第四話
「ははは。わっせ派手にやったらしいの」
「……どうも」
翌朝。寝不足のハトウはシズイと面談を行なっていた。話題はもちろんルゥについてである。
「で、やってみてどうよ」
「才能は感じましたね。異能由来の統率力はもちろん、勝負勘が鋭いのと、感覚ですけど勝者であることへの渇望を感じました」
オノノクスを従えている時点でトレーナー全体で上位に入るカリスマ性を持っている。更に声なしで指示を行うだけの信頼関係を結ぶなど、エリートトレーナーでもできる人数は限られているだろう。
そしてハトウの拳を見切った野生の勘。これはポケモン勝負にも応用可能なスキルである。分かりやすく守りを固めてしまったことでハトウには掴みへと移行されてしまったが、カウンターを決められていたらまた勝負の流れは変わっていた。
そして勝利への欲求。一見カリスマやセンスに劣るように見えるが、強くなるためには最も重要な要素である。
「勘は勘なんで戦略を体系的に学んだトレーナーにはまだ勝てないでしょうけれど、いずれは勝負勘と統率力を高水準で備えてなお貪欲な良いトレーナーになりますよ」
「トレーナー以外の道は無理そうか?」
「戦って勝って生きるって図式が根底にある以上キツそうですがね。まあ本人がバトル以外に興味を持つかにかかってると思います」
「社会科見学への参加を検討するしかないか。本当は旅が一番けん、そうしたいんじゃが……」
「彼女の場合は大人が付き添わないと色々な面で不安ですからね。ジムトレーナーはジムを離れられませんし」
セイガイハシティの中であればジムトレーナーが付いてサポートすることもできるが、ジムトレーナーにもジムの通常業務があるので、ハトウのように休職申請を出さねばセイガイハシティから離れることはできない。ルゥのために街の外までジムトレーナーを付き添わせるのも手間がかかりすぎる。
「そういえば、昨夜の件でお咎めは無しですか?」
「昨日よりもルゥが楽しそうにしてるったい、おいからは何も言うことなかよ。ナギサからもこってり絞られたんだろ?」
「それはもう、一晩中」
師弟は顔を見合わせて一泊。同時に噴き出して、この話は仕舞いとなった。
◇
その後のルゥの態度は、当初の予測とは反して非常に素直なものだった。
最初の一週間は当初は常識の欠如と高い身体能力による問題行為が目立ち、自分に対して好意的な大人に対してどのように振る舞えばいいのか分からないことも相まってジム全体で対処に追われていたものの、周囲も彼女もその状況に慣れてきてからは落ち着いた。
彼女なりの理屈が通る形で説得すれば問題行為を再発しないというルゥの予想外の利発さと、名目上はシズイが捕獲してキープしていることになっているオノノクスに制約事項を仕込んで、護衛とお目つけ役を兼任できるよう育成したのが大きかったとジムトレーナーたちは分析していた。
そして馴染んでからは、
「ハトウ! 勝負!」
「これから掃除なので無理です。手伝うか他の人に頼んでください」
「じゃあナギサ!」
バトルの腕を鍛え、
「私の戦略はゴルダックで場を整えて、相手の妨害をしてからスターミーで一気に決着をつけるって戦い方なの」
「うん。ビリビリがやばかった」
「ゴルダックの"みずびたし"でスターミーの"10まんボルト"をオノノクスの弱点にしたんだけど、この時ゴルダックをデバッファー、スターミーをアタッカーって感じで位置付けて、それぞれの役割をこなしてパーティ全体の勝利を狙うのが役割理論って考え方なの」
「やくわりりろん」
「そう。役割は大別してアタッカー、受け、サポーター、デバッファーの四つで、ジャンヌのペリッパーはサポーター、ホエルオーは受けね。基本的にはアタッカーが2〜3体、受けが2体、サポーターが残りって感じの配分だけど、パーティコンセプト次第ではいくらでも変動するわ」
嫌がっていた座学も害悪戦法でハメ殺されてからは良く学び、
「おばちゃん、食パンちょうだい!」
「おや、ルゥちゃん。おつかいかい?」
「うん!」
ゆっくりとセイガイハの街に馴染んでいった。
そうして一ヶ月程が経過した頃。ルゥが参加するのも当たり前になってきた朝のミーティングのことだった。
「では次の連絡事項ですね。15日に僕がカロス地方へ旅立ちます。先月の代理からこの朝の司会を務めさせてもらいましたが、今後はナギサさんにバトンタッチします。ついては……」
「ハトウ、いなくなる?」
ハトウの司会にルゥが口を挟む。
「ええ、まあ。カロス地方でリーグに挑戦しようかと思っていまして」
「ハトウ、言ってなかったのですか?」
「話している場には居たので聞いていたと思っていたのですが……」
「知らん」
「聞いていなかったようですね」
「ルゥもかろす?についてく」
「えぇと……」
ついてきたいと言っても、飛行機のチケットの問題と、彼女が保護された児童であるという問題がある。保護した際にジュンサーから成人するまでジムが彼女の面倒を見るように言われており、ホイホイ旅に出せる身の上ではないのだ。
「どうして一緒に行きたいんですか?」
「ハトウ強い。一緒にいれば強くなる」
「なんでつよなりたいんじゃ」
その様子を見ていたシズイがルゥの前まで歩み寄って視線の高さを合わせ、青い目を見据えながら問う。
「つよければまけない」
「なんで負けたくない?」
「まけたらおわる。うばわれて食われる」
答えるルゥの瞳を見たシズイは、力強い頷きと共に立ちあがる。その瞳に宿るは決意の色。
「よし。チケットと事後処理は任せとき。おいがなんとかしちゃる」
「シズイさん!?」
「奪われないよう強くなりたい。大いに結構。それがはっきりしとるんなら大丈夫ったい。それにハトウはジムリーダー資格持ちだから事後処理も楽よ」
「いや、でも……」
「ハトウ、諦めなさい。シズイさんが言い出したら止まらないわよ。知ってるでしょ?」
同僚の言葉にハトウは納得してしまう。自分が救われたのもその性格故なのだから納得せざるを得ない。唯一の問題、ジム回りを子守りしながらこなさなければならないと言う問題を除けば。
追撃するようにシズイが言葉を続ける。
「ハトウ。おはんの目標は人を導くことじゃろ? それならその経験は必要たい」
結局、ハトウはその言葉に説得されてルゥと共にカロスへと発った。ジムリーダーとしての先達、そして人生における最大の恩師の言葉を信頼したのだ。
◇
しかし、ミアレシティの路地裏にて。
「こいつら、雑魚い」
「えぇ……」
不良の一群をのして勝ち誇るルゥに、頭を抱えるハトウだった。