思いがけず、時間が取れそうなため、次話も早いうちにいけるかも?
案内された一室で待つこと数刻。
使者とともに扉を開いて現れたのは白を基調とした着物をきて、凛とした美しさをもった女性であった。
「行方知れずの男から書状が来たときいて驚いた。 ん、朱錐は少し老けたな」
「これはこれは、お久しぶりでございます。キョウ様。キョウ様はお変わりがないようでなによりでございます」
と深くお辞儀をする様は、恰好からも正しく文官のそれを思わせた。
「なんか文官みたい」
と正直な感想を述べるキョウ。
「ええ、と、まあ………、ほとんど文官みたいなことしてましたからね」
指摘を受けた朱錐から堅苦しさが抜けると、昔を思い出させる穏やかな空気が流れ始めた。
「どうしていた? あるときから音沙汰がなくなったから心配したぞ」
「それは申し訳ありません。少々事情がありまして ーーー 」
そうして、これまでのことを簡潔にまとめながら話をしていると、さらに一人の女性が現れて、そこに加わった。
「なんだ 生きてたのかい。私をほったらかして死んだのかと思って、勝手にやらせてもらってるよ」
薄桃色の着物を上品に着こなしている女性は、少し粗野な印象を与える言葉を発していても、気立ての良さを感じさせた。
ただ口ぶりは、いかにも朱錐は酷い男であるという節を感じさせたため、朱錐は反論するように言葉を発した。
「ほったらかすも何も、私は昌文君からあなたを預かっただけのこと。それにここでの生活のことはキョウ様にお任せしたので、不自由はなかったはず。そうですよね?」
確かめるように朱錐が視線を向けると、面白げにこちらの様子をみるキョウの姿があった。
「さぁてね。女を置いて消える男の言い分に説得力はないぞ 朱錐ィ」
どこか悪戯心が顔をだしたキョウの言葉に女性は追随した。
「そうさ。最低な男さね」
「ぐっ………」
確かに、預かってからすぐに昌文君からこちらに行くようにと送り出されて、着いてからも、己を見つめ直してこい。と追い出されるような形ですぐに旅をすることになった経緯もあって、まだ怪我人で満足に動くことのできなかった女性を連れて行くわけにもいかずに、置いて(預けて)旅にでたことは事実であった。
さらに追撃の言葉を発するかと思われた女性は、一転、朱錐の正面に立つと真剣な面持ちを見せた。
「それに………ちゃんとあのとき礼も言ってなかったからね。あんたのおかげで命拾いしたよ。ありがとう」
綺麗な礼をみせる女性の姿には気品すら感じられた。
だが、それもつかの間。
「っていうかお前さんそんな顔だったんだね。亜門、江彰と違って、聞いてた通りになんだかなごむね」
と茶化すような表情へと変わった。
「そうそう なんか和むでしょ。朱錐の顔」
とふたりして頷き合う姿はキョウと女性の良好な関係を感じさせた。しかし、このままでは、話が進みそうもないと察した朱錐は、用件を済ませることした。
「預けていたものをお返しいただいてもよろしいですか」
「ああ。持ってこさせるよ。入って」
キョウが入室の許可をだすと、部屋の外で待機していた者が、預けたものとともに入室して、それを朱錐に渡した。
「長らくお預かり頂き感謝します」
「………その鬼の面を見るに、やっぱりあんただったんだね」
ぽつりとつぶやいた女性にキョウは笑った。
「あはははッ 信じてなかったの」
「いやぁ、声はあの時の声だし間違っちゃいないとは思ったけどねぇ………」
「んふふふ」
女性視点でみると、苛烈な追っ手の攻撃で命の灯が消されそうになったとき、ただの一撃でそれらを粉砕した鬼面の戦士の勇ましい姿と今ここにいる穏やかさを体現するような男の姿が、どうにも一致していなかったのだ。
そのあと、朱錐の「城主との面会に備えて支度を整えたい」という申し出に了承をしめしたキョウは、お付きの者に案内をさせた。
しばらくして、支度を整えた朱錐が現れると、そこには甲冑を着込み、鬼の面で顔を覆い隠した戦士の姿があった。
「おお……ひさしぶりに朱錐だ」
それは、かつて昌文君の盾と呼ばれていたままの姿であった。
「ええ………言いたいことは理解していますが、さっきまでいたのも朱錐ですよ?」
どこか皮肉気に応じる朱錐。
「ふふっ たしかにそうだ」
「………何言ってるんだい、二人して」
と、どこか不思議なやり取りをするふたりに、女性が呆れたように言葉を発したのにはわけがあった。
秦国内ですらキョウの正体を知る人物は限られており、ましてや、他国の人間である女性にそれが知れるわけがなかったためだ。
そうこうしているうちに、城主の帰還の報を受けて、この場はお開きとなった。
朱錐は案内に従って、王騎の待つ部屋へと向かった。
「随分とお久しぶりですねぇ 朱錐さん。」
「ハッ こうしてお目にかかる機会を与えて頂き至極恐縮です」
それは、かつて親交のあったものに対す挨拶ではなく、一武官が王騎と初めて対面したしたときのようながっちりと堅い挨拶であった。
「ンフ この気堅さ。懐かしさを感じませんか 騰ぉ。」 「ハッ!懐かしすぎです」
「それに、あなたを見ていると どこかの誰かさんを思い起こさせます。」
王騎は少しばかり懐かしむようにその言葉を紡ぐ。
そうしてから、獲物を狙うようにじっくりと朱錐を見定めると「んふふふ。」と笑みを浮かべた。
「無駄ではなかったようですね。」
あの時とは違って、気配に乱れを感じさせない朱錐の立ち姿に満足したように言葉をつづけた。
「あなたの働きに期待していますよ。錐。」 と。
こうして、面会を済ませた朱錐であったが、すぐに隊を任されるようなことはなかった。というのも、「五年も行方知れずなのだから、挨拶に行ってきなさい」と王都にいる昌文君のもとへと送り出されたのだ。
そうして王都。
朱錐は懐かしさを胸に昌文君の屋敷の戸を叩いた。
やっと原作が………。(そろそろ?)
朱錐が預けていた人物の正体は!?
というわけで、あの女性が生存しています。口調の印象が、気風のいい姐さんイメージに仕上がってしまった感が抜けないです。