スーパーロボット大戦OG ~求める存在~   作:ショウマ

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抗う力――改め造るは

 

「このあたしから逃げられるかしら?」

 

 徐々ににじり寄ってくる気配。

 

「ま……まだよ。まだ、勝機はあるわ!」

 

 まだ終わっていないとばかりに、力強く宣言する。

 

「さぁて、これならどうかしらね?」

 

 しぶとく抵抗し続けるものの、身動きを封じるためか上に圧しかかってくる。

 

「あっ……あぁ……そんな!? で、でもこっちだって、負けてられないわ!」

 

 大半の動きは封じられているが、最後の抵抗とばかりに反撃に出る。

 

「はぁはぁ、そろそろ本気でイクわよ?」

 

 隙間から何かが潜入してきた。

 

「ハァ……ダ、ダメ……ぅぁ……くぅっ!?」

 

 差し込まれたそれに抵抗するもむなしく、徐々にその力は小さくなっていき――。

 

「さあ……フィナーレよ」

 

 甘く、囁くような声がついに終了を告げた。

 

「ギニャーーー!?」

 

 室内に少女の絶叫が木霊する。

 

「全くもう。毎朝毎朝、布団を剥ぎ取るのに無駄に抵抗しないでほしいわね」

 

 亀のように抵抗する少女からようやく剥ぎ取った布団を手に取り、荒い息を吐きながらセティが呆れたように呟いた。

 

 ここは、独身の上級将校に割り振られている宿舎。

 

 とある一件により、セティの家で強制的に生活を送ることになったエルミア。もちろん拒否権は無い。

 

「あたしの楽園が、セティ姉に壊されちゃったよ……これからどうすればいいの?」

 

「いつまでもバカを言っていないで、身支度を整えて朝食の準備に入ってくれないかしら?」

 

 布団の無くなったベッドの上で、自室から持ってきた人間大のぬいぐるみに話しかけている妹分に、セティは干場に向かう足を止めて冷たく言い放つ。

 

「はぁい」

 

 セティとエルミア、そして彼女のぬいぐるみの二人と一体で休んでもまだ余裕があるキングサイズのベッドから、名残惜しそうに少女は下りた。

 

 手際良く着替えをすませると、洗濯物をポイポイッと洗濯機に放り込んでスイッチを押す。

 

 欠伸を噛み殺しながら洗面所で顔を洗い、吊ってあるタオルで水気を拭き取るとキッチンに向かう。

 

 強制生活以前にも時々寝泊まりに来ていたこともあり、どこに何が置いてあるかは大体把握していた。

 

 冷蔵庫脇に置いてあるボックスの中に手を入れ――。

 

「味気無い食事は駄目よ? きちんと作ること」

 

「え~~……」

 

 まさに手軽にそれで終わらせるつもりだったエルミアは不満そうな声を漏らす。

 

 そして、キッチンの入り口に立って釘をさしてきた姉貴分に猛然と抗議を始めた。

 

「セティ姉、あたしが番の時ばかり毎食作らせてるよ。セティ姉だって料理出来るのに、担当の夕食は外が多いし」

 

「はい、ブツクサ言わない。それに、当番は朝か夕食で先にエルに選ばせてあげたじゃない。家ではいつも自分で作ってるんでしょ?」

 

「食費が苦しいから結局そっちの方が安上がりってだけ……」

 

「ライグのミニチュアを作る材料を買うのを控えれば良いだけじゃない」

 

 目をそらしたところに、原因の指摘をドライバーキャノンばりに撃ち込まれる。

 

「内から溢れる何かが囁くと、衝動的に材料を買い気が付くと作り始めてるんだから、あれは不可抗力」

 

「典型的なダメな子じゃない」

 

 実に適切な一言で一刀両断である。

 

「あれはライグの武装改良案も兼ねているから!」

 

「はいはい、本物のライグで好き勝手したら良いでしょ。早くしないと朝食抜きで出勤よ?」

 

「む~……それはイヤだしな。夜はきちんとセティが作ってよ?」

 

 体は確かに朝食を欲しているし、このままでは本当に無しで連れ出されかねないので不承不承頷いたエルミア。

 

 せめてもの反撃に夕食の約束を取り付けようとする。

 

「ええ。それより、洗濯物はきちんと分けたでしょうね? あなたの服、色が濃いものが多いんだから」

 

「………………うん」

 

 エルミアが目を泳がせながら返事をすると、セティは慌てて洗面所に置いてある洗濯機へと走る。

 

 機械を途中で停止すると中を確認し――。

 

「ちょっと、全部まとめて放り込んでるじゃない! 機動兵器関連以外への大雑把な所を何とかしなさいって言ったでしょう!」

 

