あとがきに、感想より頂いていたギャカの公式ガイドブック的なスコアを掲載しています。
追記
あとがきのギャカのエピソードに若干の変更を加えました。拳で殴り合うから機動力を活かした一撃という形に変更しています。
魏の都大梁。廉頗追放の前日。
かつて魏火龍七師のひとりとして名を馳せた大軍師霊凰は、自室の入り口付近で拱手をする人影に向けて声を掛けた。
「ん、戻ったか鳳明。どうであった」
「ハッ。 申し訳ありません。師匠(センセイ)。王の裁可を覆すことは叶いませんでした」
そう謝罪の言葉を口にしたあと入室したのは、その一番弟子である呉鳳明であった。それに対して、霊凰は特に気に掛ける素振りなく返した。
「そうか。王がご決断なされたのなら、仕方ない」
「王は今しばらくの逗留を許そうとされていたのですが……。私に、もうすこし発言力があればと悔やまれます」
霊凰と呉鳳明はともに元趙三大天廉頗を魏の駒として、これからも有用に扱うようにと王に進言していた。
「フッ それは敗れたわたしへの当てつけか」
しかし、廉頗が魏王の庇護のもと三年に渡り軍を率いようとはしなかったことと此度の敗戦によって、魏の重臣たちの間に溜まっていた憤懣の矛先がむいたことで、二人の意見が取り入れられる隙間はなくなっていた。それを霊凰は揶揄したのだ。
「そのような意図はありません」
「フフ、ただの戯言だ。敗れた私の言が取り入れられないことはわかっていた。それに私には、投獄されていた過去もある。やはり戦に出たことない宮廷の文官どもに、廉頗の価値を推し量れようはずもない、か」
霊凰がそうであったように呉鳳明もまた、山陽戦以前の敗走による発言力の低下を回復しきれていなかったのもその要因の一つあった。
「……師匠」
「気にするな、鳳明。魏にはまだ眠ったままの火龍がいる。お前は引き続き王を説得するといい」
呉鳳明は「ハッ」と拱手をみせ承諾の意を示すと気に掛かっていたことを言葉にした。
「……師匠。先の大戦に王騎が出陣していたというのは本当ですか」
「ああ。本当だ。どういうつもりかまで知る術はないがな」
「それは王騎が前線を退いてはいなかったということですか」
「フム。それは少し違うと私はみる。奴は素性を明かしておらず、秦の連中もその事実をほとんどの者が知っている様子はなかった」
呉鳳明は顎に手を添えて思案する。
「……そうなると、気に掛かります」
「そうだな。お前はどうみる、鳳明」
霊凰は弟子を試すように視線を向ける。
「王騎は、李牧に敗れたことで武名をおおきく堕としました。ですが、だからと言ってまったく無くなったわけではありません。ですので、どのような場面であろうと王騎が大将軍として立てば高い士気は得られるはずです。そうしなかったのですから、目的はこの戦いそのものではない。と考えます」
霊凰は「悪くない」と口すると弟子に向けていた視線をはずして、魏の周辺を模した戦略盤に目をやった。
「それで師匠はどのようにお考えですか」
「端的に、王騎がその素性を隠して戦場に現れたこと、それ自体が問題なのだ」
即座に呉鳳明は戦略盤に向けられた視線の意味を理解して応える。
「……確かに。王騎程の大物が将軍という地位を捨てて、どこからともなく秦の戦に介入してくるとなれば、厄介なことになります」
霊凰は静かに頷く。
「では訊くとしよう。お前ならこの大駒をどう扱う」
「はい。私ならーーー」
霊凰はしばし弟子の見解に耳を傾けると纏めるように言った。
「……秦の怪鳥か。王騎の戦略的価値は膨大だ。奴自身の武勇も然ることながら、いかなる戦場においても戦果を挙げ続けた経験値は、戦いの急所を的確に衝くであろうな」
呉鳳明は言葉の意味することを察した。
「……すぐにでも対秦国の戦線を大きく見直すよう王に進言します」
「鳳明。やはりお前は私の一番の弟子に相応しい。お前はそのまま献策をもってして王を支え、第一の臣になれ。そうでなければ、いかなる策謀を巡らせようと意味を為さんぞ」
「理解っています」
と語気を強めて決意を示した才覚豊かな若き弟子の姿に霊凰はふと浮かんだことを口する。
「天下の、大将軍になる、か」
ふと霊凰は思い耽る。
そう叫んでいたのは血気が盛んそうな敵の少年。名をなんと言ったか。
「信ッ。飛信隊千人将の信」
信は後方からの声に気付くと歩みを止めて顔を向けた。
舞台は変わり秦の都咸陽。刻は論功行賞のあと。
「ん。ああ、蒙恬か」
蒙恬は返事をした信の声にどことなく張りがないように察して訊いた。
「あれ、どうしたの信。せっかく論功行賞で正式な千人将になれたのに浮かないを顔して」
蒙恬の言葉が示すように信は、山陽一帯攻略の功績によって臨時千人将から正式な千人将へと昇格を果たしていた。もちろんそれは信だけでなく玉鳳隊王賁も同様であった。
