彼の者の盾はどこへ向かうのか。   作:mukurobone

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第6話となります。
お休みっていいですね。
第5話投稿後、そのまま書き続けて第6話の投稿となります。
感想ありがとうございます。


第6話

六大将軍となった摎は、さらなる猛威となり、列国を振るいあがらせた。

 

そして紀元前253年。

更なる飛躍をむかえる年となるはずだった。

 

その年、秦は六大将軍摎を総大将に、さらに同じく六大将軍である王騎を副将に任命して、趙の支配する馬陽を攻略すべく十万を超える兵を派遣した。

 

馬陽は、秦から見て北東にあり、秦が大陸を目指すのならば、抑えなくてはならない重要拠点となる地である。それを抑えるべく、出陣した二人の六大将軍の勢い凄まじく、ついに秦国軍は馬陽を包囲するに至った。

 

その日、昌文君と副官である朱錐の二人は、馬陽攻略を控えた最後の軍議に参加すべく、総大将である摎が宿営を張る本陣へと向かっていた。

 

本陣は、将軍が率いる精鋭二千が警備を務めており、それらが円形に陣を張り巡らさせ、四方八方に監視の網を張っていた。そして一度、異常があれば即座に軍として反応、対応できるという一部の隙もない陣容となっていた。

 

「朱錐よ。おそらく、明日がこの戦の大一番となると心得よ。儂は先に本営に向かう。馬を頼む」

 

朱錐が「ハッ!」と承諾すると昌文君は馬を降りて、円の中央へと歩き出した。朱錐もまた馬を預けようと降りた馬とともに警備の兵に「馬をよろ……… ツ!?」と声を掛けようとして悪寒に襲われて言葉をとめた。

 

そのとき朱錐は、今いる円の対外側から流れる禍々しいなにかを感じ取った。

 

突然、言葉をとめた朱錐を訝し気にみる兵の「あの」とという言葉を気にも留めずに、再び馬に跨った朱錐は言葉を失った。

 

それと同時に、けたたましい 「ガンガンツ ガンガンツ」 銅鑼の音と「敵襲ぅー!!」「敵襲だぁあ!!」の声がこの地に響き渡る。

 

 

「………なん、だ あ、れ、は………」

 

 

一足早くそれを目の当たりにした朱錐が絞り出した声の先には、摎将軍を護る精鋭達が、雑草を刈り取るがごとく易々と切り飛ばされている光景だった。

 

当然、精鋭達は黙ってやられているわけはない。

 

すぐに陣形を整えると侵入者を阻む防御陣形を組み、さらには仕留めるための槍陣をも組み敷いた。

 

「投ッ!!」

精兵が円陣を組んで投げる手槍は、数十にもおよぶ。並みの者ならすぐに串刺しとなって倒れていただろう。

 

しかし、侵入者はそのすべてを叩き落とし、或いは打ち返した。周囲に撃ち落された手槍の数々は無駄だったかのように見えたのは束の間のこと。

 

 

槍陣で足の止まった侵入者に対して

「射ッ!!」

号令とともに弩隊が矢を打ち出ちだ………す前に両断された。

 

そう、足は止まってすらいなかった。

立ち止まることなく投擲された槍を叩き落とし、仕留めるために距離を詰めた弩隊の距離は侵入者の間合いの中だ。

 

そうして、野を往くように再び動き出すと立ちふさがったあらゆるものを切り落としていった。侵入から円の半ばに達しようした頃には誰もが一刀を恐れて迂闊には、とびかかれなくなっていた。

 

円の中央、つまりは本営付近で徐に足を止めた侵入者は、宣言した。

 

 

「我武神龐煖也」と。

 

続けられた言葉には、「すべてのことは小事であり、天地を脅かすものは一人でよい。よってそうなり得る者を切る。」とどこまでも独尊であり、とても正気とは思えない内容であった。が、同時に、それがこの常軌を逸した強さを持つ龐煖という名の漢のすべてであると、不思議と理解もできた。

 

それと同時に姿を現した総大将である六大将軍摎は愛馬炎に跨り一騎打ちをするかのように龐煖に向けて駆けだした。

 

 

 

龐煖という常軌を逸した強さを前に、事態を飲み込めずに呆然としていた朱錐であったが、総大将である摎が飛び出したことで、己のすべきことが脳裏に去来した。

 

それと同時に馬の腹を叩き喝を入れると馬は勢いよく駆け出す。

 

「昌文君ッ!」

 

後ろから聞こえた朱錐の呼びかけに我に返った昌文君は、そのまま駆け抜けていく朱錐に指示を飛ばす。

「…ッ!? 朱錐っ 摎を、摎をなんとしてでも護りきれッ」

 

遠ざかる背から「諾ッ!!」と声が響く。

 

 

「何をしている。お前たちも将軍を護らんかっ!!」

昌文君の大喝が響いた。

 

 

 

朱錐の悪い予感は過去に類をみないほどに警鐘を鳴らしていた。

 

「クッ 間に合うかっ」

摎将軍と龐煖の激突はすでに一刀を避けるために馬から滑る落ちるように躱した摎が龐煖の右肩辺りを突き刺していた。

 

朱錐は円半ばに達しようとしたその時、直感が告げるがままに愛用の棍棒を構えて二人に目掛けて投擲した。

 

 

 

「はアッ」声ととに裂帛の気合を入れて連撃を放つ摎。

 

「ぬぅッ」己に迫るであろう武人の剣戟を防ぎ反撃の瞬間を見極める龐煖。

 

続くかと思われた剣戟。

勝負の分かれ目は、すぐに訪れた。

 

連撃の一瞬の隙間を縫って振りぬいた龐煖の一刀は摎の誘いであり、すり抜けるように躱した摎はそのまま懐に入ると、胸の中心に目掛けて剣を突き出す。

 