「セティ姉、火を使ってるから今はダメだって!? ニャアアアアッ!?」

 

 

 

 そんな一幕はあったものの、エルミアは約束通り調理を始める。

 

 フライパンを火にかけると、皿を二枚用意して冷蔵庫から買っておいた卵を四つ取り出した。

 

 いつ出撃になるか分からない職務上基本的に買い置きはしないため、その日や、せいぜい翌日分に必要な物だけ買うのである。

 

 エルミアはボールの中に卵を次々と割り入れると、塩と砂糖を少量加えて小気味よい音を立てながら素早くかき混ぜる。

 

 フライパンが温まるとバターを一欠片放り込み、先程の卵を流し込むと再びかき混ぜていく。

 

 やがて卵が固まり始めたところで素早くフライパンの先の方へと寄せると、柄をリズミカルに叩きながら卵を巻いていく。

 

 ちょうど卵が一周する頃には、楕円形の山が出来上がっていた。

 

 フライパンを火から下ろすと、懐に手を入れる。

 

 出てきたのは指先から肘くらいまでの長さがある、ライグのロングレーザーソード……を護身武器としてそのまま小さくしたもの。

 

 出力を大幅に落としレーザーナイフとして使用すると、完成した卵料理を二等分……よりは片方は僅かに小さく切る。

 

 携行ライグソードをまた懐に仕舞い、料理を用意しておいた皿に盛り付けると、使った調理道具を水につける。

 

 料理を乗せた皿をテーブルに運ぶと少し小さめの方を自分の席に置く。

 

 最後に冷蔵庫から冷たい野菜ジュースを二本とトマトケチャップを取り出すと、パンが入った籠と一緒にテーブルへと運んでいく。

 

 ジュースはそれぞれの席に、ケチャップとパン籠は中央に置く。

 

「セティ姉ー! 簡単だけど出来たよー!」

 

 卵の甘い香りが広がっていった。

 

 

 

「そういえば……エル? あなた料理とか勉強したの?」

 

 キッチンで食後のコーヒーを煎れているセティが思い出したように疑問を投げかけると、問われたエルミアの方はキョトンとした表情を浮かべた。

 

 そしてゆっくりと頭を振る。

 

「してないよ? そんな暇があれば作るか造るか寝ていたいし」

 

「そうよねぇ。少なくとも、知っている限りではそんな時間ないし」

 

 カップを二つ持ったセティがテーブルに戻ってくると、一つをエルミアの前に差し出して席に着いた。

 

「ご飯を作る理由はさっきも言った通りだけど、料理も何となく出来るってだけだしね。じゃなかったら、全自動料理マシーンなんて考えないって」

 

「結局見ないけど、あれはどうしたの?」

 

 これで料理の手間とおさらばよ! と言ってあちこちから材料を集めていたのは記憶に新しい。

 

「それがね、全長四百メートルを超えそうになったから分解破棄した」

 

「勢いで作り始める前に設計図を引いた段階で気付いてほしかったわね」

 

「設計図は無いよ? 閃きと勘だけ!」

 

「頭が良いのか悪いのか、どちらかにしてくれないかしら?」

 

 それなりに豊かな胸を張って言うエルミアに、コーヒーをすすりながら嘆息するセティ。

 

「あたしも料理とか一通り覚えたけど、あなたもきちんと覚えたら? エルなら色々出来るようになりそうだし、ゼブとか喜ぶかもしれないわよ?」

 

 

 

「ぶっ!? ゲホッゲホッあ、熱っ、熱っ!?」

 

 飲んでいたコーヒーを吹き出してしまい、さらにむせた上に騒ぎ始めたエルミアに。

 

「テーブル、後で拭いて頂戴ね」

 

 直撃を避けたセティは冷静に、汚れたテーブルを指差した。

 

「セ……セセ、セティ姉!? いきなり何を言うのさ!? なな、何でゼブの名が」

 

「さあ、どうしてかしらね」

 

 悪戯めいた笑みを浮かべるセティに、顔を真っ赤にしていたエルミアもニヤリと笑みを浮かべた。

 

 深く考えずに思い付いた反撃の言葉、しかし最悪の愚策であるそれを口にする。

 

「そういうセティ姉だって、相手が……が……」

 

 口にしてから気が付いたのだろう。そこで言葉は途切れ、赤かった顔は白に、そしてサアッと血の気が引いていく。

 

 セティには幼馴染みで、親同士が決めた婚約者がいた。

 

 その婚約相手でエルミアの恩人の一人でもあるロフことグロフィス・デルファルテは、士官学校を首席で卒業したものの、家柄だけで決まり縛られることを嫌った彼は家を出てしまった。

