から肯定があったので、再び顔を隠した朱錐。
「そうか………。うん たしかに、そうだな」
何かに納得したのか表情が明るくなった摎は、一つの決断を宣言した。
「私も仮面をかぶることにする」
その発言には、なぜ?と驚く朱錐とは対照的に、「ふむ」とどこか納得を示している昌文君の図ができあがっていた。
「ありがとう 朱錐」
「は、はぁ」と経緯を知らない朱錐からするとなぜそうなったのかよくわからないが、本人がそう決めたのだからと生返事を返して、理由はきかなった。
そうしてしばらく三人で会話したあと、昌文君と朱錐は天幕を出て帰路についた。
その道すがら。
朱錐を呼び止めた昌文君は言う。
「疑問はあるだろうが、今日のことは他言無用としろ。いつかはわからぬが、お主には話す」
そのあとすぐに、摎は仮面をがぶるようになる。表向きの理由は諸外国に名が通る前に、その素性、女であることを隠すためだという。また、時を同じくするように、摎に関して素性などを詮索することを固く禁じるとされた。
そうしてからの摎は、さらに戦果を挙げ続けることで、早々と将軍となった。
大軍を率いるようになった摎は、その才能をさらに発揮してく。
一度火ぶたが切って落とされれば、敵を殲滅するまで緩めることなく苛烈に戦う姿に、列国中を恐れさせ、勝利を積み重ねていった。
将軍になってわずか数年で、五人いる大将軍に匹敵するとまで言わるようになった。
そして今も、摎将軍が率いる秦国軍が城を落とすべく攻撃をしている。
その様子を遠くから見渡せる丘の上には、馬上で語る王騎と昌文君の姿があった。
「………また摎が城をとるぞ」
「ええ。我らが王に子は多いですが………もっとも戦神の血を色濃く受け継いでいるようです。」
「そのことなんだが………話しておきたいやつがおる」
「あなたの副官 朱錐さんですね。」
「ッ! なぜ!?」
「ンフフ 摎から何度もその名を聞けばおのずとわかるというものです。」
「んん。そうか。それでどうだ」
「あなたに任せます。摎も気を置いているようですし わたしから言うことはなにもありません。それに………」
王騎は言葉を途中で留めると昌文君を見据えた。
訝し気に「なんじゃ?」と昌文君。
「願わくば、わたしとあなたのような関係になれれば安心できます」と王騎が口にすることはなかった。
「ンフフフ、なんでもありません。」
王騎はそれだけを言うと馬の進路を変えてゆっくりと駆けていく。
「?。まあいい。ああ、そうだ。王騎っ 摎は幸せだと思うか」
昌文君の声に少し反応を示した王騎だったが、そのまま駆けていった。
月日は流れ。
摎は、ついに六人目の大将軍となる。
六大将軍となった摎はさらなる猛威を列国に振るった。
そして、あの日を迎えた………。
次話で過去編を終えられる予定。(未定)
原作開始が遠いなぁ………。
だいたいの年表。
原作開始時期。紀元前245年頃。
この小説開始時期。紀元前251年頃としています。
過去編。紀元前260年頃から253年頃。
辻褄を合せるために、変わるかも?