「ハトウ、すごかった」
「どうも。客席で静かに観戦してくれたのは見ていましたよ」
ルゥが客席から出て、大会終了により立ち入り禁止の解かれたフィールドに立ち入ってくる。
試合の合間にちらちら客席を見ていたハトウは、内心ルゥがじっと座っていられていることに驚愕していた。
「いつもソクで倒してるから、万太があんな倒してるの驚いた」
「万太は攻撃に向いたポケモンではありませんが、指示や戦略次第であれほどに戦うこともできます」
「ルゥもやりたい」
「なら日々勉強あるのみ、ですね」
先ほどまでの戦いを想起して、ルゥは目をキラキラさせる。
その目を見てハトウは納得する。ルゥは強くなりたいのだ。そして、強さへの最短経路は先人から学ぶこと。学び切ってから自分の色を出せばいい。それをルゥには嫌というほど叩き込んだ。
だからルゥは飽きてしまうことがなかった。目の前で繰り広げられる試合に、強くなるためのヒントが大量にあったから。
「おう、最後の"こごえるかぜ"。ありゃあ見事だったぜ」
出場選手待機エリアで観戦していたハトウと戦ったトレーナー達がぞろぞろとフィールドに入ってくる。
その先頭で気さくに声を投げかけてくるルイに、ハトウは軽く頭を下げながら応じる。
「どうも」
「なんだぁ? この嬢ちゃんは」
「お子さんですか?」
「違いますよ。こんな大きい子供がいる年に見えますか」
「でしのルゥです」
「ルゥちゃんよろしくね」
旅に出ると決まって最初にハトウがルゥに教えた言葉である"弟子"を唱えるルゥに、レイカが視線を合わせて挨拶する。
その目を見たルゥは、レイカから隠れるようにハトウの後ろに隠れた。
「あら、嫌われちゃったみたいね」
「すみませんね。まだ知らない人との距離感を掴めないようで」
一連の様子を眺めていたビオラがなにやら頷き、首から下げているカメラを掲げる。
「いいんじゃない、いいんじゃないの! ここに居る人で写真撮ってあげる!」
「良いんですか?」
「いいのいいの! ほら、並んで!」
ハトウとルゥ、参加者のフウカとレイカとルイが横に並ぶ。ジムリーダーの業務の傍らにカメラマンとしても成功を収めている彼女に写真を撮ってもらえるなど滅多にあることでは無い。
角度と位置と被写体の表情を調整したビオラは、撮影の合図の言葉を口にする。
「はい、チー……」
その瞬間、爆音と赤い光が全てを包みこんだ。
「なんだぁ!?」
「爆発か!?」
ハクダンジムの方向に黒い煙が立ち込める。
晴天の霹靂のような事態に右往左往している運営スタッフを置いて、ハトウ達は煙の立ち上る方へと走り出した。
「派手なシャッター音ね」
「そんなことを言ってる場合ではありません!」
「見てみろ。ふざけた野郎がいるみてぇだぜぃ」
火元は噴水のある広場に面したトレーナーズスクール。ハクダンジムとはお隣の関係であったが、それが火の手に包まれている。
煌々と燃える大炎の前で、赤いスーツを着た男がモンスターボールの詰まったケースを両手に持ってなにかを叫んでいた。
「500万の借金でヒヒダルマ。俺の家計もこのクソッタレな街も"かえんぐるま"だぁ!」
ケースに入ったモンスターボールからポケモンが飛び出す。ドテッコツ、クリムガン、オニドリル、ジヘッド、ゴローン。いずれもハクダン近くの山脈に生息するポケモンである。
出てきたポケモンたちは赤スーツの男の指示を聞く様子もなく、ただただ暴れ回る。街灯、ポスト、カフェ、写真館、目に付く全てに攻撃し、それらが崩れることで火の手が急速に広がり始める。
「アメモース、消火を手伝って! ビビヨンは私と一緒にあの赤いのを!」
「ペリの字は火消しに行け。俺は他の手持ちで暴れてるポケモンを倒す」
「エモンガ、オオスバメ、空のポケモンを止めますよ!」
「ソク、万太、ヒヤ子は火の処理を。ルゥはポケモンセンターにでも隠れて。ハリマロンとオノノクスはルゥを守ってください」
トレーナーカードを所持している人間はポケモンセンターの無償利用やフレンドリィショップの優待などの恩恵を受けられる代わりに、カードのランクによって有事の際に治安維持の協力をする義務を負う。
ゆえに長くトレーナーをやっている人間こそ場慣れする。大会に参加していたトレーナーはいずれも手慣れのトレーナーであり、すぐにこの場で自分のやるべきことを把握して一斉に動き始める。1に火の対処。火があると危険な以上に、ポケモンが怖がって暴れる二次被害の恐れがある。2に暴れるポケモンの対処。一般市民に被害を出してはならない。そして3は、
「ハトウは?」
「僕はマフォと大元を潰します」
犯人の確保。追加でフリージオを何体か繰り出している赤いスーツの男を捕まえることである。