ちなみにだが、楽華隊蒙恬はもとより千人将であったために別の褒賞を授与されていた。
「……狙うは大将軍廉頗の首だって勢い勇んで、その下の四天王に将軍首の一つ獲れずに終わって昇格だっつってもよ。素直に喜べねえって話だ」
それに蒙恬は「いやいや」と声を出すと、お前は何を言っているんだとばかりに言葉を返した。
「信。将軍の首なんてそうそう獲れるわけないだろう。確かに、この前みたいな大戦になれば両軍が入り乱れて運よく遭遇できたりもするだろうけど、普通は俺たち程度がその瞬間にありつけることなんて稀なんだぞ」
「それは……その通りなんだろうけどよ」
信の目標は天下の大将軍である。それを前にすれば、此度の戦は昇格こそ認められたものの、どことなく物足りなく足踏みをした心持ちになっていた。
「ふぅん、なるほどね。信、あえて言っておくけど敵将の首を挙げるだけが戦じゃないぞ。そこに至るまでに、他の皆が血を流している。あの四日目の攻防だってそうさ。俺たちが先駆けなったことで空いた穴がある。それを埋めるために尽力した人間、部隊がたしかにいるんだ。そして、そういった影ながらの功績は、陽の目を見ることは圧倒的に少ない。信。お前は誰もが認める天下の大将軍を目指しているんだ、わかるよな」
「あ、ああ」
「だから結果はどうであれ、今回千人将になった俺たちは、そんな彼らの働きの分までより一層に前線で戦う姿勢をみせていかなくてはならない。なぜなら、それが彼らの戦いに報いることになるからだ。成ったからには示してみせろ」
「……そうか、そうだよな。千人将はもう俺たちだけの戦いじゃなくなっちまうんだよな」
「うん。千人は戦全体に影響を与える力がある部隊数だ。それと、いままで言わなかったけど、お前のところは実際。降格、解散の危機の方が現実問題だったことを忘れるなよ。敵中央軍を大きく後退させた功はあれど、三日目にお前の所の副長が無茶して敵の千人将の一人を獲っていなかったら、最悪解散だったかもしれないんだぞ」
「ウグッ……羌瘣おかげか」
「そういえば、その副長を今日はまだ見てないけどどうかしたのか」
「羌瘣なら飛信隊をいま離れてるよ」
「えっ、飛信隊を辞めたのか」
「ちげえよ。あいつは目的があってうちにいたんだ。そんで、その目的のために離れただけだ。全部が終わったら必ず帰ってくるさ」
「……そっか。戦術が分かるって話だったから少し話してみたかったんだけど、いないならしょうがない」
「ん、あっ。そうだ。すまねえ蒙恬。ちょっと用を思い出したから俺は先に行くぜ」
そうして「じゃあな」と背中を見せて颯爽と駆けて行く信に、蒙恬は「落ち込んでるのかと思ったら、もう切りかえたのか。いそがしいやつ……」と見送った。
さらに場面は変わり、豪奢な屋敷の一室に朱錐はいた。
「ようこそおいで下さいました。敵から鬼面と渾名される朱錐殿」
「……商人より内々にとの仰せでしたので此度は従いましたが、なぜ私に声をお掛けになったのですかな」
「それは、わたくしの口から申さなくてもお判りになっているのではありませんか」
「……」
探るような視線を向けた朱錐に対する者は、真摯な願いを告げた。
「私にお力をお貸しください」と。そうして言葉を続ける。
「あなた様ならどの陣営からの介入も心配する必要がありませんので適任だと判断致しました」
朱錐は「ふむ」と一応の納得を示して、つぎに試すような言葉を返した。
「私の所属からすれば確かにそうなりますが、来歴はご存じか」
暗に示された言葉の意味に、対する者は、そんなことは愚にもつかないほどに承知の上であると微笑みをまじえて返した。
「ふふ、これはお戯れを。あなた様をお招きした手段からして、すでに察しはついていますでしょう」
こうして始まった会談により一つの取り纏めが行われることになった。
第80話でした。
以下ギャカの公式ガイドブック的なスコアになります。
名 ギャカ
武力94
指揮力65
知力78
経験値 B
備考 最重要度 100オギコ。
首狩り魔。
オギコの側近で片言。顔に大きな青アザがある。全オギコ主義。オギコに関して融通はない。そのため以前、雷土の手下がオギコを馬鹿にした際に、その手下数十名の躰から頭が転げ落ちる事態となった。当然怒りに震えた雷土がオギコ一家に乗り込み争いになったが、オギコが「雷土さんは大事な仲間だからダメ」と声を掛けたことで剣を使わない形での勝負になった。結局、機動力を活かしたギャカの一撃が雷土を捉えて片膝をつかせたところでお頭が介入。勝負はうやむやになった。余談になるが、ギャカが主に首を刈る理由は思想的なものでない。ただ純粋に生き物は頭を落とせば絶対に動かなくなるという至極真っ当(?)な経験からである。