Fate/extra future   作:きちきちきち

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第5話

 

―――第1回戦、4日目。

 

【アリーナ:第2階層】

 

 当初の予定通りに、対戦者とのタスクをずらして攻略を進めて。

 既に一つ目の『トリガー』を獲得している。

 更にアリーナの攻略中は、キャスターの"惑わしの呪い"にて『アサシン』との遭遇を避けた。

 サーヴァントと遭遇さえなければ、まだ浅い階層の敵性プログラム(エネミー)は適度に処理して進める。

 

「これで歩数的によしっ、と」

「何してるのマスター?そんな方眼紙(へんてこな紙)なんて持ち出して」

「ん、手書きのマップ。きっと魔術師(ウィザード)なら、こんなアナログに頼る必要はないのだけどね」

 こういう所でも城井彰人が、魔術師としては無能なことが足を引っ張っている。

 例えば、知り合いの魔術師(ウィザード)『窪田 千砂』は走査(スキャン)して、事前にマッピングを完成させていた。

 

 ただアナログ極まりなくても、やらなくてはならない事、罠を仕掛けるにしても避けるにしても地形の情報は重要である。

 磁場が薄い事で、方位磁針が意味をなさないのが地味に痛かった。

 変な所で、ここが確かに"月"であることを自覚する。

 

 それはさておいて。

 

「ここの十字路、経路が集中してる。俺だったらここに罠仕掛ける」

「わかったマスター。来て"カール"!」

バッサバサ!

 城井彰人が作り上げたマップを見て、おおよそ罠の仕掛けられている位置を割り出す。

 キャスターが口笛にて魔女象徴(シンボル)たる鴉の使い魔を呼んだ。

 

 なお、なんと彼らにはなんとなく場所はわかっても、魔術の解除法がなかったりする。

 キャスター曰く、彼女の魔術は結果として"出来るようになる"為に、その研鑽の過程に培って然るべきものが備わっていない。

 "魔女は呪いにて誰かを害する者"、そう相場が定まっているらしい。

 だからこその【魔術(偽)】か、何とも歪なものである。

 

「ごめんね。あの先にお願い」

【オガム文字:L】

 故に、ここから先は応用を効かせる他ない。

 呼んだ鴉の両足にはナナカマド(ローワン)の足環が付けられている。

 "魔法からの守護・五感のコントロール"を属性を持つその木細工に、刻まれた文字に加護を呪いを込めて。

 

「―――カーッ!」

 指示を受けた黒鴉は羽搏き指さした方向へ飛ぶ、つまりは男感知で発動させてしまう他ない。

電脳術式(コードキャスト) 裁きの木槌(Mp_break)

 その目論見通り、罠は発動する虚空から、仮想の槌が振り下ろされていた。

 鴉はその身軽さに身を翻して躱す、これは事前に施された魔よけの呪いによる所も大きいだろう。

 

 実際の発動が観測したことで『マトリクス』に、セラフからの情報が開示される。

 

「ありがとカール、大丈夫だった?」

「くあッ!!」

「なるほど、魔力を奪う術式らしいか、流石にこちらの嫌なところをついてくる」

 キャスターはちゃっかり使い魔である鴉に名前つけている、らしいなと多少呆れつつ。

 城井彰人はその尻目に、先の罠術式の情報をマトリクスで確認する。

 知識がない為強度と精度は判断しかねるが、確実にキャスター陣営に有利な術式を仕掛ている。

 白兵戦が貧弱なキャスタークラスは、魔力の切れ目が命の切れ目という事もある、敵もこちらを舐め切っていないらしい。

 

「ん、御主人にいい名前をもらったな"カール"」

「くぁ」

 応える様に鴉が翼を上げ、飛び立ち先行して続いてこつんこつん足音が響く。

 アリーナの迷宮を確実に、時折遭遇する敵性プログラム(エネミー)を瞑想の如く砕きながら歩いていく。

 

 そしてしばらくして、迷宮の最奥へとたどり着いた。

 