「散開ッ!」
全員がなすべきことのために各方面に散らばる。フウカは空へ、ルイは地上で、噴水の広場からポケモンを出さないように動き出す。
水ポケモンはトレーナーズスクールの鎮火を行い、残ったハトウとビオラが赤スーツの制圧を行う。
「マフォ。子守は終わりで闘争の時です。初めての鉄火場ですが、しっかり僕の指示に従ってください」
「コン!」
ハトウの手持ちは、新顔であるマフォの一体のみ。
倒れた街灯や建物の壁をうまく避けながら、ハトウとビオラの二人は赤スーツの方へと走り出す。
「そのフォッコはまだ仲間になったばかり?」
「ええ。つい先週プラターヌ博士のところから。レベルが低いので僕たちは補助に回ります」
「こっちに来て大丈夫だったの? 消火の指示に回った方が……」
「消火は消防隊がいますからね。それにジムリーダーとはいえ、手持ちの回復も満足にできていない状態ではキツイでしょう」
そう、ビオラのビビヨンは先ほど万太に倒されたばかり。回復装置で最低限の回復は行えたが、十分とはとても言い難い。
それならばサポート役が必要であろうとハトウは考えたのだった。
「それに、身を守れる程度には鍛えたのでご心配なく」
「コォォォォォォン!」
物陰から飛び出すように襲いかかってきたアリアドスを燃やして倒したマフォが身震いする。
アリアドスを倒した経験で、肉体がより闘争に適した姿へと変化しようとしているのだ。
フォッコからテールナーへと進化したマフォは、急成長した身体の感覚を確かめるように自分の前足を振る。
「コォン!」
「この混戦、中々いい経験になりますね」
空から襲来したオニドリルを投げナイフで墜落させ、それをマフォに倒させる。レベル不足で多少火力は足りないが、そこはハトウがサポートできる範囲である。
障害物と暴走ポケモンがいるとはいえ、噴水の広場はそこまで大きいわけではない。
赤スーツの男の元まで辿り着いた二人は、赤スーツの男と対峙する。
「そこまでよ。放火、器物損壊、ポケモン犯罪。諸々の現行犯で逮捕します。大人しく投稿してくれれば減刑もありえるわよ」
ポケモン犯罪に対処できる治安維持戦力としての役割も有するジムリーダーは治安維持のために逮捕権を有する。
ビビヨンを控えさせて、ビオラは投稿するよう呼びかけるが———
「法律が俺を守ったことがあったかよ、フリージオ、やっちまえ。"こおりのつぶて"だ!」
犯人のフリージオ5体が一斉に氷をトレーナー側に発射する。全て迎撃するなど不可能。絶体絶命のピンチを救うのは、マフォの変化技。
「マフォ、"サイコフィールド"」
足元が不思議な念で覆われ、ビオラに向けて高速で射出された氷礫がみるみる勢いを失う。
サイコフィールドの効果の一つ、先制技の無効化である。
プラターヌ研究所でマフォを仲間に引き入れてから、出来うる限りの時間を取って彼女とコミュニケーションを取った。そうして信頼関係を築き、ジム戦に備える他のメンバーとは違う方針で鍛えることで技を仕込んだ技の一つであった。
「ビビヨン、"サイコキネシス"で拘束して!」
「フリ三郎かばえ、"いばる"で混乱させろ」
「間に入って視界を切って、"マジックコート"」
"サイコキネシス"は"マジックコート"で跳ね返された"いばる"で混乱したフリージオに命中。赤コートの拘束には至らない。
「体力が少ない飛行タイプと搦手しか使わない雑魚なら勝てるな。人質にさせてもらうぜ」
事件を起こした犯人ながらもその考察は正しい。
フリージオは物理耐久が低い分特殊耐久が高く、飛行タイプの特殊アタッカーであるビビヨンとしては厳しい相手。このままならば数の力でダメージレースに負けてしまうだろう。
(ビオラさん、特殊技でいいので全体攻撃をお願いします)
(秘策?)
(そんなところです)
ビオラは一瞬逡巡するも、自分を打ち負かした相手の策に身を任せることを決め、ビビヨンに指示を出す。
「"むしのていこう"!」
「へっ、そんなのがフリージオに効くかよ」
「"ワンダールーム"」
場全体が不思議な壁に包まれ、物理防御と特殊防御が入れ替わり、"むしのていこう"がフリージオ達を薙ぎ倒す。
「なぁっ!」
「今よ、"サイコキネシス"!」
念動力が今度こそ赤スーツを捕らえて空中に吊し上げる。逃れようとジタバタするも、無意味であることを悟ってがくりと項垂れる。
「18時13分、確保」
ビオラがホロキャスターで時間を確認しながら、犯人に手錠をはめた。
次回更新は8/29の朝までにするつもりですが、所用があるもので8/31の朝になるかもしれません
次回はルゥメインです
※8/31追記
高熱を出してしまい執筆できていないので、次回更新は快復してからとなります