スカイバトルのトーナメントは8人トーナメントでの開催となった。
優勝するために勝ち抜く回数は3回。それだけ戦えばジムリーダーとの公式戦に手が届く。
ハトウの予選試合は一番目。フィールドに立つと、ルールのアナウンスが終わるところだった。
「スカイトレーナーですか」
「ええ。我らスカイトレーナー、空を飛ぶものです」
スカイバトルは通常のポケモンバトルに三つの特殊ルールを付け加えたものである。
一つ、空を飛べるポケモンだけが参加可能。
二つ、地面に堕ちた時点で負け。
三つ、トレーナーはバトルフィールドを飛行しても良い。
最後のルールにより、飛行スーツを着用して気流の流れを自分の体で感じながら戦うスカイバトルの専門家、スカイトレーナーが存在する。
そしてスカイバトルが公式戦で行われる機会は非常に少ない。アマチュアが参加できる大会など、このハクダン祭りを含めても両手に余裕で収まる数だろう。
小さい舞台でも逃さずに実績を狙ってくるような抜け目のないスカイトレーナーが、第一回戦の相手である。
『予選第一試合、ハトウ選手対フウカ選手。はじめ!』
「行きますよ、万太!」
「さあ! 空のフィールドへおっとり刀で飛びましょう、オオスバメ!」
ハトウは地上から、フウカは空へと飛び上がって青空に手持ちを繰り出す。
スカイトレーナー相手に絶対してはいけないことは、風を用いた攻撃である。空を飛んでいる彼女らは一見すると急な風に弱いように見えるが、彼女らが空の専門家であることを忘れてはならない。風に乗ることを武器とし、風を利用する術に長けている。付け焼き刃で起こした風は利用されるだけ。
だからハトウは物理的な打撃で羽を奪う。
「万太、"がんせきふうじ"です」
「オオスバメ、"まもっ"てください」
ひこうタイプの天敵である岩技が障壁に阻まれ、ハトウは舌打ちする。この後の展開がわかってしまったから。シングルバトルで"まもる"必要がある状況はそうあるものではない。
あるとすれば、その一ターンが欲しい状況である。
「"かえんだま"発動です。やられる前に押し切ります!」
「焼き鳥戦法ですか。厄介ですね。」
オオスバメが身を焼く炎に抗い奮起する。普通のポケモンならば発生する火傷の痛みでの攻撃力低下すら無視して全身に根性で力を漲らせた状態。ここから"からげんき"で短期決戦を仕掛けるのがフウカの十八番であった。
そして相手が強ければ強いほど、それを利用する戦術もある。
「さあ、"からげんき"よ!」
「"あやしいひかり"です!」
火傷を負いながらも根性論で空元気を振り絞ったオオスバメの攻撃を万太が耐久型ゆえの体力の多さで耐え、すれ違い様にゆらめく光を発する。
直視してしまったオオスバメは軽く前後不覚状態となり、トレーナーの次の指示を聞く前に翼をもつれさせて根性で籠った力がそのままダメージになる。
混乱している間に"はねやすめ"をした万太が二回目の"がんせきふうじ"を放ち、飛ぶ体勢の整っていないオオスバメはそのまま墜落し、地面に体を打ちつけた。
『そこまで! ハトウ選手の勝利!』
スカイバトルの終了条件である地面への墜落を満たし、ハトウは予選を突破となった。
「お疲れ様でした、万太」
「まぁぁああ」
バンジの実を与えてボールに戻し、出張ポケモンセンターの回復所に預ける。
待機エリアに移動する最中で、ハトウは先ほどの対戦相手が呆けているのを見つける。
「大丈夫、ですか?」
「ぇ、あ、大丈夫、少し心が
「大丈夫じゃなさそうですね。待機エリアはあっちですよ。敗退しても見学のために残っていて良いそうです」
二人は待機エリアに移動し、イッシュトークで盛り上がった後、先ほどの試合の振り返りと目の前で繰り広げられる試合について話す。
「レディアンとは珍しいですね」
「この辺りに生息してるらしいから地元住民では?」
「でも手練のトレーナーっぽいんですよね」
目の前の試合では虫取り少年のバタフリーと、エリート級の雰囲気を漂わせる女性トレーナーのレディアンが空中戦を繰り広げていた。
『そこまで! レイカ選手の勝利!』