対して、龐煖は一刀を躱される一瞬の間に、一刀が誘われたことに気付き、左腕を割り込ませる………。

 

勝負を決めたはずの一突きは龐煖の左腕に突き刺さる。

 

摎は勢いをそのままに腕ごと体を貫こうとさらにもう一歩前に踏み込む。

 

察した龐煖は刺されて押し込まれていた左腕を、あえて自ら深く突き差しにいくことで、剣の軌道を躰の左側にずらすことに成功。そのまま体躯を活かすように摎へと体当たりをした。

 

「ぐぅッ 」

たたらを踏むように後退を余儀なくされた摎が視線をむけると

 

「終わりだ」 と龐煖は右手で掲げた矛を振り下ろした。

 

 

瞬間のこと。

 

 

肩から入った切り口は周囲に鮮血の飛び散ちらせ、その場に摎は倒れた。

 

「摎オオオオーーー」

絶望に叫ぶ昌文君と事態を飲み込んだ兵士たちの悲痛が木霊した。

 

 「摎様アーツ」 「摎将軍ツ」「きょうさまぁアアア」

 

倒れた摎。

 

横には並ぶように倒れている棍棒が一つ。

 

 

 

「うオおおおおおおおおおおツ」

そんな中、雄たけびとともに突貫する朱錐の姿があった。朱錐は直感のままに棍棒を投擲したあと、馬速を緩めることなく摎のもとに駆けていた。

 

対して、

 

龐煖は、天地を、己を脅かす敵を切り落とした安堵に一瞬の気のゆるみが生まれていた。

 

直前に割り込むように投擲された棍棒に勢いは削がれたとはいえ、致命傷であると判断したからだ。

 

されど、ゆるみは一瞬。敵を感じ取ると、気配を容赦なく両断した。

 

遅れて視線を這わすと倒れ込む馬のみ。

「? ツ!!」瞬時に状況を把握した龐煖は、全身をばねにするように回転して槍で薙ぎ払おうしている朱錐の姿に気付いた。

 

「ふんツ!!」

朱錐の回転しながらの横凪一閃。

 

龐煖は、咄嗟に躱せぬと判断して受け止めた。が、躰がわずかに浮き上がるほどの衝撃に驚く。しかし、木製の槍が持たずに粉砕したことで、着地。取って返すように態勢の崩れている朱錐を切りつけた。

 

回転の勢いまま向けてしまった背中を深々と切られた朱錐だが、なおも立ち上がって佩いた剣を抜き放ち闘志をみせる。

 

龐煖は、その姿にほんのわずかに驚嘆するものの、すぐに意識を変えて再び構えた。

 

「次はない」

 

その言葉通り、朱錐が立ち上がれたのは人より頑丈であったわけではない。本来なら致命傷となったはずの一刀には、摎に刺された肩口と腕、されには先ほどの一撃によって痺れていた腕に力が乗らなかったゆえに、生き残ったにすぎなかった。

 

が、龐煖はその一刀を放てなかった。

 

「今じゃッ!!!」

 

朱錐に気を取られていた龐煖は、降りそそぐ矢の雨に一寸遅れて気づき、一時的に防戦一方となった。

 

「摎を助けよッ なんとしてでも助け出すのじゃッ!!」

 

その声に呼応して、すぐさま摎のもとに軍医が詰め寄り、その場で治療が開始させれようとしていた。

 

昌文君は、摎が切られたことでひざをつきそうになったものの、すぐに、声を張り上げて突撃する朱錐の姿に奮い立たされて踏ん張り、わずかな望みに懸けて近場にいた兵とともに機会をうかがっていたのだ。

 

「主を護れッ 摎に近づけさせるでないぞ!!」

 

昌文君の声に我に返った精兵たちは、己の命を惜しまず龐煖に突撃していく。

 

「摎様をお守りしろッ」 「死力を、死力を尽くせぇええ」 「うオおおおおおおおお」

 

一丸となった精兵たちよる波のような突撃は、さきほどとは違い龐煖の歩みを確実に押し留めていた。

 

気力のみで立ち上がり闘志を見せていた朱錐は、その様を見届けると力尽きたようにその場に倒れた。

 

以て切り捨てられる数の分だけ時間を稼ぎ、龐煖から摎を引き離していく。

 

だが、必死の突貫を繰り返す兵の数にも限界がある。護るために飛び出していく兵が途切れ始めた頃、龐煖は、敵の狙いを確実に砕くべく、首を撥ねに摎の元へと再び歩みを進めようとした。

 

その時。

 

龐煖は、新手の気配に気づいて、歩みを止めた。

 

龐煖の視線の先には、騎馬に跨る何者かが現れていた。

 

 

 

敵襲の報を受けて急ぎ駆けつけた王騎は瞬時に状況を理解すると、己に渦巻く激情のままに龐煖に襲い掛かった。

 

数十合の打ち合いの末に、王騎の矛がついに龐煖を捉えて切り裂く。

 

倒れ伏す龐煖に、さらに無数の矢が降り注ぎ、龐煖は完全に沈黙することとなった。

 

 

 

 

王騎は摎に駆け寄るとその容体に顔を歪めた。その横では昌文君が「どうなのだっ 摎は、摎は助かるのかっ」と軍医に誰何している。

 

軍医からは、ただ「生きているのが不思議なほどです」とだけ。

 

その返答を聞いた王騎は、直ちに思考を切り替えると、事態の収拾を図り始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第6話過去編はほぼ終わりです。
龐煖さん登場しました。
戦闘シーンはとりわけ、どう表現したらいいのかわからなくなりますね。
さぁ、あなたも二次キングダムの世界へゴー。
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