「マスター、この先にいるみたい」

「やっぱりこっちの『第二トリガー』の前に待ち伏せか、そう来るよな逆なら俺だってそうする」

 偵察先行させた黒鴉ことカールの鳴き声から察する。

 最初から懸念していた事にため息をついた。

 戦争は"相手の嫌がることを積極的にする"。故に、ここでの衝突は必須であるのだろう。

 

「―――遅いぞいつまで待たせる気だ!蒙昧たる小僧よ!」

「来たましたか。紺銀のキャスターとそのマスター、随分と久しぶりな気がする」

 『コ―ネリーアルフォンス』相変わらず、瞳に大いなる怒りを抱えた弁護士。

 それを庇うような位置に立つは、何処か気怠げに祈る様と剣と特徴的なサーコートの外套を構えた白髪の美青年―――。

 『アサシン』のサーヴァントこと処刑人、シャルル=アンリ・サンソンである。

 

 距離は30ほどか、サーヴァントの身体能力であれば、一瞬に無に帰す距離であろう。

 

「ああ、『アサシン』そりゃこっちは血の気の多い爺を避けていたからな」

「……"輝く炎・魔除けの松明よ"」

■魔術(偽) C+

 対峙してキャスターは手にした木片、刻まれた文字に呪いを込める。

 二度目だ、慣らしもあって緊張がほぐれたか、先より自然体で事に構えている様に見える。

 

 

「ふはは適わないと理解し!逃げるのは賢いといいたいところであるが!!」

 嗤いとともに、傲慢な弁護士は高らかに宣言するだろう。

 

「逆に言えば、すでに心根で負けているのだ貴様らは!!」

「そう、まぁそういうことでいいよ」

 変わらずの尊大さ散々な言われようだが、侮ってくれる様であればそれが都合がいい。

 城井彰人とキャスターのペアは確実に例外に当たるが、もともとキャスタークラスは事前準備で幾らでも拡張できる類もいるというのに、呑気なものであると内心嘲笑う。

 

 そして。

 弁護士は礼装だろうか、物々しい"法典"を呼び出して開いた。

 戦闘準備の合図だろう。

 

「先にどのような手品でアサシンの真名を暴いたかはわからぬが、それもここまでだ」

「キャスター、構えて。敵の手で目的の物(トリガー)が守られている今回は無理を通さなきゃならない」

「勿論、任せて」

 さりとてどうするか、未だに対策は確立されていない。

 冷静の中に汗を握る。故にただ前に目を見開いて、首を掻く刃を見極めなくてはならない。

 

 マスター同士が、互いに手振りに指示を飛ばして、そして始まる。

 

 

―――セラフより警告>>アリーナ内でのマスター同士の戦闘は禁止されています。>>警告―――

 ムーンセルからの警告音、鳴り響くアラートが響き渡る。

 

「―――聖杯戦争だ、悪いとは言わない。その首と罪断ち切らせてもらう」

「そんなのお断りアサシン、戦の柊炎よ!!」

【オガム文字:L・T】

 キャスターの握られた掌から放られる木片、炎を灯らせて。

 サーヴァントの魔力で煽られたそれは大火となり、連鎖的に大きく空間を焼き尽くす。

 

【オガム文字】

 例えて言えば、源流の流れにいる『クランの猛犬』の扱うルーン魔術に酷似した古き魔術。

 偉大なる大神が齎した原初のルーンに比べるのも烏滸がましいか細い神秘。かつて生活と供にあった木々への感謝、祈りの媒体、かつて精霊と人が伴にあったことを示す、既に時計塔においてもルーンに吸収されるか、廃れた魔術形態である。

 

 

【電脳魔術(コードキャスト)司法の盾】(add_cancel)

「なるほど、そういう魔術使いですか、初めてキャスターらしい所を見せましたね」

「っつ嘘、アサシンに弾かれたなんて…!?」

 ガキャン!!