 

 現在彼はラクレイン姓を名乗って傭兵として入隊しているが、それを知っているのはゼブと偶然知る機会を得たエルミアだけ。

 

 確かな実力と戦士としての性分に加え、情に篤く部下の面倒見が良い彼は部隊指揮を任され、実質将軍クラスの扱いを受けるまでに至っていた。

 

 ロフが家を出た際にセティとの婚約は破棄されているが、理由は先に述べた通りであり彼女を嫌ってのものではない。

 

 セティもまた、彼のことを想い続けていることはゼブもエルミアも知っていた。

 

 恩人二人のその状態をどうにかしたいと思う気持ちはあるが、まだ色々と気持ちの整理がついていない内に会わせると思わぬ――悪い方向に進む可能性があるからというゼブの言葉に納得したエルミアは、彼のもうしばらく時間を置くという方針に従っていた。

 

 ただの売り言葉に買い言葉のつもりで余り考えずに放った言葉は、彼女が絶対に言ってはならない……絶対に言いたくなかった言葉であった。

 

 どうして言ってしまったのかという疑問と後悔が彼女の中を占めていた。

 

「が……何かしら?」

 

「何でもありません。ないよ、セティ姉」

 

 セティのカップが“カチャ”と小さな音を立てて受け皿に置かれると、エルミアの体がビクッと震える。

 

 静かに席を立って自分の方にやってくる姉貴分の顔を見ることが出来ず、少女は小刻みに震え始めた。

 

 震える少女の肩にそっと手を置くと、その耳元で囁いた。

 

「エル? そんなにあたしの本気が見たいなら、存分に見せてあげるわよ」

 

「イヤーーッ!? ごめんなさい、もう言いません!? セティ姉、本気は敵に見せたら良いから、許して!?」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「ま~た、偉くつ~かれてるね、エルちゃん」

 

「あ、あはは……堪えたよ堪えられたよ。うん、あたしはまだ、大丈夫」

 

 出勤後、待ち合わせ場所にやってきた虚ろな表情の身元保証対象の少女に、ゼブはだ~めだこりゃと呟く。

 

「ど~せいつものように勢いのままに何かしたんだ~ろ?」

 

「うう……今日のは完全にあたしが悪いし、言い返せない。いつもとか言われているのはあれだけど」

 

 落ち込みながら唸っていたエルミアだが、やがて大きく深呼吸するとそこにはいつもの強気な表情が戻ってきていた。

 

 親衛隊の制服の内側から携行ライグソードを引き抜くと、柄にある緑のクリスタルをずらし、その中から取り出した二枚のミニディスクをゼブに差し出した。

 

「失点は絶対に取り返してみせる。でも、その前に約束を果たすわ。ライグの性能をバランス良く高めた〔オーグバリュー〕を、ゼブの癖や好み、扱いやすさを重視して設計した〔スカウリングリヒト〕よ」

 

「ん~、“一掃する光”?」

 

 ディスクを受け取りながら訊ねてくるゼブに、エルミアは首肯する。

 

「あたしはセンスが無いから名称に関しては好きに変えて。あくまでも設定コンセプトだから」

 

「つ~ことは、広域戦か」

 

「“も”出来る機体って意味合いの方が強いかな? 装備されているゲインシューターを改良してあるから使用法も増えているし、単体……対艦戦も出来るわ。詳しいデータはこっちの資料を見て」

 

 今度は携行ライグソードの刀身部分が一部展開し、そこから紙片を二枚取り出してそれらもゼブに手渡す。

 

「趣味だ~ろうけどさ、ま~た変わった物作ったな」

 

 趣味と実益を兼ねているのだろうが、彼女を知る者なら七割以上が趣味だと見抜くだろう。

 

 しかし、憂慮すべきはこの“やたらと物騒な設計がされた武器”を少女が必要として、作り上げたことであった。

 

「で、結局あ~のとき倒れてた理由はお~ぼえてないんだな?」

 

 エルミアが、受け取る予定のゼブのライグ=ゲイオスの状態確認をするはずだったその日。

 

 ゼブの休日に合わせていたエルミアが約束の時間の一時間前は愚か、十分が過ぎても現れない“異常”に、彼はすぐさま少女の宿舎へと向かった。

 

 ゼブとセティに(使ったことはないが一応ロフにも)渡されていた合鍵を挿し込み、解錠されるもそのまま三秒待つ。

 

 セキュリティシステムが解除されてから扉を開けて家の中へ。

 

 リビングから誰もいない寝室を抜けて、奥の部屋へと足を進めたゼブは、異様に寒い室内で倒れているエルミアを発見した。

 

