西暦40000年。*1
人類が地球を飛び出し、無限の宇宙に勢力図を広げ、想像も出来ぬ程の年月が過ぎ去った時代。其処は戦争だけしか残されていない暗黒の遠未来だった。
平和も無い。休息も無い。赦しなど、あるはずもなく、残るのは戦争だけだ。
進歩と発展が途絶えて久しく、科学は徐々に衰えつつある。
慈愛と慈悲は過去の概念と化し、いかなる安息も希望も何処にも無い。
そんな暗黒の時代に生きる遠未来の人々、
否、縋るしか無いのだ。ただ生ける屍と化した皇帝に…。*3
そして、人類の帝国は、宇宙に存在する数多の勢力と今も戦争が続いている。*4
そんな人類と宇宙を、彼らの恐怖で生まれた暗黒の神々は嘲笑っていた。*5
その37400年前、西暦2600年。
地球の時代と呼ばれていたまだ人類が幸せな頃。遠未来の人類の帝国が、宇宙へと旅立ったこと以外に忘れてしまった時代だ。
遠い未来、中世ヨーロッパのような暗黒の時代を迎える事など知らず、宇宙へと飛び出して五百年ほどの人類は、時が経つことに科学の進歩と発展に胸躍らせ、見知らぬ土地へ旅立っていた。
俗に言う宇宙大航海時代である。それと同時に、宇宙開拓時代と言えよう。
だが、その時代でも戦争があり、幾つかの争いを経験したが、それ等の問題を乗り越え、人類の科学は進化し、より発展していく。
それと同時に人類は、地球を人類発祥の地の田舎と認識し、遠い未来に人類その物を支配する宗教を忘れ去っていた。
少なくとも、西暦25000年までは、人類は幸せであった。
話を人類が幸せであった西暦2600年に戻そう。
この時代の十年前に、あり得ぬ事態が発生した。それは27400年後の人類の帝国勃興期に行われた
記録が無いにしろ、既に異星人との交戦経験があるにしても、オルクとの交戦記録は残っていない。
その被害は、この時代においてオルクが未知の異星人である為と、人類の勢力圏内であったが為に大きく、惑星一つが犠牲となった。
オルクは
恐るべき繁殖力を持ち、それも生前の戦闘経験を継承するので、厄介なことこの上ない。生命が維持できるありとあらゆる場所であれば、生存と繁殖は可能であり、生息地は銀河系全域に及んでいる。
力こそ全てで、強い者こそが正しいと言う弱肉強食の思想を持つ種族であるが、そんな種族でも部族社会が形成され、様々な部族に別れている。惑星一つが、死の星になったのは、オルクの獰猛さ故だ。
オルクの詳細はここまでにしておく。
人類を攻撃したのは、オルクのどの部族かは不明。出現したのは前順で述べた通り、人類の勢力圏内、それも開拓が済んだ地域であった。このオルクによるまだ発展期の人類への攻撃は、明らかに何者かの意図による物である。
その何者かによる襲撃は、二十六世紀の人類にはまだ分からぬことだろう。正体が分かるのは、遥未来の西暦40000年だ。
だが、遥か未来には、地球で起きた戦乱は忘れられる事だろう…。*6
西暦2600年、地球衛星軌道上に展開する銀河連邦軍の地球方面艦隊の旗艦、巡洋艦「アームストロング」の艦内に敵襲を知らせる警報が鳴り響いていた。
その敵襲とは、十年前に壊滅させたはずのオルクの宇宙艦隊である。何者かの手により、再びこの時代に呼び出されたようだ。*7
『所属不明艦隊、地球に接近中! 戦闘要員は直ちに戦闘配置に着け! パイロットはブリーフィングルームに集合! 繰り返す!』
「演習か!?」
「隕石じゃねぇのか?」
鳴り響く警報に、艦内の乗員らは演習か訓練だと思っていた。地球はこの時代では田舎であり、首都は惑星環境が良好な方へ移動し、軍本部も別の惑星に移動している。地球の防衛を任されている部隊は、左遷させられた者たちで構成されているのだ。
