―――第一回戦:5日目
【月海原学園:保健室】
意識を取り戻す、普段に眠りにつく場所と匂いが違う違和感に戸惑いながら。
痺れる脳に、朧気に瞳を開く、目の前はとにかく白かった。
「あ、よかった目を覚まされました?おはようございます」
そんな空間に
しかしその落ち着いた声色に、姿に寒気がした。
この声の正体は、おそらく"月の聖杯戦争"におけるマスターの保護と健康管理を任されている。
保険医の上級AI『間桐 桜』でろう。
「―――!」
その馴染み覚えがある声に、事態を把握し意識が急激に覚醒する。
まだ気怠い身体を起こした。肩に触れれば念入りに巻かれた包帯の感触があった。
「そうか、あの後アリーナから戻った後に吐いて倒れて……」
周囲を見れば声の主に視線が合う。
そこにあるのは儚げな表情に地面につくまでの長い艶やかな紫髪、豊満な少女の
「情けない。
わかっていた事だが、サーヴァントに比べて人間はあまりに貧弱である。
マスターがこんなことで倒れていては、決戦までの限られた時間がもったいないというのに。
「あの、そのお怪我は"呪詛"が含まれたらしくて、肉体修復と一緒に解呪しました。何分解呪は不慣れでお加減は大丈夫でしょうか……?」
「あ。うんそりゃ解呪しちゃうか、調子は大丈夫。肩も動く」
『間桐 桜』はあくまでも機械的な音声に、こちらに調子を尋ねてくる。
そりゃもうその呪詛の理由はよく知ってる。キャスターの
しかし『アサシン』に勝つ為に、この呪いは使える。
解除してもらってなんだが、また呪いをかけなおしてもらおうと思いつつ。
―――じーっ。
それはそれとして、目の前のNPCはやがて物語の核となる重要人物である。
よい機会であるから、そのままじっと見つめて観察してみた。
城井彰人は知っている。この桜を体現するような儚げな
「……あの、何か?」
その不躾な視線に流石に上級AI『間桐 桜』も首を傾け、困惑の反応が返ってくる。
しかし瞳が揺れない。そこに大きな感情の波も、不快を含んだ雑念も感じられない。
彼女が平々凡々な少年/少女に恋い焦がれるのは、まだまだ先の話で間違いないようだ。
変わらない
(よかった。この様子なら、まだ確実に【殺生院キアラ】の手は伸びてなさそうだ。
過去だと推測は立てているが、万が一にも自己本位極まる女の盛大な自慰行為に巻き込まれるのは、断固して拒否していたいゆえに。
特にキャスター巻き込んだら、後先考えず城井彰人が抱える情報を全部ぶちまける用意がある。
「いや、間桐さんだっけ?」
「はい」
それはそれとして、このままだと不審者扱いされるので、会話を考える。
「長い間保健室に居て、ずっー-と永い時間同じ事して暇だと思わないのかなと」
「質問の意図がわかりません。聖杯戦争の期間中、マスターの皆さんの健康管理をするこそが私の使命ですから」
城井彰人は誤魔化すつもりで、何故か中身のある言葉を投げかけてしまう。
その微笑みも、人間的振る舞いを真似た
少なくとも、今の彼女には何の意味のない事だと知っているのに。
"RPG"の如く、会話自体を途中にぶつ切りしても問題はない。
それこそ路傍の石に同じ、適当に切り上げてしまえばいいと知っている。
「そう使命か、幾ら何百も癒しても、最後は星さえ見えない場所で一人しか残らないのに」
「はい。もちろん、その聖杯戦争を勝ち抜いた唯一無二たる最後の一人を、ムーンセルは求めていますから」
多分、城井彰人のこれは"同情"なのだろう。
明日のない
未来の可能性の話。
上級AI『間桐 桜』は目覚める。
その目ざめは城井彰人と真逆な性質、大切な人との記憶を大切に繰り返すだろう。
そして封印した記憶のバックアップさえ勝手に動き、大事な人を救う為大惨事を引き起こした。
少しの過去の灯の温かさがあれば全てを犠牲に自己拡張を繰り返す、ある意味献身の塊である。
しかし、その恋の目覚めが、史上最醜最悪の愛を打ち破るきっかけとなる事を知っている。
もしもの終わりの先が、そうなるように。
「間桐さんに予言をあげる」