 しかしアサシンに直撃したそれは多少焼き焦がすに留まり、意に介せず、槍旗と剣が競りあう。

■啓示 C

 互いに発生した爆炎の目隠し、一工程(シングルアクション)であるこそ、間に合った導きの拮抗である。

 

 旗槍が円弧に動き、剣が回転をはじき返すだろう。

 サーヴァント同士の魔力の押し合いの余波が揺らし、続いて鋼が奏でる火花が空間を彩る。

 

「……対魔力の付与の電脳術式(コードキャスト)か」

「フハハ蒙昧のわりによく考えついたな小僧、そして貴様のキャスターは随分と非力なようであるな」

 キャスターというクラスに対するわかりやすい対処法だった。

 『コ―ネリー=アルフォンス』というマスターの評価を改める。

 己のサーヴァントへの言動といい、いささか怒りに任せがちな所がみられるが……。

 先に仕掛けられた罠も考慮するに、根幹に論理的な優秀なマスターである。

 

【【break】】

ギッ!ガキャン!!

 互いに掬い上げるような剣と旗槍の刃先がぶつかり合い、弾かれて攻撃が相殺される。

 

ザッ!!

 着地にパネルが砕ける。キャスターが城井彰人を庇う様に目の前に立つ。

 状況は拮抗、互い損傷の鎧分で相殺であるか、互いに仕切り直しと言わんばかり距離を開けた。

 

「何をしておるか!我が盾で魔術を防いだのだ、そのまま押し切って見せんか!!」

「すまないマスター。ただ、あちらのキャスターの動きも確実に良くなってきている。何も考えず近接なら有利と思えば足元をすくわれるだろう」

 マスター、コ―ネリー=アルフォンスはその膠着に不甲斐ないと怒号を飛ばすが。

 『アサシン』はあくまで冷静沈着に祈りの如く、その剣を正眼に構える。

 とことんまじめな気質か、油断はない、隙がない。

 

「キャスター、時間がないもっと前に。"俺の分がある"」

「……ッ!!」

 城井彰人は事前に知るキャスターだけに分かる言い回しにて、その背中を押した。

 それは思い浮かんだ小細工の一つ、文字通りの苦し紛れ。

 悔しいが城井彰人というマスターは、先の攻防にてやはり無能であった。認めざるを得ない。

 

 やはり岸波白野(主人公)の様な、卓越した戦術眼は持ち合わせない。

 ならば、小細工を弄するだけだ。

 

「ぼくはやりたくない。サーヴァントはマスターを守るものって決まってる―――」

「ふん、どんな小細工かは知らぬが、距離を詰めてしまえばこっちのもの、やってしまえアサシン!!」

「了解した」

 キャスターが渋るのをさておいて、状況は進んでいくだろう。

■処刑人 A++

 マスターの声に応じて、アサシンが剣を構え踏み込み飛び掛かる。

 その質量剣を勢いのまま宙から振り下ろしである……っ!

 

 

 

ズガン!!

 剣が突き刺さり、アリーナのパネルが砕けて飛び散る。

「動くな、狙いが逸れる」

「っく、この!」

 キャスターが持つ旗槍は旗布も併せ質量が、極端に先端に偏っている長柄武器である。

 一歩後退し、勢い利用し穂先に受け回転させ、飛び込みの刃を流した。

 その後もいきなり詰まった間合いに、連撃を長柄の不利を背負いながらも必死に応戦する。

 

ギャキン!!

 経験不足が響く、それでも中々崩れない。確かに瞑想の如く反復が生きている。

 だが不利は変わりなく、故に。

 

【Attack】>>【Break】

「しまっ―――」

「さて執刀準備だ」

■人体研究 B

 キャスターの距離を離そうと放たれた蹴りが、受け流され虚空を蹴る。

 その隙を見逃すほどは甘くはない。ましてはこのアサシンは人体の壊し方をよく知っている。

 処刑技術、そして医術の「裏側」に位置する概念、人の機能を削ぐその業の体現―――!

 

ザンッ!!

 その斬撃は、キャスターの紺銀の鎧貫き、肩より血飛沫が舞う。

 アサシンにとっては馴染んだ確実な手応えだった。腱を傷つけ利き腕の機能を奪っただろう。

 

(終わった。キャスターはもう槍は振り回せまい。後は苦しませないよう首を落とすとしよう―――)

 職業人(プロフェッショナル)としての感覚が、確かな証明である。

 

 しかし。

「―――がッぁ?!!」

「……は?」

 しかしここから勝利を確信したアサシンにとっての予想外、思わず惚けた声が出る。

 タイミングを同じくして断末魔が上がった、血飛沫は一つではなかったのだ。

 その眼で追えばキャスターがマスターの身体に己の斬撃と全く同じ裂傷を見た、因果関係を結ぶのは容易いだろう。

 

(――戦うのはキャスターだ。俺に傷を流せばいい。いかにも呪いらしい事だ、できるだろ?)