そんな将兵等であるが、艦内中の拡声器から聞こえる提督の怒鳴り声で、直ちに戦闘配置に着く。
『地球方面艦隊提督、ホルス・オットーだ! これは演習ではない! 繰り返す、演習ではない!』
「やべっ! 演習じゃねぇぞ!」
「まさか、田舎で実戦なんてする羽目になるなんて!」
「急げ! 殺されるぞ!!」
提督の怒号に従い、乗員らはそれぞれの配置に着く。戦闘機や攻撃機のパイロットは直ちにパイロットスーツに着替え、ブリーフィングルームへと走る。ここが田舎であるために、その足は遅い。
「貴様ら何をしている!? 既にギョルン提督の第十二艦隊は既に戦闘配置を済ませ、艦載機を発艦させているんだぞ! 貴様らは悔しくないのか!?」
地球守備隊の参謀は、この襲撃で左遷組の地球方面艦隊が浮足立つことを予想してか、常備軍から再編と表して第十二艦隊を地球圏の方へ呼び寄せていたようだ。配置が遅れていることに苛立ってか、将校が怒号を飛ばす。
「まさかお前の予想が的中するとはな…! タイタンも出すか?」
「いや、まだだ。あいつ等を送り込んできた者が出るまでな。タイタンはその時まで取っておく」
地球方面艦隊の提督、ホルスは人型兵器であるタイタンも出すのかと、長髪の黒髪を持つ参謀に問う。*8
これに参謀の返答は、オルクを送り込んできた正体に備え、出さないと言う物だ。あれほどの規模の艦隊は、二個の宇宙艦隊で十分だと言う判断だろう。
「しかし、十年前の奴らとの戦いでは、タイタンがあっても惑星一つが住めなくなるほどの損害だったんだぞ。ここで投入し、奴らを根絶やしにしなくてどうするんだ?」
参謀の提案にホルスは十年前の被害を持ち出し、オーク殲滅には過剰な方が良いと告げる。これに参謀、ライアン・ギャリバンは、タイタン頼らずとも殲滅できると突っ撥ねた。
「タイタンばかりに頼っていては、戦闘機乗りや船乗りの名折れじゃないのか? それに奴らは、火力とデカさ重視の馬鹿共だ。脆い場所が多い。冷静に対処し、其処を突けば良いだけの話だ」
「簡単に言ってくれるな…!」
ライアンもまた人類がオルクと初めての戦いに参加していたのか、敵の弱点を知っていた。これにホルスは納得するが、獰猛で圧倒的な繁殖力を生かした物量で突っ込むオルクに、脆い部分だけを狙って仕留めるのは至難の業である。それを軽々しく言うライアンに、ホルスは眉をひそめた。
「各艦、戦闘配置完了!」
「艦載機、いつでも発進可能です!」
「第十二艦隊、所属艦隊を射程距離に捉え、警告射撃を開始!」
「あいつ等に、威嚇など通じる物か! 一斉射を浴びせろと伝えろ!」
そうしている内に戦闘配置は完了し、艦橋内の通信手やレーダー手が提督のホルスに知らせて来る。ホルスはオルク艦隊に近い距離に展開する第十二艦隊に警告射撃などせず、一斉射を浴びせろと怒鳴り付ける。
「ウォーロード級はいつでも出撃できるぞ! なんで出撃命令が出ていないんだ!?」
「あの左遷野郎が、戦闘機と艦艇だけで十分だとよ! 何考えてんだ!」
「畜生が! せっかく左遷先から抜けられるってのによ!」
タイタンも出撃の用意が出来ていたが、ライアンが出撃するなと言っているので、パイロット等は不満ながらも待機命令に応じた。逆に戦闘機や攻撃機、戦闘ポッドと言った部隊は次々と出撃していく。
「第十二艦隊、所属不明艦隊と交戦開始!」
「よし、我が艦隊は第十二艦隊が撃ち漏らした奴らを叩く! 各砲座開け! 射程距離に入って来た奴を狙撃せよ!」
第十二艦隊が地球へ一直線に向かうオルクの艦隊と戦端を開く中、地球方面艦隊もまた、味方艦隊が撃ち漏らした敵の排除に向かった。