「あなたの次の試合相手、ユニークな技で勝ったわね」
「"やつあたり"ですか。レベルは30程度なので威力は推定80付近といった所でしょう」
"やつあたり"は使うトレーナーがほぼいない技である。威力が高ければ高いほど懐かれていない、嫌われている証明になり、外聞も良くない上に使い勝手も悪い。なにしろ使えば使うほど威力が下がるのだから。
試合を終えたレディアン使いのレイカ選手が待機エリアに歩み寄る。
「次の相手は貴方?」
「ええ。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね。まあお祭りだしお互い楽しみましょう。あの子もそうしたいらしいし」
「あの子?」
「私と参加してるレディアン、参加したがっていたからさっき捕獲したの」
「さっき、ですか。それは恐ろしい」
スカイトレーナーのフウカにはピンときていないようだが、ハトウには口で言っているほど簡単なことではないことがわかる。
参加したがっているから参加させるために捕獲、これ自体はたまにある出来事ではある。そのポケモンが指示を聞くことは珍しいが、エリートトレーナーなら特筆すべきことでもない。
ハトウが恐ろしいと感じ、最も警戒すべきと感じたのは育成力。捕まえたばかりのポケモンに野生状態では覚えない"やつあたり"を習得させる技量。技マシンでの習得にも習熟期間が必要となる。それを短時間で使いこなせるまでに育成したのならば、レベル以上の実力を持っていてもおかしくない。
警戒レベルを上げ、ハトウは準決勝のフィールドに上がる。
「準決勝第二試合、ハトウ対レイカ。はじめ!」
「万太、頼みます!」
「レディアン、美しく行くわよ」
「マァァ!」
「ブブブ……!」
レディアンとマンタインの特徴は非常に似通っている。低い攻撃力と高い特防に豊富な変化技。だからこそ戦略もまた似通う。
「「"どくどく"」」
猛毒状態による耐久戦術。場を白けさせるためエキシビションマッチではあまり使われないものの、戦術としての有用性は広く認められている。
ハトウは万太がラムのみを齧って回復するのを確認しつつ、"しんぴのまもり"で状態異常を防ぐ指示をしようとするも———
「"アンコール"しなさい」
「ブブッ!」
差し込まれた"アンコール"で"どくどく"を強要され、万太が無駄な毒を吐き出している間にその肉体がもう一度レディアンの猛毒で冒される。
アンコールの呪縛が解けないまま、万太に"やつあたり"と"どくどく"のダメージが積み重なる。警戒しすぎて搦手に頼ったのが仇となった。
「やはり恐ろしい育成能力ですね」
「褒めても何も出ないわよ」
"どくどく"も野生状態では覚えない技。その猛毒によってタイムリミットが設定されてしまい、ハトウは冷や汗を流す。
アンコール状態が解除されてもすぐに"アンコール"されてしまうだろう。体力レースでは"やつあたり"分のダメージがある以上負ける。
毒しか吐けない状態で、どう勝ちに行くか。
その考えからハトウは一つ思いつく。技が"どくどく"しか使えない。ならば———
「突っ込みながら顔に"どくどく"です!」
「もう毒状態、意味なんて……! 避けなさい!」
毒が毒としての意味をなさない以上、紫色の液体として活用する。
一瞬レディアンの視界が隠れた瞬間に、万太が衝突する。"たいあたり"ではない単なる突撃。ppを消費しない以上威力も"わるあがき"並だが、アンコールの効果も受けない。
仮に視界の塞がった状態で受ければ、右も左も、上下すらわからない状態になる。
「立て直して!」
「翼ではたいてください!」
"ダブルウィング"でも、"つばさでうつ"ですらない、ただの張り手。それでも重力方向に叩けば落下速度は上がる。
顔に紫の猛毒を被ったまま、レディアンが地面に叩きつけられる。
『そこまで! ハトウ選手の勝利!』
ラフプレーに頼ってしまったことは反省事項だが、第二試合も勝利できたことにハトウはホッと息をつく。
ここまで全て墜落勝利ながらも、ハトウ、決勝進出。
ストックが切れたのでこれより隔日更新となります。