 そう城井彰人が提案し、キャスターが渋々仕込んだ呪いだった。

 "極めて原始的な厄除けの一種、親しい誰かに()を押し付ける呪いである"

 これにより、アサシンの『人体研究』傷の程を誤認させて逆手をとる。そういう小細工だった。

 

 それは当初の想定以上に効果を表す、優しすぎる彼にとって己の刃で罪なき"生者"を傷つけた。

 サーヴァントは"死人"であると、無意識に引いていた処刑人の刃を振るう一線に、罅が入る。

 

ダッ!!

「よくも、よくも"呪い"(まじない)を使わせたなッ!アサシン!!」

 キャスターが憤怒と共に吠える。

 己の呪いだ己の未熟故の傷だ、まさに"自業自得"だ。そんな事はわかっている。

ブォォオン!!

 それでも怒りは理屈じゃない。怒涛の踏み込み。

 本能的により殺す形である刺突を選択し、半ば傷の痛みも無視し全力をもって振り抜かれ。

 

―――バジュンッ!!

 

「―――ッなズまだ動ける、ガ?!」

 生ぬるい音が響く。

 流石の英霊というべきが、それとも高い幸運の導きか、油断と放心の最中にも反射で身体は動いた。

 旗槍は掠り、頭蓋を右眼球を吹き飛ばすにとどまる。

 

―――セラフより強制執行>>戦闘を強制終了します。戦闘を強制終了します―――

 

 一瞬にして死屍累々となった戦場に、時間経過によりセラフの介入の壁がお互いの陣営を両断する。

 

「何をしているかアサシン、この間抜け愚図が!!なぜ肝心な所で手を抜きおった!おかげでこの様ではないか!!」

「っく……、私は、」

 マスターの怒号に、アサシンは抉られた眼を庇いながらも、未だ少し惚けている。

 彼は職業人気質からとかく真面目、ややもとすると潔癖で神経質な所のある。

 ならばこの放心は信念。「罪人が心置きなく死出の旅に出られるよう、一瞬の苦痛も与えず天へと送る」事を実行できなかった、損ねたことに対する後悔だろうか、否―――

 

 今この場に、響き渡る断末魔に起因する。

 

「ッカは……っあああ嗚呼ああ嗚呼ッーーーー!!」

「大丈夫マスター?!だから言ったのに、今止血を!!」

 城井彰人は吐き出す、痛いいたいいたいいたい痛い!!半ば割れた肩に、体が叫ぶ心が叫ぶ。

 勿論耐えるつもりでの提案だ、しかし彼は平和な世界に住んでいた一般人だ。

 当たり前に痛みに不慣れだろう。堪えても歯を食いしばっても、強がっても止めどなく溢れてしまう。

 

「"母なる大地のバーチよ、再生のフレイヤよこの者の新しい始まりを助けたえ"!」

【オガム文字:B】

 駆け寄ったキャスターが寄り添って、その布で疵口を結んでオガムの縫合を施す。

 その温かさで、どうにか意識をより戻す。

 確かにこの願いの為に、自暴自棄から頑張ろうと決意したのだ。

 

「あがッ、どう、した。痛みにのた打ち回る叫び声なんて、職業柄、聞きなれてる、だろ……!」

 城井彰人は、キャスターの手を握る。瘦せ我慢をしてアサシンを睨みつけ、不敵に笑う。

 アサシンの反応を見て確信する。

 この叫びは使える、この痛みは"勝つ"為に使える故に。

 

「鈍るよなっ、人間は脆い。キャスターを疵付ければ、マスター(生者)が先にくたばる!」

 確信する、このアサシンは優しすぎる。攻略するには精神(ココロ)を攻めればいいと。

 実例をもとにして、考えていた疑問だった。

 聖杯戦争の枠を超えた"人理平定の世界線"では、水疱の第一の特異点たるそこで。

 