いつか来る『間桐 桜』の目覚めにただ、城井彰人の都合の良いよう動けばいいと言葉を選ぶ。
己の性格の腐りようは知っている、同情を抱いていながら笑ってしまう。
「貴方も身勝手な願いをきっかけに星を見る。待ち人は来るよ絶対に、その時後悔しないように。その時今よりずっと忙しくなる、永劫が有限になるんだから」
「……はい?」
再生を繰り返すムーンセルの永劫の毒、目覚めてしまえばそれは辛い事は知っている。
ただいつか『間桐 桜』の目覚める恋が確実に、人類最悪の自慰女を潰してくれと何処か思っている。
きっと城井彰人はどう足掻いても、ムーンセルの一部である。
だからこそ、
「ただの自己満足、意味は分からなくていい。ただ負けないように。治療、ありがとうもう行くから」
「はぁ、どうかお大事に、もう遅い時間ですから真っ直ぐ帰ってくださいね」
形式的な挨拶を済ませ保健室を後にして、『月海原学園』の廊下へと出る。
そして。
「キャスター、いる?」
「……ん」
そして己のサーヴァントであるキャスターを呼んだ。
少しの猶予の後、紺銀の輝きと共に赤毛のメッシュの混じった金髪の少女が虚空から現れる。
しかし、なぜかその声はいつもより低く、何か言いたげだった。
「よかった。キャスターの怪我はもう治ってるみた……なんか、機嫌悪い?」
「別にー、ぼくは本気で心配してるサーヴァントを無視して、女の子を口説いてたマスターなんて知りませんー」
「誤解だ。本気で」
アレを口説いたというのは、甚だ無理があるだろう。
ましては相手は今はまだ
それは"予言"と称して、身勝手な願望を押し付けただけである。、
城井彰人にとって『間桐 桜』これから度々世話になるだろう保険医のAIで、そして正反対の
「『間桐 桜』を観察してたのは"ムーンセル"の運営を司る上級AIの一人だったから、"セラフ"の状態を知るいい指標になる」
この聖杯政争の舞台である。ムーンセル・オートマトンの運営は不変だ。
故に変化を探るは実質、ただ一人の。人類史上類を見ないド変態の動向を警戒しての事である。
しかし、詳細を言う必要はないだろう。どこから端折って話しても教育に悪い事この上ない存在だ。
「普通はNPCでも、女の子の顔をじーと見つめたりしないの!まったく子犬ちゃんの事と言い、マスターはデリカシーが欠けてるんだから」
「まぁ、それもそうか」
城井彰人は実の所よくわかっていないが、キャスターに同意して頷いておく。
そういう気配りは岸波白野の領分だろう。
自分でいうのもなんだが、城井彰人の思考の幾分かは将来的を含め敵対者への嫌がらせで占められている。
それはそれとして改めて。
「とにかく心配かけたキャスター、何時間くらい無駄にしたかわかる?」
「ン……、ぼくはそういう所もダメだと思うんだけどなぁ、マスターが寝てたのは12時間位かな」
窓から外を見れば、夕日が沈む行く時間帯だった、
『アリーナ』も『図書館』も『購買部』もこの時間にはもうすぐ利用できなくなる。
「んー、アリーナに行く時間もない不味ったな。できる事がない」
何とも中途半端な時間だった。眠るにしてももう眠くもない。
何の拘りか知らないが月の聖杯戦争の舞台である『月海原学園』の運営は、実際の学校に酷似したスケジュールで進んでいる。
故に、夜の帳が下りれば、手持無沙汰にならざるを得ない。
ならば。
「じゃあ、教会に行こう。部外者だからムーンセルの運営から外れている」
「へ?」
■【月海原学園:教会】
中庭に出ればそこにあるのは西洋式の小さな教会である。
その厳かな扉を開く。
中を見れば誰も祈りをささげる者はいない。空洞の空間が広がっている。
その最奥に彼女らはいた。
「ありゃ、新顔のマスターね。はぁいようこそ、"魂の改竄"行う月の教会へ」
「ん、お前は……ほうこれはまた面白いのが来たな」
そこに座るは赤の青の二人の妙年の女性、ただしともにとんだ化け物である。
現存する五つの魔法の正式継承者、"最新の魔法使い"『蒼崎 青子』。