 見た目も青白く触れても冷たい彼女に自分の上着を着せると、セティに連絡を送って主治医を捕まえさせ、マイナスになっていた室温を上げる。

 

 セティが捕まえた主治医の所に何とか運び、危険な状態だった彼女はそれを脱することができた。

 

 直接的な原因はあの部屋で眠っていたことだが、そこに至る過程が不明であり、目を覚ました彼女もベッドに入った以降は全く覚えていないようだった。

 

 主治医の話ではトラウマから来る発作的なものなのかもしれないという話だが、そういう行動をとるようなものかなど詳細は彼にも分からない。

 

 結局原因不明のまま、エルミアはしばらくの間セティの所で暮らすことになる。

 

「ぜ~んぜん。むしろあたしが聴きたいくらいよ。起きたらいきなり二人に怒られるし、医務室だし先生も居るし。何より、あたしのライグを弄る日が遠ざかったし!」

 

 懐に剣を仕舞いながら愚痴るエルミア。

 

「そういや、ず~っと研究していたものが完成し~たんだっけか?」

 

 仕事の合間の研究……研究の合間の仕事と言うべきか? ついに解明したそれを、少女はライグに使おうとしていた。

 

「うん! でもアレは凄い性能よ。思い付くまでは出来ても、あの性能のままで最初に実用までもっていった人は恐ろしい才能ね。アレをベースにすれば確かに大きな力になるけど、一歩間違えれば災厄になるわ」

 

 笑顔で頷くものの、後半は憂いを帯びた表情になったエルミアに、ゼブは鋭い視線を向ける。

 

「エルちゃん、そ~んなもの使う気なら許可消すぞ?」

 

 それを聞いたエルミアは首を横に振って憂いを消すと、強気な表情でゼブを見上げながら胸を張る。

 

「だ~いじょうぶ、ま~かせて! 怖いくらいにアレが理解出来たあたしは、あの金属細胞のどこかに情報を送る機能とか、そういう不要なのはカットしたり、強いリミッターをかけたりしてあるから! この剣もその試作だし、変なところもないしね」

 

「な~ら良いんだけど、俺達の方には使ってないんだよな?」

 

「うん。セティ姉の〔イロズィオンヴィント〕も、さっき一緒に渡したロフさんの〔アサルトブリッツ〕にも使ってない。今のところあたしの〔ゼフィリーア〕だけかな」

 既に私物としているライグにも名前を付けているらしい少女に、ゼブは最早何も言わない。

 

「前の二つはな~んとなく分かるが、エルちゃんのは分からねぇな」

 

 代わりにそう口にすると、何故か少女が小首を傾げた。

 

「それが、何となくそんな名前が浮かんだんだよね。何だろう? まあ、ライグのままで良いけど、でも個体名称で登録しとこうかな……って、エルちゃん言うな!」

 

「い~まさらだな」

 

「くっ……まぁいいわ。ロフさんの方は新型の試験運用部隊だから必要ないかもしれないけど」

 

「ま、一応わ~たしておく。ロフも試験機以外をも~ておけば、いざという時にい~いだろうしさ」

 

「うん、ありがとうゼブ」

 

 ディスクと資料を自分のポケットに入れるゼブの横で、用事が終わり勤務に戻らないといけないのに、朝の件を気に病むエルミアはどこか浮かない顔だった。

 

 そんな少女の頭を、ゼブはポンポンと優しく叩いた。

 

「ま、な~にをしたかは知らないが、きっと大丈夫さ」

 

「え……どういう」

 

「姉御ーー!」

 

 訊ねようとした声を遮って大声で二人の元に駆け込んで来たのは、エルミアの直属の部下であるハイ・カーエとモベ・ビーシであった。

 

「だから、それはやめなさいってば!」

 

「ジュスティヌさんからライグの改修に行くなら付き合うわよ? という言伝てを預かっております」

 

「格納庫で姉御を待ってるそうっす」

 

「え、ホント!? 行く行く! 格納庫ね……って、ハイは姉御をやめなさい!」

 

 そう言いながらも、嬉しそうに走っていく少女(上司)を三人は見送る。

 

「で、セティは?」

 

「笑顔でした」

 

 

 

 

 

  【後日】

 

「え~と……」

 

「こ~りゃまた極彩色にしたな」

 

「ねえ、エル? カラーリング変更もするのは聞いていたけど、こんな色だったかしら? 機体のベース色が紫に、翼が赤、それで各所のレンズ部分は緑のままだから目立つわね」

 

「え……うん……たぶん……そう……だったかも? (まだ武装追加と例のアレを使っただけなんだけど……あれー?)」

 

 

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