 知名度により補正はあるとはいえ戦士ではない王妃、蝶よ華をと育てられた姫が。

 このシャルル=アンリ・サンソンによりにもよって処刑された本人事『フランス王妃』(マリー=アントワネット)に逸話の因果を捻じ曲げて勝利している。

 

 その勝因は、知名度の差か、フランス王朝の象徴を背負った出所不明、意味不明の神話生物(ペガサス)に匹敵する硝子馬の高い神秘(A+)のせいか。

 否、それでも型月世界において、因果という概念の力は強大である。

 

 容易く覆せない事は、同じ水疱の世界線にて"竜殺し"(ジークフリート)悪竜(ファブニール)のが関係が証明している。

 おそらくだ。おそらくだが。

 施されたバーサク化の相まって、きっとフランス王妃の天真爛漫で慈しみと優しさに溢れた精神(ココロ)で負けていたのだ。

 

 

 民衆が暴走し悪と善が反転する、悪を求める。新しき革命家に法と秩序が敷きなおされる。

 断罪(ギロチン)が政治の道具と化し、幾百の無実の人間が断頭台の露と消え、果てには敬愛していた王族を処断した。

 彼は生涯悩み続けた。処刑と人殺しは違うものとして、苦しみなく死ぬ間際まで苦痛で足掻かぬようにと腐心した。

 それでも、あの残酷な歴史の潮流の中にあって最後まで性善説を貫き、人を愛し続けたという。

 

 それはただ『ジャンヌ=ダルク』の様な非人間的と呼べるような、無窮の強さではない。

 史実においてある知己の女性(元恋人)の処刑を担当した際は、彼女が泣き叫び命乞いをしたのを見てついに耐え切れず、途中で息子に仕事を押し付け逃げ出してしまったという。

 サンソンは弱さを抱える故に、決して聖人とは言えないが、掛け値なしの善人だ。

 

「きっとアンタは、人を苦しめられない傷つけれない。悪をもって悪を断つ、処刑人の業以外で」

―――つまりは経緯はどうであれ、死者が(サーヴァント)罪なき生者を傷つけた。

 それを仕える者(サーヴァント)が正しい怒りをもって、槍にて糾弾した。

 その状況に確かに揺れたのだ。

 他人の痛みは笑えても、自分の痛みには耐えられない、腐った城井彰人とは間逆の性根である。

 

「ふふ戦争なのに、優し、すぎるな。シャルル=アンリ・サンソン、人を、殺せないアサシン……っ」

「ぐっ」

 その言葉は薄っぺらだ。

 それでも核心をついた言葉で煽る。マスターとの不和を助長しようとする。

 そも彼はサーヴァント(死者)と戦うことは承諾するが。殺人は良しとしない。

 最初の暗殺とて、【令呪】で強制でもされなければ決して実行などしなかったのだろう。

 

 その言葉に対して。

 アサシン陣営の反応は痛み分けとはいえ、ギリギリギリと歯ぎしりが聞こえる。

「ぐぬぬぬぬぬぬっ!!おのれ小僧がァあ!よくも得意げにぺらぺらと許さぬ、許さぬぞ!!」

「はぁ……はぁ…落ち着け、マスター……ここは引く他ない。治療に徹しなければ決勝に疵を残す」

■医術 A+

 その吹き飛んだ眼を抑え、その卓越した医術で応急処置を施した様だ。

 流石に年の功、痛みにのた打ち回る城井彰人に比べ、なんと冷静な対処だろうか。

 しかし、予想通り激昂したマスターと深慮遠謀なアサシンで温度差がある、やはり不和がそこにある。

 

「貴様ァ貴様の不覚だろうアサシン!よくも抜け抜けと私に意見を……!」

「勿論だ。無様を曝している、だからこそ仕切り直しが必要だ。後悔しながら刃を振るう処刑人など、駄馬にすら劣る―――キャスターのマスター、城井彰人と言ったか」

「な、んだ?」

「その"千里眼"その覚悟、君は強いだから次こそ、死ぬ間際まで苦痛で足掻かぬように一瞬の苦痛も与えず天へと送ってあげよう」

 向けられたどこか穏やかな目が理解できない。

 それは宝具使用の示唆だろうか、それを考える余裕も今はない。

 