極めて本人に近い人形を作り出し自己認識を踏み倒された、
方向性を大きく異なるが、現代における魔術師の最高峰たる二人がそこにいた。
そうつまりは等しく、人でなしの最高峰の二人である。
城井彰人は緊張感で息をのむ。
ムーンセルの庭の中とはいえ下手打てば、青の女が吸う煙草の火消す如く容易く殺されるだろう。
とはいえ、魂の
そんな緊張感をよそに。
「不躾でなんだが。少年、君は変態かね、それとも君のサーヴァントがそういう嗜好が強いのかね?」
「本当に不躾だな!?いきなりなんですか、凄い失礼なこと言う」
そして青の女、『蒼崎 燈子』から予想外の不躾な問が飛んできた。
ついため口で返してしまう、慌ててその口を閉ざした。
こちらはただ扉を開けて入ってきただけ、初対面で変態呼ばわりされるは初めての経験だった。
「そりゃまぁ、原始的だが強力な"厄流しの呪い"だろう?サーヴァントとはいえ"使い魔"に己を進んで呪わせる主人を他にどう表現すればいいというのだ」
「はっは、無邪気で執着心が強いブリテン妖精の中にはそういう類もいるけどねー。魅入られたとしたらご愁傷様、そういうのはすぐ飽きて捨てられるわよー」
「違う。聖杯戦争で勝つ為に必要だっただけ」
なんか勝手に城井彰人のイメージ像を作られているようだ。
盛大に抗議したい所だ。こちらはいたって真面目に考えた
予想以上に"シャルル=アンリ・サンソン"の矜持に刺さったのを含めて、自分を褒めたいところだった。
―――キィン!
「黙って聞いてればなんて失礼な人達、こっちの気持ちも知らないで―――」
何処か、主従を侮蔑するその物言いが聞き捨てならなかったのか。
サーヴァントである、赤毛メッシュのキャスターが実体化して割り込んだ。
「(サーヴァントの)ぼくが主を呪いたくて呪う訳ない。マスターが(勝つ為に)どうしても言うから―――!!」
「キャスター、ステイ」
「むぐぅ!」
なんか口走りそうになった、キャスターの口を片手で塞いだ。
きっと、彼女にとっては主従の名誉の為の抗議だったろうが、端折ったその言い方だと、マスターである城井彰人が度し難い変態になってしまう。
流石に、必要以上の風評被害は御免蒙りたい。
「はははっおもしっろい主従ねー。鎧を見たところ"霊格"は高くないけど西洋英雄と言ったところかしら、妖精混じりじゃなくてよかったわねー、妖精混じりのキャスターとか最悪よ」
「安心したまえ、性癖で差別はしない。被検体は多ければ多いほどいいからな」
そんな反応に、赤の女こと『蒼崎 青子』が愉快だと快活に笑い。
多少、生暖かい目線を向ける青の女こと『蒼崎 燈子』はゆっくりタバコの煙を吐いた。
「む、むむむ納得いかないー!」
「もうそこはどうでもいいから、そちらの"ムーンセル"との協定通り"魂の改竄"を依頼する」
とりあえず抗議姿勢のキャスターの、得物である旗槍を実体化を止める。
そこの二人は並みのサーヴァントを殴り倒せるほどの理不尽だ。
最高峰の
……やる必要があるとしたら、どうにかしてお互いに喧嘩するように誘導してからである。
「あいよー。はー、お仕事お仕事忙しいわー。そこの女はこれっぽっちもカセットテープの役にも立たないからね」
「そういうお前はハンカチ以下だがな、まぁ待て、せっかく興味深い
『蒼崎 燈子』の意外な
城井彰人にしても、"失せ人"探しでこんな所に居座ってる『蒼崎 燈子』が出張るのは予想外の事である。
ぴきぴきと青筋を立てて赤の女が言う。
「……どーゆー風の吹き回しよぉ"姉貴"、いつもほかにやる事があるとか言ってあたしに仕事押し付けてるくせに、ちょっと都合よすぎない?」
「なに、そのガサツな性格で手先で、貴重な
「あ、アレはマスターの悪かったのよ!違法スレスレで改造してくれっていうから、スキルをいくつか追加してあげたら……!」
『蒼崎 青子』は流石に負い目があるのか、ぐぬぬぬと歯噛みする。
軽く言ってるが、ナチュラルに
睨み続ける赤の女を傍目に、青の女は教会の真ん中に精密な電子空絵図の展開してこちらに招く。