 そして、脱出の道具を使用したか、アサシンとそのマスターの姿がアリーナより掻き消える。

 

 戦闘が終わり、アリーナに静寂が戻る。

 

「やっと行った、か」

 敵が去ったその後に、城井彰人は気が抜けてどしゃりと崩れ落ちる。

 

 関門の突破、これで第二のトリガーを確保できた。

 痛みと安堵の汗が入り混じる、これで決戦には確実に進めるのだから。

 

(肩がばっくり逝っただけでこれなのに、どうなってるんだ【岸波白野】は、やっぱ普通じゃない)

 過呼吸に脳が痺れる。落ち着いて息を吐く、深く吸う。

 想像を絶していた。覚悟があっても、そして己がここまで痛みに弱いと思っていなかった。

 今回はタイミングが良かった。マスターが実質行動不能、セラフの介入がなければあの後どう転んだかわからない。

 

 しばらくして脳内麻薬も効いてきたか、疵口の痛みはじわじわと熱へと変わっていった。

 ままならないと同時に、人の体というのは便利にできているらしい。

 

「はぁ…はぁ……ごめん心配かけた。ほんとよくやってくれたキャスター、大きな打撃を与えての道筋も見えた、殆ど理想的な―――」

 城井彰人は立ち上がり、キャスターに向き合おうとして。

 その右肩同じような斬撃の疵跡、ばっくり裂かれた鎧と肩にまだ負傷している事を理解した。

 

 想定と違う事態に、少し思考が止まる。

 

「えなんで、キャスターに疵が残っているんだ?」

「うんだって、ぼくが負った()の半分しか流してないもん」

 キャスターは、事前の話と違うことをしれっと言う。

 原始的な厄払いの呪い(まじない)、厄自体はなくす事ができない、故に人形に流すように親しい人間に流して結果的に術者のみに幸運を齎す、自動発動の黒魔術だ。

 これでは中途半端だ。きっと術者に幸運を齎すまで完成していないだろう。

 

「なんで、全部の厄を流してれば幸運補正の乗った万全の刺突を、あそこでアサシンに止めさせていたかもしれないのに」

「えー、そんなこと言う?あんなに痛がってた、全部流してたら電脳死(ショック死)してたかもしれない」

「う……、でも有効だっただろ」

 キャスターはどこか攻めるような、ジト目である。彼女は自身のマスターにも少し怒っていた。

 だって、彼女は己のマスターを呪いたくなんてなかった。

 しかし、彼がまるで平気の様に言っていたからやったのに、実際はこれである。

 

 だから。

 

「これでわかった。ぼくは凄い人との戦い方を教えてと言ったけど、マスターに任せてばっかだとちっともぼくに守らせてくれない」

 マスターである城井彰人の断末魔は、キャスターの心も搔き乱したのだ。

 サーヴァントはマスターを守護するものだと相場が決まっている。それが既に大事な人なら猶更に。

 

 キャスターとて肩を裂かれた疵は痛む。

 しかし英霊ではない。新人サーヴァントであるが、だからこそこの正しさに胸を張った。

 

「だからもう一度誓うよ。ぼくはアキトのサーヴァントなんだから。我が身を槍として、盾として幾多の敵を打ち破り、何よりマスターを守護する杖となる……。今みたいに、謂う事全部は、聞いてあげない」

 少しどきどきしながら、名前を呼ぶ。それは宣誓である。

 マスターが勝利のためにその身を削るなら、それ守護する杖となる。

 故に、己の弱さゆえに痛みと苦しみが避けられないならば、一緒でなければならない。

 

 勝利とは関係のない少しばかりの我が儘に、キャスターは微笑みを湛えるのだった。

 

 




Q:元一般人?なのにキャスター痛みに強すぎない?ガンギマリでわ??
A:作者は麻酔のない頃に歯の治療や、出産をしていた昔の人達を心から尊敬するものであります(苦痛耐性在り)
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