「ほれ、私の気紛れは霞より儚いぞ。気が変わらない内に少年のサーヴァントを見せてみろ」
(うー、本当に大丈夫なんだよねマスタ―)
(不埒な行為をすれば『蒼崎 青子』が口をはさむ。見ればわかると思うけどこの姉妹は仲が悪い。そうすればまだ三画ある"令呪"でどうにかする)
"令呪"、それは聖杯戦争という枠組みで与えられたサーヴァントに対する"絶対命令権"だ。
源流の流れにおいても距離・時間・出力、その条理をひっくり返し可能な限り実行させる3回のみの切り札である。
(ん、マスターがそういうなら……)
正直、気紛れとは言え『青崎 燈子』の手を借りれれるのは、棚から牡丹餅の幸運だ。
不安に呟くキャスターは促され、おずおずと前に出る。
するとキャスターの周りを、あっと言う間に霊子で作られた幾何学文様があっという間に取り囲む。
「うわ、うわわ。なにこれ凄い……!」
キャスターはその圧倒的な処理能力に息をのみ。
青の女が仮想のキーボードを高速でたたき、教会の静謐な空間に霊子天球と数列が躍る。
「ふむ、概念に
青の女は煙草の煙を浅く吐きながら、淡々と解けていく情報を目に追っていく。、
実の所、彼女は気紛れという人生の贅肉に、無駄に時間を消費する気もさらさらなかった。
故に速攻に終わらせる為に"改竄"と"解析"を
その程度、最高峰の人形遣いたる青の女にとっては朝飯前の所業だった。
(なるほど、"彼女"を核にするなら英雄としても呼び出されるだろう。後世の裁判にて覆るまでは間違いなく魔女だった、つまり今の"表情"は高名な霊格にこびり付いた油汚れに同じ、にしては酷く安定している―――ん?)
青の女が、軽快に踊っていた指がふと留まる。
雑多な魂の集合体である目の前のそれが、安定しているその理屈を紐解いたゆえに。
それは『聖堂教会』が疎み、『魔術協会』が辿ろうとするとある一つの"秘跡"の概念である。
「ふは、ははははは!これはとんだ"天然"ものだ。"秘跡"を辿る模倣する魔術師が幾度も辿った空論が!こうも偶然に絡み合うとはな!!
目の前のサーヴァントは雑多な霊魂の集合体である。
本来、その"表情"など一定するものではない。漫ろ変わってしかるべき、なのにそれが一体化して機能してしまっている。
「いきなり笑いだしてどうしたのよ姉貴。ついに人形遊びのし過ぎで頭がおかしくなった?」
「ふん、暴力でしか"魔術"を理解できん女には到底わからんさ。話すだけ時間の無駄だ」
赤の女が訝し気に突っ込むのを、青の女が首を竦めて馬鹿にする。
ぴきっ!
また一段、教会の空気が冷え緊張感が高まってきたが、それを気にも留めず話は進めていく。
「…………どういう事、教えてほしい。―――対価はどうにか用意する」
「お断りだ。"天然"ものだからこそ、価値がある。そもそも私にとってこの程度の再現など容易い。"養殖"物など幾らでもある。"材料集め"自体が趣味に合わないから、やらなかっただけの卓上の空論だ」
城井彰人は、己のサーヴァントに対するどうやら不穏な事実を訪ねた。
しかし、魔術師としての基本原則である『等価交換』を持ち出しても、にべもなく断られる。
最高峰の
「あぁ、だが私に対して用意はなくとも『等価交換』を持ち出したのは合格だよ。"ただで教えろ"なんて言う戯言は、私の腕に対する侮辱にあたる。八つ裂きにしてやるところよ」
「……っ」
思わぬ所に埋まっていた地雷回避に冷や汗をかいた。
彼にとっては魔術師相手という人種を、一番わかりやすい価値観で言葉に出しただけだった。
青の女、『青崎 燈子』は不敵な表情で煙草を深く吸い、また吐き出す。
「その小賢しさに免じてヒントだ少年。君のサーヴァントは間違えなく"魔女の概念"そのものだ。そしてそれをその姿に足らしめているのはまさに奇跡、魔術いや"聖堂教会"の秘跡において"3"という数字はある意味特別な意味を持つ。
「魔女の概念…、3という数字……?とにかく感謝する。そのヒント、覚えておきます」
その言葉は、青の女にとってはとんでもないサービスなのだろう。
一字一句頭に刻みながら、反面心の中で歯がんだ。
キャスターが特殊であるならば、マスターとして把握する必要があるというのに。
実の所、魔術師として無能である彼にはとんでもないハードルである。
「そして気紛れの続きだ。次も私が改竄を見てやる……が、余計な手はださん。要望も聞いてやらん。只得られた
「げー、姉貴がそこまで言うか目を付けられちゃったわねぇ。気をつけなさいそいつの性格の悪さは折り紙付きよぉ、
その流れが面白くないのか、蚊帳の外になりつつあった『青崎 青子』が茶々を入れる。
やりたくもない、得意でもない仕事がとられた事は別に気にしない。
ただ、都合よく出しゃばり、思い通りに事が進んでいるのが気に食わないのである。
ただそれは青の女にとっての
故に、その言葉を皮切りに。
「……(かちゃり)」
「お、やんのか姉貴、事前準備もなしであたしに喧嘩で勝てるつもり?」
赤の女『蒼崎 青子』が、その腕の"魔術回路"起動し"蒼の灯る"指先を向け。
青の女『蒼崎 燈子』がトランクケースを掲げ、その封印の錠に手をかけようとする。
流れる空気はまさに一触即発のそれだ。
高まる魔力の流れが、これから起こる惨状を予想させるだろう。
「え。そんな言葉で物騒なもの向け合って殺し合うの???」
「言ってる場合かキャスター、逃げるよ巻き込まれる」
キャスターは、魔術師がどういう人種かわかっていない。
だから姉妹でありながら速攻に殺し合いに発展した様子に呆気にとられる。
事前に予想していた城井彰人が引っ張って、教会より離脱する。
そしてその数瞬後。
ドォオオオン!!
―――背後で極光と炸裂音が鳴り響くだろう。
それを聞きながらキャスターが呟いた。
「ねぇ、マスターあの二人姉妹らしいのに仲悪くすぎない?」
「まぁうん。簡単にまとめると"遺産"を巡って殺しあう仲だ。しかも
「あぁーそっか、どんな遺産か知らないけどそれは仕方ないかな」
キャスターはその言葉に納得する。
彼女を構成する生まれは古い。
土地の恵みが富を生み出す重農主義的な時代、それこそ長男のみが全てを受け継ぎ。
次男、三男は身一つで己の食い扶持を探さねばならない時代だった。
割とそれにより骨肉の争いがありうる事も納得できる。
「そんな事よりキャスター、改竄後の体の調子はどう違和感とかある?」
「うん、すこぶる調子がいい。まるで生まれ変わったみたいにぼくの容量自体が拡張されたみたい」
「ん、よかった。あの人形師の腕は間違いとはいえ、ね」
【筋力:D⇒C】
マスターの権利としてマトリクスの閲覧し、筋力のステータスが拡張されたことを確認しながら。
キャスター本人にも不調がないか、確認をとる。
「とにかく、
「えーぼくはあの二人は嫌いだよ。怖いし現在進行形で野蛮だし、失礼な人達だもん」
「あきらめて魔術師なんてそういう人種だから、きっとこれから戦う魔術師達も、ね」
典型的な魔術師というのは元々根源なんて言うたどり着いたところで、現世に何の得にもならないものを追い求める人種だ。
過去への回帰を追い求め時代の流れと俗世と迎合するせず、そのアグレッシブ自殺に周囲を幾らでも巻き込むだろう。
むしろ、あの姉妹はその中でも変化を受け入れ、手段を選んでいる方である。
それはそれとして。
「
「はーい。マスター、こんな時間に話したいこともいっぱいあるからね」
「……ん?」
楽し気な声色で。
キャスターは特徴的な赤髪のメッシュを揺らし、振り向いて微笑んでいる。
「そんな不思議そうな顔しなくていいよね。マスターがぼくのこと気にしてくれているみたいに、ぼくだってマスターを知りたいんだから」
「面白い事なんてなんもないんだけどな」
「それでも聞きたい。だってぼくのマスターだもん」
そんなことを言いながら、キャスターは気兼ねなく手を握って引っ張ってくる。
誇れるものなど思いつかない、城井彰人はそんな様子に、困り頬をかきながら受け入れる。
―――決戦まであと二日。
確かに育まれる絆の一幕がここにあった。